澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

大飯原発に設置許可処分取消判決の「衝撃」。

(2020年12月6日)
一昨日(12月4日)大阪地裁で言い渡された、大飯原発の設置許可を取り消す判決が、日本の社会に大きな衝撃をもたらしている。付された事件名は、平成24年(行ウ)第117号「発電所運転停止命令義務付け請求事件」。福井県や近畿地方の住民ら127人が原告となって被告行政庁を原子力規制委員会とする行政訴訟だが、2012年の提訴以来8年を経ての判決。提訴当時は、原子力規制委員会に「関電に対しての運転停止命令を義務付け」請求であったが、「関電に対する運転許可処分取消」を求める請求の趣旨への変更となり、これが全面的に認容された。なお、被告側に関西電力が参加している。

判決の主文は以下のとおりである。

 原子力規制委員会が平成29年5月24日付けで被告参加人(関西電力)に対してした大飯発電所3号機及び4号機に係る発電用原子炉の設置変更許可を取り消す。

 これは関電にとってだけでなく、財界にとっても、そして政権にとっても、政権を支えてきた原子力ムラにとっても、この上ない衝撃の判決。原発の稼働を直接差し止める判決ではないが、この判決が確定すれば、大飯原発の3・4号機は稼働不能となる。

判決主文だけでなく、その許可処分取消理由のシンプルさが、また衝撃である。このシンプルな理由を全国の原発(の許可処分)に当てはめてみるとどうなるだろうか。毎日は、「大飯3、4号機以外でも、これまでに8原発14基が大飯と同様の考え方で規制委の安全審査を通過した。判決が確定した場合、審査のやり直しを迫られる可能性がある。」と報じている。

まず、裁判所が作成した「判決骨子」(全文)をご覧いただきたい。争点は、原子炉の耐震設計基準の定め方にある。

「関西電力は,大飯原発3号機及び4号機の設置変更許可申請において,各原子炉の耐震性判断に必要な地震を想定する際,地質調査結果等に基づき設定した震源断層面積を経験式に当てはめて計算した平均値としての地震規模をそのまま用いた。新規制基準は,経験式による想定を超える規模の地震が発生し得ることを考慮しなければならないとしていたから,新規制基準に基づき基準となる地震動を想定する際には,少なくとも経験式による想定を上乗せする要否を検討する必要があった。原子力規制委員会は,そのような要否自体を検討することなく,上記申請を許可した。原子力規制委員会の調査審議及び判断は,審査すべき点を審査していないので違法である。以 上」

判決書きの全文は、200ページを越す大部なものだが、その判断の核心は、以上の「骨子」に尽きている。あっけないとも、素っ気ないともいうべき判決理由。

問題は、「原子炉の耐震性判断に必要な地震動の基準」である。これを「基準地震動」という。原子炉は、少なくも「基準地震動」を越える耐震性をもつように設計されるが、その基準値は合理的なものでなくてはならない。ところが、判決はこの基準値震動の設定において、原子力規制委員会の調査審議及び判断にはミスがあって、許可処分は違法だというのである。

キーワードは、「基準地震動」「平均値」そして「ばらつき」である。

原子力規制委員会は、「基準地震動」を策定するに際して、当地の地質調査結果等に基づき設定した震源断層面積を経験式に当てはめて計算した「平均値」をそのまま用いた。しかし、原子力規制委員会自らが定めた規制基準は,「平均値」では足りず、「ばらつき」を考慮して少なくとも経験式による想定を上乗せする要否を検討する必要があった。それをしていない処分は看過しがたい過誤や欠落があったとして違法、というのである。

「数式から算定される想定基準値震動は飽くまで平均値に過ぎず、現実に発生しうる地震が想定の平均値より大きくなる可能性を考慮していないことを違法と判断した」と言ってよいと思う。だから、原告住民側の弁護団は「全ての原発の基準地震動の設定に関する重大な問題。ただちに策定をやり直すべきだ」との声明を出した。

この判決の「衝撃」は、普段滅多に出るはずのない行政に厳格な判決が出たことによる。だが、本来司法とは行政に厳格でなくてはならないもの。実は、この判決は「大道廃れて仁義あり」の類いではないだろうか。「司法の正義廃れて名判決の衝撃あり」の感が深い。

以下に、弁護団声明、原告団声明、判決要旨を掲載する。

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弁護団声明

2020年 12月 4日

大飯原子力発電所設置許可取消請求弁護団

本日大阪地方裁判所は画期的判決を言い渡した。
真塾かっ真剣な審理の結果に対し敬意を表する次第である。
本訴訟の最大の争点は基準地震動の設定が安全性を担保する適切な値として定められているか、そして、国の規制機関である原子力規制委員会がその基準地震動を認めるにあたって、適切な審査をしたか否かにあった。
国が定めた「地震動審査ガイドJには、基準地震動を定めるにあたって、経験式から導かれる数値は「平均値としての地震規模を与えるものであることから、経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある」と規定している。しかし、これまで、すべての原発についてこの「ばらつき」は考慮されず、したがって、基準地震動は過小評価されて設定されていた。
本判決は、この基準地震動を過小評価として、それを見過ごした設置許可処分を違法として取消を命じたものである。
この問題は、すべての原発の基準地震動の設定に関係する重大な問題であるから、直ちに全原発について、基準地震動の策定をやり直し、もしくは、一刻も早く危険な原子力発電所を廃止すべきであることを強く訴えるものである。

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原告団声明

12月4日 大阪地裁は国に対し大飯原発3・4号の設置許可取り消しを命じる
大飯3・4号は地震に耐えられないと、原告の主張を認める判決国は控訴を断念して設置許可を取り消し、すべての原発等について耐震性の見直しを行え

本日(12 月 4 日)大阪地裁の行政訴訟において、大飯原発の基準地震動は過小評価であるとして、設置許可を取り消せとの判決が出された。これは福島原発事故後に新たに導入された地震動審査ガイドの規定を踏まえた結果である。原子力規制委員会は直ちに大飯3・4号の設置許可を取り消し、国は人々の安全を守るために控訴を断念すべきである。この判決は8年半にわたる長い闘いの成果である。
原子力規制委員会は、これまで自ら策定したガイドにおける地震規模の「ばらつき」を考慮せよとの規定を無視し、適用を退けてきた。大飯原発で、基準地震動の基礎となる地震規模を決める入倉・三宅式は、過去に起こった世界中の 53 個のデータの平均値である。しかし実データはばらついていて平均式との間に乖離があり、平均式より大きい地震規模が発生する可能性をはらんでいる。
この事実に基づいてガイドは、「経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから、経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある」と規定している。この規定について、原子力規制委員会は 2018 年 12 月 19 日付「新規制基準の考え方[改訂版]」において、「当該経験式の前提とされた観測データとの間の乖離の度合いまでを踏まえる必要があることを意味している」との見解を出している。
今年 1 月 30 日に裁判長は被告に対してこの乖離の度合いとして、少なくとも標準偏差を考慮しても、設置許可基準規則 4 条 3 項が規定する「地震による損傷の防止」が成り立つことを示すよう指示した。「ばらつき」の考慮が福島事故後に初めて策定されたことの意味を考えるようとも指摘した。
現行では「不確かさ」を考慮した場合の 856 ガルが最大加速度である。それにさらに「ばらつき」の標準偏差を考慮すれば 1,150 ガルとなる。それでも上記基準規則の成立を示すことが事実上求められたのである。
ところが被告は、標準偏差は考慮したものの、今度は現行の「不確かさ」考慮をとり払い、現行より低い 812 ガルにしかならないと主張した。これでは裁判長が基準規則適合性を求めた意味が消し飛んでしまう。
このような愚論を判決ははっきりと退けた。地震が過去の平均値で起こるとは限らないとの法則性を裁判所が認定したのである。
原子力規制委員会はこの判決を踏まえて、すべての原発及び原子力施設等について、地震規模(地震モーメント及びマグニチュード)の見直しを行うべきである。
関西電力に関しては、大飯原発の地震規模の見直しはもちろんのこと、とりわけ老朽美浜3号炉の耐震性が大きな問題になる。敷地のほぼ直下にある C 断層が現行でも 993 ガルをもたらすが、「ばらつき」の標準偏差を考慮しただけで 1,330 ガルに跳ね上がる。老朽化に伴う諸問題を抱えながら、このような危険性が放置されてよいはずはない。再稼働を中止し、耐震性の見直しを行うべきである。
全国各地の原発に関して、耐震性の見直しを要求する取組みを協力して進めていこう。

2020 年 12 月 4 日 おおい原発止めよう裁判の会

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平成 24年(行ウ)第 11 7号 発電所運転停止命令義務付け請求事件
裁判官 森鍵一,齋藤毅,豊臣亮輔(言渡日 2020年12月4日)

判決要旨

1  事案の概要
(1) 原子力規制委員会は,平成29年5月24日付けで,被告参加人(関西電力)に対し,大飯原発 3号機及び 4号機(本件各原子炉)の設置変更を許可した(本件処分)。
本件は,福井県等に居住する原告らが,本件処分に係る参加人の許可申請(本件申請)が当時の「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則」 (設置許可基準規則)で定める基準に適合するものでないにもかかわらず,本件処分がされたものであることなどから,本件処分は当時の核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律43条の3の6第1項4号等に反し違法である旨主張して,その取消しを求める事案である。
(2) 本件の争点は,本件各原子炉の耐震性判断のための基準となる地震動(基準地震動)を策定(想定)するに当たり行われた地震規模(地震モーメント)の設定が,新規制基準に適合している旨の原子力規制委員会の判断に不合理な点があるか否かのほか,原告らが主張するその余の違法事由(基準地震動を想定するための経験式(入倉・三宅式)の選択の違法,制御棒挿入時間の基準超過,F-6破砕帯を活断層と判断しなかったための地盤安定性の見誤り,基準津波の設定の誤り,重大事故時の溶融炉心冷却設備及び放射性物質拡大抑制設備の不備)が認められるか否かである。

2 判断の概要
裁判所は,概要,以下の理由から,本件申請について,基準地震動を策定するに当たり行われた地震モーメントの設定が新規制基準に適合している旨の原子力規制委員会の判断に不合理な点があるとして,本件処分は違法である旨判断した。
なお,原告らが主張するその余の違法事由はいずれも採用することができないものと判断した。
(1) 判断枠組み
原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる発電用原子炉設置(変更)許可処分の取消訴訟における裁判所の審理,判断は,原子力規制委員会の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって,現在の科学技術水準に照らし,原子力規制委員会の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは当該発電用原子炉の設置(変更)許可申請が上記具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があると認められる場合には,原子力規制委員会の判断に不合理な点があるものとして,その判断に基づく上記処分は違法であると解するのが相当である(伊方原発事件に関する最高裁平成4年1 0月 29日判決)。
(2) 新規制基準における基準地震動の策定に関する定めア 設置許可基準規則 4条 3項は,発電用原子炉施設のうち,一定の重要なものは,その供用中に当該施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作用する地震力(基準地震動による地震力)に対して安全機能(設置許可基準規則 2条 2項 5号参照)が損なわれるおそれがないものでなければならない旨を定める。
イ 基準地震動の策定に当たっては,敷地に大きな影響を与えると予想される地震について,震源の特性を主要なパラメータで表した震源モデルを設定しなければならない。この点について,設置許可基準規則を受けて原子力規制委員会が定めた内規である当時の「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置,構造及び設備の基準に関する規則の解釈J (規則の解釈)は,基準地震動の策定過程に伴う各種の不確かさ(震源断層の長さ,地震発生層の上端深さ・下端深さ,断層傾斜角等の不確かさ並びにそれらに係る考え方及び解釈の違いによる不確かさ)については,敷地における地震動評価に大きな影響を与えると考えられる支配的なパラメータについて分析した上で,必要に応じて不確かさを組み合わせるなど適切な手法を用いて考慮する旨を定める。
ウ そして,設置許可基準規則及び規則の解釈の趣旨を十分踏まえ,基準地震動の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的として原子力規制委員会が定めた「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」 (地震動審査ガイド)は, 「震源、モデ、ルの長さ又は面積,あるいは 1回の活動による変位量と地震規模を関連づける経験式を用いて地震規模を設定する場合には,経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認する。その際,経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから,経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある。」 (I. 3. 2. 3 (2)。本件ばらつき条項)と定める。
(3) 本件ばらつき条項の意義
経験式は,二つの物理量(ここでは,震源断層面積と地震規模)の間の原理的関係を示すものではなく,観測等により得られたデータを基に推測された経験的関係を示すものであり,経験式によって算出される地震規模は平均値である。そこで,実際に発生する地震の地震規模は平均値からかい離することが当然に想定されている。地震規模(地震モーメント)は,震源モデルの重要なパラメータの一つであり,その他のパラメータの算出に用いられるものであって,基準地震動の策定における重要な要素であるといえる。そうすると,経験式を用いて地震モーメントを設定する場合には,経験式によって算出される平均値をもってそのまま震源モデルにおける地震モーメントとして設定するのではなく,実際に発生する地震の地震モーメントが平均値より大きい方向にかい離する可能性を考慮、して地震モーメントを設定するのが相当であると考えられる(例えば,経験式を導く基礎となったデータの標準偏差分を加味するなど)。ただし,他のパラメータの設定に当たり,上記のような方法で地震モーメントを設定するのと同視し得るような考慮など,相応の合理性を有する考慮、がされていれば足りるものと考えられる。また,経験式が有するばらつきを検証して,経験式によって算出される平均値に何らかの上乗せをする必要があるか否かを検討した結果,その必要がないといえる場合には,経験式によって算出される平均値をもってそのまま震源モデルにおける地震モーメントの値とすることも妨げられないものと解される。
本件ばらつき条項の第 2文は,以上の趣旨をいうものと解される。このような解釈は,平成 23年 3月 11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発の事故を受けて耐震設計審査指針等が改訂される過程において,委員から,経験式より大きな地震が発生することを想定すべきであるとの指摘を受けて,本件ばらつき条項の第 2文に相当する定めが置かれるに至った経緯とも整合する。
(4) 原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程における過誤,欠落参加人は,本件申請において基準地震動を策定する際,地質調査結果等に基づき設定した震源断層面積を経験式に当てはめて計算された地震モーメントをそのまま震源モデルにおける地震モーメントの値としたものであり,例えば,経験式が有するばらつきを考慮するために,当該経験式の基礎となったデータの標準偏差分を加味するなどの方法により,実際に発生する地震の地震モーメントが平均値より大きい方向にかい離する可能性を考慮して地震モーメントを設定する必要があるか否かということ自体を検討しておらず,現に,そのような設定(上乗せ)をしなかった。
原子力規制委員会は,経験式が有するばらつきを考慮した場合,これに基づき算出された地震モーメントの値に何らかの上乗せをする必要があるか否か等について何ら検討することなく,本件申請が設置許可基準規則 4条 3項に適合し,地震動審査ガイドを踏まえているとした。このような原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程には,看過し難い過誤,欠落があるものというべきである。 以 上

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