澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

宇都宮健児君、立候補はおやめなさいーその29

都知事選告示まであと5日。立候補予定者の行動が賑やかに伝えられている。世間の関心は、有力な脱原発公約候補として登場した細川護煕氏の動向。本日の毎日によれば、同候補陣営は「選挙公約の柱を『即時原発ゼロ』とする方針を固めた」という。これは、宇都宮陣営よりも遙かに旗幟を鮮明にした脱原発の姿勢。宇都宮陣営は、いまだにホームページに「脱原発法をつくろう」とロゴを入れている。周知のとおり、同法案は脱原発実現目標を「遅くとも平成32(2020)年度から平成37(2025)年度までのできる限り早い時期」として、共産党に批判されているもの。この細川氏出馬に、宇都宮陣営の支持者から「脱原発票の分散を防ぐために、脱原発候補者の一本化を」との意見が公然化している。

「脱原発候補一本化」とは宇都宮君に候補者を降りろということ以外にはない。
「安倍とその不愉快な仲間達をこれ以上のさばらせるくらいなら、自民推薦以外の勝てそうな候補がいい」「脱原発・非核化政策実現の大きなチャンスを逃してはならない」などの意見が目につく。結局のところ、「小異を捨てて大同に就くべき」「一本化に応じないのは自公勢力への利敵行為」「大所高所に立って事態を見ろ」という意見が身内から出ているわけだ。

伝えられているところでは、これに対する宇都宮君の対応に、断固たるところがない。「当面、一本化はあり得ない」「今のところ、候補者調整はない」と言っている。「当面」以後であれば、「先のこと」としてなら、宇都宮君の立候補断念は大いにありうるストーリーとも読める。

私は、宇都宮君に「立候補をおやめなさい」と勧告する理由として「4本の柱」を立てた。その中の1本が、「到底選挙に勝てそうにない」こと。「選挙に勝てない」レベルではなく、「勝負にならない」と思っている。前回選挙での「惨敗」の烙印が深く刻まれているからだ。候補者としての論争力を欠き、有権者を惹きつける魅力に乏しい。選挙戦を通じて、革新の世論を盛り上げうる人材ではない。

勝てないながらも闘うべき場合があることは当然だ。しかし、当選を目指しての選挙戦だ。勝てないことが分かりきっている候補を担いでは、元気が出ない。どうせ担ぐなら、もっと元気の出る選挙のできる候補者、そして将来の展望につながる候補者とすべきだったのだ。

一つの椅子を争う首長選である。小選挙区と同じく、本命と対抗の2候補だけに票が集中することが避けられない。宇都宮君は、前回次点で97万票弱。トップの434万票との票差がこれほど開いた都知事選はかつてなかった。しかも、次点であるからには、相当の反猪瀬・反石原票が入っていたはず。それでなおこの惨敗。

現在の状勢をみれば、舛添・細川の両氏が、本命・対抗の2候補であることは明らかだ。舛添氏は、自らの介護の経験を売りにし社会福祉・労働政策をそれなりに具体的に語りうる候補として手強い。そして、細川氏は脱原発を華麗な文明論で語るだろう。結果として、3位以下は霞むことにならざるを得ない。

前回票97万を、宇都宮君の基礎票と仮定しよう。今回は、この基礎票から、かつての「未来」や小沢一郎氏グループの票が抜ける。菅直人氏関係票が抜ける。脱原発シングルイシュー派の多くが脱落する。前回は「共闘」した山本太郎も沈黙し、その支持票も期待できない。社民党の支持の姿勢も迷走している。要するに、圧倒的に引き算しかできない。いったい残ると見込める固い票はどれだけあるだろうか。唯一、足し算の要素は共産党の本気度だ。前回とは様変わりの遊説計画が展開していることは、赤旗の紙面からは読み取れる。前回選挙の出口調査では、共産支持者の60%余しか宇都宮君に投票していない。この比率は上がることになるだろう。

前回都知事選で宇都宮君を支持した多くの文化人・著名人が今回は鳴りをひそめている。むしろ、細川氏支持を表明しさえしている。たとえば、「九条の会」の呼びかけ人は5人。そのうち梅原猛氏は熱烈に細川支持を表明している。「私はもう年ですが魂は選挙カーの上にあります」(毎日・1月17日夕刊)という気合いの入れ方。澤地久枝氏もいち早く細川支持を打ち出した。大江健三郎・奥平康弘の両氏は、前回事実上の宇都宮推薦母体となった40氏アピールに名を連ねていたが、今回は黙して語らない。これが、文化人・著名人の動向の大勢と言えよう。

なお、脱原発派文化人の象徴的な存在として40氏アピールの一人でもあった鎌田慧氏が積極的に「一本化」に動いている。この動きに宇都宮陣営は「対話には応じる」(15日付「回答書」)としたが、細川氏側は「いかなる政党、団体とも提携せず、独自の知恵で脱原発を進めたい。立候補の調整は無理」と返答したという。

ところで、今日私が言いたいことは、「一本化」の中身についてである。「一本化」とは二人の候補者に分散する脱原発票を一人の候補者に集中させること。常識的に、誰もが宇都宮君の立候補断念と認識しているが、別の態様の「一本化」が考えられないわけではない。

まさかとは思うが、たとえばの話し。A・B両候補の「密約」による「一本化」。Bが立候補を断念して、Aに票を集中させる。Aは、当選した暁にBにそれなりの処遇を約束するのだ。たとえば脱原発問題担当の副知事ポストを。副知事では露骨に過ぎるということであれば、それなりの脱原発の課題を管轄する新設ポストでもよい。Bは、選挙に敗れて元も子もなくすよりは、現実的に自分の理念を政策化する立ち場を手に入れるメリットを享受する。

そんなことをネットで呟いている人がいるが、そのようなことがあれば、おそらくはA・Bともに政治的に大きな批判に曝されることになるだろう。それは当然として、実は公選法に違反するおそれが大きい。

公職選挙法223条は、「公職の候補者たること若しくは公職の候補者となろうとすることをやめさせる目的をもって」「候補者若しくは公職の候補者となろうとする者に対し」「公私の職務の供与、その供与の申し込み若しくは約束をすること」を禁止している。違反した場合は4年以下の懲役又は100万円以下の罰金。

候補者調整のためにポストの提供を口にした途端に「申し込み」罪が成立する。約束が成立すれば、両者がアウトだ。要するに、ポストを約束して降りてもらう態様の「一本化」は選択肢としてあり得ないということだ。

宇都宮副知事のポスト約束などということがあれば、前回選挙に続いて公選法違反を重ねることになる。あり得ない話しとは思うが、念のため、ご注意申し上げておきたい。

結局のところ。宇都宮君、きみの採りうる選択肢は、今無条件で潔く身を退くか、選挙に突っ込んで再度の大敗を喫するかだ。今無条件で潔く身を退けば、細川・小泉陣営を利することになる。これは「脱原発」ではあるが「靖国・構造改革」派勢力の応援になる。選挙に突っ込めば、脱原発候補の票を割って、自公陣営に漁夫の利を持たらしかねない。安倍自民をほくそ笑ましめることにもなる。私が期待したものは、相手が誰であろうとまったく動じることなく、味方を励まし次につながる闘いを組み立てる魅力溢れる革新共闘の候補者だった。君の早い段階での立候補表明が、他のふさわしい候補者選びを牽制してしまったことを残念に思う。

宇都宮君、きみには「悪魔の選択」しか残されていない。これはきみ自身が招いた自業自得の事態だ。きみが立候補を断念すれば細川・小泉を利する。立候補を断念しなければ安倍自民を利するのだ。

私は、選挙情勢とは無関係に、主張し続ける。宇都宮君、立候補をおやめなさい。
(2014年1月18日)

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Published in 土曜日, 1月 18th, 2014, at 11:22, and filed under 宇都宮君おやめなさい.

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