ヘイトスピーチに損害賠償と差し止め判決ーその意義を語る
本日、京都地裁は、在特会のヘイトスピーチを違法と断罪して、損害賠償と差し止めを命じる判決を言い渡した。高く評価し、関係者に敬意を表したい。
以下の京都新聞の報道が簡にして要を得ている。
「京都朝鮮第一初級学校に押しかけ、民族や出自への差別的な憎悪表現「ヘイトスピーチ」を浴びせる街頭宣伝を繰り返し、民族教育を妨害したとして、学校を運営する京都朝鮮学園(京都市右京区)が「在日特権を許さない市民の会」(在特会)と同会関係者に3千万円の損害賠償と学校周辺での将来にわたる街宣の差し止めを請求した訴訟の判決が7日、京都地裁であった。橋詰均裁判長は「被告の示威行為は人種差別に該当し、差別行為に対する効果的な保護と救済措置となるような高額の損害評価が必要」として原告側の主張をほぼ認め、約1200万円の支払いと街宣差し止めを命じた。
原告側弁護団は、ヘイトスピーチによる被害の悪質性を強く訴えており、「主張が実質的に認められたと考えられる。同種のヘイトスピーチに対する抑止となる画期的判決」と評価している。
判決によると、被告らは2009年12月に当時南区にあった同校前で約50分間、街宣を行い「朝鮮学校、こんなものはぶっ壊せ」「犯罪者に教育された子ども」「端のほう歩いとったらええんや」などと拡声器でシュプレヒコールを上げるなどした。
橋詰裁判長は、在特会などの行為を「在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴える意図がある」とし、「著しく侮蔑的な差別的発言を多数伴い、日本が加盟する人種差別撤廃条約が禁じた『人種差別』に該当する」と違法性を認定。損害は「街宣活動による物品の損壊など経済的な面だけでなく、業務の運営や社会的評価に対する悪影響など全般に及ぶ」と判断した。」
この事件では、2011年4月に京都地裁の刑事有罪判決が先行している。在特会会員らの京都の犯罪と徳島の犯罪とが併合審理されたもの。この事件に関心をもって、早くから発言を続けている前田朗氏のまとめによれば、
「4月21日、京都地裁は『在日特権を許さない市民の会(在特会)』『主権回復を目指す会』などの構成員が行った差別(暴言・虚言)と暴力について、4人の被告人に対して犯罪実行の事実を認定し、それぞれ懲役1?2年(いずれも執行猶予4年)を言い渡した。事案は、第一に、被告人ら4名(ABCD)が、共謀の上、京都朝鮮第一初級学校前に押しかけて暴言を撒き散らし、スピーカーに接続された配線コードを切断し(威力業務妨害罪、侮辱罪、器物損壊罪)、第二に、4名のうち3名(ABC)が、共謀の上、徳島県教職員組合事務所に乱入し、暴行や暴言を伴う大騒ぎをした(建造物侵入罪、威力業務妨害罪)」というものである。
威力業務妨害罪・侮辱罪・器物損壊罪に該当する行為だけが取りあげられ、必ずしもヘイトスピーチそのものに関心が集中していないが、紹介された刑事判決文が認定した被告人らの「スピーチ」の内容は以下の如き凄まじさである。
「被告人4名は、京都朝鮮第一初級学校南側路上及び勧進橋公園において、被告人ら11名が集合し、日本国旗や『在特会』及び『主権回復を目指す会』などと書かれた各のぼり旗を掲げ、同校校長Kらに向かってこもごも怒声を張り上げ、拡声器を用いるなどして、『日本人を拉致した朝鮮総連傘下、朝鮮学校、こんなもんは学校でない』『都市公園法、京都市公園条例に違反して50年あまり、朝鮮学校はサッカーゴール、朝礼台、スピーカーなどなどのものを不法に設置している。こんなことは許すことできない』『北朝鮮のスパイ養成機関、朝鮮学校を日本から叩き出せ』『門を開けてくれ、設置したもんを運び届けたら我々は帰るんだよ。そもそもこの学校の土地も不法占拠なんですよ』『戦争中、男手がいないところ、女の人レイプして虐殺して奪ったのがこの土地』『ろくでなしの朝鮮学校を日本から叩き出せ。なめとったらあかんぞ。叩き出せ』『わしらはね、今までの団体のように甘くないぞ』『早く門を開けろ』『戦後。焼け野原になった日本人につけ込んで、民族学校、民族教育闘争ですか、こういった形で、至る所で土地の収奪が行われている』『日本から出て行け。何が子供じゃ、こんなもん、お前、スパイの子供やないか』『お前らがな、日本人ぶち殺してここの土地奪ったんやないか』『約束というものは人間同士がするものなんですよ。人間と朝鮮人では約束は成立しません』などと怒号し、同公園内に置かれていた朝礼台を校門前に移動させて門扉に打ち当て、同公園内に置かれていたサッカーゴールを倒すなどして、これらの引き取りを執拗に要求して喧騒を生じさせ、もって威力を用いて同校の業務を妨害するとともに、公然と同校及び前記学校法人京都朝鮮学園を侮辱し、被告人Cは、勧進橋公園内において、京都朝鮮学園が所有管理するスピーカー及びコントロールパネルをつなぐ配線コードをニッパーで切断して損壊し」た。
これらが威力業務妨害罪(学校の授業運営などを妨害した)、侮辱罪(朝鮮学校に対する侮辱)、器物損壊罪と判断された。
報道されている限りだが、本日の判決についていくつかの特色がある。
*まず、賠償認容額が高額(1226万円)であることが評価される。
損害賠償認容額は、違法行為の再発を抑止するに足りる金額でなくては意味がない。
*その責任主体として、被告9名の個人の不真正連帯としたことが極めて重要である。
ヘイトスピーチデモ参加者は、このような個人としての損害賠償責任を覚悟しなければならない。刑事事件の被告人となることは免れても、民事責任は負わねばならないのだ。
*なお、是非とも、徹底して被告らの個人財産に強制執行を行う努力をお願いしたい。勤務先のある者にとっては、給料債権の差押えがもっとも簡便で有効な方法である。
*朝鮮学校周辺200メートルの範囲での街宣差し止め命令の認容も高く評価したい。子どもたちの平穏に教育を受ける権利に十分な配慮がなされたものとして評価を惜しまない。
*違法を認定する根拠として、「日本が加盟する人種差別撤廃条約」違反に言及したことも画期的である。いわゆる自動執行力をもつ条約として直接に国内法としての効力をもつものだが、実務での採用を評価したい。
どのメディアも、「裁判所が、ヘイトスピーチとして問題になっている特定の民族に対する差別街宣について『人種差別』と判断したことで、東京・新大久保や大阪で繰り返される在日コリアンを標的にした差別街宣への抑止効果が予想され、ヘイトスピーチの法規制議論を促すことになるとみられる」という。
在日コリアンを標的にした差別街宣への抑止効果は大歓迎だ。しかし、私は、ヘイトスピーチ処罰の刑事立法には躊躇を禁じ得ない。捜査機関や司法当局を必ずしも信用していないからである。ヘイトクライム法が成立した暁に、どのように運用されるか、一抹の不安を払拭できないのだ。しかし、やや迂遠ではあるが、民事訴訟や保全手続による積極的なヘイトスピーチ押さえ込みには、全面的な賛意を表したい。
本日の京都地裁判決が、その輝かしい第1歩とならんことを心から願う。
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「死の灰のセールスマン 安倍首相」(その1)
いくら安倍首相が、原発事故について「ブロックできている」、「制御できている」といってみても、放射能濾過装置アルプスはスムーズに動かず、汚染水は漏れ続け、海の汚染は悪化している。原発再稼働も道遠く、新規着工はそれ以上に困難。機をみるに敏なる小泉元首相は「脱原発」を言い始めている。トイレのないマンションから出る「核のゴミは管理不可能だ」とし、「日本は原発ゼロでも充分やっていける」「いま、ゼロ方針を打ち出さないと将来も難しくなる」と講演している。
しかし、こんなことぐらいでは「原発利益共同体」はあきらめはしない。当面、国内が駄目なら、輸出に方針転換だ。今年2月には原子力産業協会の今井敬会長が座長を務めるエネルギー・原子力政策懇談会は「原発輸出に対する政府の姿勢を明確化することをためらうべきではない」との提言を安倍首相に出している。経産省の総合資源エネルギー審議会(新日鉄住金取締役相談役三村明夫会長)では、「本分科会のミッションは原子力の必要性を明確にすること。一定のシェアを維持すべく新増設の議論もしてほしい」と、あからさまな原発推進の議論がなされている。日本から原発を輸入しようとしている各国要人の期待の言葉を並べ「日本の原子力技術は世界から高い期待が寄せられている」という、フクシマ原発事故などどこ吹く風の危険で利益追求優先の発言が飛び交っている。こうした議論をもとにして、「エネルギー基本計画」が策定されようとしている。
原子力産業、経産省、自民党安倍政権は一体となって、猛然と巻き返しを図るべく、3.11以降中断していた「原発の国外セールス」に全力を挙げている。安倍政権は「成長戦略」として、2020年までにインフラシステム輸出額を30兆円に伸ばすとしている。その内、現在3000億円の原発関連輸出額を7倍増して2兆円にする計画だ。原発は一基受注すれば数千億円。政府が後援して、原発関連企業が被ったフクシマの損失を外国で挽回しようと企てている。
大企業のためならなり振り構わないとばかり、安倍首相は5月の連休前から、財界連中を引き連れて、外国へトップセールスに出かけた。まず、中東のサウジアラビア、アラブ首長国連邦、トルコ、つづいて、東欧のポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーを歴訪した。アラブ首長国連邦とトルコでは原子力協定を結んだ。地震大国トルコでは、三菱重工がフランスのアルバ社と組んで、総事業費2兆円の原発4基の受注に成功した。財界の使い走りができて、安倍首相はさだめしホッとしていることだろう。
「日本は大原発事故を起こした」ので、「日本こそ世界一安全な原発の技術を提供できる」という奇妙キテレツなセールストークが有効だったはずはない。トルコのエルドアン首相を納得させるには、安倍首相はどんな魔法を使ったのだろうか。トルコの財界はともかく、トルコ国民まで魔法にかけることができるのだろうか。
昨年9月までは、原発関連機器の輸出前に、相手国の規制体制を調べる国の「安全確認」という手続きが行われていた。旧原子力安全・保安院の廃止に伴って担当官庁がなくなってしまった。現在、原子力規制委員会は「推進業務である輸出に関与するとなれば規制機関としての独立性が保てなくなる」として、この業務の引き継ぎを拒否している。もっともな言い分。だから、現在は安全面で確認のないまま、他国に売り込みを図る異常状態にある。
原発事故の責任は「原発を規制する立地国にある」と規定する「原子力安全条約」があるので、「日本が賠償に関する財務責任を負うものではない」と衆院本会議(5月28日)で茂木経産相は答弁している。確かに、同条約にはそのように読んで読めないこともない簡単な条文はある。しかし、納入した原子炉の欠陥で事故を起こした場合に、納入メーカーと熱心なセールスをかけた我が国が、はたして無責を通すことができるだろうか。一度事故を起こせば、結局はすべての利益を吐き出さなくてはならなくなるどころではない、たいへんな国民の負担に直結する。
フクシマでの事故の原因も究明されず、事故の収束のめどもついていないのに、日本政府は官民一体となって、外国へ原発の技術の輸出に狂奔している。事故原因もわからない、安全確認もしないまま輸出すれば、「過酷事故」と「死の灰」のセールスになりかねない。賠償責任はないからといって、自国で運転できない欠陥商品を輸出することが国際社会の道義として通用するだろうか。トルコ国民は納得するだろうか。
次回は「死の灰のセールスマン 安倍首相」(その2)、内容は「三菱重工に対する米電力会社の損害賠償請求」と「免責を拒むインド」について。
(2013年10月7日)