アベ曰く「9条改憲の必要性は、自衛官募集協力要請のためにあり」 ??
このところ、安倍晋三のやることなすこと叩かれっぱなし。トランプが大統領を続けておられるのも不思議だが、安倍内閣の支持率がそこそこ保って下がらないのはもっと不思議。この国は、もはや真っ当さを失いつつあるのではないか。
まず、2月13日の毎日新聞社説を紹介しよう。表題が、「首相の自衛官募集発言 事実の歪曲で憲法語るな」。最初の書き出しが良い。「また安倍晋三首相が憲法に関して奇妙なことを言い始めた。自衛官募集に協力しない自治体があるから憲法改正が必要だという論理だ。」
首相は自民党大会の演説で「新規隊員募集に対して都道府県の6割以上が協力を拒否している」と語り、「憲法にしっかりと自衛隊と明記して違憲論争に終止符を打とうではありませんか」と呼びかけた。
「都道府県の6割以上」というのは間違いだ。自衛官募集に使うため18歳など適齢者の名簿提供を求める対象は全国の市区町村だからだ。首相も国会で発言を修正した。…自衛隊は9割の市区町村から個人情報の提供を受けていることになる。首相の言う「協力を拒否」は事実を歪曲している。
首相発言について石破茂元防衛相は「憲法違反なので募集に協力しないと言った自治体は寡聞にして知らない」と語った。自衛隊を憲法に明記したら自治体の協力が進むかのような首相の主張は詭弁に等しい。
首相はこれまでも「憲法学者の7割以上が自衛隊を違憲と言っている」ことを改憲理由に挙げてきた。事実関係のあやふやな根拠を立てて情緒に訴える論法は今回も同じだ。一国の首相が事実をねじ曲げて憲法を語るべきではない。
翌、2月14日の朝日社説(抜粋)もほぼ同旨。
「自衛官募集 改憲の理由にはならぬ」というもの。この見出しは良い。ずばりの問題点指摘となっている。
自衛官募集に自治体の協力が得られないから、憲法9条に自衛隊の明記が必要だ―。今年に入って安倍首相が言い出した改憲の根拠は、事実を歪曲し、論理も破綻している。首相の改憲論の底の浅さを、改めて示したと言うほかない。
首相は先の国会答弁や自民党大会での演説で、9条改正に関連し、自治体の6割以上が自衛官募集への協力を拒否していると強調した。しかし、これは明らかに事実に反する。
首相はまた、災害時に自衛隊が救援活動を行っていることを引き合いに、自治体の「非協力」を非難した。災害派遣を受けるなら募集活動に協力しろと言わんばかりだ。不見識きわまりない。自衛官募集のために改憲をというのは飛躍がありすぎる。
9条は戦後日本の平和主義の根幹をなす。その重みを踏まえた熟慮の跡もなく、事実をねじ曲げる軽々しい改憲論は、いい加減に慎むべきだ。
同日の東京新聞社説も引用しておきたい。タイトルは、「首相自衛隊発言 事実曲げ改憲説くとは」
安倍晋三首相は自民党大会で、党総裁として憲法9条改正に重ねて意欲を示したが、その理由に挙げた自衛官募集を巡る発言は事実誤認だ。いくら党の「悲願」とはいえ、事実を曲げてはならない。……憲法に自衛隊の存在が明記されていないから自治体が隊員募集に協力しない、自衛隊の存在が明記されれば自衛官の募集も円滑に行われる、という論法である。
東京新聞社説は、「違憲を理由に協力を拒む自治体はほぼ存在しないことになる。」「誤った事実に基づいて改憲を主張するようなことが許されていいのか。」「改憲しなければ国民の権利や平穏な暮らしが守れない、という立法事実がないから、理由にならない理由をひねり出しているのではないか。」と述べ、最後はこう結ばれている。「節度ある防衛力を整備するためにも自衛官の確保は課題だが、事実を曲げてまで、悲願の改憲に結び付けるような言動は厳に慎むべきである。」
朝日が言う「今年に入って安倍首相が言い出した改憲の根拠は、事実を歪曲し、論理も破綻している。首相の改憲論の底の浅さを、改めて示したと言うほかない。」がすべてを物語っていると言って良い。
但し、問題は「自治体が自衛隊の隊員募集に協力しているのかいないのか」にあるのではない。憲法とは、国の基本構造の設計図である。改憲とは、とりわけ9条改憲は、安倍晋三の言うがごとき、些細なみみっちい理由で提起されるべき問題ではない。
むしろ、安倍発言が明らかにした問題点は、自衛隊が9割の市区町村から個人情報の提供を受けているという事実である。唖然とせざるを得ない。
本日(2月16日)の赤旗、「自民党の自衛官募集“圧力”」「地方議会抑え込み狙う」「安倍発言を後押し」「沖縄2紙示し」という記事によれば、
自民党文書に添付されていたのは、琉球新報と沖縄タイムスが2015年10月と12月に報じた四つの記事です。琉球新報は同10月に、沖縄市と宜野湾市が、自衛隊の求めに応じて、住民基本台帳から18?27歳未満の約2万4000人分の氏名、生年月日、住所、性別を本人の同意を得ずに提供したと報道。沖縄タイムスは、同12月に両市が市議会で追及をうけ、「市民に不安を与えた」(沖縄市)「配慮不足だった」(宜野湾市)と謝罪したことを報じています。
自分の個人情報を、知らぬ間に自衛隊に流れされたら、これは一大事ではないか。市が謝罪して当然だろう。ところが、これが自民党には面白くない。
自民党が14日に党所属国会議員に配布した文書では、「一部の地方議会においては、左派系会派からの要求に応じて、法令に基づき募集対象者情報の提供を行った行政側が謝罪を行う事態にまで発展しており、看過できない」と強調しているという。
自民党の言ってることは本末転倒だ。自治体が、個人情報を自衛隊に渡していることこそが大問題ではないか。アベ流改憲がなされれば、徴兵名簿ができあがることにもなりかねない。アベの発言は、大きな問題をあぶり出した。
(2019年2月17日)