澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

渡辺喜美さん政治家はお辞めなさい

私が盛岡にいたころ、もう30年余の以前のことだ。地元紙で宮古市内の教会を主宰していたキリスト教の牧師さんの不祥事疑惑が報じられた。不祥事の内容は、教会が経営する施設の建設に絡むものだったが、詳しくは憶えていない。

この事件、疑惑が疑惑のまま葬られた。任意の捜査もあった記憶だが、刑事事件としての立件はなく、関係する役所の部門も動かなかった。結局は地元紙の先走った大袈裟な報道という印象だけを残して幕引きとなった。その幕引きの際に、「日本キリスト教団奥羽教区」が声明を出した。「この疑惑に関しては徹底して内部調査を遂げて、責任の有無を解明する」という趣旨のもの。誰もが、常識的に体裁だけの声明だと受けとめた。私もそう思った。

ところが、半年ほど後だったと思う。誰もが事件を忘れたころになって、教団の調査結果が発表され、これが地元の各紙を賑わせた。詳細な事実経過の認定がなされ、渦中の牧師さんの弁明は虚偽だと断罪された。その牧師さんは解任されたと記憶している。大きな衝撃を受けたのだから、私の記憶の大筋に間違いはない。

教団が、身内の不祥事を暴かねばならない必然性はなかった。調査結果を無難なものにすることもできた。しかし、調査を担当した者たちは、キリスト者として真実に向かいあった。おそらくは神に恥じない態度を自らに課したのであろう。いささかも身内に甘い態度はとらなかった。真実に忠実な姿勢を貫いた結果が、隠せるものを隠すことなく、身内に有罪を宣告したのだ。わたしは、このときキリスト教というもの、クリスチャンというものを大したものだと思った。この組織には、間違いなく自浄能力がある。

一人の牧師の不祥事は印象に薄く、その非違を糺した教団の潔癖さ、厳正さが印象に刻み込まれて、私はキリスト教への畏敬の念を深めた。このローカルなニュースが、岩手靖国訴訟の原告団の中心に位置した2人の牧師(井上二郎さん・渡辺敬直さん)との信頼関係の構築に少なからぬ影響があったと思う。

医療過誤でも、製造物責任でも、欠陥住宅でも、運転事故でも、また舌禍でも筆禍でも、人には過ちがつきまとう。その過ちにどう対処するかで、人は測られる。場合によっては、間違ったことへの対応のみごとさで、却って信頼を勝ち得ることすらある。とりわけ、組織に属する個人が過ちを犯した場合、組織がどのようにその過ちについての透明性・公開性を徹底して説明責任を全うするか。それによって、その組織の将来の命運が分かれると言って過言でない。自浄能力のない組織には、未来がない。企業でも、官庁でも、政党でも、民主運動組織でも。

そんな目で見た、みんなの党前代表の「8億円『借り入れ』事件調査結果」は、世人の信頼を勝ちうるものとはなっていない。「やっぱりこの程度の調査しかできないのか」という失望感が大きい。とはいうものの、私は24頁に過ぎないこの報告書を読む機会に恵まれない。だから、「この党に将来はない」と切って捨てるだけの自信はまだない。みんなの党のホームページには掲載されるだろうと待っていたが、どうもその気はなさそうだ。マスコミ各社には配布されたようだが、これをアップしてくれたところは見あたらない。

党のホームページに掲載された記者会見の動画と、各社の報道を見る限りと断ってのことだが、どのメディアも納得していない。

調査の諮問事項は3点あったはず。
(1) 公職選挙法違反の事実の有無
(2) 政治資金規正法違反の事実の有無
(3) 社会的道義的に問題がないか
そのいずれについても、党は問題ないことが確認されたといい、各社とも問題が残ったとしている。

毎日の要約が分かりやすい。
「報告書は、借入金が渡辺氏自身の選挙費用に使用された事実はなく、『渡辺氏から党に、供託金(2回の国政選挙で計3億5400万円)等の選挙資金として貸し付けられた』とし、公職選挙法違反にはならないとした。さらに『政治団体ではなく渡辺氏個人に対する融資と確認した』との理由で、政治資金規正法違反にも当たらないとした。
渡辺氏が『妻の口座に5億円近くがそっくり残っていた』とした点については、『2012年から13年に計5億円が渡辺氏の口座から妻の口座に移動』と説明。『投資や運用はされず、普通預金口座のまま』と指摘し、『政界再編に備えたという渡辺氏の説明を裏付ける事実』とした。
そのうえで、渡辺氏が3年10カ月間で約5500万円、妻は1年4カ月間に約3500万円を使ったと明らかにした。渡辺氏は使途を『党首と党首夫人として、党勢拡大のための活動に関連して、会合や情報収集で使用した』と説明したが、利用明細書の入手は一部にとどまったという。
また、渡辺氏は吉田氏以外の複数の第三者から計6億1500万円を借り入れ、うち1億4500万円が未返済であることも判明した。渡辺氏の意向で第三者の名前は明らかになっていない。」

以上の説明の限りでは「(2) 政治資金規正法違反」の疑惑濃厚といわざるを得ない。「党首と党首夫人として、党勢拡大のための活動に関連して、会合や情報収集で使用した」金は明らかに政治資金なのだから、その明細を特定して届出の有無を確認しなくてはならない。それができていないことは、政治資金規正法違反のないことの解明には至っていない。

また、「(3) 社会的道義的に問題」だらけではないか。法は、金で政治が歪められることを防止するために、政治資金の透明性の確保を要求しているのだ。表に出せない汚い金をこそこそと動かしているからには、道義的責任は明々白々だ。渡辺は「『法的にも社会的・道義的にも問題ないとの判断をいただいた』とのコメントを発表した」という。本当にそう思っているのなら、調査委員はカムフラージュに使われたに過ぎない。

そして、「(1) 公職選挙法違反の事実の有無」である。選挙運動費用収支報告書と預金通帳の字面だけを見ていれば、違法は見えてこない。調査とは、字面だけでは見えてこないものに切り込まねばならない。DHCの吉田から出た金で供託金が支払われた選挙に関して、選挙運動費用はどうまかなわれたのか、疑惑の使途不明金が、報告書に記載されていない選挙運動費用として注ぎこまれた事実はないのか、その調査がおこなれて初めて疑惑の有無についての結論が出せる。浅尾慶一郎党代表の記者会見では、「任意の調査の限界」を強調するだけのもので、本気で調査をやる気も、やらせる気も、感じられない。

次のようにも報道されている(毎日)。疑惑だらけだ。
「9000万円の用途は主にカード代金の決済だった。記者会見では、決済の明細内容への質問が集中。飲食店や旅館の宿泊代、交通費などが含まれるとしたが、三谷座長らが明確にあげたのは、被ばくした牛の保護をしている非営利団体へのわら代の寄付だけだった。渡辺前代表は明細書を『個人のプライバシー』を盾に、一部を塗りつぶして提出したといい、三谷氏は『これ以上は任意の調査なのでできない』とお手上げ状態であることも明かした。」

「渡辺前代表へ2012年衆院選前に5億円が貸し付けられたのは、夫人が化粧品会社会長に『離婚する』とのメールを送った当日だった。12日後に2億円、翌年には計3億円が移動し『関連があるのでは』という点も検討されたが、『離婚したままだが、すぐに復縁し現在は事実婚状態』とする渡辺氏の説明を調査チームは『不合理ではない』と受け入れた。」

本日の東京社説が次のように指摘している。
「渡辺氏は以前、これらの支出を党勢拡大のためと説明していた。だとしたら党の政治資金であり、個人的な支出と結論づけるのは無理があるのではないか。
このような論法がまかり通るなら、個人的な支出だと言い張り、政治資金や選挙運動費用を収支報告書に記載しないことが横行しかねない。そうなれば法による規制はさらに形骸化する。」
「渡辺氏が8億円とは別に、5カ所から計6億1500万円を借りていたことも新たに分かった。ところが、誰から借りたのか、何に使ったのかは、全く解明されていない。やはり強制力を持たない身内による調査では限界がある。司直の出番を待たずとも、国会に真相解明の意欲があるのなら、証人喚問に踏みきるしかあるまい。」
これが、衆目の一致するところ。

やはり、「渡辺喜美さん政治家はお辞めなさい」というほかはない。そして、前代表の議員辞職があろうとなかろうと、みんなの党に未来はなかろう。
(2014年4月26日)

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Published in 土曜日, 4月 26th, 2014, at 22:53, and filed under DHCスラップ訴訟.

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