澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

久米宏の「東京オリンピック返上論」に拍手を送る。

ラジオが元気だ。とりわけ、TBS。森本毅郎、荻上チキ、そして久米宏。多彩なパーソナリティが魅力的だ。

「久米宏 ラジオなんですけど」は毎週土曜日午後1時からの放送。俄然注目されているのは、6月17日の「リスナー国民投票 東京オリンピック・パラリンピック、今からでも返上するべき?」というテーマでの放送があったから。

この「国民投票」は2度目だそうだ。あと3年に迫った「2020年東京オリンピック・パラリンピック」、「今からでも返上すべき」か、それとも「このまま開催すべき」か。投票結果を、番組のホームページは次のように伝えている。

常々「東京オリンピック」には反対を表明しているパーソナリティの番組…とはいえ、最終的に2000票を超える投票が集まる中、実に8割を超えるリスナーが「返上」への支持を表明するという結果となりました。また、年代が高くなるほど「返上」の割合が高まっていくという傾向も見えました。ご投票いただいたみなさん、ありがとうございます。

全体の投票結果は、以下のとおりだったという。

投票総数:2193票
東京オリ・パラ、今からでも返上するべき:83%
                  開催すべき:17%

もちろん、これが世論の分布と同一であるはずはない。リスナーも、投票者も、バイアスをもっている集団であることは間違いない。しかし、それにしても、この数字刮目すべきではないか。どこか大手紙が、母集団を都民全体とした調査をしてみてはどうだろうか。正確に、これだけ金がかかる、これだけの問題点があることを明示して。案外、返上派が多数になるかもしれない。

私の実感としては、東京オリンピックに市民の支持の熱意は希薄である。「施設の建設や運営にこんなに金がかかるのなら、無理にやるほどのことではない」というのが、平均的な感覚ではないだろうか。「石原都政以来、オリンピック誘致と関連計画は、利権がらみの胡散臭さがつきまとう。とうてい歓迎いたしかねる」という意見も、おそらくは過半の人のものだ。オリンピックはうるさい。混雑する。交通規制は迷惑だ。治安も心配。どうしてこんなものをわざわざ東京にもってきたのか。歓迎派は、儲けを当て込む輩と、暗示に弱い幼児だけだろう。

明らかに、ポピュリストたちが東京オリンピックを煽っている。とりわけ、安倍晋三と小池百合子。そして、多くの企業がこれに便乗して儲けようといる。操られ、むしられているのが、都民であり、国民ではないか。東京オリンピック反対は、市民の意識革命だ。久米宏の言に、精一杯のエールを送りたい。

以上が第1幕。その話題性に着目して、日刊ゲンダイが久米宏のインタビュー記事を掲載した。これが第2幕。7月31日のことだ。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/210304

この第2幕が滅法面白い。反権力の痛快さだけではなく、本質を衝いた議論になっている。こうなると、久米宏だけでなく、日刊ゲンダイの元気な姿勢にも拍手を送りたい。

長いインタビューで、論点は多岐にわたっているが、「酷暑のオリンピックは非常識」、そして「『今更やめられない』と言ってはならない」の2点が白眉。「安倍晋三の国際的な詐欺的演説で誘致した東京オリンピックだから歓迎はしかねるが、ここまで準備が進行したのだから、今更止めるわけにはいかないだろう」という多くの良識派に、久米の舌鋒が鋭い。そのような市民の消極姿勢が、現体制を利することになるという指摘だ。

久米宏独壇場のさわりをご紹介する。

――この季節、東京はうだるような暑さが続いています。
競技を行うには暑すぎます。台風も来るし。日本にとって最悪の季節に開催するのは、アメリカ3大ネットワークのごり押しをIOCが聞き入れているだけ。今からでもIOCに10月に変えてと懇願すべきです。

――アスリートファーストをうたいながら、選手には過酷な環境です。
 ウソばかりつきやがってって感じですよね。なぜ真夏開催でOKなのか。本当に聞きたいんです、組織委の森喜朗会長に。アンタは走らないからいいんだろ、バカなんじゃないのって。この季節の開催は非常識の極み。開催期間の前倒しは難しいけれど、3カ月ほどの後ろ倒しは、それほど無理な注文じゃないと思う。工事のスケジュールも楽になる。絶対に開会式は前回と同じ10月10日にすべき。それこそレガシーですよね。

――こうした不都合な真実を報じるメディアも少ない。朝日、読売、毎日、日経が東京五輪の公式スポンサー。いわば五輪応援団です。誘致の際の裏金疑惑などを追及できるのか疑問です。
 国際陸連の前会長の息子が、黒いカネを派手に使ったって、みんな気付いているんですけど。なんで追及しないのかねえ、あんな酷いスキャンダルを。

オリンピック憲章をプリントアウトしました。第1章6項1に〈選手間の競争であり、国家間の競争ではない〉、第5章57項には〈IOCとOCOG(オリンピック組織委員会)は国ごとの世界ランキングを作成してはならない〉とある。

 ところが、日本政府はもう東京五輪の目標メダル数を発表しているんです。ハッキリ言ってオリンピック憲章違反。国がメダルの数を競っちゃいけないのに、3年も前からJOCがメダルの数を言い出す。こういうバカさ加減が、子供の頃から変だと…。しかも、メダルの色や数で競技団体が受け取る助成金まで上下する。差別ですよ、完全に。

 五輪開催について都民の声を一切聞かない。巨額の税金を使うのに、都民に意見を聞かずに開催していいのか。非常に疑問です。今からでも賛否を問う住民投票を行う価値はあります。

――多くの人々は「ここまで来たら」というムードです。
 それと「今さら反対してもしようがない」ね。その世論が先の大戦を引き起こしたことを皆、忘れているんですよ。「もう反対するには遅すぎる」という考え方は非常に危険です。日本人のその発想が、どれだけ道を誤らせてきたか。シャープや東芝も「今さら反対しても」のムードが社内に蔓延していたからだと思う。

五輪を返上すると、違約金が1000億円くらいかかるらしいけど、僕は安いと思う。それで許してくれるのなら、非常に有効なお金の使い道です。

――五輪反対を公言する数少ないメディア人として、向こう3年、反対を言い続けますか。
 何で誰も反対と言わないのか不思議なんですよ。そんなに皆、賛成なのかと。僕は開会式が終わっても反対と言うつもりですから。今からでも遅くないって。最後の1人になっても反対します。でもね、大新聞もオリンピックの味方、大広告代理店もあちら側、僕はいつ粛清されても不思議ではありません。

そのあと、第3幕が開いた。
この久米宏発言に、東京五輪の組織委員会が噛みついたのだ。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会から久米宛に「反論」書が届いたというのだ。これを久米が、8月12日(土)午後の番組で朗読した。
「第32回オリンピック競技大会においては招致の段階で、開催時期は2020年7月15日から8月31日の期間から選択するものと定められていました。この期間外の開催日程を提案した招致都市は、IOC理事会で正式に候補都市としてすら、認められていませんでした」

これに対して久米は、こう言った。
「いかにバカかわかるでしょう。日本にオリンピックを招致した人たちは、夏の開催だということを承知して引き受けたんです。つまり、東京オリンピックに世界中から集まるアスリートたちのコンディションを考えてるんじゃない。オリンピックを招致することがいかに大切かを考えたんです。アスリートファーストなんていうのはウソ八百なんです」

さらに、「期間をIOCが決めてて、それ以外の開催時期が選べなかったんだから、しょうがないじゃないかとすべての責任をIOCに押し付けているんです」とも。
そして、名セリフ。「彼らはスポーツマンを愛しているわけではない。オリンピックだけを愛している」。

また久米は、最後に「組織委員会の広報の方は、今日の放送をどうお聴きになったか、またご感想があったら送ってください。またご紹介したいと思います。よろしくお願いします」と締めくくっている。

そんな次第で、本日(8月19日)の放送を楽しみに聞いたのだが、「組織委員会からの再度の感想」は送られてこなかったようだ。久米がこの問題に触れることはなかった。

やや、ものたりないと思いつつ、毎日新聞の夕刊を開くと、ベルリン五輪の写真発掘の記事。言うまでもない、「ヒトラーの五輪」だ。そのなかに、走り幅跳びで田島直人が3位となった表彰旗掲揚の写真があった。真ん中に「星条旗」。これはオーエンス優勝の表彰であろう。その両脇に、2位と3位の旗。これが、みごとに「ハーケンクロイツ」と「日の丸」なのだ。

いま、「ハーケンクロイツ」は公の場から姿を消したが、運命をともにすべき「日の丸」は生きながらえている。やっぱりオリンピックは、いやなもんだ。国威発揚の舞台であり、ナショナリズム涵養の場なのだ。ナショナリズムこそが、世界の国際協調の敵対物ではないか。表彰式での国歌や国旗なんてすっぱりやめて、ナショナリズムと縁を切ったオリンピックなら、そして金のかからない税金を使うことのないオリンピックなら、さらに東京に混雑や治安の懸念をもたらさないオリンピックなら、私も声援を送ってもよいのだが。
(2017年8月19日)

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