澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

弁護士が被告になって-『DHCスラップ訴訟』を許さない・第4弾

20年ほど以前のことだが、「ドクター」というアメリカ映画が話題となった。その宣伝のキャッチフレーズが、「ある日、医者は患者になった。そして、医者は人間になった」というのもの。映画の中身よりは、この秀逸なキャッチフレーズに心を惹かれた。

私の場合は、「ある日、弁護士は被告になった。そして、弁護士は真に人の痛みが分かる人間になった」ように思う。

映画の主人公は外科医。ガンを宣告され、自らが患者の立場になることで、今まで医療者の立場から見てきた医療現場を患者の目で見直すことになる。患者になって初めて見えてくるもの、分かってくることがあるのだ。もしかしたら、患者にならねば、医療の本質が分からないのかも知れない。

私は、これまで多数の医療過誤事件に携わってきた。例外なく、患者側代理人としてである。医師が患者として医療過誤被害を主張する事件を何件か経験している。医師の家族の事件も相当数に上る。関係する医師は、「ある日、医者は医療過誤事件の原告となった。そして、医者はより良き医師となった」。そんな例を見ている。見てはいるが、自分のこととしての理解はなかった。

今回、はからずも、弁護士である私が被告となった。もちろん初めての経験。事前の打診も要請も警告もない。ある日突然訴状が届いて私は被告となった。それも、「2000万円を支払え」というもの。なんとも、不愉快極まる体験である。

しかし、思う。私は弁護士だからまだよい。闘う手段を心得ている。弁護士でない市民がこのような訴訟を提起されたら、どんなにか心細いことだろう。どのようにして対応すべきか、それこそ右往左往せざるを得ないことになる。信頼できる力量を持った弁護士にどうすれば接触できるだろうか。費用はどうなるだろうか。敗訴したらどうしよう‥。ようやく、訴訟の当事者となっている依頼者の気持ちを、自分に引きつけて理解できるようになったと思う。

自分が被告の身になって、スラップ訴訟というものの威嚇効果の大きさを実感する。あらためて、金の力で批判の言論を封じようという輩に怒りを禁じ得ない。

この間、いろんな人に『DHCスラップ訴訟』で名誉毀損と指摘された私の3本のブログを読んでいただいての感想を聞いた。多くは、「なぜこんなことが裁判になるのか理解できない」「こんな程度のことすらものを言えないとなったら、それこそたいへんな世の中になってしまう」というものだった。中でこんな感想も聞いた。

「弁護士のあなただからこそ、最前線でがんばってもらいたい」
そうなのだ。私は、弁護士として一歩も引けない立ち場にある。

私が弁護士という職業を選択したのは、自由業としての故だ。宮仕えは性に合わない。権力やカネのあるものに擦り寄る生き方はまっぴらだ。弁護士なら、プライドを保持した生き方ができるだろう。これまで、苦楽はあったものの、理念を貫いた職業生活を送ることができた。弁護士という自由な職業がこの世に存在したことをこの上なくありがたいと思っている。

しかし、弁護士の自由とは、弁護士のためにあるものではない。近代市民社会が必要として創り出したものだ。言わば、市民から与えられた自由、あるいは市民から預けられた自由なのだ。その自由の本来は市民社会の総体としての利益に奉仕すべきもので、儲かる方に就く自由、権力に擦り寄る自由ではない。

弁護士の自由とは、権力からの自由、金力からの自由である。市民の立場に立って、権力や金力と立ち向かうとき、それにへつらう必要のないことの保障としての自由なのだ。市民の利益の擁護を徹底すること、市民の自由を獲得し増進すること、金権による腐敗から民主的な社会を防衛すること、そのために働くためにこそ保障された弁護士の自由なのだ。

さあ今、私は自分の自由をそのような任務に行使すべき立場に立たされている。社会から与えられた自由に内在する責務として、金権と闘い、言論弾圧と闘うべき責務を負っている。私は、一歩も引いてはならないことを自覚しなければならない。

「ある日、弁護士は被告になった。そして、弁護士は一歩も引かない人間になった」
(2014年7月16日)
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