政治家甘利明の対UR口利きを、秘書限りの立件で幕引きしてはならない。
東京地検特捜部は、一昨日(4月8日)甘利明前経済再生担当相の金銭授受問題で、あっせん利得処罰法違反の疑いで、千葉県印西市にある都市再生機構(UR)の千葉業務部と、甘利側に現金を提供した千葉県白井市の建設会社「薩摩興業」、同社の元総務担当だった一色武の自宅を家宅捜索した。捜索は、8日の午後から9日の明け方まで続けられた。なお、今回の捜索対象に甘利氏の事務所や自宅は含まれていないという。
特捜は、これまで既に甘利の元公設第1秘書(清島健一)からも任意で事情を聴いていると報道されていたが、いよいよ強制捜査に踏み切ったのだ。週刊文集のスクープ報道以来、大きな話題となったこの事件。特捜も動かざるを得なくなったということだが、果たしてどこまでの本気度なのかは必ずしも明らかではない。
報道では、被疑罪名はあっせん利得処罰法違反と特定されているが、誰を被疑者としての強制捜査なのか、明らかにされていない。被疑者として可能性のあるのは、甘利明、公設秘書清島健一、政策秘書鈴木陵允、一色武であるが、事件の本命がアベ政権の中枢にあってこれを支えていた「有力政治家・甘利明」であることは明白である。既に切られたトカゲの尻尾の処罰で一件落着着としてはならない。
URとの補償交渉に難航していた薩摩興業(千葉県白井市)が、交渉を有利に運びたいととして有力政治家甘利明(事務所所在地は神奈川県相模原市)に目を付け、これに口利きを依頼して、その見返りとして報酬を支払った。これが事件の大筋であり骨格でもある。有力政治家甘利明の存在あればこその、これを頼っての口利きの依頼である。その口利きは交渉相手において無視し得ず、一定の効果を期待しうるのだ。
要するに、本件ではカネで有力政治家が動いて行政に準ずる団体に口利きをした。その結果として利得するものがあり、その利得の一部が対価として政治家に支払われた。被害者は税金を負担する国民であり、損なわれたものは政治や行政の廉潔性に対する国民の信頼である。政権に近い有力政治家は、かくして汚いカネをくわえ込んで太り、さらに影響力を拡大する。
そのようなカネと政治家との汚い関係が明るみに出たのだ。徹底して、事態を解明し膿を摘出しなければならない。類似の事件はどこにもありそうなことながら、ことの性質上闇に葬られて表には出て来ない。この事件は稀有なこととして、政治家にカネを渡した当事者が自分も罪に服することを覚悟して、事件を明るみに出し証拠をぶちまけたのだ。
もう一つ、稀有なことがあった。普通は秘書レベルで済まされている金銭の授受に、本件では政治家本人が直接関与していたことだ。現金50万円が2度にわたって、一色から直接甘利に手渡されている。しかも、そのうちの1回は大臣室でのこと。これで、甘利を立件できなければ、せっかくの「あっせん利得処罰法」がザル法であることを証明することになる。検察の権威にも関わることにもなりかねない。
政治とカネ、カネと政治家の汚い関係の一角に光が当たって、闇の世界から浮かびあがったこの事件を、けっしてうやむやにしてはならない。秘書や情報提供者だけを立件して幕引きということがあってはならない。
薩摩興業から甘利事務所に動いたカネは、一色の言として1200万円とされている。甘利の秘書が口をきいて、URから薩摩興業に渡ったカネは、2億2000万円と報道されている。UR側は、当初1600万円を適正額としていたが、甘利事務所が介入してからは、1億8000万円に跳ね上がり、さらに2億円となり、最終的には2億2000万なのだ。このままでは、「1200万円程度は安いもの」「政治家は利用のしがいがある」との「教訓」を残したままとなるではないか。
この事件では、2件の告発がある。1件は、社会文化法律センターのものだが、私には告発状を読むことができない。もう1件は、「落選運動を支援する会」によるもの。「甘利明前経済産業大臣(神奈川13区)を次期衆議院選挙における落選対象議員第1号として告発しました」という趣旨での告発である。長文のものだが下記のURLで読むことができる。私も代理人の一人で起案にも関与している。
http://rakusen-sien.com/topics/5281.html
この種の告発は、報道された事実を整理して法的に再構成するものではあるが、それなりの迫力をもつものとなっている。さらに、告発をしておくことは、万が一被告発人甘利に対する立件が見送られた場合に検察審査会への審査申立ができることに大きな意味がある。
あっせん利得処罰法の内容を確認しておきたい。「あっせん」とは、政治家あるいはその秘書の「行政への口利き行為」をいう。同法第1条は政治家(国会議員)が、あっせん(口利き)行為に関して財産上の利益を収受することを犯罪としている。第2条では政治家秘書についての規定。
同法第1条(公職者あっせん利得)1項の構成要件は以下のとおりである。
(犯罪主体) 衆議院議員、参議院議員又は地方公共団体の議会の議員若しくは長(以下「公職にある者」という。)が、
(犯罪行為) 国若しくは地方公共団体が締結する売買、貸借、請負その他の契約又は特定の者に対する行政庁の処分に関し、
請託を受けて、
その権限に基づく影響力を行使して
公務員にその職務上の行為をさせるように、又はさせないようにあっせんをすること又はしたことにつき、
その報酬として財産上の利益を収受したときは、
(刑罰)三年以下の懲役に処する。
また、同条2項は、第1項の「国又は地方公共団体」だけでなく、「国又は地方公共団体が資本金の二分の一以上を出資している法人」に対象を拡大して、「前項と同様とする。」と定めている。本件の場合のURはこれに当たるわけだ。
各要件の該当性吟味は、告発状をお読みいただきたい。外形的には構成要件該当性は十分に立証可能である。もちろん、共謀の態様や具体的な故意の有無内容など、捜査を遂げなければ詰め切れないことは多々残る。しかし、それでも、甘利についての立件見送りはあり得ないというべきだろう。
国会では、甘利が交渉をリードしたTPP承認案に関する審議が衆院の特別委員会で始まったばかり。当然に国会審議にも影響するだろうし、4月24日投開票の衆院北海道5区補選への影響もあるだろう。しかし、そんなことで検察が捜査を躊躇することは許されない。公訴時効を徒過することなく、厳正な捜査と立件をされるよう、しっかりと見守りたい。
(2016年4月10日)