澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

「再雇用拒否第2次訴訟」判決ーこれを都教委方針転換の好機とせよ

昨日(5月25日)の東京地裁「再雇用拒否第2次訴訟」判決。法廷から出てきた仲間の弁護士から第一報のメールがはいった。肉声のように、生々しい。

「全面勝訴! 裁量権逸脱で、その余の点は判断するまでもなく(憲法判断もなし)。 1年分の収入を損害賠償として認めた。
『正義は勝つ・・・とはかぎらない。でも、たまに勝つことがある』
いやあ、ほんとうに、希望がもてるような気がしてきました。がんばりましょう。」

率直な心情の吐露である。実は、事案の内容をほぼ同じくする「第1次訴訟」では、一審において同様の「勝訴判決」(2008年2月)を得たものの、高裁で逆転敗訴(2010年1月)となり、上告棄却(2012年6月)で確定している。「第1次訴訟」のほかにも、前例となる類似事案3件で最終的には教員側の敗訴が確定している。

昨日の判決は、そのような数件の判決があることを双方十分に意識した上での攻防を経て言い渡された原告勝訴なのだ。だからこそ、「必ずしも常に勝つとは限らない正義実現への、今回こそはの希望」という実感が湧いてくる。

この事件は、私は直接には関与していない。弁護団長は川越の田中重仁さん。彼を支えて埼玉の弁護士が中心になって担ってくれた。東京弁護団の重荷を分担していただいたのだ。提訴が2009年9月だから、6年近いご苦労。その成果に敬意を表したい。

各紙の報道を眺めてみる。見出しに微妙な差がある。
 君が代訴訟、東京都に賠償命令 不起立で再雇用拒否は違法 共同
 再雇用拒否、都に賠償命令=君が代不起立、元教諭ら勝訴 時事
 君が代不起立で再雇用拒否は違法、都に賠償命令 地裁 朝日
 君が代不起立訴訟:再雇用拒否の都に5300万円賠償命令 毎日
 国歌斉唱で不起立、再雇用せず…都に賠償命令 読売
 君が代訴訟、東京都に賠償命令 不起立で再雇用拒否は違法 東京(共同配信)
 君が代訴訟で都に賠償命令 「再雇用拒否は違法」 日経
 国歌不起立で教員再雇用せず 都に賠償命令 東京地裁判決 産経

ネットで配信されている「弁護士ドットコム」の報道がやや詳しく分かり易い。
「君が代を歌わないだけで『再雇用拒否』は違法ー東京地裁が東京都に『賠償命令』判決」

東京地裁(吉田徹裁判長)は5月25日、卒業式・入学式で「国旗に向かって起立し、国歌を斉唱しなかったこと」だけを理由にして、東京都立高校を定年退職した教職員を「再雇用」しなかったことが「違法だ」とする判決を下した。2007年~09年にかけて再雇用されなかった元都立高校教職員の原告たち22人に賠償金(211万円〜260万円)と利息を支払うよう、東京都に命じた。賠償金は、もし再雇用されていたら支払われていたはずの1年分の給与にあたる額。

判決は、教職員の90%~95%が採用される再雇用制度の実態などから、教職員には再雇用されることを期待する権利(期待権)があり、その期待権は「法的保護に値する」とした。そして、都教委が「不起立」のみをもって原告たちを再雇用をしなかったことは、原告たちの期待権を「大きく侵害」し、違法だと判断した。

注目すべきは、毎日の判決理由の要約。
「判決は、都教委が再雇用を拒否した理由は『不起立』だけだと指摘。『起立斉唱命令は原告らの思想の自由を間接的に制約している。命令違反は再雇用拒否の根拠としては不十分』と述べた。その上で22人全員に、1年分の報酬211万〜259万円の支払いを命じた。

末尾に裁判所が配布した「判決骨子」を貼り付けておく。これをお読みいただけば論旨明快な判決理由がよくわかる。
判決が都教委の裁量権逸脱濫用を認定した決め手は、「再雇用制度の意義・趣旨」「再雇用制度運用の実態」である。自らの思想・信条と教員としての良心に忠実であろうとしたために、国旗国歌の強制に従えないとした者に、懲戒処分を超えた過当な不利益を科することを違法と認めたのである。

周知のとおり、石原慎太郎・横山洋吉・米長邦雄・鳥海厳・内舘牧子などの面々が悪名高き「10・23通達」を発して、東京都の教育現場に踏み絵を再現させた。彼らは、「日の丸・君が代」強制の職務命令違反が重なるごとに処分の量定を加重する手法を編み出し、過酷にこれを実践した。明らかに、「日の丸・君が代」受容の思想への転向強要システムというほかはない。

しかも、「日の丸・君が代」不起立への制裁は懲戒処分だけでは終わらない。一度着けられたマイナス評価は職業生活の最後まで、いや定年後まで生涯にわたってついて回る。その陰湿なイヤガラセの中で、最たるものが定年後の再雇用(再採用・嘱託採用)拒否なのだ。元々再雇用制度は、定年制導入の際に年金受領年齢までの間隙を埋める制度としてできたもので、全員採用が制度の趣旨であり運用実態でもあった。ところが、他の理由の被懲戒経験者は採用されても、「日の丸・君が代」関連の被処分者だけは頑なに差別されて採用を拒否されているのだ。

それにしても、都教委の手口はひどい。ようやくにして、関連訴訟での都教委の敗訴が続いている。日本の司法の行政への甘さはよく知られているところ。法律用語でいえば、「行政裁量」の範囲は広すぎるほど広いのだ。だから、よほど目に余ることでもない限り、行政裁量が違法とされることはない。最近の諸判決は、司法が都教委のやり方を「到底看過できない」としているということだ。

都教委は本件の判決について、「大変遺憾。内容を精査して、今後の対応を検討する」と、中井敬三教育長のコメントを発表している。何が「遺憾」なのだろうか。指摘された自分の違法行為を反省して遺憾と言っているのではなさそうだ。東京地裁の裁判官を怪しからんと言っているように聞こえる。傲慢としか評しようがない。

都教委に猛省を促すと同時に、特に中井敬三教育長に一言申しあげておきたい。
あなたはこれまでの都教委の違法の積み重ねに責任がない。すべて、あなたの前任者がしでかした不始末で、「これまでの都教委のやり方がよくなかった」と言える立場にある。あなたの手は今はきれいだ。まだ汚れていないその手で、不正常な東京の事態を抜本解決するチャンスだ。

この度の判決への対応を間違えると、あなた自身の責任が積み重なってくる。あなた自身の手が汚れてくれば、抜本解決が難しくなってくる。一連の最高裁判決に付された補足意見の数々をよくお読みいただきたい。この不正常な事態を解決すべき鍵は、権力を握る都教委の側にあることがよくお分かりいただけるだろう。

「トンデモ知事」の意向で選任された「トンデモ教育委員」による「10・23通達」が問題の発端となった。今や、知事が替わった。当時の教育委員もすべて交替している。教育畑の外から選任された中井敬三さん、あなたなら抜本解決ができる。今がそのチャンスではないか。大いに期待したい。
(2015年5月26日)

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平成27年5月25日午後1時30分判決言渡1 0 3号法廷
平成21年(ワ)第34395号損害賠償請求事件
東京地裁民事第36部 吉田徹裁判長 松田敦子 吉川健治
          判 決 骨 子
1 当事者
原告 ○○ほか21名  被告 東京都

2 事案の概要
 本件は、東京都立高等学校の教職員であった原告らが、東京都教育委員会(以下「都教委」という。)が平成18年度、平成19年度及び平成20年度に実施した東京都公立学校再雇用職員採用選考又は非常勤職員採用選考等において、卒業式又は入学式の式典会場で国旗に向かって起立して国歌を斉唱することを命ずる旨の職務命令(以下「本件職務命令」という。)に違反したことを理由として、原告らを不合格とし、又は合格を取り消した(以下、これらの選考結果等を「本件不合格等」という。)のは、違憲、違法な措置であるなどとして、都教委の設置者である被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償金の支払を求めた事案である。

3 主文(略)

4 理由の骨子
(1)再雇用制度等の意義やその運用実態等からすると、再雇用職員等の採用候補者選考に申込みをした原告らが、再雇用職員等として採用されることを期待するのは合理性があるというべきであって、当該期待は一定の法的保護に値すると認めるのが相当であり、採用候補者選考の合否等の判断に当たっての都教委の裁量権は広範なものではあっても一定の制限を受け、不合格等の判断が客観的合理性や社会的相当性を著しく欠く場合には、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用として違法と評価され、原告らが有する期特権を侵害するものとしてその損害を賠償すべき責任を生じさせる。
(2)原告らに対する不合格等は、他の具体的な事情を考慮することなく、本件職務命令に違反したとの事実のみをもって重大な非違行為に当たり勤務成績が良好であるとの要件を欠くとの判断により行われたものであるが、このような判断は、本件職務命令に違反する行為の非違性を不当に重く扱う一方で、原告らの従前の勤務成績を判定する際に考慮されるべき多種多様な要素、原告らが教職員として長年培った知識や技能、経験、学校教育に対する意欲等を全く考慮しないものであるから、定年退職者の生活保障並びに教職を長く経験してきた者の知識及び経験等の活用という再雇用制度、非常勤教員制度等の趣旨にも反し、また、平成15年10月に教育長から国旗掲揚・国歌斉唱に関する通達が発出される以前の再雇用制度等の運用実態とも大きく異なるものであり、法的保護の対象となる原告らの合理的な期待を、大きく侵害するものと評価するのが相当である。
 したがって、本件不合格等に係る都教委の判断は、客観的合理性及び社会的相当性を欠くものであり、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たる。
 よって、都教委は、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用して、再雇用職員等として採用されることに対する原告らの合理的な期待を違法に侵害したと認めるのが相当であるから、他の争点について検討するまでもなく、都教委の設置者である被告は、国家賠償法に基づき、期特権を侵害したことによる損害を賠償すべき法的責任がある。
(3)再雇用職員等の運用実態、雇用期間等を考慮すると、原告らが再雇用職員等に採用されて1年間稼働した場合に得られる報酬額の範囲内に限り、都教委の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用による原告らの期待権侵害と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。

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Published in 火曜日, 5月 26th, 2015, at 11:34, and filed under 司法制度, 教育, 日の丸君が代.

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