安倍晋三よ、夢想や願望を事実として語ってはならない
人には信頼が大切だ。同じ発言が、信頼の有無で受けとられ方に雲泥の差となる。信頼ある人の発言なら、「舌足らずな表現だが、真意はこうだろう」と善意をもって理解してもらえる。信頼なければ、隠れた悪意を穿鑿されて、痛くもない腹を探られることになる。
安倍晋三という人物。以前から極右の警戒すべき人物だとは思っていたが、嘘つきだとは思っていなかった。IOC総会での、「(福島原発事故の)状況はコントロールされている」「汚染水は完全にブロックされている」発言で、彼には、「平気で嘘をつく人」という烙印が押された。彼は「国民からの信頼」だけでなく、「世界からの信頼」を失ったのだ。誰もが、彼の言には眉に唾を付けて聞かねばならない。これは、6年前のみっともない政権投げ出しに続く、「二つ目の政治家としての致命傷」だ。
東京電力の山下和彦フェローが9月13日の民主党会合で、福島第1原発の汚染水漏れ問題について「今の状態はコントロールできているとは思わない」と、安倍批判となる認識を示したのは当然のこと。猪瀬都知事も同じ発言をしたが、さすがに「コントロールすることを世界に約束したのだ」と弁護した。
さらに、9月19日現地を視察した安倍首相が、状況を説明する東電幹部に、「0・3(平方キロ)は(どこか)」と尋ねていたことが話題となった。
彼は、東京五輪招致を決めた国際オリンピック委員会(IOC)総会で「汚染水の影響は港湾内0・3平方キロの範囲内で完全にブロックされている」と大見得を切った。しかし、実は、自分の言う「0・3平方キロの範囲」が、現地のどこを指しているのかよく分かってはいなかったのだ。東電も、おそらく安倍に誤解があるだろうと思っていた。
この間のやり取りは、共同通信の配信記事が詳細である。
「安倍首相は第1原発1、2号機東側の護岸を視察し、東電の小野明所長から放射性物質の海への流出や海中での拡散を防ぐ対策の説明を受けた。首相はこの際に『0・3は?』と質問。小野所長は港湾出口に灯台があることを示しながら広さを説明した。
1?4号機東側の護岸では、地下を通じて海に流れ込む放射性物質が拡散しないように『シルトフェンス』という水中カーテンを設置している。水の流れを完全に遮断できるわけではなく、政府、東電とも放射性物質が港湾外に出ている可能性を否定していない。
東電はこれまで、首相が『ブロックの範囲』をシルトフェンス内と誤解している可能性もあるとみて、首相発言への言及を極力避けてきた。今回の現地視察でようやく理解を得られた格好だ」
なお、東電の説明に対する安倍のコメントが、次のようなものであったという報道は‥一切ない。
「ああ、そうだったのか。ようやく少しわかったよ。教えられたとおり口にした0・3平方キロの範囲も知らなかったし、シルトフェンスで汚染水の拡散は完全にブロックされると思い込んでいたんだ。だけど、IOC総会では突っ込まれなくてよかった。よく知らないことも自信ありげに言ってみるもんだね。本当のことを知っていたらとてもあんな発言できなかったけどね」
その安倍晋三が、9月27日国連総会で演説するという。
「尖閣諸島や慰安婦問題、さらには集団的自衛権行使などをめぐって、国際社会に『右傾化政権』などとの偏見が生じていることを踏まえ、女性や人権問題を重視する『安倍外交』をアピールし、偏見を解くのに努める考えだ」と報じられている。
彼は出発に先立ち、羽田空港で記者団に、こう意気込みを語ったそうだ。
「国連総会の演説を通じて、国際社会における日本の存在感をしっかりアピールしていきたい。特に、シリア問題への貢献、21世紀の女性の役割の重要性に焦点を当て、日本政府の女性重視の姿勢を世界に向けて発信したい」
首相に信頼感あれば、「なるほど、さすがにもっともなことを言う」との感想になるのかも知れない。しかし、彼にそのような信頼感は望むべくもない。
私の感想は以下のとおりである。
「やはり、国際社会において日本の存在感がないことをよく自覚しているんだ」「シリア問題では、世界の世論に影響を与えるような何の発言もしてこなかったからな」「20世紀の女性の問題については語れないから、21世紀の女性の役割について語るんだな」「河野談話の再確認・再評価などしてみせる気はなさそうだ」「なによりも、また世界に嘘を喋るなよ」「少なくとも、現実と願望とを混同した発言はおよしなさい」「夢想や願望を、あたかも事実であるごとくに語ってはいけないね」
そして、ニューヨークで福島第1原発の汚染水問題を聞かれたら、嘘の上塗りをしてはならない。恥の上塗りになるからだ。正直こそ信頼回復の第一歩。「ほんとはボク、なんにも知らないんだ。説明はしてもらうんだけど、よく呑みこめない」とお言いなさい。そうすれば、信頼感の回復に繋がる望みが、少しは開かれるかもしれない。
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急に「秋」
新聞に「木の葉食べつくすアメリカヒロシトリ」という記事が載っていた。猛暑で大発生しているらしい。それで思い当たった。窓の外で朝から晩まで「ポリポリカリカリ」という音がして、雨も降らないのにおかしいなと思っていた。やっぱり、椿の梢が丸坊主。下から見ると青空がよく見える。
こちらはアメリカヒロシトリではなくて、チャドクガ。毛虫のトゲが有毒で、刺さると痛がゆくて、ひどければ病院に行かなければならない。ありがたいことに、今までそんな目にあわずにすんできた。年に2回ほどはやける。6月にはやけた時は早く気がついて、幼虫が小さいうちに、高枝バサミで切り取って始末をした。しかし、とても全部捕り切れるものではない。悪運強く生き残った奴が、秋になって、2代目の生を謳歌している。こんなに急に気温が下がれば、放っておいてもすぐに蛹になってしまうのだと、毛虫退治はさぼることにする。本当は高枝バサミが重くて、肩はこるわ、首は回らなくなるわ、腰は痛くなるわで、年2回の戦いは出来ないというのが本音だ。
気力の衰えを見透かしているのはチャドクガだけではなさそう。ホトトギスが茎だけの丸坊主になっている。例年は秋から冬にかけて長い間楽しませてくれる、渋い花が今年は見られない。ホトトギスはルリタテハの食草だけれど、この辺りでは見たことがないので、犯人は嫌われ者の夜盗虫(ヨトウムシ)に違いない。名前どおり夜現れて食害し、昼間は地下に潜り込んでしまうので、これを退治するにはそうとうな根気と元気が必要だ。にっくき奴だが、夜盗虫も許してやるしかない。
そう思って窓の外を見ていたら、暑い間どこかへ避暑に行っていたシジュウカラが帰って来ていた。ムクゲの細い枝に器用につかまって、海苔巻きのように丸まった葉っぱをつついて、ハマキムシをくわえだして食べている。ありがたい害虫退治の援軍来たるである。
昼間からコオロギやカネタタキが賑やかに鳴いている。そのうちどこからともなく、キンモクセイの香りがしてきたら本物の秋である。
(2013年9月24日)