澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「安定的な皇位継承策の議論」は、重大でも喫緊の課題でもない。

(2021年3月28日)
 愛読する毎日新聞、最近はその社説に違和感を覚えることが滅多にない。ときどきは大いに肯いて、肯いた自分を保守化したのだと感じたりもする。

 しかし、3月24日社説「皇位継承の有識者会議 国民的議論が欠かせない」だけは別。どうしても納得できない。民主主義理解と表裏一体の天皇制に関しての毎日新聞の姿勢は明らかにおかしい。もっとも、毎日新聞だけではないのだが。

不正確にならないように抜粋・引用する。
 「安定的な皇位継承策などを議論する政府の有識者会議が初会合を開いた。オープンで、国民が納得できる議論が求められる。
 2017年に成立した退位特例法の国会付帯決議は、皇位継承の議論を退位後速やかに行うよう政府に求めている。
 天皇陛下より若い皇位継承資格者は皇嗣(こうし)の秋篠宮さま(55)と長男悠仁(ひさひと)さま(14)の2人だけだ。
 しかし、安倍前政権は19年4月30日の上皇さまの退位以降も議論を先延ばしにしてきた。喫緊の課題を避けてきた政治の責任は極めて重い。
 先送りの背景には、安倍前政権の支持基盤である保守派が、皇族の女性が皇位を継承する「女性天皇」や、父方に天皇がいない「女系天皇」に強く反対していることがある。
 各種世論調査では、女性・女系天皇を容認する意見が7割前後に上っている。有識者会議はこうした世論も踏まえつつ、女性・女系天皇について議論を深めるべきだろう。
 皇族の減少も深刻だ。皇族が減れば、それぞれの負担が重くなり、皇室活動の維持も難しくなる。
 菅義偉首相は責任の重大さを認識し、国民的議論を経て広く理解を得られる結論を示すべきだ。」

 「安定的な皇位継承」とは、「万世一系の皇統」というに等しい。社会の木鐸を任じるジャーナリズムが、保守多数の国会に追随し、アプリオリに「安定的な皇位継承」を肯定してはならない。少なくも、根強く天皇制廃止の意見もあることを両論併記して意見を言うべきだろう。

 「喫緊の課題を避けてきた政治の責任は極めて重い」は、毎日新聞の論説陣が本気で言っていることなのだろうか。薄汚い安倍前政権攻撃の材料の一つとして、言って見せているだけなのだろうか。

 コロナ対策が喫緊の課題、被災地復興は喫緊の課題、地球環境保存のための排出ガス規制は喫緊の課題、絶滅危惧種保護のための生態系保存は喫緊の課題等々なら分かる。しかし、皇位継承なんぞ、「喫緊の課題」であろうはずはない。ましてや、コロナ禍さなかでのこと。私は、「課題」ですらないと思う。

 「女性・女系天皇について議論を深める」とは何を意味しているのだろうか。「女性・女系天皇を認めて、天皇制を護持することが大切」と、世論を誘導したいのだろうか。むしろ、「民主主義と天皇制との矛盾について議論を深める」ことが今、最も重要なことではないか。ついでに言えば、「天皇制と表現の自由」「天皇制と報道の自由」「天皇制と教育の自由」「天皇制と大学の自治」「天皇制と古代歴史研究の自由」の葛藤などにも、本当の意味での「議論を深める」努力をしていただきたい。

 「皇族の減少も深刻だ。皇族が減れば、それぞれの負担が重くなり、皇室活動の維持も難しくなる。」には、のけぞるばかり。これが、日本を代表する大新聞のリベラル度の水準なのか。皇族の減少は歓迎すべきことである。国民の主権者としての自立意識に資することになろうだけでなく、「皇族が減ればその分だけ経費負担が減り、社会福祉にまわすことができる」ではないか。

 「菅義偉首相は責任の重大さを認識し、国民的議論を経て広く理解を得られる結論を示すべきだ。」を、どう読むべきだろうか。

 天皇制やその支持勢力への欺瞞的な妥協だろうか、あるいは、販売促進政策上の保守的読者層へのへつらいと見るべきか。毎日新聞もつらいのかも知れないが、矜持を捨てないでいただきたい。

 なお、この有識者会議のメンバーは、下記の6人。
 上智大学の大橋真由美教授、慶應義塾の清家篤前塾長、JR東日本の冨田哲郎会長、俳優で作家の中江有里氏、慶應義塾大学の細谷雄一教授、千葉商科大学の宮崎緑国際教養学部長。

 これは明らかに偏った人選。天皇制に迎合することなく象徴天皇制を全面的に語ってきた実績のある横田耕一や原武史などの一群の人々を意識的に外しているとしか思えない。

 総理大臣官邸で開かれた有識者会議の初会合で菅首相は、こう語っている。

 「高い識見を有する皆様にご議論をお願いする」「議論していただくのは、国家の基本に関わる極めて重要な事柄だ。十分に議論を行い、さまざまな考え方を分かりやすい形で整理していただきたい」

 菅政権にとっては、象徴天皇制の持続は《国家の基本に関わる極めて重要な事柄》なのだ。毎日新聞が、「社の方針も同様」では、戦前と変わるところがない。本当にそう考えているのか。

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