澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

「表現の不自由展・その後」の再開を求める署名活動のご報告

私も呼びかけ人の一人となった、「表現の不自由展・その後」の再開を求める緊急署名活動のご報告。

昨日(8月15日)、醍醐聰・浪本勝年・岩月浩二の3氏が、愛知県庁と名古屋市役所を訪ねて、署名簿を提出して申し入れを行った。正確には、名古屋市長には抗議のうえ「不当な発言の謝罪・撤回」を要請し、愛知県知事には中止した状態となっている企画展の再開を要請したことになる。提出した署名は、用紙署名が3509筆、ネット署名が3182筆の合計6691筆だった。8月6日から14日までの短期間でのもの。

愛知県庁で応接されたのは、文化芸術課・トリエンナーレ推進室主幹の朝日真氏。名古屋市役所では、文化振興室長上田剛氏だったとのこと。その後に県政記者クラブで記者会見し、その模様が数紙に掲載されている。

醍醐氏らは「テロや脅迫などに屈することなく、行政が毅然とした姿勢を示し、憲法が保障する『表現の自由』を守るため展示再開を求めた、と報道されている。

気になるのは、この要請に対して県担当者は「県への脅迫などの数は減ったが、今も続いている。再開へのハードルは来場者や職員、会場の安全の確保」と答えました、とされていること。

名古屋市の姿勢は論外だが、愛知県の姿勢にも問題があるのではないか。「断固として、違法な妨害行為から、表現の自由を守り抜く」という気概が感じられない。これでよいのだろうか。

繰り返すが、批判の言論は自由である。右翼にも産経にも、「表現の不自由展・その後」の表現内容や愛知県がこのような企画展を主催することについて、批判の言論を展開する自由は当然にある。しかし、批判を超えての害悪の告知は、脅迫罪を構成する犯罪であって、けっして許されることではない。害悪の告知や有形力の行使による企画展の妨害は、法定刑懲役3年の威力業務妨害罪に当たる。右翼メディアも、批判の言論を超えて、企画展の実力による妨害を煽動してはならない。

威力業務妨害罪の保護法益は、業務の安全かつ円滑な遂行とされる。業務の安全を脅かし円滑な遂行を困難ならしめれば犯罪として成立する。愛知県が主催しても、この企画展は非権力的行為として公務ではなく業務に当たる。犯罪成立の要件としての威力における有形力の程度は、公務執行妨害罪の成立に要求される暴行、脅迫よりも軽度のもので足りるとされる。電話・ファクス・メールあるいは口頭での害悪の告知があれば、遠慮なく警察に告訴をすべきである。現場での録音・撮影による証拠の保全に万全を期すべきでもある。愛知県は、県警と十分な連携のもと、違法な犯罪行為から、企画展を守り抜かなければならない。そのことが、日本国憲法の理念を護ることにつながる。

「不自由展」再開に向けては、「ニコン慰安婦写真展中止事件」の教訓を学ぶべきだろう。当事者は、今回の「表現の不自由展」出品者16名の一人となっている、安世鴻さんである。

2012年に、ニコンの運営する東京と大阪のニコンサロンで開催が予定されていた従軍慰安婦の写真展が、ニコン側からの突然の通告で中止となった。ニコンは「諸般の事情」としか言わなかったが、在特会をはじめとする右翼からの抗議や、ネット上でのニコン製品不買運動の呼びかけが原因と報道された。

安世鴻は東京地裁に仮処分を申し立て、予定のとおりに写真展示会場を使用させることを命じる決定を得た。ニコンは仮処分異議抗告と争ったがいずれも破れて、東京での写真展は実現した。その後の損害賠償請求本訴で、東京地裁は安世鴻勝訴の判決を言い渡した(2015年12月25日)。賠償金額は110万円だった。

問題は、外部からの抗議や申し入れが激しいことを理由に、ニコンが展示会を中止できるかにあった。当然のことながら、外部からの抗議や申し入れが激しいというだけで、中止が認められるわけはない。万全の防衛策を尽くしてなお、具体的な危険が予測される場合にはじめて、中止の可否が検討されるべきことになる。しかし、その場合には、刑事的な対応が可能となる事態と言うべきであろう。

法体系が、無法に屈して表現の自由侵害を看過するとは考えられない。ニコン写真展事件でも、判決は「ニコンの対応に正当な理由はない」とした。
(2019年8月16日)

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