あらためて言おう。納税者がファーストだ。
国も自治体も関与しないイベントがどのように行われても、違法でない限り、誰からも文句を付けられる筋合いはない。イベントに関わる者の完全な自由だ。だが、国や自治体の便益を受け、国費や自治体の費用が注ぎ込まれるとなれば話は変わってくる。主権者は、国や自治体の財政面に関わる問題として、ものを言わざるを得ない。ものを言うべき権利があるというだけでなく、ものをいうべき責務がある。看過し、躊躇し、沈黙することは、消極的な同意を意味する。大いにものを言わざるべからず。
財政面における主権者を「納税者」と表現して、「納税者基本権」を構想したのが、今は亡き北野弘久さん。私が事務局長の時代に、日民協の理事長だった方。
「納税者基本権」とは、徴税の対象としての狭い意味の納税者の、税金納付の局面での権利だけを意味するものではない。担税の仕組みや租税の使途(支出)についても、納税者一人ひとりが物申し違憲違法を是正すべきことを人権として把握する構想である。
国や自治体の財政支出は、民主主義的な原理で構成された行政が行う。この民主主義原理に、人権原理をもって対抗し補完しようとするもの。国民一人ひとりが、納税者として、国や自治体の違憲違法な財政を是正する権利を有するという。
この納税者基本権という思考の枠組みは、国民の防衛費の負担についても、政党助成金の国民負担についても、また消費税という逆累進の税制を考えるうえで有益だが、オリンピック・パラリンピックの国民の負担を考える際においても、是非とも有効に活用したい。
あらためて言う。「納税者ファースト」以外の考え方はあり得ない。アスリート自身が「アスリートファースト」を口にすることは、僭越も甚だしい。JOCもIOCもえらそうな口をきける立場にない。そして、政治家は常に「ラスト」でなければならない。
昨日のことだ。ラストであるべき政治家が、えらそうな口を利いている。
「東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長は14日、さいたま市内で講演し、競技会場見直しについて『アスリートファーストでまとめたものをきちっとやってきた。スポーツやオリンピック、今までの約束事をご存じのない方が来てガチャッと壊した』と小池百合子・東京都知事を批判した。」「『組織委員会は無責任な団体だとか、好きなことをおっしゃっている』と不満をぶちまけた。また、ボート・カヌー会場を巡る動きを『(小池氏が)何も勉強しないで、かわいそうに(宮城県の)村井嘉浩知事は踊らされちゃった』と皮肉った」(朝日)と報じられている。
また、アスリートの僭越ぶりも目に余る。
「東京五輪のバレーボール会場の見直し案をめぐり、日本バレーボール協会などは8日、記者会見を開き、従来の計画通り『有明アリーナ』(東京都)の新設を求めた。元五輪選手らとともに東京都の小池百合子知事あての嘆願書も提出した。」「都内であった会見には、元五輪選手ら16人が出席。」「『東京五輪では、女子も男子も、その体育館(『有明アリーナ』)で記憶に残るような死闘を繰り広げることをお約束したい』と述べた。」
「バレーボールをめぐっては既存の『横浜アリーナ』(横浜市)を活用する案も浮上している。」「東京都の調査チームが1日にまとめた報告書では、有明アリーナの新設にかかる整備費は、従来の404億円から370億円前後に削減できると試算。一方、横浜アリーナの活用案は、観客席の仮設による増設工事なども7億円で済むとし、コスト面でメリットがあるとされた。」(以上、朝日)という報道の中での、アスリート側の巻き返しである。なんとも、はや。
億の単位、さらには兆の単位の財政支出に納税者は鈍感になってはいないだろうか。健全な庶民感覚を取り戻さねばならない。そして、主権者として、納税者として厳格に、税金の使途に目を光らせ、大いにものを言おう。なんたって、「納税者ファースト」なのだから。
(2016年11月15日)