澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

石井啓一国交相(公明党)よ、君の姿勢が問われている。

昨日(10月13日)、翁長雄志沖縄県知事が、米軍辺野古新基地建設のための公有水面埋め立承認を取り消し文書をもって沖縄防衛局に通知した。圧倒的な県民世論を背景にしての英断だが、翁長知事のぶれない硬骨の姿勢にあらためて敬意を表したい。

政治的には、この知事の動きで勝負あったというべきだろう。安倍政権は、辺野古新基地建設断念をオバマに報告すべきなのだ。次のように言ってみてはどうだろう。

「大統領閣下、ワタクシ安倍はご要望に応えるべく精一杯の努力はいたしましたが、結局辺野古新基地建設は断念せざるを得ません。地元沖縄県民の世論がこれを許さないからです。」「ワタクシも、かなり汚い手を使って、金の力で地元民の分断と切り崩しを謀ったのですが、ますます評判が悪くなるばかり。もうあきらめざるを得ない事態なのです。」「ご認識なかったかも知れませんが、日本は民主主義を標榜する国なのです。地元沖縄の基地反対世論が、ここまで盛り上がり明確になった以上は、もはやこれを押し潰そうとすることは逆効果。」「おそらくは、ホンネとタテマエの両面において価値観を同じくするお国のこと。民主主義のタテマエで処理をせざるを得ない事態に立ち至った事情を、ご了承いただけるものと拝察いたします。」

ところが、安倍政権はこういう賢明な態度を採らなかった。昨日(13日)国(安倍内閣)は海域埋立の法的根拠を失ったが、埋め立てを強行する構えを崩さず、本日(14日)行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止の申立を行った。悪あがきというほかはない。

国が、審査請求を申し立てた先は、公有水面埋立法を管轄する国土交通大臣。その任にあるのは、今月7日付で就任したばかりの新米大臣・石井啓一(公明党)である。その石井啓一の姿勢が、いま厳しく問われている。

翁長知事の埋め立て承認取り消しによって、安倍政権対オール沖縄の対立構造が鮮明になった。また、この問題こそが、戦争法反対闘争後の「安倍対反安倍」の全国的対決を再現するテーマである。戦争法反対運動で構図が明らかとなった、「安倍・自・公」対「野党連合・市民・学生・若者・女性・学者」の対立のテーマでもある。この対立が形づくるせめぎ合いのど真ん中に、公明党の石井が出てきたのだ。

下駄の雪同然に自民にくっついてその存在感を喪失し、支持率も大きく下げた公明党の大臣である。安倍内閣の一員として、「やっぱり下駄の雪」で終わるのか、それとも沖縄県民に向き合って「さすが平和の党」と評判を取り戻すのか。さあ、ここがロドースだ。飛んで見ろ。

とりわけ注目されるのは、国からの審査請求と同時になされた執行停止申立の取り扱いである。県知事の埋め立て承認が取消された現在、国は埋立工事を続行できる立場にはない。行政不服審査法第34条1項が「審査請求は、処分の効力、処分の執行又は手続きの続行を妨げない」(国が知事の承認取消を不服として審査請求をしても、取消処分の効力は続行する)と、執行不停止を原則としているからである。

但し、同条2項「処分庁の上級行政庁である審査庁は、必要があると認めるときは、審査請求人の申立てにより又は職権で、執行停止をすることができる」に基づいて、国交相の執行停止決定があれば、国は審査請求が裁決に至るまでの審議期間の埋立工事続行が可能となる。

石井啓一よ、公明党よ。安倍自民の下駄の雪との批判を覚悟で執行停止申立を認容するか、それともオール沖縄の世論に配慮して執行停止の申立を却下するか。沖縄県民だけでなく、心ある国民が固唾を飲んで見守っているぞ。憲法の民主主義と恒久平和主義も見守っている。おそらくは「平和の党」に期待する創価学会員もだ。公明党の姿勢が厳しく鋭く問われているのだ。

メディアの代表的な見方は下記のようなもの。
「承認が取り消されたものの、政府は行政不服審査法に基づいて公有水面埋立法を所管する国土交通相に不服審査請求し、取り消しの一時停止も求めるため、政府の移設作業が大幅に中断する可能性は低い。」(毎日)
国土交通相とて所詮は安倍内閣という同じ穴のムジナだからという見方だ。しかし、果たしてそうだろうか。

普段は馴染みのない、カタカナ書きの公有水面埋立法を繙いてみる。
第4条1項の本文が興味を惹く。「都道府県知事ハ埋立ノ免許ノ出願左ノ各号ニ適合スト認ムル場合ヲ除クノ外埋立ノ免許ヲ為スコトヲ得ズ」という。つまり、原則不許可で、限定列挙した要件に適合する場合以外には許可をしてはならないという建て付けなのだ。

問題は、同条1号「国土利用上適正且合理的ナルコト」、及び2号「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」の免許要件である。「左の各号の一に適合」ではなく、「左の各号に適合」しなければならないのだから、その全部に適合しなければ「免許(国が許可を求める場合は、「免許」が「承認」になる。法42条1項)をしてはならない」ということなのだ。

取消処分の理由は、「前知事の承認には瑕疵が認められた」ということにある。要するに、「法4条1項1号と2号の要件を満たしていないことが明らかになった」としてその詳細が縷々述べられている。

その中で圧倒的に紙幅が割かれているのが「環境保全措置(の欠如)」についての叙述。項目だけを列挙すれば以下のとおりである。
 1 辺野古周辺の生態系
 2 ウミガメ類
 3 サンゴ類
 4 海草藻類
 5 ジュゴン
 6 埋立土砂による外来種の侵入
 7 航空機騒音・低周波音

そして、総論として強調されているのは、「いったん埋立が実施されると現況の自然への回帰がほぼ不可能」という悲鳴なのだ。

石井啓一よ、公明党よ。「安全保障こそが公共の利益、ウミガメやサンゴやジュゴンどころではない」などとのたもうてはならない。ウミガメもジュゴンも、人類を包み込んでいる生態系の貴重な一部なのだ。失われた自然環境や生態系は回復不可能ではないか。審査請求にたいする裁決が出るまでの間、広大な海を破壊し尽くす、あの工事をストップせよ。執行停止の名による環境破壊の続行を認めてはならない。

いま、環境保全・生態系維持は錦の御旗だ。この理念に反感を持つものはいない。逆らえる者はない。これを尊重せよ。ピンチをチャンスに変えよ。安倍晋三には、「法の原則と環境保全の重要性からこうなりました。長い目で見ればこの方が内閣支持率の向上につながりますよ」と報告すれば済むことではないか。さすれば、石井の名が上がる。公明党の支持率も上向くことになるだろう。

でなければ、公明党がどこまでも自民党の下駄の雪であり、公明党出身閣僚も同じ穴のムジナであることを天下にさらけ出すことになる。石井の名を下げ、公明党の支持率をさらに急降下させることになるだろう。
(2015年10月14日・連続927回)

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