澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

DHCが提起したスラップ訴訟の数々ー「DHCスラップ訴訟」を許さない・第22弾

「DHCスラップ訴訟」第2回口頭弁論期日が近づいてきた。
9月17日(水)の午前10時半。東京地裁705号法廷。
表現の自由に関わる今日的なテーマの重要訴訟。可能な方には、是非傍聴をお願いしたい。

法廷での手続終了後の午前11時から、東京弁護士会(5階)の507号室で、弁護団会議兼報告集会が行われる。集会では、佳境に入ってきた訴訟進行の現段階ややせめぎ合いの内容について、弁護団からの報告がなされるだけでなく、現実にスラップを経験した被害者からの生々しい報告もある。前回(8月20日)の法廷も、事後の報告集会も、たいへん有意義で充実したものだった。今回も、是非多くの方のご参加をお願いしたい。そして、言論の自由という憲法原則を擁護し実現する運動にご参加いただきたい。

本件についてはその内容の重要性にかかわらず、マスメディアが関心を示すことなく報道はおよそ皆無と言って過言でない状態。その理由を解しがたいが、それもまた良し。ブログというツールをもってどれだけのことができるか、挑戦を続けたい。

ところで、私は自分の事件を「DHCスラップ訴訟」と勝手に名付けて、「DHCが起こしたスラップ訴訟」といえば私に対するものと僭称しているが、実は同様の事件は数多くある。

思い出されるのは、一昔前、貸金業界トップの地位にあった武富士が、自社への批判の言論を嫌って、メディアやフリージャーナリスト、あるいは消費者問題に携わる弁護士を被告にスラップ訴訟を連発したこと。一部は自ら取り下げ、あとはことごとく敗訴した。

武富士のスラップ濫発は、主観的には貸金業界への世論の指弾を不当として、巻き返しを意図したものであったろう。そして、自社への批判には損害賠償請求提訴をもって対抗すると宣告することによって、批判を予防的に牽制したのであろう。しかし、スラップの提起自体を、その異常な批判拒否体質の表れとして批判されるに至った。さらに、自ら提起した訴訟が連続して敗訴したことによるダメージは、貸金業界と武富士への世論の指弾をいっそう強める惨めな結果をもたらした。民事訴訟係属中に、武富士の代表者が刑事事件で立件されるというハプニングまであった。

「昔、武富士。今、DHC」である。DHCが、武富士と同じ轍を踏もうとしていると指摘せざるを得ない。みんなの党渡辺喜美代表(当時)への8億円政治資金拠出事件発覚後に限っても、DHCが提起したスラップ訴訟は、これまで判明している限りで下記の10件がある。いずれも、名誉毀損や人格権侵害として、本来問題となるような言論ではない。こんな程度の言論が違法とされたのでは、我が国の言論の自由は窒息死してしまう。

(1)提訴日 2014年4月14日 被告 ジャーナリスト
  請求金額 6000万円
  訴えられた記事の媒体はウェブサイト
(2) 提訴日 2014年4月16日 被告 経済評論家
  請求金額 2000万円
  訴えられた記事の媒体はインターネット上のツィッター
(3) 提訴日 2014年4月16日 被告 弁護士(私)
  請求金額 当初2000万円 後に6000万円に増額
  訴えられた記事の媒体はブログ。
(4) 提訴日 2014年4月16日 被告 業界紙新聞社
  請求金額 当初2000万円 後に1億円に増額
  訴えられた記事の媒体はウェブサイトと業界紙
(5) 提訴日 2014年4月16日 被告 個人
  請求金額 2000万円 
  訴えられた記事の媒体はブログ
(6) 提訴日 2014年4月25日  被告 出版社
  請求金額 2億円
  訴えられた記事の媒体は雑誌
(7) 提訴日 2014年5月8日  被告 出版社
  請求金額 6000万円
  訴えられた記事の媒体は雑誌
(8) 提訴日 2014年6月16日  被告 出版社
  請求金額 2億円
  訴えられた記事の媒体は雑誌
(9) 提訴日 2014年6月16日  被告 ジャーナリスト
  請求金額 2000万円
  訴えられた記事の媒体は雑誌(寄稿記事)
(10)提訴日 2014年6月16日  被告 ジャーナリスト
  請求金額 4000万円
  訴えられた記事の媒体は雑誌(寄稿記事)

訴えられた側の問題とされている各記事の内容は大同小異。「見返りへの期待なしに大金を出すことは常識では考えられない」「8億円の政治資金拠出ないし貸付は、厚生労働行政の規制緩和を期待してのことだろう」との指摘を中心としたもの。中には、「渡辺氏の亡父(渡辺美智雄氏)が厚生大臣であった」「DHCはこれまで規制官庁から数々の行政指導を受けてきた」ことに関連しているという具体的な言及もあるが、誰もが考える常識的な推論を述べているに過ぎない。政治的な言論の範疇にない論及も散見されるが、目くじら立てるほどのものではない。

たった一つ、原告が各訴状の請求原因において、名誉毀損記事と主張した中に、もしかしたらこれは問題となるかも知れないという具体的な事実の指摘がある。
「実は、国税当局は吉田氏の派手なカネの使いぶりにかねた(ママ)から目を付けていた。今回、吉田氏が渡辺氏との1件を暴露したのも、国税当局から警告的なサジェッションを受け、『徳田虎雄氏のようになりたくない』と判断したからとも言われている(DHC関係者)」との記事。

これは、上記(7)事件の訴状請求原因の一節。全10件の訴訟の中で、この部分が唯一の具体性をもった事実摘示と言って差し支えない。ところが、この事件は、8月18日にあっさりと訴えの全部が取り下げられている。この記事の掲載が、公共の利害に関する事実に係るもので、かつ、その主たる目的が公益をはかることにあったことには疑問の余地がない。問題は、その記事の内容の真実性や、真実と信じるについての相当性の有無であるところ、このことについての攻撃防御は未決着のまま、DHC側からの幕引きとなった。

この訴訟が提訴後僅か2か月で取り下げに至った理由は分からない。取り下げ書には、「被告代表者が、知人を通じて原告らに謝罪をしたので、頭書事件を取り下げる」とだけの漠然たる記載があるだけ。その3日後の日付で被告側から、取り下げ同意書が提出されている。これでは、なにゆえの提訴で、なにゆえの取り下げなのか、さっぱり分からない。

確かなことは、原被告双方が相互に譲歩して和解による解決に至ったのではないこと。飽くまで、一方的な原告側からの訴えの取り下げによる訴訟の終了なのだ。被告からの謝罪の意思は、記録上まったく表れていない。前記のとおり、唐突な取り下げ書に原告が一方的に書き込んだ漠然たる記載があるだけ。なによりも、原告は「名誉の回復には、謝罪広告が不可欠である」との主張をしておきながら、謝罪広告なしの事件終了である。6000万円もの損害賠償請求の本気度を疑わざるを得ない。

問題は、「政治とカネ」にまつわる批判の言論を誰もが堂々と自由に述べることができるのか、それとも萎縮を余儀なくされるのか、という重大事である。あらゆる情報を持ち寄り、意見を交換して、不当な言論萎縮効果を狙ってのスラップ訴訟を許さぬ世論を作り育てあげなければならない。「DHCスラップ訴訟」の被告とその弁護団は、まさしくその核になろうとしている。是非、法廷と集会に足を運んでいただき、議論にもご参加いただきたい。
(2014年9月14日)

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