「共謀罪」は、なんとしても廃案に。
本日(4月6日)、共謀罪法案の審議入り。衆院本会議に上程されて、法案審議が始まった。もっとも、「共謀罪法」という法律があるわけではない。組織的犯罪処罰法という既にある法律の改正という形で、包括的に犯罪実行行為の着手がなくとも、共謀段階で処罰出来るようにしようというもの。
犯罪実行行為は、それぞれが犯罪としての固有の定型性を持っている。誰が見ても、「悪い」「危険な」行為。「人を殺す」「人の身体を傷害する」「他人の財物を窃取する」という実行行為に着手の有無は、それぞれ比較的明瞭だ。だから、捜査権の発動というかたちでの権力の発動は、恣意的には出来ない。ところが、「そんな悠長なことを言っていては社会の安全は保てない」「もっと早い段階で犯罪を未然に防がなくては安心できないだろう」と、犯罪の実行着手以前の「共謀」段階で処罰しようとするのが「共謀罪」。これが、権力にとっては、批判勢力を取り締まるのに便利この上ない。
しかし、権力にとっての利便は、国民にとっての危険となる。何しろ、犯罪の実行行為はまだ行われていない段階での取り締まり、それも一網打尽なのだから、国民にとってはいつなんどきなにを理由に逮捕されるか分からない。とりわけ、立憲主義も、民主主義も、人権思想も理解してないアベ政権。こんな危険なものを作らせてはならない。今国会最大の対決法案、廃案にする以外にない。
その組織的犯罪処罰法の改正案(正確な名称は「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」)のキモは、同法に新たに「6条の2」を新設しようということ。これが「共謀罪」創設の根幹部分。民主主義にとっての天敵となりかねない条文。まずは、その「問題の6条の2」の条文そのものをじっくりとお読みいただきたい。但し、読みにくい。10分以上の読解努力は精神衛生上有害と思われる。なお、本当にこんな悪文が法案になっているのだろうかとお疑いの方は、原文を法務省ホームページにアクセスしてご確認いただきたい。
http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00142.html
第六条の二(新設)
「次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの 五年以下の懲役又は禁錮
二 別表第四に掲げる罪のうち、長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 二年以下の懲役又は禁錮
2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団に不正権益を得させ、又はテロリズム集団その他の組織的犯罪集団の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を二人以上で計画した者も、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、同項と同様とする。」
当ブログでは、以前にも「『共謀罪』とは、曖昧模糊な条文をもってなんでも処罰可能とすることを本質とする。」(2017年2月28日)と書いた。こんな条文を読んで、「よく分かった」という人の頭脳の構造はおかしい。読んで分からないように、書いているのだから。
https://article9.jp/wordpress/?s=%E6%82%AA%E6%96%87
ところで、刑法の条文は一般的に分かり易い。普通に読んで分からなければならないのだ。典型例は次のようなもの。
「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」(刑法199条)
これが条文の基本形。これならだれにでも分かる。主語(主題語)と述語が明瞭で文意明解である。何をしてはいけないかがはっきり分かることが大事で、そのことは刑罰権の発動というかたちでの権力行使の限界が明瞭ということでもある。これと比較して、「6条の2」の読みにくさ、わかりにくさが理解いただけよう。そのことは、とりもなおさず、刑罰権の発動というかたちでの権力行使の限界が不明瞭極まりないということでもある。権力にとって、使い勝手がよいということなのだ。
その分かりにくい条文を、できるだけ意味が通じるように、日本語としての文章を整えてみたい。主語と述語という、おなじみの文の構造に当て嵌めて条文を見直すと、
6条の2・第1号関係の条文の主語は、
「別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役・禁錮の刑が定められているものについて、組織的犯罪集団の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者(は)」
である。
述語は、
「その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、五年以下の懲役又は禁錮に処する。」
文の構造がおぼろげながら分かっても、条文を理解したことにはならない。国民には、何が禁止されているのか、国家権力が介入できるか否か、自分に逮捕の恐れがあるのか否かが分からなければならないのだ。
具体例を挙げてみよう。刑法204条は、傷害罪を次のとおり定める。
「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
傷害罪は、組織的犯罪処罰法改正案の別表四に掲げられている277の罪名の一つ。したがって、今は「人の身体を傷害する」行為に着手ない限り、つまりは刃物を振り回すとか、人に殴りかかるとかする実行行為に着手のない限り、処罰対象とはならない。ところが、この法案が成立すると、傷害の実行行為なくても、一定の場合には「傷害の共謀あったとして」逮捕され、起訴され有罪になって「五年以下の懲役又は禁錮」に処せられることになる。
その要件とは、まずは、主語中の「組織的犯罪集団の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画」することである。共謀を「二人以上で計画」と言っている。何を計画すると処罰対象となるか。「組織的犯罪集団の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を」という。これは、分かりにくい。分かりにくいだけでなく、厳格な歯止めとはならない。
さらに、述語のなかにも要件が定められているとされる。さすがに、「共謀」や「計画」だけでの処罰規定には世論の反発が強かろうとの忖度がつくり出した要件である。
「その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは」というのだ。
つまり、共謀や計画だけでは、処罰できない。共謀や計画をした犯罪を実行するための「準備行為」のあることが必要だというのだ。その準備行為とは何か。「その計画に基づく『資金又は物品の手配』、『関係場所の下見』『その他』」と例示されている。これは、日常にありふれた普通の生活上の行為が刑罰権行使の対象となることを意味する。
「別表第四に掲げる罪」は、数えるのもたいへんだが91法律の277罪だという。従来案では676に上ったが、今回法案ではここまで絞ったと手柄顔をする向きもあるが、これを現代版「五十歩百歩」という。刑法の人権保障機能を崩していることが、大問題なのだ。
今国会に延長はない。6月18日の会期末まで。2か月半の反対運動の盛り上がりでこの法案を廃案に追い込みたい。幸い、4野党の足並みは、よく揃っている。勝機は十分にあるように思う。
(2017年4月6日)