東北と甲信越各県の選挙共闘の教訓に学ぼう
第24回参院選投開票の翌日。昨日と変わらぬ太陽がまぶしい夏の日。だが、今日の空気は昨日までのものとは明らかに違う。各紙の朝刊トップに、「改憲勢力議席3分の2超」という大見出し。この国の国民は、そんな選択をしたのだ。溜息が出る。
衆参両院とも、改憲4党(+保守派無所属)で発議に必要な議席は確保した。憲法改正発議の内容とタイミングは、彼らの手中にあることとなった。明日にも改憲発議があるという事態ではないが、憲法の命運に厳しい時代となったことを覚悟しなくてはならない。
この事態を決めた各党の実力と国民の政治意識とは、比例の得票数に端的に表れる。今回の各党の得票数は、ざっくりと整理して以下のとおり。これが現時点での各党の実力。議席の数ほどの差はない。
自民 2000万
民進 1200万
公明 750万
共産 600万
お維 500万
社民 150万
生活 100万
主要政党の得票数の推移は以下のとおりである。
自民の最近4回(07年・10年・13年・16年)の各得票数は次のとおり。
1700万→1400万→1800万→2000万
1986年選挙での自民票は2200万であり、95年選挙では1100万票である。自民票の浮沈は激しく、けっして安定してはいない。
民新(民主)の最近4回の票数は次のとおり。
2300万→1800万→700万→1200万
民進は、著しく実力を低下させた中で、今回は健闘したというべきではないか。
公明の最近4回の票数は次のとおり。
780万→760万→760万→760万
公明は04年選挙では862万票を取っていた。いまや、頭打ちの党勢といってよい。
共産の最近4回の票数は次のとおり。
440万→360万→520万→600万
共産は98年選挙では820万票を取った実績がある。このとき、自民1400万、民主1200万だった。その後の低迷期を抜け出つつあるというところだろう。
どの党も、獲得票数の増減は結構激しい。けっして、今回選挙が固定した勢力図ではない。次の選挙結果は予測しがたいのだ。
そう言って自らを励ますしかないというのが、全国的な選挙結果なのだが、例外もある。今回選挙でもっとも注目し、教訓を汲むべきは、沖縄を別にすれば、東北6県の選挙区選挙。いずれも1人区として4野党統一候補を擁立し、選挙共闘の成果は6議席中5議席の獲得となった。これに加えて、新潟・長野・山梨も野党が勝利している。
アベノミクスはこの地に繁栄も希望ももたらしていない。むしろ窮乏と中央との格差、農林水産業の衰退、先行きの不安をもたらした。政権のTPP推進は明確な自民の裏切りと映っている。震災・津波からの復興問題も原発再稼働も、すべてアベ政権不信の材料となっている。
東北のブロック紙、河北新報が、「<参院選>東北 自民圧勝に異議」として、次のように解説している。この解説記事がよくできていて、身に沁みて分かる。
【解説】第3次安倍政権発足後、初の大型国政選挙となった第24回参院選は、東北6選挙区(改選数各1)で野党統一候補が自民党候補を圧倒した。全国で与党圧勝の流れが形成される中、東北の有権者は「1強」に異議を申し立てた。
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興が道半ばの岩手、宮城、福島で与党が敗れたことは政権にとって打撃だ。政府が「復興加速」を説きながら、地域再生が進まない現実との乖離に、被災者は冷ややかな視線を向けた。
6選挙区で共闘した野党は、福島で現職閣僚を破ったほか、山形や岩手で終始リード。宮城で現職同士の争いを制し、青森では新人が現職を追い落とした。
野党は経済政策「アベノミクス」を徹底批判した。東北は少子高齢化の急加速で個人消費が停滞、景気回復の循環に力強さを欠く。先行き不安を巧みに突く戦術は東北の有権者に有効だった。
環太平洋連携協定(TPP)への攻撃も一定の効果を生んだ。日本の食料基地である東北には、TPPへの反発が根強く残る。野党は保守の岩盤とされた農村部に漂う不満の受け皿にもなった。
全国に先駆けて宮城で共闘を構築するなど、野党のスクラムは強固だった。安全保障関連法の廃止を求める学生、市民団体との連動も相乗効果を生んだ。
自民は秋田で独走したが、5県は厳しい戦いを強いられた。党本部は安倍晋三首相ら幹部級を東北に続々投入する総力戦を展開。各業界の締め付けを徹底したが、加速した野党共闘の前に屈した。
公示後、与党はネガティブキャンペーンを全開させた。旧民主党政権時代の失政をあげつらい、共産党への反感をあおる発言に終始。憲法論争も避けた。政策競争を軽視した「1強政治」のおごりを見透かされた面は否めない。…」
奥羽越列藩同盟の再現であろうか。秋田を除いて、その余の東北5県と甲信越は野党の勝利となった。選挙結果に絶望することなく、東北の闘い方に学びたいものとと思う。
(2016年7月11日)