スラップの本質は、「社会の公器」を「強者の凶器」とすることにある。 ― 「DHCスラップ訴訟」を許さない・第170弾
DHCスラップ「反撃」訴訟控訴審第1回口頭弁論期日が1週間後に迫った。来週の月曜日・1月27日の午前11時開廷となる。法廷は、東京高等裁判所511号法廷(高裁庁舎5階)である。是非、多くの方に傍聴いただきたい。どなたでも、何の手続もなく傍聴できる。閉廷後のミニ集会にもご参加をお願いする。
この訴訟の、ことの中心は表現の自由という問題だが、政治とカネの問題とも関わり、消費者の利益侵害という問題でもある。
DHCというサプリメント製造の大手企業と、そのオーナー経営者である吉田嘉明が、私(澤藤)を被告として、6000万円の高額慰謝料請求訴訟を提起した。私のブログ記事がDHC・吉田嘉明の名誉を毀損するというのだ。これが典型的なスラップ訴訟である。DHC・吉田嘉明は、私のブログ記事の内容が面白くないのだ。「黙れ」という代わりに、裁判を起こしたのだ。
吉田嘉明にしてみれば勝訴の見込みの有無などどうでもよい。高額の賠償請求をすれば、被告にされた者は驚いて批判の言論を慎むことになるだろう。被告にされた本人だけではなく、被告にされなかった多くの人々が、「DHC・吉田嘉明を批判すると裁判までされて面倒なことになる」「DHC・吉田嘉明に対する批判は遠慮した方が賢明だ」と思うだろう。そこが狙いだ。自分に対する批判の言論の封殺、あるいは萎縮を狙っての民事訴訟の提起なのだ。
DHC・吉田嘉明は、スラップ訴訟の常習者として知られる。今回も、甘い気持で、スラップを掛けて来た。事件の発端は、吉田嘉明が週刊新潮に独白手記を掲載したことにある。この記事の内容が凄まじいものだった。厚労省の規制下にあるサプリメント製造の大手企業経営者が、規制緩和をスローガンとする政治家に、8億円もの選挙資金を用立てたというのだ。もちろん、裏金である。
カネを渡した方が吉田嘉明。受け取ったのが「みんなの党」(当時)の渡辺喜美である。政治を金で操ろうというこの汚いやり口を、私だけでなく、多くの言論が批判した。DHC・吉田嘉明はこのうち、10人を選んで、スラップを提起したのだ。もちろん、こうすれば、黙るだろうとの思惑あってのこと。
しかし、私はけっして黙ってはならないと決意した。むしろ、徹底してDHC・吉田嘉明の批判を続けようと覚悟を決めた。日本国憲法の表現の自由は、私の言論を保障している。その権利を行使しないでは、せっかくの表現の自由が錆び付いてしまうことになる。こうして始めた、DHC・吉田嘉明を批判するブログの「DHCスラップ訴訟を許さない」シリーズは、本日で第170弾となった。
そして、スラップ訴訟に被告として勝訴しただけでは足りない。DHC・吉田嘉明のスラップ訴訟提起を違法行為として、損害賠償を求める反撃訴訟を提起した。そして、一審では勝訴し、これを不服とするDHC・吉田嘉明の控訴を受けて、被控訴人として控訴審に臨もうというのが、今の段階である。
なお、私の吉田嘉明批判の言論の内容は、経済的強者がそのカネで政治を動かしてはならないと言うことにある。一人の富者がカネで政治を動かしてはならない、政治に絡むカネの動きには透明性を確保して、国民の批判に曝さなければならない。こういう理念にもとづく法が、政治資金規正法である。吉田嘉明の行為は、明らかにこれを僣脱している。改めて批判が必要なのだ。
また、吉田嘉明は、その手記の中で、無邪気に「厚労省の規制が厳しすぎる」と表白している。常識的に推論して、吉田嘉明の渡辺喜美への8億円の裏金提供は、DHCへの行政規制を嫌ってのものである。
言うまでもなく、薬品や食品に対する行政規制は、消費者の健康を擁護するためにある。私の言論は、消費者利益擁護のために有益なものなのだ。
この訴訟において私が勝つことは、言論の自由の勝利であり、民主主義の勝利であり、また消費者利益擁護の理念の勝利でもある。仮に、DHC・吉田嘉明が勝つようなことがあれば、敗北するのは、言論の自由であり、民主主義であり、また消費者の利益である。
スラップとはなんであるか。弁護団長の光前幸一弁護士が、いみじくもこう言っている。「『社会の公器』を『強者の凶器』とすることにほかならない」と。
民事訴訟は、本来『社会の公器』である。権利を侵害された者は、法や司法の助力を得て侵害された権利を回復することが可能となる。しかし、経済的な強者が私益のためにこの公器を凶器として濫用することがある。それがスラップである。
民事訴訟を『強者の凶器』とさせてはならない。今、控訴審を迎えているDHCスラップ「反撃」訴訟では、DHC・吉田嘉明の意図を挫いて、『強者の凶器』としての制度利用が許されないことを確認しなければならない。
(2020年1月20日)
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DHC・吉田嘉明の控訴理由書に対する反論の書面を本日提出した。
その中の一部だけを抜粋してご紹介したい。
本件ブログは人身攻撃ではない
(澤藤の)本件ブログは,控訴人吉田が公表した政治家への金8億円の密かな貸付行為について,「民主政治とお金」という視点から警鐘を鳴らす公共性の高いものであり,その批判は峻厳なものとならざるをえない。このテーマにおいて,生半可な批判は論評として価値を持たないし,さりとて,生硬な表現のみでは一般読者の関心や理解は得難い。
この観点から,本件ブログについて控訴人らが問題視する表現を見れば,いずれも,あくまでも控訴人吉田が公表した吉田自身の行為への徹底した批判にとどまるものであって,これを超えた人身攻撃ではない。
勿論,行為は人柄の表出という側面を否定できないから,当該行為の批判は行為者の人格評価の低下につながる可能性があることは避けがたい。しかし,上記最判や控訴人らが引用する東京地裁判決が言明するとおり,論評の本来的性格や役割を重視すれば,その表現が論評を超えた人身攻撃を意図していると評価されるのは,極めて例外的な場合に限られ,本件ブログの表現が,論評としての域を超えていないことは,上記各裁判例の判断を踏まえれば明らかなことであり,先例を検討すれば,容易に判断できたことである。
民事訴訟法208条の適用について
控訴人ら(DHC・吉田嘉明)は,吉田が原審裁判所の呼び出しに応じず,出頭しなかったものの,内海証人の証言及びその他の証拠によって,不当提訴でないことは明らかで,民訴208条(不出頭のペナルティとして、裁判所は尋問事項に関する相手方の主張を真実と認めることができる)を適用することは相当でないという。
すなわち,控訴人らは,名誉毀損となる記述について訴訟提起することの判断は控訴人吉田によることを認めつつも,具体的に違法性のある記事をピックアップし,どの記事が違法となり,損害賠償請求額をいくらにするかの判断は証人らがしており,控訴人吉田はその過程に関与していないし,そのことについては,内海証人の法廷証言等で明らかとして,民事訴訟法208条の適用を否定する。
しかし,内海証人は,弁護士から確実に勝てるとの助言を受けたものを提訴対象としたと述べているが(内海証人尋問調書17頁),「確実に勝てる」とされた根拠について,「法的に名誉毀損の程度が著しいので。」と答えた以外の点については何ら言及しなかった(同17頁)。また,「法的な評価は弁護士のほうに任せて,我々は事実無根ここが違うというようなことの説明をいたしました。」とも述べているが(同19頁),「事実無根」以外の点について相談したという証言はなかった。さらに,内海証人は,控訴人吉田は弁護士との相談には参加していなかったとも証言しており(同12頁),控訴提起についても内海証人と弁護士が決めたことを控訴人吉田に「追認」してもらうだけで(同27?28頁),訴訟の遂行の経緯について「会長に聞いたところで本件訴訟の細かいことは全然わからない」という(同26頁)。
加えて,内海証人は,「吉田の視野は,凡人とは異なる高いところにあり,これまで同人の意見や指示が不合理であったことなど一度もなく,いつも日本国をよりよくしたいという大きな視点から,社会に問題提起しているのである。」(原審での控訴人らの準備書面3)との主張は会社の共通認識であり,控訴人吉田の言うことは絶対であるとも述べ(同25?26頁),控訴人吉田の権威が,いかに批判を許さない絶対的なものであるかを強く示唆した。
いずれにしても控訴人吉田は本件手記を自ら公表した者であり,本件手記に記載された事実の真偽について最もよく知っているはずの者である。
この絶対的存在である控訴人吉田を差し置いて,一社員である内海証人の上述のあいまい且つ不合理な証言などを信用することなどできないのであり,内海証人の証言などをもって訴訟提起に至る控訴人吉田の内心を立証できたとは到底言い得ない。
本件訴訟(原審)は,控訴人吉田の正当な理由なき不出頭により,証人内海のあいまい且つ不合理な証言だけを残して終了した。控訴人吉田の不出頭は,それ自体が被控訴人の主張を立証する重要な間接事実であるが,これに加えて,民事訴訟法208条の適用によっても,尋問事項に関する被控訴人の主張を真実と認めることができるものである。
すなわち,被控訴人は,控訴人らがその主張する権利等が根拠を欠くものであることを知りながら,言論封殺の不当な目的をもってあえて前件訴訟等を提訴し追行してきたものであると主張し,その具体的な意思決定過程において十分な検討がなされていないことを明らかにするために控訴人会社の代表者でもある控訴人吉田本人の尋問を請求し,裁判所はこれを採用した。しかるに、控訴人吉田は正当な理由なく出頭を拒否したのである。したがって,控訴人らが被控訴人の言論封殺のため十分な検討を行うことなくあえて前件訴訟等を行ったことは,民事訴訟法208条に基づき真実と認めることができるものである。