右手(沖縄防衛局)の悪さを、左手(国交相)が止められるはずはないー一般国民を装った国の審査請求と執行停止申立を許してはならない。
「沖縄県の翁長雄志知事は本(21日)夕、県庁で臨時記者会見を開き、名護市辺野古の新基地建設をめぐり、国土交通相に提出した意見書と弁明書の内容を発表した。知事の埋め立て承認取り消しに対し、沖縄防衛局が行政不服審査法に基づき、国交相に無効審査を請求し、裁決まで執行を停止するよう申し立てたことに、「防衛局長が自らを一般国民と同じ立場であると主張したこと、同じ内閣の一員である国交相に審査請求を行ったことは不当」と反論した。(沖縄タイムス)
先日から私の頭の中で未整理のままモヤモヤしていたのが、この「防衛局長が自らを一般国民と同じ立場であると主張し、同じ内閣の一員である国交相に審査請求を行った」のは不当ということ。つまり、行政不服審査法に基づく審査請求も執行停止も、国民の権利救済のための制度なのだ。ところが、その制度を国がチャッカリ利用しようとしているのはおかしいじゃないか、というモヤモヤ。本来は、弱い立場の国民の権利救済のための制度なのに、国(沖縄防衛局)の権利を救済しようと、国(国土交通大臣)が乗り出しているという奇妙な構図。こんな舞台設定はおかしいじゃないか、という問題意識なのだ。「弁明書」も「意見書」も未見なのだが、少し整理してみたい。
一昨日、東京弁護士会が「沖縄県知事による公有水面埋立承認の取消しに関する会長声明」を発表している。強制加入の弁護士会の声明だから、歯切れの悪さは残るものの、この点について次のとおり述べている。(読み易いように、加工している)
「行政不服審査法は、『行政庁の違法又は不当な処分…に関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによって、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図る…ことを目的とする』ものである(同法第1条)。本件承認取消処分にかかる紛争は、国と普通地方公共団体の関係いわば行政機関相互の関係にかかわる問題であるところ、地方自治法は、国と地方公共団体…の紛争解決の手続について、…国地方係争処理委員会による審査(同法第250条の13)、…等を定めている。そうすると、本件承認取消処分にかかる紛争について、国の機関が、『一般私人と同様の立場』で『審査請求をする資格を当然に有する』などとして行政不服審査法による手続を進めることは、行政不服審査法の目的を逸脱するうえ、事実上、国土交通大臣の判断をもって沖縄県知事の判断に代えるもので、地方自治法が定める(本来の)手続を回避する不服申立と言わざるを得ず、地方自治の本旨に悖るもの…である。」
要するに、国(沖縄防衛局)がいま行っている手続は、国民のために開かれた道であって、国には別の道が用意されている。国(沖縄防衛局)は道を間違えているのだから、本来の道に立ち帰って正しい道を歩みなさい、と言っているのだ。おそらく、これが真っ当な考え方。これなら私のモヤモヤもスッキリすることになる。
公有水面埋立法は、一般国民の埋立申請に対しては「免許」とし、国の申請に関しては「承認」と条文も用語も区別している。本来が、別メニューなのだ。
その上、行政不服審査法の改正新法(成立日2014年6月6日、未施行)7条2項には、「国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関に対する処分で、これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の相手方となるもの及びその不作為については、この法律の規定は、適用しない。」と明記されている。これは、法改正の前後を通じて変わらない原則とされている。
従って、問題は「固有の資格」の解釈如何となる。通説的には、「固有の資格とは、一般私人では立つことができない立場をいう」とされている。つまり、国(沖縄防衛局)側は「国は一般私人とまったく同様の立場で埋立申請をしたのだ」と言い、沖縄県は「私人とはまったく違う立場で埋立申請をしているではないか」ということになる。
「県内の弁護士や行政法研究者らでつくる『撤回問題法的検討会』は14日、県庁を訪れ、翁長雄志知事の埋め立て承認取り消しに対して沖縄防衛局が行政不服審査法に基づいて国土交通相に行った審査請求は、不適法だとする意見書を提出した。検討会は『国交相が執行停止を決定するのなら不適法な審査請求を認めたということなので、それは違法な措置だ』と主張した」(琉球新報)と報じられている。
この意見書が「固有の資格」について詳細に論じて、本件埋立申請が「一般私人とは違う」立場でなされた理由を次のように簡潔にまとめている。
「本件の場合、沖縄防衛局による申請は『日米両政府における外交上の合意の履行』という性格を有し、かつ、『閣議決定』に基づく埋立申請であり、単なる土地所有権取得目的の申請とは評価されず、その実態は、国益目的にて行われる『国の事業』を実施するための埋立申請と評価されるものである。」
当然だろう。辺野古海域の埋立申請が「私人とまったく同様の立場で」なされたとは、苦しい言い分でしかない。同意見書のこの点についての結論は、以下のとおりである。
「埋立に至る経緯,理由,事業実態及び対象水域の特殊性を考慮に入れると,沖縄防衛局の埋立申請は,行政手続法及び行政不服審査法を適用して『国民の権利利益の救済』を図る必要性を有するものではなく,『一般私人と同様の立場』で“一事業者”として行なっている申請と解する法的実態を有していない。」「本件埋立事業は,『国民の権利利益』とは無関係な“国家ぐるみの事業”という実態を有することは明らかであり,『固有の資格』に基づく申請として,行政手続法及び行政不服審査法の適用を排除すべき十分な理由が存するものである。」
さて、あらためて申しあげる。国(沖縄防衛局)がいま行っている「審査請求の手続」は、国民のために開かれた道であって、国の行くべき道ではない。国には「国地方係争処理委員会による審査」等の別の道が用意されている。国(沖縄防衛局)は道を間違えているのだから、本来の道に立ち帰って正しい道を歩みなさい。「審査請求」に付随する執行停止は、間違った道に迷い込んだ国(沖縄防衛局)にはそもそも申請の資格がない。
国交相よ、石井啓一よ。安倍政権におもねるあまり、法の解釈を枉げてはならない。間違ってもならない。
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「公表された議事録作成の経緯の検証と当該議事録の撤回を求める申し入れ」への賛同署名のお願い
そもそも存在しない安保関連法案の「採決」「可決」を後付けの議事録で存在したかのように偽るのは到底許されません。私たちは、このような姑息なやり方に強く抗議するとともに、当該議事録の撤回を求める申し入れを提出します。ついては多くの皆様に賛同の署名を呼びかけます。
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第一次集約日 :10月27日(火)22時とします。なお、詳細は、下記ブログをご覧ください。
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(2015年10月21日・第934回)