澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

野球賭博はよくない。しかし、カジノ・IRは比較にならない規模の害悪をもたらす。

本日(10月22日)、プロ野球ドラフト会議。私の関心外のイベントだが、たまたま本日各紙の朝刊が、大きく「巨人選手の野球賭博問題」を報じている。賭博に関与していたと報告された3選手も、何年か前にはドラフトの対象だった。その一人松本竜也は、2011年の巨人1位指名選手。その長身と剛速球から「甲子園のランディ・ジョンソン」と異名をとった有望選手だったという。賭博問題の根を残しておいたのでは、今日のドラフト対象選手も、数年後には賭博に引き込まれかねない。あるいは、もっと積極的に人を犯罪に巻き込みかねない。

組織的に賭博を運営している暴力団の存在が疑われ、これとプロ野球選手との交際の疑惑がある。原辰徳巨人軍監督の1億円恐喝被害問題が記憶に生々しい。巨人だけとは言わない。いや、プロ野球だけでもなく、興行一般と暴力団とのしがらみの根は深く根絶し難い。この社会の健全さの保持のために徹底して膿を出し切ってもらいたい。

この問題で私が意を強くしているのは、案に相違して世間の目は賭博に厳しいということ。大相撲でもプロ野球でも、これを賭博の種にすることに世の批判は厳しいのだ。社会は、なかなかに健全である。

「案に相違して」と言ったのは、世に賭博が溢れているからだ。競馬・競輪・競艇・パチンコ・スロット…。もちろん、宝くじも、先物取引もFXも、立派な賭博である。この賭博が堂々とコマーシャルを打つ時代である。世人の賭博を見る目が甘くなっていると思わざるを得ないのだ。

賭博とは何か。私の定義では、「複数の者が財貨を拠出しあい、お互いに何らかのルールでこの拠出された財貨を取り合うこと」である。賭場に金を積んで、積まれた金を、サイコロの目でも巨人阪神戦の勝敗でも日経平均の上下でも、何かを基準に勝ち負けを決めて取り合うのだ。何のために賭博に参加するのか。当然のことながら、人の金を我が物としたいから。他人の懐に手を突っ込んで取ってくれば、窃盗か強盗になる。お互いの了解で、ルールを決めて、他人の懐の金の取り合いをするのが賭博である。賭博は、財貨の所在を変えるが、何の経済価値も産みださない。

賭博は窃盗や強盗にはならないが、やはり犯罪である。国家が刑罰権を発動して制裁を科する必要があるとされている違法性の高い行為なのだ。その本質において、互いに相手の財産を奪い合う醜い行為であり、社会の健全さを失わしめ、やがては賭博参加者自らをも滅ぼす看過し得ない違法な行為でもある。単純賭博罪(刑法185条)、常習賭博罪(同186条1貢)、賭博場開張図利罪(同186条2項)。博徒結合図利罪(同)と類型化され、富くじの発売も、発売の取次も、授受も犯罪(同187条)とされている。

ダンテの「神曲」では、賭博を行う者が堕ちて行くべき地獄はことのほか深い。「他人の不幸を自己の幸福とする」その心根の卑しさの罪が深いのだ。最高裁判例は、「国民の射幸心を煽り、勤労の美風を損い、国民経済に悪影響を及ぼす」ことを処罰の根拠と説明している。

ところが、「賭博はお互い負ければ取られることを了解での大人のゲームだ。許された娯楽と考えるべきで、刑罰をもって禁圧するほどのことはあるまい」という意見は昔からあった。最近この声は大きい。安倍政権になってからはことさらのこと。経済政策の目玉のひとつになろうとしているからだ。賭博を開帳してテラ銭を稼ごうという、有力企業は政治と結託してこの論調を高めている。プロ野球と暴力団の醜い関係などとは比較にならない、政治家と胴元企業の大規模の醜悪な関係があるのだ。

この醜悪な連中は、博打とか、賭博という言葉を敢えて避ける。推進議員の集まりは「カジノ議連」で、賭博場は「IR」(インテグレイテド・リゾート)という。しかし、なんと言葉を言い換えても本質が醜悪な賭博であることに変わりはない。

以下は、本年1月3日の産経新聞記事「カジノ解禁はいつか…巨大プロジェクト『IR』始動、経済効果は計り知れず」の抜粋である。小見出しとして、『これは成長戦略の目玉になる』とタイトルが付されている。醜悪な政治と醜悪な企業の醜悪な連携についての、醜悪なメディアの報道である。

「平成26年5月、シンガポールを訪れた安倍晋三首相は、カジノを中心とした統合型リゾート(IR)『マリーナ・ベイ・サンズ』などを視察して、こう期待感をにじませた。
 カジノのフロアには1500台のスロットマシンや600台のゲームテーブルが並び、地上200メートルの屋上プールや会議場、水族館、遊園地も併設されている。実際にIRがシンガポールにもたらした経済効果はすさまじく、2013年の観光客数は09年から6割増の1560万人に達した。IR設置に伴う雇用も約2万3000人に上るという。

 シンガポールに追随しようとしているのが日本だ。政府は観光立国を掲げ、訪日外国人旅行者を20年までに2000万人、30年に3000万人超に増やす計画だが、この起爆剤としてIRを位置づけている。

 IR誘致の最大のメリットは、その経済効果。みずほ総合研究所がまとめたリポートでは、東京地区にカジノを含むIRを開設した場合、約3兆7000億円の経済効果が期待できるとしている。同様に香港の投資銀行CLSAは経済効果を年間400億ドル(約4兆7000億円)、大阪商業大の佐和良作教授は最大約7兆7000億円と見積もる。」

産経は、「巨大な経済効果を取り込もうと、自治体の誘致合戦も激しくなっている。すでに全国で20カ所以上の自治体がIR誘致に名乗りを上げている。」「とりわけ熱心なのが大阪…」「IR整備推進法案の通過が、日本におけるIRの第一歩となる。」と報じている。幸い、まだIR整備推進法案の成立には至っていない。

賭博の繁栄がもたらす経済効果を当てにしてのアベノミクス。「おかしいだろ、これ。」としか言いようがないではないか。

ところで、野球賭博。本日の読売が、社説を書いている。「巨人野球賭博 ファンを裏切った罪は重い」というのだ。

「伝統ある球団で、あってはならない不祥事が起きたことは、極めて残念である。」なんだかよく分からない。巨人が特別なんてことはあるまい。「プロ野球界は、選手が賭博に関わらないよう厳しく指導してきた。暴力団排除の取り組みも強化した。3選手の愚行は、球界の努力を無にしかねない。」これもおかしい。3選手だけが悪者か。「プロ野球選手は、子供たちにとって、あこがれの的だ。発言や行動は常に注目される。ユニホームを着ていない時も、身を律することが求められる。」。なんだ、結局は選手個人の自覚の問題にされているのか。

野球賭博も罪深い。しかし、カジノ議連や「IR整備推進法」の罪は、格段に大きく深いのだ。一国の首相が、他国のカジノを見学して目を輝かせているこの時代状況がおかしいのではないか。安倍晋三自身は共産党の追求でカジノ議連最高顧問の座を退いたが、その側近たちが虎視眈々とIR整備推進法案の成立を狙っている。「社会の健全化よりも経済振興の方が大切だ」「アベノミクスの3本目の矢の中に賭博もはいっているのだ」「カジノなんてしゃれた大人のムード」「客寄せには賭博が一番」「これこそ経済復興の目玉」…。

何のための経済振興か。経済とは何なのか。哲学が問われている。野球賭博追放の心意気で、カジノ・IRをも追放しなければならない。アベノミクスもカジノ議連も一掃してはじめて健全な社会を取り戻すことができるのだ。
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「公表された議事録作成の経緯の検証と当該議事録の撤回を求める申し入れ」への賛同署名のお願い

そもそも存在しない安保関連法案の「採決」「可決」を後付けの議事録で存在したかのように偽るのは到底許されません。私たちは、このような姑息なやり方に強く抗議するとともに、当該議事録の撤回を求める申し入れを提出します。ついては多くの皆様に賛同の署名を呼びかけます。

ネット署名:次の署名フォームの所定欄に記入の上、発信下さい。
     http://goo.gl/forms/B44OgjR2f2

賛同者の住所とメッセージを専用サイトに公開します。
     https://bit.ly/1X82GIB

第一次集約日 :10月27日(火)22時とします。なお、詳細は、下記ブログをご覧ください。
       http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/post-fb1b.html
       https://article9.jp/wordpress/?p=5768

(2015年10月22日・連続935回)

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