澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

行政の規制権限不行使は違法。規制緩和などもってのほか。

一昨日(10月27日)、首都圏建設アスベスト訴訟(横浜第1陣事件)控訴審で、東京高裁が国とメーカーの責任を認める判決を言い渡した。5年前の原告全面敗訴判決を逆転したもの。

「あやまれ!つぐなえ!なくせ!アスベスト被害」というスローガンの実現に、大きな前進である。提訴や控訴時の原告団弁護団の写真の中の、今は亡き山下登司夫弁護士の表情が心なし嬉しそうに見える。

アスベストは毒物である。遅効性だが極めて危険な発がん物質。これが、地域に飛散すれば公害となる。工場の生産過程で労働者に接触すれば労災・職業病となる。また、アスベストを素材とする製品が事業者から消費者に売り渡されれば、消費者問題となる。さらに、このような危険物が、国民の健康や生命を脅かすことのないよう、国は、メーカーや使用者や事業者を規制しなければならない。この国で、全ての人が安心して暮らしてゆけるように。

屋外での「建設アスベスト訴訟」に先行して、「工場労働者型(屋内型)」訴訟が大阪地裁に提起された。2006年5月のこと。いわゆる泉南アスベスト国家賠償訴訟である。健康被害又は死亡による損害賠償を求めたのは、泉南地域の石綿工場の元労働者や近隣住民及びその遺族。

キーワードは、「国の規制権限の不行使」。被害の発生が予想される事態においては、国は被害の予防のために規制権限の行使が義務づけられ、行使しなかったことが違法となって生じた損害を賠償しなければならない。まさしく、これに当たるというのが原告らの主張だった。

同様の訴訟は、じん肺訴訟弁護団が経験している。筑豊や北海道の炭坑で働いていた坑内労働者は、坑内の粉じん被曝によって高い確率でじん肺に罹患する。じん肺の症状認定を得た元労働者が企業に責任を追及しようとしても、中小炭坑は全てつぶれて責任追及先が存在しないという事情があった。誰が潰したか、エネルギー転換の名のもとに国が中小炭坑を潰した。では国に責任を取らせよう。こうして、じん肺国家賠償訴訟が始まった。そして元抗夫らは、みごとな勝訴を収めた。ここでも、キーワードは、「国の規制権限の不行使の違法」。

泉南アスベスト国家賠償訴訟も同じ構造だった。しかし、もちろん規制権限の具体的法的根拠の構造はちがう。泉南訴訟第一陣訴訟では、一審大阪地裁判決は原告勝訴となったが、控訴審は全面敗訴となった。ここからの頑張りで、上告審で逆転勝訴し、差し戻し審の大阪高裁で国の有責を前提する和解が成立し、後続訴訟での和解のルールが開けた。

そして、建設現場でアスベストによる健康被害を受けた元建設作業員と遺族約90人が、国と建材メーカー43社に総額約28億円の賠償を求めたのが、「建設アスベスト訴訟」(横浜地裁・第1陣訴訟)である。2012年の判決では、原告が国に対しても、メーカーに対しても敗訴となった。一昨日の東京高裁(永野厚郎裁判長)判決は、これを逆転したもの。もっとも、これまで国は、7事件で1勝6敗である。その1勝の逆転敗訴なのだ。

この事件での被告のうち、原告を雇用していた使用者は、(一人親方を除いて)労働者に対する安全配慮義務違反としての責任が認められた。アスベスト製材を販売していた建材メーカーには、75年の時点でアスベストの健康上の危険性を製品に警告表示する義務があったのにこれを怠った責任が認められた。そして、被告の国に関しては、「1980年までに事業主に対し、労働者に防じんマスクを着用させるよう罰則付きで義務付けなかった」ことを規制権限不行使の違法と認めた。

同種訴訟は、東京、横浜、大阪、京都、福岡、札幌の6地裁に7件の提起がされた。
法務省のホームページには判決の全体像を次のようにまとめている。

これまでの判決の結果は,以下のとおりです。
(1) 横浜地方裁判所(第1陣)平成24年5月25日判決(全部棄却・相手方控訴,東京高等裁判所に係属中)
(2) 東京地方裁判所平成24年12月5日判決(一部認容・双方控訴,東京高等裁判所に係属中)
(3) 福岡地方裁判所平成26年11月7日判決(一部認容・双方控訴,福岡高等裁判所に係属中)
(4) 大阪地方裁判所平成28年1月22日判決(一部認容・双方控訴,大阪高等裁判所に係属中)
(5) 京都地方裁判所平成28年1月29日判決(一部認容・双方控訴,大阪高等裁判所に係属中)
(6) 札幌地方裁判所平成29年2月14日判決(一部認容・双方控訴)

これに、次の判決が加わる
(7) 横浜地方裁判所(第2陣)平成29年10月判決(認容・双方控訴,東京高等裁判所に係属中)札幌地方裁判所平成29年2月14日判決(一部認容・双方控訴)

一昨日の判決が上記(1)についてのもの。地裁において唯一の原告全面敗訴となった判決が、控訴審第1号判決において逆転したのだ。この判決の意義は大きく、先例から見て、今後の全面和解解決に道を開いたものと考えられる。

なお、「国の規制権限不行使の違法」を根拠とする国家賠償訴訟は、数多く活用されている。国には東京電力に対し、適切な規制権限の行使を違法に怠った責任があるとするのが、原発国家賠償訴訟。そして、消費者被害の回復にも活用が試みられている。かつて、豊田商事事件について、その被害防止のために適切な規制権限を発動しなかった責任を問うて、豊田商事国家賠償訴訟が提起された。原告弁護団は国をよく追い詰めたと思うが、わずかにおよばず敗訴となった。

私は、豊田商事の被害が金銭だけであって、人命や健康ではなかったことが、勝敗を分けたものと思っている。

DHCの吉田嘉明は、3年前の週刊新潮誌上の手記で、「自社(DHC)に対する厚生労働行政が厳格に過ぎる」との不満を述べている。だが、行政に手心があってはならない。消費者に健康被害を及ぼすような事件があれば、行政も「規制権限不行使による怠慢の違法」を追求されることになる。そのようなことのないよう、規制行政は厳格に行われなければならない。消費者の健康や人命を守るために必要な規制の緩和など、けっしてあってはならない。
(2017年10月29日)

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