澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

憲法の暗殺を許すなー与党合意の立法を成立させてはならない

70年前に、未曾有の敗戦の惨禍から日本を再生させた国民は、平和を誓ってこの理念を憲法に刻み込んだ。今度は負けない強い軍事国家をつくろうとしたのではない。誰もが平和のうちに生きる権利のあることを確認し、戦争を放棄し戦力の不保持を宣言したのだ。国の方針の選択肢として戦争を除外する、非軍事国家として再出発した。そのことが、日本を平和愛好国家として権威ある存在としてきた。

それが、今大きく揺るぎかねない事態を迎えている。安倍内閣と、自公両党によってである。憲法に刻み込んだはずの誓いが、憲法改正の手続ないままにないがしろにされようとしている。

人に上下はないが、法形式には厳然たる上下の階層秩序がある。上位の法が下位の法を生み、その妥当性の根拠を提供するのだから、法の下克上は許されようはずもない。

法の階層秩序の最高位に憲法がある。憲法を根拠に、憲法が定める手続で、法律が生まれる。法律が憲法に反することはできない。このできないことをやってのけようというのが、「安全保障法制整備に関する与党合意」にほかならない。しかも、法律ですらない閣議決定を引用し、これに基づいて違憲の立法をしようというのだ。

憲法を改正するには、憲法自身が定める第96条の手続によらなければならない。内閣や国会が憲法の内容に不満でも、主権者が憲法を改正するまではこれに従わなければならない。むしろ、立憲主義は、憲法の内容をこころよしとしない為政者に対峙する局面でその存在意義が発揮されるというべきである。

改憲手続きを経ることなく、閣議決定で許容される範囲を超えて憲法解釈を変更することは、憲法に従わねばならない立場にある内閣が憲法をないがしろにする行為であって、言わば反逆の罪に当たる。憲法の範囲内で行使されるべき立法権が、敢えて違憲の立法をすることは、主権者の関与を抜きにした立法による改憲にほかならない。

解釈改憲や立法改憲が憲法の核心部分を破壊するものであるときは、違法に憲法に致命傷を与えるものとして、憲法の暗殺と言わねばならい。

閣議決定による集団的自衛権行使容認と、その違憲の閣議決定にもとづく安保法制の立法化のたくらみは、まさしく平和憲法の暗殺計画ではないか。立憲主義、平和主義、そして民主主義を擁護する立場からは、この憲法の暗殺を許してはならない。

昨日公表された与党合意、正確には「安全保障法制整備の具体的な方向性について」に関して、本日の各紙が問題の重要性に相応しく大きく取り上げている。報道、解説、社説がいずれも充実している。なかでも、東京新聞の全力投球ぶりが目を惹く。朝日も、さすがと思わせる。

朝日の社説は「安保法制の与党合意―際限なき拡大に反対する」という見出しで、「米軍の負担を自衛隊が肩代わりする際限のない拡大志向」に懸念を表明している。また、「抑止力の強化」の限界を指摘して、「抑止力への傾斜が過ぎれば反作用も出る。脅威自体を減らし紛争を回避する努力が先になされなければならない。」とも主張している。結論は、「戦後日本が培ってきた平和国家のブランドを失いかねない道に踏み込むことが、ほんとうに日本の平和を守ることになるのか。考え直すべきだ。」というもの。異論のあろうはずはない。

しかし、気になる一節がある。
「肝要なのは、憲法と日米安保条約を両立させながら、近隣諸国との安定した関係構築をはかることだ。」という。日米安保条約を「憲法と両立させるべきもの」と位置づけている点。かつて、好戦的なアメリカとの軍事同盟は、我が国を戦争に巻き込む恐れの強いものとして、「アンポ、ハンタイ」の声は津々浦々に満ちた。いま、安倍政権と自公両党がやってのけようという乱暴な企図に較べると日米安保などはおとなしいものということなのだ。

本日の東京新聞の見出しを拾えば、「戦争参加の懸念増す」「事実上の海外武力行使法」「国民不在の『密室安保』」「戦える国作り 加速」「海外派遣 どこへでも」「政府判断でいつでも」などというもの。東京新聞の姿勢が歴然である。

その東京新聞の社説の標題は、「『専守』変質を憂う」となっている。与党合意の内容が、これまでの政府の方針であった「専守防衛路線」から大きく逸脱するものと考えざるをえないと批判するトーンである。「『専守防衛』は、日本国民だけで310万人の犠牲を出した先の大戦の反省に基づく国際的な宣言であり、戦後日本の生き方そのものでもある」とまで言っている。

米の軍事力で我が国の安全を守ろうというコンセプトの日米安保条約も、自衛権の発動以上の戦力を持つことのない専守防衛の自衛隊も、かつては違憲とする有力な論陣があって、政府が専守防衛は違憲にあらずとする防戦に務めていた。ところがいま、安倍政権と自公の与党は、自衛隊を専守防衛のくびきから解放して、世界のどこででも戦うことができる軍事組織に衣替えしようというのだ。

今、自衛隊違憲論者と専守防衛合憲論者とは、力を合わせスクラムを組まねばならない。安倍政権と自公両党による、憲法暗殺計画を共通の敵とし、憲法を暗殺から救出するために。
(2015年3月21日)

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