しなやかで軽やかな、川柳による政権批判
参院選の憂さが晴れない。悔いが残る。本日は、その憂さ晴らしの一編。久々に、毎日新聞「仲畑流万能川柳」から。
この欄に入選して掲載されるのは、毎日18句。うち、1句が「秀逸」(☆印)とされる。時事ネタが少ない「万柳」だが、先週7月18日(木)、選挙直前のこの日には、良くできた政治ネタが多かった。面白いものをいくつか紹介したい。
☆年号が暮らしを楽にするだろか (千葉 中川宗太)
仰るとおりだ。元号が変わっても、天皇が変わっても、時が途切れるわけではない。暮らしも時代も変わらない。むしろ、代替わりということでの税金のむだ遣い。新たに拵えられた上皇(!)職への手当も増える。その分、確実に財政にしわ寄せとなる。国民の誰かを不幸にしての天皇交替なのだ。それを、何か、新しい良い時代の幕開けのように騒いで見せるのは、魂胆あってのこと。詐欺まがいの政権の行為。これに乗せられた国民が、ふと冷静さを取り戻して、「あのバカ騒ぎはいったい何だったろう」という冷めた感想が、このような句となる。権力や権威を、真正面から批判するのではなく、しなやかに軽やかに、いなすところが川柳の川柳たる所以。大いに見習いたいところ。選者が秀逸に推したことに納得。
前政権けなす二人はウマが合い (鳴門 かわやん)
いうまでもなく、二人とは、ドナルド・トランプと安倍晋三というペア。確かに「ウマが合う間柄」、価値観をまったく同じくするという似た者同士。しかし、ここまでトランプもアベも似ていたのか。なるほど、両名とも恐るべき無内容。だから、一方トランプは何もかもオバマのアンチテーゼでお馬鹿で危険な政治を行い、アベは民主党政権時代を「悪夢」と罵ることで、自らの立場を正当化する。近い将来、「アベ政治の悪夢を繰り返すな」と言われることになろうものを。
仲良いが明日はわからぬトランプ氏 (さいたま 貸話屋
トランプと親密という幸不幸 (和歌山 かものあし)
いずれも、アベ・トランプの「醜悪な親密さ」を醒めた目で見つめる句。その「親密さ」は、打算に裏付けられた明日をも分からぬ脆弱なものでもあるが、また「親密」なるが故に無理難題を断りがたい不条理を秘めている。「幸不幸」とは、アメリカの幸と日本の不幸、あるいは安倍晋三の幸と日本国民にとっての不幸をいう。
生命線二千万分消さなくちゃ (東京 いつも歩)
これは、深刻な句である。与党の宣伝をうっかり真に受けて、老後は年金で暮らせると思いこんできた。だから、せっせと高い保険料を長年支払い続けてきたんだ。ところが、それでは「2000万円たりない」という。今さら、それはなかろう。逆立ちしても2000万円の用意はできっこない。とすると、その2000万円分は命を縮めるほかはない。これを「生命線二千万分消す」と表現した。苛政は虎よりも猛く、命に関わるのだ。
安倍さんも万柳でぜひ反撃を (大阪 吉田昌之)
「アベやめろ」「アベかえれ」「増税反対」…。こう言われたときに、ムキになって、「こんな人たちに負けるわけにはいかない 」と叫んだり、警察頼みで厳重に取り締まるのは野暮の骨頂。余裕綽々、川柳で反論としゃれてみてはどうだろうという親身になっての建設的なご提案。昔、八幡太郎義家が、逃げる安倍貞任に、「衣のたてはほころびにけり」と声を掛けたら、貞任振り返って、「年を経し糸の乱れの苦しさに」とみごとに応じたという。同じ安倍、このマネができないか。和歌ではともかく、川柳で…。無理だろうな、余裕も教養もからっきしだもの。
元女優演技だらけの恥を知れ (出水 ケイユウ )
虎の威を借りて息巻く三原じゅん子 (尼崎 にしやん)
八紘一宇議員・三原じゅん子の「恥を知れ」演説。聞いている方が、むず痒く、恥ずかしい。このむず痒さの表現を、さすがに川柳子は上手い。「元女優演技だらけの恥」は、言い得て妙。なるほど「演技だらけ」、しかも学芸会レベルの大仰さ。「恥を知れ」と言いたくもなる。「虎の威を借りて息巻く」も、面白い。確かに、「息巻いて」いたものね。で、「虎」とは誰のこと? まさか、安倍晋三のこと?「赤坂自民亭」では確かに赤い顔したトラだったけど。
6年を20日で暮らす参議員 (春日 あのくさ)
選挙戦頑張り議会昼寝の場 (横浜 無職闘迷)
言うまでもなく、この本歌は「1年を20日で暮らす良い男」。これを「6年を20日で暮ら」せるのなら、こんな素晴らしい商売はない。相撲取りなど較べものにならない。もっとも、力士にとっての20日は本業の真剣勝負。ところが、参院の議員には「議会昼寝の場」と見られている。参院の議員ががんばるのは、6年に1度の選挙期間中だけ。もっとも、最初の句の「20日」は、正確には17日。参議院議員通常選挙の選挙運動期間である。この選挙運動の期間だけは、神経をすり減らし、声を枯らして、「皆様のために」とがんばる。この期間が過ぎれば、あと6年の任期は左うちわで安泰なのだ。20日だけの頑張りで、その後の6年は安穏に過ごせる、けっこう良い商売。
おもてなし税金湯水のよに使い (富士見 不美子)
かつて、東京五輪招致の過程で、「お・も・て・な・し」が流行語となった。同時に、「おもてなし」のイメージが地に落ちた。あれ以来、「おもてなし」は、美しい言葉でも、奥床しい振る舞いでもなくなった。薄汚い魂胆を秘めた愚行というイメージ。とりわけ、税金を使える立場にある者の「おもてなし」は、半分は自分をもてなすことでもある。湯水のように使って、惜しむところはない。誰が、誰を、どんな目的で、誰の費用で、どのようにもてなすか。つねに、その目的の吟味が必要だ。
もう一つ、ゴルフ場での「お・も・て・な・し」には、特にお気をつけ遊ばせ。男たち「わ・る・だ・く・み」一味の加計孝太郎さん、そして安倍晋三さん。
(2019年7月23日)