澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

中国に「天安門の母」、ロシアに「ロシア兵士の母」。そして、わが国に「九段の母」。

(2022年6月4日)
 1989年6月4日早朝、北京天安門広場とその周辺に集まった無防備・無抵抗の群衆に人民解放軍が襲いかかった。「人民からは針一本、糸一筋も盗まない」ことで、人民からの信頼を得てきた中国共産党の人民解放軍であった。人民から生まれ、人民とともにあるはずの人民解放軍。その人民解放軍が人民に銃を向け発砲したのだ。何のためらいも、容赦もなく。

 天安門広場に集まった大群衆は、党と国家の民主化を求めていた。この人たちが銃撃され、夥しい死傷者を出した。殺戮されたのは広場に集まった学生や市民ばかりではない。民主主義や人権という文明の普遍的価値も虐殺された。以後、中国は民主主義や人権とは無縁の野蛮国となる。そして人民解放軍は、人民の軍ではなく、党幹部の私兵となった。

 この日、私の中での重要な何かが崩壊した。だんだんとそれが、明確になってきたように思う。私は楽観主義者だった。人類の歴史は、人権の尊重・民主主義・平和を軸に、進歩し発展するに違いない。長い目で見れば、中国も人権・民主主義の社会になるだろう。しかし、天安門事件の衝撃は、私の楽観論を打ち砕いた。永く、中国に理想の未来を期待していただけに、落胆は大きかった。

 この衝撃の「事件」だけでなく、事後の対応にも許しがたいものがある。我々が、日本の保守勢力を「歴史修正主義」と非難していることを、中国共産党もやったのだ。事件そのものがあたかもなかったごとくに、事実を語る言論は統制され、歴史は塗り替えられようとしている。これが天安門以後の中国共産党の実像である。

 中国には「天安門の母」というグループがある。天安門事件で子供を殺害された親らの会。1日、この「母の会」がネットに声明を発表した。平和的なデモに軍を出動させ「自国民を虐殺した」と非難し、改めて真相や責任所在の解明を共産党・政府に求めた。

 中国共産党は、民主化を求めた人々の運動を『反革命暴乱』とし、「党と政府は旗幟鮮明に動乱に反対して社会主義国家の政権を守った」と言っている。中国共産党にとって、人民の民主化運動は『反革命暴乱』なのだ。これが、権力の本質なのだ。

 ところで、中国には「天安門の母」があるように、ロシアには「ロシア兵士の母」という会があって政府にもの言うことで知られている。かつて、日本には「靖国の母」「九段の母」があった。いずれも、流行歌としても歌われている。下記は、歌謡曲「九段の母」の2番の歌詞である(作詞・石松秋二)。発表は1939年、太平洋戦争開戦の2年前である。

 空をつくよな 大鳥居
 こんな立派な おやしろに
 神とまつられ もったいなさよ
 母は泣けます うれしさに

 「天安門の母」は息子の死に憤り、「ロシア兵士の母」も軍の横暴にものを言う。ところが、「九段の母」は息子の死を「母は泣けます うれしさに」というのだ。恐るべし、天皇制のマインドコントロール。

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Published in 土曜日, 6月 4th, 2022, at 14:41, and filed under 中国.

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