澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

NHKは、自己に不都合な文書をこそ開示しなければならない。

(2020年6月8日)
本日(6月8日)、NHKの視聴者団体が連名で、NHKと経営委員会に、情報公開に関する要望書を提出した。「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」の審議結果を尊重して経営委員会の議事内容に関する文書を開示せよ、という内容である。

NHKは行政機関でも独立行政法人でもない。従って、情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)の適用対象とはならない。しかし、NHKは公共放送機関として国民の知る権利や民主主義のあり方に大きな影響力を持つ存在である。当然に、視聴者・国民に対する説明責任を自覚すべき立場にあって、「NHK情報公開基準」「NHK情報公開規程」という独自の情報公開制度をもっている。

その骨格は、以下のとおりである。

(1) NHKの保有する文書の開示請求を「開示の求め」と言い、視聴者からの「開示の求め」には原則としてこれに応じる。

(2) しかし、NHKの事業活動に支障を及ぼすおそれがあるなどの理由がある場合は、「不開示」とすることができる。

(3) 不開示者に不服があれば、「再検討の求め」ができる。

(4) 「再検討の求め」には、第三者機関「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」が客観的・中立的な立場から審議し、NHKはその意見を尊重して再検討する。

(5) NHKが最終判断する。

今回の要望は、「情報公開審議委員会」の立派な意見を尊重して、それに従った判断を求めるというもので、概ね下記のとおりである。

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2020年6月8日

NHK会長    前田 晃伸 様
NHK経営委員長 森下 俊三 様
NHK経営委員  各位

NHK情報公開・個人情報保護審議委員会の5.22答申(第797号、第798号)を「尊重」して直ちに本件答申対象文書を開示するよう求める要求書

共同提出団体名(24団体)

 NHKとメディアを考える滋賀連絡会/NHKとメディアを考える東海の会/NHK問題大阪連絡会/NHK・メディアを考える京都の会/NHK問題を考える奈良の会/NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ/「日本郵政と経営委首脳によるNHK攻撃の構図を考える11.5シンポジウム」実行委員会/NHKとメディアを語ろう・福島/NHKとメディアを考える会(兵庫)/表現の自由を市民の手に 全国ネットワーク/NHK問題を考える岡山の会/NHK問題を考える会・さいたま/政府から独立したNHKをめざす広島の会/放送を語る会/時を見つめる会/NHKをただす所沢市民の会/NHKとメディアの今を考える会/NHKを考える福岡の会/NHKを考えるふくい市民の会/言論の自由と知る権利を守る長崎市民の会/日本の政治を監視する上尾市民の会/マスコミを語る市民の会(宮城)/NHK問題とメディアを考える茨城の会/ジャーナリズムを考える市民連絡会とやま/

【事実経過】
視聴者が2019年9月26日、NHKに対して2つの文書

(1) 「2018年4月24日放送の『クローズアップ現代+』や日本郵政グループについて、NHK経営委員会で行われた議論の内容が分かる一切の資料」及び

(2) 「2018年度以降、NHK経営委員会が上田良一会長に対して行った厳重注意について、経営委員会で行れた議論の内容が分かる一切の資料」

の開示請求を行ったのに対し、NHKは「議論のための資料、および議事録(非公表部分)」については、「NHKの事業に関する情報であって、開示することによりNHKの事業活動に支障を及ぼす恐れがある」として開示できないとしました。

これに対し、視聴者が不開示とした部分について「再検討の求め」(NHK情報公開規程第17条)を提出しました。
この求めに対して、NHK情報公開・個人情報保護審議委員会(委員長=藤原靜雄・中央大学大学院教授)は2020年5月22日、「一部開示ではなく開示が妥当」との答申(第797号及び第798号、以下5.22答申という。)を提出しました。

NHK情報公開規程第21条は「審議委員会の意見の尊重」との見出しのもとに、次のように規定しています。
「NHKは、審議委員会の意見を尊重して、再検討の求めに対する開示・不開示の判断を行う。」
本件に即してこの条文を適用するならば、「NHKは、審議委員会の意見を尊重して、再検討の求めに対する開示の判断を行う。」ことになります。

仮に、この条文に規定されている情報公開制度の趣旨に反して、NHKが5.22答申と「真逆の判断」を行い、それをNHKの最終判断であるとするならば、5.22答申及び審議委員会設置の意味(存在理由)は失われてしまいます。

ちなみに「NHK倫理・行動憲章」(2004年制定)においても、その「行動指針」で「視聴者のみなさまの信頼を大切にします。」として「NHK情報公開基準にのっとり、事業全般にわたる情報をわかりやすく、積極的に公開します。」と視聴者に約束していることを、本件判断に当たって、経営委員会は再確認していただきたいところです。

【今回の5.22答申の画期的な内容】
今回の5.22答申は、NHKの不開示理由を退け、経営委員の説明責任や経営委員会の情報公開に関する責任について、視聴者の立場を考慮したうえで、次のように明快な説示を展開しています。

「視聴者や広く国民の福祉のためわが国の公共放送の適正な運営と発展にそれぞれが重い責任を負うものである。したがって当然のことながら、視聴者・国民に対し自らの経営委員としての言動については、広く説明責任を負っていると言わなければならない。特に、NHK会長に係るガバナンスの問題というような重要な運営上の問題について、各委員がどのような意見を持ち、どのような議論が行われ、どのような結論に達したの
かについては、より強く透明性が求められることは論をまたない。少なくとも、本件を、議事録非公表の場でなければ各経営委員が率直な意見が言えないような類の問題と位置づけるべきものではない。会長を対象とする『役員の職務の執行の監督』という極めて重要な権限行使に係る議事において、すべての委員がその重要性を踏まえて発言しているはずのものである。…過去に会長に対して、経営委員会が『注意』や『申し入れ』を行った場合、その議事録は公表されている。したがって、本件文書が公開されることによって今後の同種の審議、検討または協議が円滑に行われることを阻害するおそれがある、とするNHKの見解は肯定できない。」

「本件対象文書が関係する一連の事件については、 新聞報道、国会での審議を通じ広く視聴者・国民の強い関心を招くに至っており、NHKの公共性、透明性、経営委員会の議事の経過等に対して一部で疑念が呈され、視聴者に対する十分な説明責任を果たすことが求められている状況を勘案すると、むしろ議事録を速やかに開示することが、今後のNHK及び経営委員会の運営にとっても必要なことと言っても過言ではなかろう。NHK情報公開制度は、受信契約の強制を伴う受信料徴収が行われており、かつ、公共放送を担う機関であるというNHKの立場を踏まえて構築された独自のものである。本件文書の開示はその目的に適うものであろう。」

【私たち視聴者団体の要求】
以上のことから、私たち視聴者団体は、5.22答申がNHK情報公開制度の目的に適ったものとして開示すべき本件関連文書について、直ちに請求者への開示を行うとともに、その一般公開を一刻も早く求めるものです。
私たち視聴者団体が強く求めるのは、今回開示を求めた請求者に開示する議事録、配布資料は、これを経営委員会のHP上でも公開し、視聴者・国民誰もが閲覧できるようにすべきである、ということです。

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