集団的自衛権とは「戦争をしかける権利」のこと
有楽町駅頭をご通行中の皆様、ご紹介いただきました東京弁護士会憲法問題対策センター委員の澤藤と申します。ただいま、東京弁護士会会長、第二東京弁護士会会長以下、集団的自衛権問題で、弁護士が駅頭の訴えをさせていただいております。しばらくお耳をお貸しください。集団的自衛権問題を解説している日弁連のリーフレットを配布しています。ぜひ、お手にとってお読みください。
「集団的自衛権」とは何でしょうか。なぜその行使を容認し得ないのでしょうか。このことを分かりやすくどう訴えたらよいのか、永く考え続けてきて、少しずつ自分なりに考えが整理されまとまってきました。
集団的自衛権には、権利の「権」が付いています。いったいどんな権利というべきでしょうか。「自衛権」なら分かりやすい。「戦争をしかけられたときに、やむをえない範囲での反撃として武力を行使する権利」。このように説明して、誰にでも理解してもらえると思います。しかし、集団的自衛権の方は、自国が攻撃されていない場合を想定しているのですから、明らかに自衛のために武力を行使する権利とは違うもの。分かりにくいこと、この上ない。
自衛のためにするものではない武力の行使とは、「戦争をしかける」ことにほかなりません。自衛権の行使ではない武力の行使を権利とする集団的自衛権とは、結局のところ「戦争をしかける権利」だと言わざるを得ません。ですから、わが国が集団的自衛権を発動して武力を行使した場合、武力行使をしかけられた相手国は、当然に自衛権を行使してわが国に武力をもって反撃する権利を取得することになります。これはわざわざ危険を招き寄せる愚行というべきではないでしょうか。
戦争は、仕掛ける国があって始まります。これまで、わが国は専守防衛に徹することを頑なに宣言し続けてきました。現実にわが国が攻撃をしかけられた場合にだけ自衛権を発動する、そのための自衛隊だという原則を守ってきました。絶対に戦争を仕掛ける国にはならないとしてきたのです。ところが、集団的自衛権の行使容認とは、その原則を投げ捨てて、「日本が戦争を仕掛けることができる国になる」ということなのです。集団的自衛権とは、「戦争をしかける権利」のこと。安倍政権はいま、その「他国に戦争をしかける権利」を手に入れようとしているのです。しかも、国民の意思も国会の意思さえも問うことなく、閣議決定による一内閣の憲法解釈変更をもって、憲法をねじ曲げてしまおうということなのです。
なぜ、集団的自衛権行使を容認し得ないのか。それは憲法が「他国に戦争をしかける権利」など認めていないことが明らかだからです。集団的自衛権行使とは、積極的に戦争を仕掛けることであり、平和を破壊する行為そのものだからです。日本国憲法をどう読んでも、集団的自衛権の行使を認める余地はありません。
この世には戦争をしたい人が確実にいます。戦争間近の緊張関係を歓迎する人は、もっと数が多い。一部の人にとっては、兵器の調達で莫大な儲けを掴むチャンスです。また、戦争とは領土を保全し、市場を獲得し、資源を確保するために有効な手段だと信じられてもいます。景気を刺激する手段として有効だとも考えられています。国内の諸矛盾や国民の不満を、戦争の熱狂をもって一気に逸らして解決する手段として魅力的でもあります。鬱屈した国民の気分を刷新し統合するために、あるいは売名意欲の高い者にとっては、功を遂げ、歴史に名をなす絶好のチャンスだともとらえられています。
しかし、まだ、さすがに、時代の空気は、大っぴらには「戦争しましょう」と呼び掛けることを許してはいません。そんな呼びかけは、安倍首相といえども躊躇せざるをえません。そこで、戦争をしたい人々は、国民に向かってこう言うことになります。
「危険な敵性国が、どんな出方をしても直ちに武力対応できるように準備怠りなくしておきましょう」「万全の想定の下、万全の武力行使の準備を整えておくことが安全で安心につながる方策として納得いただけますよね」。
実は、これこそ、戦争を招き寄せる危険な言動ではないでしょうか。近隣諸国を敵性国と規定して、その適性国がわが国に危険な行為をするであろうと大っぴらに公言して、対処の方法を整備する。これは挑発以外の何ものでもありません。近隣諸国の側から見れば、こうなるはずです。
「日本は平和主義を捨てたのだ」「日本は、自国が攻撃を受けなくても他国に武力攻撃をする決意を固めつつある」「それなら、日本がどんな出方をしても直ちに武力対応できるように準備怠りなくしておかなければならない」「そのように準備しておかねば安全も安心もない」。
このような危険な負のスパイラルを断ち切らなければなりません。安倍内閣がやっていることは、危険極まりないものと言わねばなりません。
私たちの国は69年前に、戦争の惨禍の反省の上に、再び政府の行為によって戦争の愚を繰り返さぬことを誓って再生しました。平和を大切にしよう。戦争は絶対に繰りかえしてはならない。そのために、「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない」と憲法で決めたのです。自衛権の行使であればともかく、自国が攻撃されてもいないのに、「他国に戦争をしかける権利」など、日本国憲法の下で認められるはずがありません。集団的自衛権の行使を容認する余地のないことが明らかです。
安倍内閣は、今国会会期中にも閣議決定で憲法9条の解釈を変更して集団的自衛権行使を容認しようとしています。これは、憲法改正の手続を踏むことでの改正の自信がないからです。そのような姑息な手段での、憲法の破壊、平和の放棄を許してはなりません。
この安倍内閣の危険なたくらみを許すのか否か。最終的に決めるのは、主権者国民です。明日が今日に続く平和でありますように、「安倍内閣の集団的自衛権行使容認ノー」、「閣議による解釈改憲を許さない」「他国に戦争を仕掛ける権利を認めてはならない」という声を大きく上げていただくようお願いいたします。
(2014年6月18日)