澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

2014年夏 去年までとは違う風景

「8月ジャーナリズム」という言葉を耳にする。「8月限りの際物」という揶揄したニュアンスがある。それでも8月いっぱいは、戦争を回顧し戦争の悲惨を思い起す報道を期待したい。そのことを通じて、ふたたび戦争を繰り返さない誓いが、この国の再生の原点であったことを思い起こそう。危険な政治家によって、その原点に揺らぎが見えるこの夏においてはなおさらである。

赤旗が、「2014年夏 黙ってはいられない」という連載をしている。益川敏英、山極寿一といった著名人が、常ならぬこの夏を語るという企画。昨日(8月24日)は、山田洋次さんが登場した。その中に印象に残る一節がある。

ぼくは旧満州で戦前の軍国主義の教育をシャワーのように浴びながら育った世代です。あの頃の日本人は中国、朝鮮の人たちに恐ろしいような差別意識を持っていた、中国の兵隊が殺されるのは当たり前だし朝鮮の娘さんが慰安婦になっていることは小学生のぼくまでが知っていて、それを当たり前のことのように考えていた。あの恥ずべき差別意識は、資料では残されていないし残しようもないけど、それがあの戦争の根底にあったことを、戦争は他民族に対する憎しみや差別視というおぞましい国民感情をあおり立てることから始まることを、ナチスのユダヤ人排斥の例を引くまでもなくぼくの世代は身にしみて知っているのです。差別され迫害された側の記憶はいつまでも消えないということを、戦後生まれの日本の政治家はよく考えなければいけない。

相手国や国民を、憎み、侮蔑し、差別する感情がなければ戦争はできない。また、そのような差別意識の醸成は、戦争の徴候であり周到に仕組まれた準備でもありうる。

「右翼」の鈴木邦男氏が、今年の8月15日の靖国神社の光景を次のように描写している(要約)。

地下鉄九段下駅を降りて、靖国神社まで…道の両側に、ビッチリと「店」が並んでいる。食べ物やみやげ物を売ってる店ではない。いわば、「思想」を売っている店だ。いや、自分たちの「主張」を売っている店だ。「中国・韓国は許せない。10倍返しだ!」「歴史教科書はおかしい。変えろ!」「全ては憲法のせいだ! 改正しよう! 署名をお願いします」…と。

ギョッとする光景に出会った。女性が声を張り上げて、朝日新聞を攻撃していた。慰安婦問題で嘘ばかり書いている朝日は廃刊にすべきだ、と。「朝日は、そんなに日本が憎いのですか!」と。…「南京大虐殺はなかった」「従軍慰安婦はなかった」…と、エスカレートする。「戦争中に虐殺したり、レイプしたりする兵隊は1人もいなかった。ましてや慰安所などなかった」。そして、こう言ったのだ、「日本兵は世界で一番、道徳的な兵隊です!」

改憲の動きがあるし、集団的自衛権もあるし、ヘイトスピーチデモもある。書店に行くと、反韓・反中の排外的な本ばかりが並んでいる。「国のためなら戦え!」「中国・韓国なんか、やっちまえ!」

何ともやりきれない光景である。安倍政権誕生以来の光景に見えるが、このような光景を生む土壌が安倍政権を誕生させたのか。かなりやばい、この夏の風景。

しかし、このような動き一色でない。昨日(8月24日)の毎日朝刊に、ホッとするような、励まされるような投書を見つけた。
「すばらしい憲法9条大切に」という表題。投書者は山口県岩国市の60代の主婦。お名前の「詩代」にふさわしい文章。

7月29日の本欄に「憲法9条は一国では持っている意味がない」という投書がありました。本当ですよね。こんなにすばらしい憲法なのですから、まわりの国にも「戦争をしない国」の信念を伝えて、日本と同じ憲法9条を持ってもらうように努力しましょう。日本しか持っていないから役に立たないなんていわないで、頑張りましょう。

抑止力というのは、自分の方が上だという上から目線の見方で、相手は良い気はしません。こちらがこれだけ力があると見せれば、相手はまだ上を目指します。そして日本は、またその上の抑止力を考えなければいけません。

きりのない抑止力競争より、周囲の国を戦争をしない国に巻き込んでいくことの方が資金もかかりません。近隣国と話し合いをし、仲良くしていきませんか?
安倍首相お願いします。
私は、子供も孫も戦争には絶対に行かせません。

この短い文章で、9条の精神を余すところなく解き明かしている。

近隣諸国と話し合いをし仲良くしていこう。差別意識をもつことの恥ずかしさを確認しよう。そして、私も、「子供も孫も戦争には絶対に行かせません」と誓おう。
今年の夏、去年までとは違う風景がある。例年以上に「8月ジャーナリズム」にこだわらずにはおられない。
(2014年8月25日)

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Published in 月曜日, 8月 25th, 2014, at 23:51, and filed under 戦争と平和.

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