時効が完成した受信料の請求?NHKの「方針」は姑息ではないか。
安倍改造内閣で最も気になったのが高市早苗の総務大臣ポスト。安倍晋三の思惑からは「適材を適所に配した」のだろうが、民主主義の目線からは、渦中のNHKに最悪の人事。
案の定である。本日(9月6日)の東京・朝刊によれば、高市早苗総務相は、5日の報道各社とのインタビューで、海外向け放送を行っているNHKに対して「領土などの正しい情報や日本の素晴らしさをアピールするため、必要に応じて放送法に基づく放送要請をすることはあり得る」と表明したという。
下に「政府が右といえば、左ということはできない」というNHKありて、上に「日本の素晴らしさをアピールせよ」という大臣あり。まったくお似合いだ。権力への批判を真骨頂とするジャーナリズムの片鱗もない。もう、うんざり。
政権から見れば、NHKは国営放送であり、政権御用達放送機関なのだ。「こんなNHKには受信料を払いたくない」「正常化までは受信料支払いを凍結したい」と考える多くの人々がいて当然。NHKによると、2013年度末現在、1年以上の受信料未払い者は138万件、計1635億円におよぶという。
その人々にお伝えしておきたい。NHK受信料支払い請求権の時効は5年である。5年以上遡って支払う必要がない。その点の注意が肝要だ。
本日の各紙が、「受信料時効5年確定、NHKの上告棄却…最高裁初判断」という記事を載せている。比較的毎日が詳しい。
「NHK受信料の滞納分を何年前までさかのぼって徴収できるかの時効期間が争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷(鬼丸かおる裁判長)は5日、『時効は5年』とする初判断を示した。その上で『時効は10年で、10年前の滞納分まで請求できる』としたNHK側の上告を棄却した。『5年より前の滞納分は徴収できない』とNHK敗訴とした2審・東京高裁判決が確定した」
「NHKによると、受信料の時効を巡っては263件の訴訟が係争中だが、今後は最高裁判決に基づいて審理されるとみられる。1審が簡裁で争われるなどして高裁で確定した判決は95件あるが、全て時効は5年との判断が示されていた」「最高裁で争っている20件について、NHKは訴訟を取り下げる」
民法の解釈問題に立ち入る必要はない。一般原則の「10年」ではなくて、この場合は「5年」との解釈が確定したのだ。指摘したい問題はここから。
各紙が、「NHK広報局は『判決を真摯に受け止め、今回の判断を踏まえて対応する。引き続き公平負担の徹底に努める』とコメントした」(東京)と報じている。多くは、このコメントの紹介を結びとしている。さて、このコメントをどう読むか。
「判決を真摯に受け止め、今回の判断を踏まえて対応する」とは、「5年を超える過去に遡った受信料滞納分の請求はしない」のだろうと、普通の読者は思うだろう。ところがさに非ず。「引き続き公平負担の徹底に努める」とは、「この判決のあとも以前と変わることなく、遡って全額を請求します」という宣言なのだ。ちょっとひどいよ、NHKさん。
毎日の記事は、次のように続く。「最高裁判決を受けNHKは5日、受信料を滞納している視聴者から時効の主張があった場合、これまで『10年』さかのぼって請求するとしてきたのを、今後は『5年』とすることを明らかにした。」という。注意深く読まねばならない。今後は『5年』の請求とするのは、「視聴者から時効の主張があった場合」に限られるのだ。これまでだって、『10年』に限っていたのは、時効の主張があった場合についてだけのこと。今後も、「5年で時効が完成しているはずだ」という視聴者からの「時効の援用」がない限りは、あくまで「全額をいただこう」ということなのだ。
毎日記事の最後は、「長村中・営業局専任局長は『公平負担の徹底のため、引き続き未払いの全期間について請求する方針に変わりはない』としている」と結ばれている。
朝日はこうだ。「判決を受け、NHKは『引き続き、支払いが滞っているすべての期間について請求するが、契約者側から時効の主張があった場合には「5年で時効」として取り扱う』との方針を明らかにした」
毎日・朝日の報道が合致している。要するに、NHKは視聴者側から「時効援用がない限りは」、15年分でも、20年分でも、遡って滞納の全額を請求する方針ということなのだ。
法律上は、時効期間の経過によって客観的には時効が完成していても、債務者側からの時効の援用がなければ、裁判所は時効によって権利が消滅したという判決を言い渡すことができない。うっかりすると、時効利益の放棄とみなされることだってあり得る。
その意味では、NHKの「方針」が違法でも不当でもない。そのように一応は言いうる。とはいうものの、時効が完成して支払う必要がなくなったことを知った上で、それでも支払いをしようなどということは、普通は考えにくい。
昔お世話になって借りた金、その恩を忘れずに時効が完成していることを承知しながら、きちんと支払いたいということはあるだろう。しかし、NHK受信料債務を時効完成後もお支払いしたいなどという者があろうとは常識的に考えられない。
結局のところ、NHKの「方針」は、視聴者の無知や無理解あるいは迂闊に付け込もうというものではないか。姑息というほかはない。
意識的な受信料不払いの皆様、支払い凍結者の皆様。いざというときには、時効の援用が必要であることをお忘れなきよう、くれぐれもご用心。
(2014年9月6日)