「日本国憲法施行70年に際し、安倍首相の改憲発言と戦争法の発動を断固糾弾する」ー日民協声明
日本国憲法が施行されて70周年の2017年5月3日に相前後して、安倍晋三政権による憲法破壊の暴挙が相次いだ。
安倍首相は、5月1日に開催された「新憲法制定議員同盟」の集まりで、「改憲の機は熟してきた。必ずや歴史的一歩を踏み出す」と挨拶したのに続いて、5月3日に開催された改憲派の集会にビデオ・メッセージを寄せて、「憲法9条に自衛隊の存在を明記した条文を追加して、2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と述べた。また、日本維新の会が主張する憲法改正による教育無償化に関して、「高等教育についてもすべての国民に真に開かれたものとしなければならない」と述べ、実現に意欲を表明した。
同首相は、これを「内閣総理大臣としてではなく、自民党総裁としての意見表明だ」としているが、そのような手前勝手な「使い分け」はおよそ通用しない。憲法99条によって憲法尊重擁護義務を負い、かつ73条1号により「法律の誠実な執行」の事務を担って、66条3項によって「行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う」内閣のトップとしての立場をわきまえない、憲法無視の態度に他ならない。日限を明確にし、かつ内容もきわめて具体的な改憲発言である以上、首相の権限逸脱のそしりも免れない。この問題を国会で追及されてまともに答えずに発した「読売新聞を読め」との言は、国会軽視と自らの職責の無自覚も甚だしい。
その発言内容に着目すれば、自衛隊の存在を明記する第3項の9条への追加、いわゆる「加憲」は、9条改憲の一形態に他ならず、現行憲法を「改正」する点においては、自民党の2012年改憲案と何ら異なるところはない。自衛隊の存在を合憲化する3項を加えれば、現在の9条1項と2項の意味は自ずと変わるのであり、より端的に言って、3項によって「上書き」された2項の「戦力不保持」の規定は死文化する。そして、合憲化される自衛隊は、2015年制定の安保法制(戦争法)によって集団的自衛権行使や他国軍への「後方支援」の権限を付与された自衛隊であって、「専守防衛の自衛隊の合憲化」では決してない。3項の追加を契機にして、いずれは軍法会議や緊急事態条項の提起にまで及ぶことは必至である。また、高等教育を含む教育の無償化の問題は、あえて憲法に書き込まなくても法律の制定や予算措置で実現可能なことであり、この問題の「憲法化」は、むしろ現在の日本における喫緊の教育課題であるはずのこの問題の「先送り」を意味する。
さらに、安倍政権は、GWのさなかに、北朝鮮とアメリカとの対立と緊張が激しさを増す情勢の下、安保法制によって新設された自衛隊法95条の2による「米艦防護」の「任務」を米側の要請を受けて自衛艦に付与し、自衛艦は米艦と太平洋上を並航した。ところが、安倍首相や菅義偉官房長官らは、今回の活動の内容について国会で質問されてもつまびらかにせず答弁を拒否している。もし、自衛艦の行動が米艦の軍事作戦に対応したものであれば、状況から判断して北朝鮮に対する「武力による威嚇」に他ならず、これらは国連憲章2条4と日本国憲法9条1項に違反する危険極まりない軍事行動である。
本協会は、4月19日、「軍事力で問題は解決しない!米朝対立による戦争の危機を回避せよ」を緊急声明として発表したが、その趣旨をここでも再確認したい。今回の「米艦防護」を口実にした自衛艦の行動は、安保法制とその発動が、「軍事秘密」のベールに包まれて国民と国会の監視を受けることなく行われること、その意味において安保法制は、憲法9条に違反すると同時にアジアの平和にとって役立つどころか戦争の引き金になりかねない危険極まりないものであることを如実に示した。
私たちは、以上のような安倍首相の改憲発言と安倍政権による違憲の戦争法の発動を断固糾弾するとともに、施行70年を迎えてますますその価値が高まりつつある日本国憲法を守り、アジアひいては世界の平和のためにこれを実現していくための努力を今後とも続けていくことをここに宣言する。
2017年5月11日
日本民主法律家協会
理事長 森 英樹
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以上が本日確定し発表した、日本民主法律家協会の安倍晋三改憲発言に関する抗議声明である。
論点はいくつもあるが、本声明の特色は、「自衛隊の存在を合憲化する3項を加えれば、現在の9条1項と2項の意味は自ずと変わる」ことの指摘にある。いうまでもなく、「自衛隊」は日本国憲法上の概念ではない。問題は、これを憲法に押し込むことがどのような意味を持ちうるか。単なる現状の追認にとどまるだろうか。
7・1閣議決定と戦争法によって、自衛隊とは集団的自衛権行使可能な実力組織となっている。つまり、海外で戦争遂行が可能な装備と編成を常備し、ことある折には個別的自衛権の行使を超えた実力の行使をなしうるとの解釈が可能なものとなっている。
安倍晋三が9条3項をおくことによって合憲化しようという自衛隊は、そのような「自衛隊」なのだ。けっして、「戦力にあたらない実力組織」などという無色のものではなく、戦争法によって黒く色塗りされた、戦うことのできる「自衛隊」にほかならない。その結果、「3項によって『上書き』された2項の『戦力不保持』の規定は死文化する。そして、合憲化される自衛隊は、2015年制定の安保法制(戦争法)によって集団的自衛権行使や他国軍への『後方支援』の権限を付与された自衛隊であって、『専守防衛の自衛隊の合憲化』では決してない」と説明されているとおりなのだ。
(2017年5月11日)