澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

ICCのプーチン訴追に期待する ー 各国が安心して武器を置く日のために

(2022年4月11日)
 1993年2月、自由法曹団が「カンボジア調査団」を派遣した。私もその調査団10名の一人として、内戦直後の現地をつぶさに見てきた。国連(UNTAC)の活動あって、平和は回復していたとされた時期ではあった。しかし、小さな紛争は頻発し、私たちがプノンペンに到着する前日(2月10日)に、ポルポト派がUNTACのシェムレアップ(アンコールワット近くの街)事務所を襲って12人の死傷者を出すという事件も起きていた。その4日前には、同じシェムレアップで銃撃戦があり、死者6人、負傷者16人と報道されていた。

 そんな時期だったがプノンペンの市場は賑わっていた。そこで地雷も買えると聞かされて驚いた。金持ちは夜間の侵入者に備えて、毎晩屋敷の門に地雷を仕掛け、朝には取り外すのだという。銃も手榴弾も入手できるとか。人々は、信頼できる刑事司法や警察制度が整備されるまでは、武器を手放すことができないのだと説明された。

 国際関係も似たようなものだ。今、各主権国家が、他国への不信感故に、自衛のための武力を手放すことができないと言っている。もし、国際的に「信頼できる刑事司法や警察制度が整備され」たら、各国は互いに武器を捨てることができるのではないか。国際刑事裁判所(ICC)が創設されたとき、そんな感想をもって大いに期待した。

 「国際刑事裁判所(ICC)とは、国際社会にとって最も深刻な罪(集団殺害犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪)を犯した個人を国際法に基づき訴追し、処罰するための常設の国際刑事法廷」「国際社会における最も深刻な犯罪の発生を防止し、もって国際の平和と安全を維持する」(外務省の解説)なのだから、これが実行されれば、世界の平和はすぐそこに来ることになる。

 今、その期待が試されている。プーチンを罰することができるかどうか。プーチンを処罰することができれば、各国が互いに武器を捨てる展望が大きく開けることになる。プーチン処罰までには至らずとも、どこまで迫れるかが問われている。

 各国国内の刑事作用は、国家権力によって創設され運営されている。実体法としての刑法が作られ、手続き法としての刑事訴訟法が作られ、これを運用するシステムとしての、警察・検察・裁判所・刑務所が作られている。ところが、国際的な権力というものはない。各国の合意によって、刑事法をつくり運用することしかできない。

 国際刑事裁判所(ICC)は、「国際刑事裁判所に関するローマ規程」と呼ばれる条約によって創設された。その条約の発効が2002年、現在締約国数は123か国を数えている。が、大国が未加盟である。

 他国に武力を行使し他国を侵略し戦争犯罪を起こしてICCによる訴追を受ける可能性が高い国は、当然のことながらICC加盟に消極的となる。そのような国の筆頭がアメリカをはじめとする軍事大国であることは論じるまでもない。

 アメリカ・ロシア・中国、この3か国が世界の軍事大国ビッグ・スリーである。侵略国となるべき条件を備えている最も危険な国家である。国連の常任理事国でもあるこの3か国が、ICCに加盟しようとはしない。第4位の軍事力を持つインドも未加盟。これらの軍事大国にこそICC加盟が必要なのだが、これを強制する手段がない。

 ウクライナも条約未締結国なのだが、過去にICCの管轄権を受け入れる宣言をしており、ウクライナ国内でのICCの捜査が可能となっている。ICCの主任検察官は、ウクライナで「戦争犯罪」などが起きている可能性があるとして、既に捜査開始を発表している。

 任意捜査が済めば、被疑者プーチンを逮捕し、勾留して法廷への出廷を確保し、法廷で戦争犯罪についてのプーチンの関与を立証して、有罪判決を言い渡し、収監して刑の執行をしなければならない。確かにこれは難事である。何重にも壁がある。何しろ軍事大国のトップに、実力を行使しなければならないのだから。

 ICCは、2016年に、ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦でセルビア人勢力の指導者だったラドバン・カラジッチ被告に対して、ジェノサイドの罪を認定し、禁錮40年の判決を言い渡した実績がある。

 難事ではあっても、被疑者プーチンに対して、できるだけの訴追の努力を期待したい。成功すれば、素晴らしいことだ。そのことが、「国際社会における最も深刻な犯罪の発生を防止し、もって国際の平和と安全を維持する」ことにつながる。

 プーチンの訴追に頓挫すれば、何がネックとなったのか、具体的にどうすれば訴追可能であったのかを国際世論に訴えてもらいたい。いつの日か、機能するICCが実現し、そのことによって、各国が安心して武器を置く日がやって来ることを期待したい。

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