澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

安倍政権の基盤は見かけほどには強くない

この度の選挙結果。まずは議席の配分に注目せざるを得ない。安倍自民党が単独で獲得した議席数が291(福岡1区当選者追加公認を含む)、極右の「次世代」が2、江田・橋下の維新が41。以上の積極的改憲派の議席総数は334となって、衆議院3分の2ライン(317議席)を大きく上回っている。これに自民と連立を組む公明の議席31を足せば365。改憲容認勢力の衆院議席占有率は77%にもなった。すくなとも衆議院に関する限り、96条改憲発議の要件は整った。すでに危険水域である。これがあと4年続くと考えると、憂鬱このうえない。

現に、選挙期間中は経済問題だけを争点に押し出し、「アベノミクス選挙だ」「この道しかない」と叫んでいた安倍晋三は、選挙が終わるや掌を返したように改憲・集団的自衛権・安保法制に言及をはじめた。
「安倍晋三首相(自民党総裁)は15日、衆院選を受け、自民党本部で記者会見した。自民、公明両党で憲法改正の発議に必要な3分の2(317議席)以上を確保したことを踏まえ、『最も重要なことは国民投票で過半数の支持を得なければならない。国民の理解と支持を深め、広げていくために、自民党総裁として努力したい』と述べ、憲法改正に重ねて意欲を示した。」「7月に閣議決定した集団的自衛権の行使容認を含む安全保障法制の整備について『しっかり公約にも明記し、街頭でも必要性を訴えた』と語り、有権者の理解を得られたとの認識を強調。『支持をいただいたわけだから、実行していくのは政権としての使命だ』と述べ、来年の通常国会で関連法案の成立を期す考えを強調した。」(毎日)と報道されている。「そりゃないだろう」と怒るべきか、あるいは「ああ、やっぱりね」と嘆じるべきだろうか。

とはいえ、選挙結果は議席数だけで評価すべきものではない。民意の所在を推し量るには、各政党が獲得した得票数の増減が重要である。そのような視点で選挙結果を眺めると、少し違った景色が見えてくる。

最近10年の民意の動きは、大雑把には、次のように言えると思う。
自民党政権の新自由主義的施策は経済格差と貧困を生みだし、それゆえの自民党の長期低落傾向が進行した。2005年総選挙は郵政選挙としてオールド保守の最後の輝きであって、格差や貧困の蔓延が社会の安定性を欠くまでにいたって人心はいったん自公政権を見限った。その結果が圧倒的な民意となって、前々回2009年夏の45回総選挙に結実し、「コンクリートから人へ」のスローガンを掲げた民主党を政権の座に押し上げた。ところが、政権の座についた民主党はその期待に応えることができなかった。期待が大きかっただけに民意の落胆と反動は大きく、前回2012年46回総選挙は民主党の惨敗となり、安倍自民の再登場を許した。しかし、このとき民主党から自民への票の回帰はない。前回12年46回総選挙以後今回14年選挙まで、安倍政権は選挙民を納得させるだけの何ごともなしえていない。それでも、今回、自民党は前回票を減らすことなく維持して、議席数微減にとどめた。

有権者の投票行動は、小泉劇場を舞台とした郵政選挙(2005年)で自民党に走り、一転してマニフェスト選挙(2009年)で民主党に向かい、前回の自爆解散による総選挙(2012年)で実は自民党には戻らず、第三極(維新とみんな)に吸収された。前回以降の第三極離合集散を経て、前回の第三極票がどうなったか。それが、今回選挙の最大の着目点であろう。

前回12年選挙の第三極得票数は、
  維新の会     1226万
  みんなの党     525万
  計         1751万票である。
これに、日本未来の党の342万を加えれば、2000万票を超す。自民を批判しつつ民主をも見限った人々の受け皿としての第三極に投じられた票数がざっと2000万だったのだ。

今回は、みんなの党はなくなって「第三極」の得票(比例)は下記のごとくとなった。合計1082万票。
  維新    838万票(前回「維新」と比較して400万減)
  次世代  141万票
  生活    103万票
結局、「第三極」の合計得票数は、2000万から1000万票に半減した。前回第三極に投票しながら今回はここから離れた1000万票の行く先は、(1)棄権と、(2)共産党であって、民主にも自民にも殆ど動いていない、と推察される。

自民は、前回比で比例票は100万増やしているが、小選挙区では20万ほど減らしている。前回並みに票を維持したと評してよい。
  比例票     前回1660万→今回1760万  100万増
  小選挙区票   前回2560万→今回2550万   10万減

民主党票の増減は以下のとおりである。
  比例票     前回960万→今回980万     20万増
小選挙区票  前回1360万→今回1190万  170万減

以上のとおり、自民も民主も、得票数は前回と大差ない。公明も、社民も同様である。ひとり共産党だけが、以下のとおり票を伸ばしている。
  比例票     前回369万→今回606万  237万増
小選挙区票   前回470万→今回704万  234万増

第三極が減らした1000万票は、前回比での棄権票増加分700万と、共産党の得票増加分の合計にほぼ見合う。議席配分はともかく、有権者の投票行動だけを見た場合には、自・公・民がそれぞれようやく現状を維持したなかで、共産党だけが一人勝ちだったと言ってよいと思う。

念のため、自民党の過去4回の比例得票数の推移を見てみよう。
2100万票(44回)→1900万票(45回)→1660万票(46回)→1770万票(47回)と、低落傾向にまだ歯止めはかかっていない。

公明の比例得票数の推移も同様である。
873万票(44回)→805万票(45回)→712万票(46回)→731万票(46回)

結局、自公政権は見かけほどに強くはないのだ。この点の見定めが肝要である。今、自公は小選挙区制の恩恵で政権を樹立し維持している。しかし、投票率の低下と共産党票の伸びは、政権の基盤が脆弱であることを物語っている。

そしてもう一つ、今回の選挙結果は、自公政権の補完物としての第三極の受け皿機能が半減して、共産党がそれに取って代わりつつあることを物語っている。

集団的自衛権も、特定秘密保護法も、憲法改正も、防衛・外交・沖縄新基地建設も、税制・雇用・社会保障の制度改悪も、原発再稼働もTPPも、そして教育再生も、自公政権の政策は、国民に真の利益をもたらすものではない。公然たる新自由主義政党である維新も同様。そのように多くの国民が自覚しつつある。

それにしても諸悪の根源は小選挙区制である。この点の制度改革は喫緊の課題となっいる。それと同時に、各小選挙区における改憲阻止勢力を糾合した選挙共闘の体制作りもである。そのような課題を意識しつつも、今回の選挙結果に表れた民意の動向の積極面に、近い将来の変化の可能性を見るべきであろう。
(2014年12月16日)

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Published in 火曜日, 12月 16th, 2014, at 23:32, and filed under 安倍政権, 選挙.

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