澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

恐るべし。貴乃花のアナクロニズム。

大相撲の不祥事はあとを絶たない。言うまでもなく、相撲界が刑法適用の圏外にあるはずはなく、傷害事件には処罰がなされるべきが当然のことだ。

だが彼らに求められる規範意識は、通常人のレベルまでのこと。暴力はいけない。暴言はよくない。賭博も万引きも犯罪だ。まあ、それで十分だろう。

大横綱とか名力士とか持ち上げられても、所詮は力自慢の肉体派若者集団の中での比較強者というだけのこと。乱暴者もいれば、酒癖の悪いのもいるだろう。過度に精神性や品格を強調して、相撲道や国技の自覚を求めるのは、気の毒でもあり滑稽でもある。とりわけ、モンゴルら外国人力士に、意味不明の「角道精神」や「日本精神」を押しつけるなどは、時代錯誤も甚だしく愚の骨頂だ。

貴乃花が池口恵観なる人物に送ったメールが話題になっている。私は、日馬富士の傷害事件には特段の関心はない。傷害にはしかるべき処罰がなされればよいだけのこと。だが、事件に関連して相撲協会のあり方を批判する、週刊朝日に掲載されたこの貴乃花メールの内容には心底驚いた。どうしてこんな人格が育ったのか、不気味でもあり、寒々しい思いに堪えない。

池口恵観とはどこかで聞いた名。朝鮮総連建物の競売事件で顔を出し、落札しようとしたあの正体不明の僧であったか。ウィキペディアなどを見ると、「鹿児島高野山最福寺住職で、安倍晋三など多くの政治家と親交があることから永田町の怪僧の異名がある」という。安倍晋三と親交があるといえば、加計孝太郎・籠池泰典・山口敬之の類であろう。確かに、それだけで十分に「怪しい僧」ではある。

以下その尋常ではないメールの抜粋である。こなれない文章と論理の展開、所々に意味の通らない単語。おそらく、代筆ではなく貴乃花自身の執筆なのだろう。それだけに、実に生々しい。

「“観るものを魅了する”大相撲の起源を取り戻すべくの現世への生まれ変わりの私の天命があると心得ており、毘沙門天(炎)を心にしたため己に克つをを実践しております

国家安泰を目指す角界でなくてはならず“角道の精華”陛下のお言葉をこの胸に国体を担う団体として組織の役割を明確にして参ります

角道の精華とは、入門してから半年間相撲教習所で学びますが力士学徒の教室の上に掲げられております陛下からの賜りしの訓です、力と美しさそれに素手と素足と己と闘う術を錬磨し国士として力人として陛下の御守護をいたすこと力士そこに天命ありと心得ております

角道、報道、日本を取り戻すことのみ私の大義であり大道であります勧進相撲の始まりは全国の神社仏閣を建立するために角界が寄与するために寄進の精神で始まったものです

陛下から命を授かり現在に至っておりますので“失われない未来”を創出し全国民の皆様及び観衆の皆様の本来の幸せを感動という繋ぐ心で思慮深く究明し心動かされる人の心を大切に真摯な姿勢を一貫してこの心の中に角道の精華として樹立させたいと思います」

「国家安泰」「国体を担う団体」「角道の精華」「陛下のお言葉」「陛下から賜りし訓」「国士として力人として陛下の御守護」「日本を取り戻す」「陛下から命を授かり」…って、この語彙の羅列はいったいなんなのだ。

とりわけ見過ごせないのは、「陛下のお言葉をこの胸に国体を担う団体として組織の役割を明確にして参ります」との一文。貴乃花にとっては、現在の相撲協会のあり方は、「陛下のお言葉」を体していない。「国体を担う団体」ともなっていない、というのだ。自分こそが天命を帯びて、「その組織の役割を明確にして参ります」と見当違いの使命感が語られている。

もとより思想は自由だが、その批判も自由。「国体」や「陛下」を振り回す「思想」にはうんざりだ。批判せざるを得ないし、天皇にも定めし迷惑なことになろう。こんなことが重なれば、相撲見物にも足を運びにくくなるだろう。

もう一つ見過ごせないのは、「日本を取り戻すことのみ私の大義であり大道であります」というくだり。「日本を取り戻す」は安倍晋三のスローガンだ。「日本」とは、いったいどんな日本で、取り戻すとは何のことか。具体的には何を言っているのか理解不能だが、安倍晋三自身にもよく分かっていないことだろう。注目すべきは、貴乃花が安倍晋三のキャッチフレーズを口まねしていることなのだ。

しかし、もしかしたら貴乃花は本気で「万世一系の天皇が統治す」る、「富国強兵」の大日本帝国を取り戻そうとしているのかも知れない。軍国主義が跋扈したあの天皇制権力の時代の軍国日本。時代錯誤の貴乃花の脳裏にある、角道の精華とは、陛下のお言葉を体し国士として陛下の御守護することにあるのだ。相撲協会は、そのような国体を担う団体であることを明確にしなければならない、と言っているようにも解せるのだ。

貴乃花メールには、日馬富士の貴の岩に対する傷害事件とは無関係な、相撲協会の理念をめぐるイデオロギー対立が根にあることを読みとれる。しかし、公益財団法人日本相撲協会が、貴乃花が唱導するような極右思想集団になってはならない。大相撲ファンは、そんな国技館に足を運びたくはない。そんな相撲に拍手は送らない。
(2017年12月20日)

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