そこかしこ同じ穴のムジナがうようよ ー 石原慎太郎の毀誉褒貶
(2022年2月9日)
石原慎太郎の死去が2月1日だった。「棺を蓋いて事定まった」はずなのだが、この人の場合、生前にもまして毀誉褒貶のブレが大きい。石原の同類や同類へのへつらいが、こんな人物を褒めたり、懐かしがったり、持ち上げたりしている。この際、石原の死に際して、誰がなんと言ったかをよく覚えておこう。 「自分は石原なんぞとの同類ではない」と声をあげている人が清々しい。たとえば、本日の東京新聞「本音のコラム」欄、斎藤美奈子の「無責任な追悼」という一文。抜粋しての引用。爽やかに辛辣である。
「石原慎太郎氏は暴言の多い人だった。『文明がもたらしたもっとも有害なものはババア』『三国人、外国人が凶悪な犯罪を繰り返している』。暴言の多くは、女性、外国人、障害者、性的マイノリティなどに対する差別発言だったが、彼は役職を追われることも、メディアから干されることもなかった。そんな「特別扱い」が彼を増長させたのではなかったか。
…作家としての石原慎太郎の姿勢にも私は疑問を持っている。朝日新聞の文芸時評を担当していた2010年2月。「文学界」3月号掲載の『再生』には下敷(福島智『盲ろう者として生きて』)。当時は書籍化前の論文)があると知り、両者を子細に読み比べてみたのである。
と、挿話が同じなのはともかく表現まで酷似している。三人称のノンフィクションを一人称に書き直すのは彼の得意技らしく、田中角栄の評伝小説『天才』も同様の手法で書かれている。これもまた『御大・石原慎太郎だから』許された手法だったのではないか。
各紙の追悼文は彼の差別発言を「石原節」と称して容認した。二日の本紙(東京新聞)「筆洗」は『その人はやはりまぶしい太陽だった』と書いた。こうして彼は許されていく。負の歴史と向き合わず、自らの責任も問わない報道って何?(文芸評論家)」
浮かび上がる石原像は、基本的に汚い。そして、弱い者イジメを売り物にした唾棄すべき男。
もう一つ、紹介しておきたい。本日配送された週刊金曜日に、斎藤貴男の「弔辞」が掲載されている。「ヘイトやフェイクの時代の先駆者、石原慎太郎氏への弔辞」というタイトル。その記事の中に、こんなことが書かれている。私は、初めて知って仰天した。
「石原氏は16年東京五輪の招致活動で、IOC(国際オリンピック委員会)のロゲ会長(当時)に手紙を書いている。〈忌まわしい戦争〉から解放された少年時代に、〈民族を違えても人間は人間としてある〉と痛感したとする回顧から書き起こされ、わが祖国はその戦争への反省から〈戦争放棄を謳った憲法を採択し〉て今日に至った、日本で〈民族の融和、国家の協調を担う大きなよすがとなるオリンピックを行うことは、世界の平和に大きな貢献ができるものと信じます〉と結ばれていた。
大嘘だった。近頃の若者がダメな理由はと問われた彼が「60年間戦争がなかったから」「『勝つ高揚感』を一番感じるのは、スポーツなどではなく戦争だ」と断じたのは五輪招致を言い出す半年前(『週刊ポスト』05年1月14・21 日号)。招致失敗後も何も変わらなかった。」
斎藤貴男による石原評は、さすがに鋭く的確である。「石原氏は安全圏から標的を見下し、せせら笑って悦に入る。思えばヘイトやフェイクが猖獗を極める時代の、彼は先駆者だった。」「権力者にとって便利な人だった。躊躇のない差別は、新自由主義や、もちろん戦争の大前提であり、“理想”でもあるからだ。都政を私するコソ泥三昧が許された所以か。」「慎太郎的なるものの定着などあってはならない。合掌。」
一方、こちらは、石原慎太郎と同じ穴のムジナか、ムジナへの迎合者たちの弁である。NHK・Webnewsに掲載された、「石原氏の死去を受けて、各界から悼む声が上がっています」という、延々たる記事の見出しを並べてみただけのもの。
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