澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

富田林市議会の統一教会との関係根絶決議にイチャモン提訴

(2022年12月24日)
 指折り数えて…間違いはない。南河内の富田林は、私の8番目の故郷である。小学校の5年生から高校卒業までの8年間をこの町で過ごした。暦年で数えれば、1954年4月から62年3月まで。地元の富田林小学校、富田林一中は私の母校である。懐かしい山と川、懐かしい街並み、懐かしい友人と河内弁。懐かしい私の少年時代を育んでくれた故郷の平穏と発展を願ってやまない。

 その富田林市が、統一教会といささかの関係を持っていたとの報道があって、心を痛めていた。大阪府の自治体に、聞き慣れない「アドプト・ロード・プログラム」というものがあるという。市民の市政参加の一態様で、地元市町村と協定を結んだ市民グループが、道路の清掃や緑化などの美化活動を継続的に行うものだという。これに、統一教会系の組織が名乗りを上げ、富田林市と協定を結んでいたということのようだ。

 市民からの指摘を受けて、市はこの協定を解消し、市議会は以下の「根絶決議」を採択した。全会一致でのことである。


旧統一教会と富田林市議会との関係を根絶する決議

 旧統一教会が霊感商法などで、国民に大きな被害をあたえ、行政や政治家にまで関係をひろげていたことが注目されている。
 富田林市が世界平和統一家庭連合とアドプトロードの協定を結んでいたことがマスコミにも報道され、市民から疑問の声や、今後の市や市議会議員の姿勢を問う声が寄せられている。
 富田林市議会として、市民の疑問にこたえ、旧統一教会との関係を根絶するため、以下2点を決議する。

1.富田林市議会議員の旧統一教会とその関連団体とのかかわりについて、自ら調査し、議会が市民に明らかにする。
2.富田林市議会議員は、旧統一教会及びその関連団体とは一切かかわりを持たない。

 以上、決議する。

令和4年9月28日

大阪府富田林市議会


 何の文句もつけようのない決議である。自治体は、住民自治の原則に従って自由にその意を表明することができる。当然に議会も同様である。

 しかも、「統一教会が霊感商法などで、国民に大きな被害をあたえ、行政や政治家にまで関係をひろげていたこと」は、否定のしようもない厳然たる事実である。「富田林市が統一教会系団体とアドプトロードの協定を結んでいたことがマスコミにも報道され、市民から疑問の声や、今後の市や市議会議員の姿勢を問う声が寄せられている」ことにも疑問の余地はない。

 市民の懸念や叱正に応えての「対統一教会・関係根絶決議」である。敬意を表すべきでこそあれ、これを貶めるべき何の理由もない。にもかかわらず、これを不当に貶めることをイチャモンという。

 統一教会としてはこの決議が面白くない。富田林市に続いて、他の自治体が同様の「関係根絶決議」を採択することを阻止したい。富田林市にも、これ以上の統一教会対策はさせたくない。なんとか牽制しなくてはならない。その思惑が、何の違憲も違法もない決議に、イチャモンを付けての昨日(12月23日)の提訴となった。

 いわゆるスラップ訴訟について、なかなか適切な訳語がないままに「恫喝訴訟」「いやがらせ訴訟」などと呼ばれている。これに倣えば、この裁判には、統一教会の「イチャモン訴訟」というネーミングがピッタリである。

 報道では、見出しを「旧統一教会の友好団体、大阪市・富田林市議会の決議取り消し求め提訴」などとされている。

 訴えたのが「UPF(天宙平和連合)大阪」、韓国の本部が昨年開いたイベントに安倍晋三がビデオメッセージを送って銃撃される原因となった例の団体の地方組織。訴えられたのは大阪市と富田林市の両市(市議会には被告適格がない)。請求の内容は、決議の取り消しと慰謝料の請求(各350万円)。裁判所は大阪地裁である。

 報じられている原告の主張は、本件決議が「請願権を侵害」し、「思想の自由を保障した憲法19条」「信教の自由を保障した20条」に違反しているのだという。この言い分、いずれも「イチャモン」以外のなにものでもない。

 安倍晋三銃撃事件後の世に溢れた統一教会批判報道によって、統一教会ないしはUPF(天宙平和連合)の「請願権」行使が困難になったであろうことは想像に難くない。しかし、これを「決議」によるものと決めつけることはできない。俗な表現で言えば、単に統一教会の自己責任というだけの話なのだ。さらに「決議を取り消せ」「損害を賠償せよ」というのは、乱暴極まる「非論理」でしかない。

 原告UPFは、本件決議の違法を言わねばならないが、無理な話。市議会は、「統一教会が霊感商法などで、国民に大きな被害をあたえ」たから、当該団体との関係を根絶したのだ。宗教団体だから霊感商法も許される、宗教団体だから強引な教化・伝道も許されるなどと勘違いしてはならない。

 宗教法人法86条は、「この法律のいかなる規定も、宗教団体が公共の福祉に反した行為をした場合において他の法令の規定が適用されることを妨げるものと解釈してはならない」と明記する。宗教団体が宗教団体ゆえに差別されてはならないが、宗教団体が宗教団体ゆえに何らの特権を持つこともない。あたりまえのことだ。

 「霊感商法などで、国民に大きな被害をあたえた団体」との決別が、その団体の構成員に何らかの不利益をもたらしたとしても、これを違法な請願権侵害とも、思想の自由保障の侵害とも、信教の自由侵害とも言わない。

 勝ち目のない訴訟と分かっていての、市議会や世論を牽制する意図での提訴なのだ。富田林市民は、統一教会・UPFによって市が被告とされたこと、そのことによって市が応訴の費用を負担しなければならないことを怒らねばならない。あらためて、その怒りもて、統一教会の違法行為を糾弾しようではないか。

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