これが、日本学術会議推薦会員候補者6名の任命拒否に関する情報開示請求の内容である。
(2021年4月30日)
菅首相による、日本学術会議推薦会員候補者6名に対する任命拒否問題。批判の世論喚起だけでなく、具体的な法的手続が始まった。その手はじめが、4月26日提出の行政文書開示請求である。
二つのアクションが同時に行われた。その一つは、任命を拒否された当事者6名の研究者による《個人情報開示請求》であり、もう一つがこれをバックアップする法律家(法学者と弁護士)1162名による《行政文書開示請求》である。
いずれの請求も、その狙いは、政権による「任命拒否」の真の理由をあぶり出すことにある。これだけのことをしておいて、政権は一切理由を語ろうとしない。説明責任拒否なのだ。ならば、菅義偉の口に替えて、保管されている公文書をして理由を語らせようということである。
学術会議は、ほぼ1年をかけて、次期会員としての候補者105名を選任して、内閣総理大臣に推薦した。具体的には、内閣府に属する学術会議(事務局)から内閣府(大臣官房)に105名の推薦者名簿が提出され、これが官邸(内閣官房)にまわっている。いつの時点でか105の名簿が99名のものとなって、官邸の内閣官房副長官杉田和博から菅義偉に渡され、これに基づいて決裁されている。
文書開示請求は、この経緯に関与した各部署の文書保管責任者宛に、その保有する関連文書の開示を求めるものである。整理すれば、下記のとおり。
★開示請求先
(1) 内閣官房(官邸)
a 内閣総務官
b 内閣官房副長官補(内政担当)
(2) 内閣府本府
c 内閣府大臣官房長
d 内閣府日本学術会議事務局長
の4部署
★任命拒否当事者6名による個人情報開示請求対象の文書
2020年の日本学術会議の任命にかかる自己に関して保有している一切の文書
(上記a?dの4先に同様の請求。4通/1人×6人で24通の請求書を提出)
★法律家1162名による開示請求対象の行政文書
?下記各文書
1 杉田和博官房副長官ないし内閣官房職員と内閣府との間におけるやりとりを記録した文書
2 2020年12月10日開催の参議院予算委員会理事懇談会において提出された文書
3 日本学術会議が推薦した会員候補者105名の任命に関して内閣総理大臣が受領ないし確認した文書(あるいは、内閣総理大臣に提出ないし発出した文書)
4 その他一切の文書
? 2020年に日本学術会議が推薦した会員候補者のうち一部の者を任命しなかった根拠ないし理由がわかる一切の文書
? 2020年に日本学術会議が推薦した会員候補者のうち、内閣総理大臣が任命しなかった者がわかる一切の文書
(上記a?dの4先に、???各別の請求。4×3で12通の請求書を提出)
その返答を待ちたい。
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なお、日本学術会議の推薦会員任命拒否の問題は、看過することのできない大問題である。民主主義の土台を崩す暴挙と言って過言ではない。こんなあからさまな違法を放置しておいてはならない。
戦後の保守政権は戦前の専制復活を夢み続けてきたが、日本国憲法と戦後民主主義を支持する世論に阻まれてきた。それでも、彼らは日本国憲法に敵意を剥き出しにし、「自主憲法制定は党是」と言い続け、いまだに民主主義を突き崩そうとしている。
憲法改正までは実現できなかったが、日本国憲法と一体としてある教育基本法に手を付けたのが安倍晋三の第1期政権だった。次いで安倍第2期では、それまで政府自らが違憲としていた集団的自衛権行使を可能とする法制度を作った。自民党ばかりか公明党までがこれを支えた。日本の保守の正体が顕れたといってよい。
そして、菅義偉政権が強引に日本学術会議の人事に介入した。端的に言えば、政権に対する批判勢力を切ったのだ。狙いは大きくは二つあったろう。一つは、恫喝である。政権に対する批判を許さないとする居丈高な姿勢の表明である。そして、もう一つは政府機構に埋め込まれた学術専門家集団のチェック機能の放逐である。予て夢みていた専制支配復活への一歩にほかならない。民主主義を大切に思う者にとって、けっして傍観も、座視も許されない。
以下に、当日発表された「情報公開請求よびかけ人共同代表」のアピールを紹介する。
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日本学術会議会員の任命拒否に対する行政文書開示請求に当たって
本日、私たち法律家1162名(法学者322名、弁護士840名)は、連名で、内開府等に対し、昨年10月1日に内閣総理大臣が日本学術会議が推薦した会員候補者6名の任命を拒否した問題に関し、行政機関の保有する情報の公開に閣する法律に基づき、行政文書の開示請求を行いました。ちょうど日本学術会議が、4月22日の総会で6名の即時任命を求める声明を発した時期と重なりました。
この文書開示請求は、日本学術会議の要請や広汎な世論にも背を向けて、その任命を拒否し続け、しかもその理由を全く説明しようとしない政府、内閣総理大臣に対し、任命拒否の経過等を記載した行政機関保有の文書を開示させることにより、そのプロセス、理由、責任の所在を明らかにさせることを目的とするものです。
その趣旨及び意義は、この請求への協力を呼びかけた添付のよびかけ文に記載されているとおりですが、本件任命拒否は、総理大臣の任命権は形式的なものだとしてきた過去の国会答弁に反するばかりか、日本学術会議は「優れた研究又は業績がある科学者」の同会議による選考、推薦に基づいて任命された210人の会員で組織すべきことを規定している日本学術会議法に違反し、同法で「独立して職務を行う」とされている日本学術会議の独立性を脅かし、ひいては憲法23条の学問の自由と自律その他の憲法上の権利をも脅かしかねないものです。このように、政府みずからが法律に違反して科学の独立を脅かしながらその説明責任を果たさないというがごとき専横を許すならば、それはこの国の民主主義のあり方をも根底から揺るがすものになりかねません。
私たちは、法律家として、単に日本学術会議だけの問題に止まらないこのような法的正義に反する重大な事態を座視することはできないと考え、主権者である国民に対する政府の説明責任が全うされるとともに、行政が公正かつ民主的に運営されることを期し、本件任命拒否に関する行政文書の開示請求を行いました。
またこの度同時に、任命を拒否された6名の科学者全員が、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律に基づき、自己情報の開示請求を行いました。これは画期的なことであり、任命拒否の理由を明らかにさせて任命を実現するため、ともに力を尽くしたいと思います。
私たちは、今回提起した行政文書開示請求に、多くの法律家の方々が共感し、声を挙げて下さったことに、大きな喜びと責任を感じています。この開示請求を必ずや本件任命拒否問題を打開する大きな力とし、任命拒否の既成事実化を許さず、所期の目的を実現するため、今後の取組を強めていく決意を、ここに表明するものです。
2021年4月26日
情報公開請求よびかけ人共同代表
浅倉むつ子 右崎 正博 小森田秋夫 中下 裕子
長谷部恭男 福田 護 三成 美保 三宅 弘