「安倍やめろ訴訟」判決に思う ー 警察を官営の暴力団にしてはならない。
(2022年3月27日・連続更新9年まであと4日)
誰がなんと言っても言わなくても、もう春ですな。
世の中は三日見ぬ間の桜かな
銭湯で上野の花のうわさかな
今日が満開の、のどやかな上野の桜でございますが、あの上野戦争のときは、のどかどころではなかったそうですな。長州藩のアームストロング砲が、本郷台から不忍池を飛び越して寛永寺に籠もった彰義隊を吹き飛ばしましてな。上野は火だるま、そりゃあ江戸中エライ騒ぎだった。戦争は勘弁ですな。
太平洋戦争末期の東京大空襲でも、上野のまわりは焼け野原になりましてな。上野のお山には、たくさんの亡骸が埋っているんでございます。もう、戦争は絶対にやっちゃいけません。ありゃあ、人殺しで、火付けで、強盗なんですから。誰だって、殺されるのも、殺すのもまっぴらご免でしょ。
ところが、戦争やりたい人って、実はいるんですな。だから、戦争がなくならない。たとえばプーチンというお人。人殺しをなんとも思わない。戦争に勝てば歴史に名を残せるとでも思ってるんでしょうか。今年の桜はこの人のお蔭で、十分に楽しむことができない。
そして、プーチンと大の仲良しという安倍晋三というお人。戦争大好きという点でプーチンと同類で気が合うようですな。いつでも戦争ができるように、準備を進めておこう。そのためには、憲法を変えて、戦争できるように法律を整備して、軍事予算を増やして…、ナショナリズムを吹聴し他国民を差別して…、というたいへんな食わせ物。
こんな人に、日本の国民は9年近くも総理大臣をやらせていたんですから、情けない。このお人に面と向かって、「アベ、やめろ」と叫んだ立派な人もいた。そしたらどうなったか。警察に取り押さえられ、現場から排除されちゃったんですよ。勇気をふるって、立派なことを言ったばっかりに。3年前のことですが、日本って、所詮そんな国なんですな。
一昨日(3月25日)、札幌地裁で、この事件についての国家賠償請求訴訟の判決が出て、話題となっていますな。裁判所も捨てたものじゃない。たまにはですが、立派な判決も出す。
長い名前の「ヤジ排除訴訟札幌地裁判決に対する原告・弁護団声明」をご紹介しましょう。
「ヤジ排除訴訟」というのが、この裁判の名前。届出の制度があるわけではないから、訴訟の名前は自由に付けていいんですな。途中で変えたってよい。「安倍やめろ訴訟」でも、「安倍やめろと叫ぶ自由を求める裁判」でも、「安倍やめろと叫ぶ自由を圧殺した警察を糾弾する訴訟」でも、あるいは「安倍晋三に忖度して、『安倍やめろ』『増税反対』と叫ぶ表現の自由を蹂躙した警察を、安倍の代わりに道警を管轄する北海道を被告とする国家賠償訴訟」でもよかったんですが、寿限無のような長い名前は不便ですから、スッキリと「道警ヤジ排除訴訟」。総理大臣のヤジはみっともないが、庶民のヤジは有益で大切、排除なんてとんでもないというわけ。
「原告」はお二人。「安倍やめろ」「安倍かえれ」発言の30代の男性(原告1)と、「増税反対」と叫んだ20代の女性(原告2)。性別も年齢も、なんの意味もありません。意味があるのは、お二人とも憲法に保障された「表現の自由」を行使したということ。それも、最高権力者に面と向かって。最初は、男性一人の裁判だった。あとから、女性も裁判を起こして、併合されています。そして、「弁護団」は、正式には「道警ヤジ排除訴訟弁護団」。道内の弁護士8名での構成。いや、お見事。
声明は、冒頭でこう言っています。
「本日(3月25日)、札幌地方裁判所民事5部(廣瀬孝裁判長)は、2019年7月15日にJR札幌駅及び札幌三越前で参議院議員選挙の応援演説を行う安倍晋三元内閣総理大臣(以下「安倍元首相」という)に対して、「安倍やめろ」「増税反対」などと発言したことによって警察官らに排除された原告2名が北海道(警察)を訴えた国家賠償請求事件について、合計金88万円の支払いを認める判決を言い渡した。
この判決は、北海道警察による表現の自由への侵害を正面から認めた歴史的な判決である。」
3年前何が起こったのか。どんな裁判を提起したのか、そしてどんな判決が言い渡されたのか。これで、だいたい分かりますな。「声明」は、これに続けて「歴史的な判決」と評価する3点の理由をこう説明しています。
「本日の判決については次の3点を高く評価したい。
第1に、警職法4条及び5条を理由に警察官らの行為は正当化されるとの被告(警察側)の主張を明快に排斥し、警察官らの排除行為を違法であると判断した点は、当然のこととはいえ、正当な事実認定及び法適用を行ったものであり、高く評価する。第2に、原告らのヤジをいずれも、「公共的・政治的事項に関する表現行為であることは論をまたない」と断じ、かかる表現の自由を警察官らが排除行為によって侵害したと認めた。これは、民主主義社会における表現の自由の重要性を明示した点において、本件の社会的意義について正面から向き合った判断を行ったものであり、この点も高く評価したい。
第3に、原告2(20代女性・当時学生)に対する警察官らの執拗な付きまとい行為について、原告2の移動・行動の自由、名誉権、プライバシー権の侵害であることを明確に認めた点も、警察官らの同様の行為を抑止する効果を有するものであり、この点もまた、高く評価したい。」
警察という実力組織が勝手なことを始めたら、官営の暴力団になってしまいます。その大親分が内閣総理大臣の安倍晋三。これは、洒落にもユーモアにもならない怪談噺。実際、その寸前だったわけですな。恐ろしいことではありませんか。警察は安倍晋三に十分喋らせるために、ヤジを即刻取り締まったんですぞ。
警察を国営暴力団にしない歯止めとして、警察官職務執行法がある。警察官は、この法律で決められたことしかやってはいけない。この裁判でも、警察側は「警職法4条及び5条に基づく権限を行使したもので、違法ではない」と言ったわけですが、何しろ白昼、衆人環視の中での出来事。たくさんのカメラが見つめていた。天網恢々動画が残されていたと言うわけ。判決は、警察側の言い分を詳細に動画に照らし合わせて検証して、全て否定しました。北海道新聞はこの点を「道警完敗」と見出しを打っています。
声明は、最後にこう言っていますな。
「市民が街頭において抗議の声をあげることは表現の自由として保障されている。特に、市民が政治家とのコミュニケーションをとる機会が限られている中、政治家の演説に対して直接抗議や疑問の声を届けることは、民主主義社会において重要な権利行使の局面である。民主主義社会において賛否両論があることは当然であり、一方の主張を警察権力を用いて封じ込めることは断じてあってはならない。
本日の判決は、北海道警察による排除行為が、警察権力による表現の自由の侵害であるとして、その手法を厳しく断じた。北海道警察はもとより全ての警察機関には、本日の判決を重く受け止め、違憲・違法な警察活動を繰り返さないことを求める。」
教訓とすべきは、不当なことには声を上げなきゃいけないということ。その権利が保障されていることは、この判決が明らかにしています。声を上げることなく自制を続けていると、声が出なくなる、権利が弱まる、権力者をのさばらせる、そして、戦争準備を加速させる。
この札幌地裁判決。本当の被告は、安倍晋三とこれに忖度した幹部警察官僚というもの。痛烈な安倍と安倍におもねる警察権力への批判。憲法が正常に機能した場面を見ることはまことに心強いものですし、多少は溜飲が下がる思いもいたします。今年の桜、美しく見直すこともできようというものでございますな。