澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

これが国際社会の良識から見た「日本の言論・表現の自由の惨状」だーデービッド・ケイの暫定調査結果を読む

安倍内閣発足以来、日本の言論・表現の自由は、惨憺たるありさまとなっている。
ほかならぬNHK(NEWS WEB)が、「報道の自由度 日本をはじめ世界で『大きく後退』」と報じている。本日(4月20日)の以下の記事だ。

「パリに本部を置く「国境なき記者団」は、世界各国の「報道の自由度」について、毎年、報道機関の独立性や法規制、透明性などを基に分析した報告をまとめランキングにして発表しています。4月20日発表されたランキングで日本は、対象となった180の国と地域のうち72位と、前の年の61位から順位を下げました。これについて「国境なき記者団」は、おととし特定秘密保護法が施行されたことなどを念頭に、「漠然とした範囲の『国家の秘密』が非常に厳しい法律によって守られ、記者の取材を妨げている」と指摘しました。」

日本は180国の中の72位だという。朝日は、「日本は2010年には11位だったが、年々順位を下げ、14年は59位、15年は61位だった。今年の報告書では、『東洋の民主主義が後退している』としたうえで日本に言及した。」と報じた。アベ政権成立のビフォアーとアフターでこれだけの差なのだ。

ところで、72位? 昨年から順位を下げたとはいえ、まだ中位よりは上にある? 果たして本当だろうか。この順位設定の理由は、「特定秘密保護法が施行されたこと」としか具体的理由を挙げていない。しかし、実はもっともっと深刻なのではあるまいか。

昨日(4月19日)、日本における言論・表現の自由の現状を調べるため来日した国連のデービッド・ケイ特別報告者(米国)が、記者会見して暫定の調査結果を発表した。英文だけでなく、日本語訳も発表されている。その指摘の広範さに一驚を禁じ得ない。この指摘の内容は、到底「言論・表現の自由度順位72位」の国の調査結果とは思えない。

最も関心を寄せたテーマが、放送メディアに対する政府の「脅し」とジャーナリストの萎縮問題。次いで、特定秘密保護法による国民の知る権利の侵害。さらに、慰安婦をめぐる元朝日記者植村隆さんへの卑劣なバッシング。教科書からの慰安婦問題のが削除。差別とヘイトスピーチの野放し。沖縄での抗議行動に対する弾圧。選挙の自由…等々。

ケイ報告についての各メディアの紹介は、「特定秘密の定義があいまいと指摘」「特定秘密保護法で報道は萎縮しているとの見方を示し」「メディアの独立が深刻な脅威に直面していると警告」「ジャーナリストを罰しないことを明文化すべきだと提言」「政府が放送法を盾にテレビ局に圧力をかけているとも批判」「政府に批判的な記事掲載の延期や取り消しがあつた」「記者クラブ制度は廃止すべき」「ヘイトスピーチに関連して反差別法の制定も求めた」などとされている。また、「(当事者である)高市早苗総務相には何度も面会を申し入れたが会えなかった」という。政府が招聘した国連の担当官の求めがあったのに、担当大臣は拒否したのだ。

今回が初めてという国連特別報告者の日本調査。あらためて、日本のジャーナリズムの歪んだあり方を照らし出した。これから大きな波紋を起こすことになるだろう。

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国連報告者メディア調査 詳報に若干のコメントを試みたい。()内の小見出しは、澤藤が適宜付けたもの。

【メディアの独立】
(停波問題)
「放送法三条は、放送メディアの独立を強調している。だが、私の会ったジャーナリストの多くは、政府の強い圧力を感じていた。
 政治的に公平であることなど、放送法四条の原則は適正なものだ。しかし、何が公平であるかについて、いかなる政府も判断するべきではないと信じる。
 政府の考え方は、対照的だ。総務相は、放送法四条違反と判断すれば、放送業務の停止を命じる可能性もあると述べた。政府は脅しではないと言うが、メディア規制の脅しと受け止められている。
 ほかにも、自民党は二〇一四年十一月、選挙中の中立、公平な報道を求める文書を放送局に送った。一五年二月には菅義偉官房長官がオフレコ会合で、あるテレビ番組が放送法に反していると繰り返し批判した。
 政府は放送法四条を廃止し、メディア規制の業務から手を引くことを勧める。」

事態をよく把握していることに感心せざるを得ない。放送メデイアのジャーナリストとの面談によって、政府の恫喝が効いていることを実感したのだろう。また、安倍政権の権力的な性格を的確にとらえている。権力的な横暴が、放送メデイアの「自由侵害のリスクある」というレベルではなく、「自由の侵害が現実化」しているという認識が示されている。危険な安倍政権の存在を前提にしての「放送法四条廃止」の具体的な勧告となっている。

(「記者クラブ」「会食」問題)
「日本の記者が、独立した職業的な組織を持っていれば政府の影響力に抵抗できるが、そうはならない。「記者クラブ」と呼ばれるシステムは、アクセスと排他性を重んじる。規制側の政府と、規制される側のメディア幹部が会食し、密接な関係を築いている。」

権力と一部メディアや記者との癒着が問題視されている。癒着の原因となり得る「記者クラブ」制度が批判され、「規制側の政府と、規制される側のメディア幹部が会食し密接な関係を築いている」ことが奇妙な図と映っているのだ。これを見れば、72位のレベルではなかろう。二ケタではなく三ケタの順位が正当なところ。

(自民党改憲案批判)
「こうした懸念に加え、見落とされがちなのが、(表現の自由を保障する)憲法二一条について、自民党が「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」との憲法改正草案を出していること。これは国連の「市民的及び政治的権力に関する国際規約」一九条に矛盾し、表現の自由への不安を示唆する。メディアの人たちは、これが自分たちに向けられているものと思っている。」

この指摘は鋭い。自民党・安倍政権のホンネがこの改憲草案に凝縮している。政権は、こんなものを公表して恥じない感覚が批判されていることを知らねばならない。

【歴史教育と報道の妨害】
(植村氏バッシング問題)
「慰安婦をめぐる最初の問題は、元慰安婦にインタビューした最初の記者の一人、植村隆氏への嫌がらせだ。勤め先の大学は、植村氏を退職させるよう求める圧力に直面し、植村氏の娘に対し命の危険をにおわすような脅迫が加えられた。」

植村さんを退職させるよう求める圧力は、まさしく言論の自由への大きな侵害なのだ。この圧力は、安倍政権を誕生させた勢力が総がかりで行ったものだ。植村さんや娘さんへの卑劣な犯罪行為を行った者だけの責任ではない。このことが取り上げられたことの意味は大きい。

(教科書検定問題)
「中学校の必修科目である日本史の教科書から、慰安婦の記載が削除されつつあると聞いた。第二次世界大戦中の犯罪をどう扱うかに政府が干渉するのは、民衆の知る権利を侵害する。政府は、歴史的な出来事の解釈に介入することを慎むだけでなく、こうした深刻な犯罪を市民に伝える努力を怠るべきではない。」

安倍晋三自身が、極端な歴史修正主義者である。「自虐史観」や「反日史観」は受容しがたいのだ。ケイ報告は、政府に対して、「歴史的な出来事の解釈に介入することを慎む」よう戒めているだけでない。慰安婦のような「深刻な犯罪を市民に伝える努力を怠るべきではない」とまで言っているのだ。

【特定秘密保護法】
(法の危険性)
「すべての政府は、国家の安全保障にとって致命的な情報を守りつつ、情報にアクセスする権利を保障する仕組みを提供しなくてはならない。しかし、特定秘密保護法は、必要以上に情報を隠し、原子力や安全保障、災害への備えなど、市民の関心が高い分野についての知る権利を危険にさらす。」

特定秘密保護法は、情報を隠し、原子力や安全保障、災害への備えなど、市民の関心が高い分野についての知る権利を危険にさらす、との指摘はもっともなこと。「市民の関心が高い分野」だけではなく、「国民の命運に関わる分野」についても同様なのだ。

(具体的勧告)
「懸念として、まず、秘密の指定基準に非常にあいまいな部分が残っている。次に、記者と情報源が罰則を受ける恐れがある。記者を処分しないことを明文化すべきで、法改正を提案する。内部告発者の保護が弱いようにも映る。」
「最後に、秘密の指定が適切だったかを判断する情報へのアクセスが保障されていない。説明責任を高めるため、同法の適用を監視する専門家を入れた独立機関の設置も必要だ。」

もちろん、法律を廃止できれば、それに越したことはない。しかし、最低限の報道の自由・知る権利の確保をという観点からは、「取材する記者」と「材料を提供する内部告発者」の保護を万全とすべきとし、秘密指定を適切にする制度を整えよという勧告には耳を傾けなくてはならない。

【差別とヘイトスピーチ】
「近年、日本は少数派に対する憎悪表現の急増に直面している。日本は差別と戦うための包括的な法整備を行っていない。ヘイトスピーチに対する最初の回答は、差別行為を禁止する法律の制定である。」

これが、国際社会から緊急に日本に求められていることなのだ。

【市民デモを通じた表現の自由】
「日本には力強く、尊敬すべき市民デモの文化がある。国会前で数万人が抗議することも知られている。それにもかかわらず、参加者の中には、必要のない規制への懸念を持つ人たちもいる。
 沖縄での市民の抗議活動について、懸念がある。過剰な力の行使や多数の逮捕があると聞いている。特に心配しているのは、抗議活動を撮影するジャーナリストへの力の行使だ。」

政府批判の市民のデモは規制され、右翼のデモは守られる。安倍政権下で常態となっていると市民が実感していることだ。とりわけ、沖縄の辺野古基地建設反対デモとヘイトスピーチデモに対する規制の落差だ。デモに対する規制のあり方は、表現の自由に関して重大な問題である。

【選挙の規制】 (略)
【デジタルの権利】 (略)

さて、グローバルスタンダードから見た日本の実情を、よくぞここまで踏み込んで批判的に見、提言したものと敬意を表する。指摘された問題点凝視して、日本の民主運動の力量で解決していきたいと思う。

但し、残念ながら、二つの重要テーマが欠けている。一つは、学校儀式での「日の丸・君が代」敬意強制問題。そして、もう一つがスラップ訴訟である。さらに大きく訴えを続けること以外にない。

国境なき記者団もこの報告書を読むだろう。さらには、来年(17年)国連人権理事会に正式提出される予定の最終報告書にも目を通すだろう。そうすれば、72位の順位設定が大甘だったと判断せざるを得ないのではないか。来年まで安倍政権が続いていれば、中位点である90位をキープするのは難しいこととなるだろう。いや、市民社会の民主主義バネを働かせて、安倍政権を追い落とし、72位からかつての11位までの復帰を果たすことを目標としなければならない。
(2016年4月20日)

「戦争に行くな」「選挙に行こう」ー北海道5区補選はドミノ倒しの最初の一コマだ

いよいよ、市民主体の選挙戦が幕を開けた。本日(4月12日)、京都3区と北海道5区の衆院補選の告示である。いずれも投開票は4月24日。これが、今年の政治決戦のプラスのスパイラルの発火点。ドミノ倒しの最初の一コマだ。アベ政権には、これがケチのつきはじめ。

平和や人権に関心をもつ国民にとって、第2次アベ政権は3年も続く悪夢だ。しかし、ようやく「驕れる者久しからず、ただ春の夜の夢の如し」となる終わりの始まりがやって来た。

京都3区は自民の不戦敗で、自民の議席減1は闘いの前から決まった。自公の議席の増には憲法が泣き、議席の減には憲法が微笑む。京都でも、少し憲法が微笑んだ。

しかし、天下分け目は北海道5区だ。この選挙区の勝敗は、単なる1議席の増減ではない。その後に続く、参院選と総選挙の野党共闘の成否がかかっているのだ。政党レベルでは、民・共・社・生の4党だが、実はその背後に広範な市民の後押しがある。野党共闘とは、野党支持者を単純に束ねただけのものではない。「野党は共闘」とコールを上げる無党派市民が支えているのだ。その典型としての「北海道5区モデル」が成功すれば、正のスパイラルが動き出す。ドミノ倒しが始まるのだ。

ブロガーは、今日からは大いにブログでツイッターで池田まき候補の応援をしよう。虚偽や誹謗はいけない。しかし、アベ政権や、自公与党への批判に何の遠慮も要らない。今、最大の問題は戦争法の廃止であり、明文改憲の阻止である。そのための池田候補を徹底して応援しよう。せっかく、そのような選挙運動が自由になったのだ。大いに活用しようではないか。

一昨日(4月10日)の日曜日、千歳市で開かれた池田陣営の街頭演説会が象徴的だ。3700人の聴衆に、6人の弁士が池田候補推薦の弁を語った。ジャーナリストの鳥越俊太郎、SEALDsの奥田愛基、「安保関連法に反対するママの会」の長尾詩子、「市民連合」の山口二郎、そして「戦争させない北海道をつくる市民の会」の前札幌市長・上田文雄弁護士だという。政治家がいない!のだ。

集会の名称が、「千歳から、未来の日本を考える」。意気込みは、「北海道5区から、市民の力で平和な日本を切り開く」というもの。たいへんな盛り上がりだったと報じられている。

参加者の共通の思いは「平和」だ。平和な日本の未来を願う人びとにとって、アベ政権は危険きわまりない。その暴走にストップをかけないと、日本は本当に戦争をする国になってしまう。その危機感が、反アベ、反自公の共闘を成立させているのだ。

いま日本の平和のために最も必要なことは、選挙に行くことだ。選挙に行って、反アベの野党共闘候補に投票することだ。自公政権の候補者を落選させて、改憲を阻止することだ。「戦争に行くな」「投票に行こう」。このスローガンで、反アベの野党共闘を応援しよう。

ドミノ倒しを警戒するアベ政権は、北海道5区で負けたら衆参のダブル選挙は回避するだろうと言われてきた。ところが急に空気が変わっている。「北海道5区で負けたらどうせジリ貧。それなら早い総選挙の方が傷が浅く済む」という、与党内の声があると報じられている。つまりは、全国の衆院小選挙区での野党共闘が十分に進展せず、統一候補が決まらないうちの抜き打ち解散が与党に有利という読みなのだ。

しかし、ダブル選挙はそれこそ壮大な歴史的ドミノ倒し実現の場となる公算が高い。すべては、アベ政権を倒すに足りる野党共闘の成否にかかっており、野党共闘の成否は市民の後押しの声如何にかかっている。

がんばれ、池田まき候補。がんばれ、4野党。そして、がんばれ5区の無党派市民。全国の市民たちよ。
(2016年4月12日)

核廃絶の大道は、まずアベ政権を廃絶することである。

本日(4月11日)、G7の外相たちがそろって広島の平和記念公園を訪問した。予定になかった原爆ドームにも足を運んだという。核廃絶・核軍縮の動きが思わしくないこの時期に、まずはけっこうなことである。

昨日(4月10日)は、南米ウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領が、自ら望んで同じ施設を訪れ、次のように記帳したという。
「倫理がない科学は、考えられないような悪の道具になる。歴史は、人間が同じ石でつまずく唯一の動物と教えている。私たちはそれを学んだだろうか」(毎日)

サミットで来日するオバマにも、ぜひ広島に足を運んでもらいたい。原爆を投下した国の大統領として、被爆の実相を見つめ、被爆者の生の声を聞いてもらいたい。そして、「核こそが悪魔の道具であること」「同じ石でつまずいてはならないこと」を学んでもらいたい。願わくば、その地位にあるうちに核廃絶に向けた国際世論喚起に一石を投じていただきたい。このままでは、せっかくのノーベル平和賞が泣いている。

いうまでもないことだが、核廃絶に向けた国際世論の喚起のためには、何よりも被爆国日本が強力な発信源とならねばならない。被爆者も、被爆地の自治体も、全国の世論も、核廃絶を願う立場に揺るぎはないものと言ってよい。しかし、政府はどうだろうか。とりわけアベ政権の核廃絶に向けた姿勢は信頼に足りるものだろうか。さらに、日本は近隣諸国から、本気で核廃絶に取り組んでいると見られているのだろうか。実は、極めて心もとないといわざるを得ない。

昨年の8月6日、広島の平和記念式典(広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式)に出席した安倍晋三に、厳しい野次が飛んだ。「何しに来たのか」「かえれ」「戦争法案撤回しろ」などというもの。そして、安倍の首相としての式辞に、これまでは欠かさず盛り込まれていた「非核三原則堅持」の言葉がなくなっていたことが話題となった。日本の軍事大国化を願う立場のアベに、真摯な核廃絶を願う気持があろうとは思えないのだ。もっとも、囂囂たる非難を受けて、安倍は8月9日長崎での式辞には「非核三原則堅持」の文言を復活させている。安倍の本心を世論の批判が押し戻した形なのだ。

今年3月の参院予算委員会で、横畠裕介・内閣法制局長官が、核兵器使用について「国内法上、国際法上の制約がある」としたうえで「憲法上、あらゆる種類の核兵器の使用がおよそ禁止されているというふうには考えていない」と述べている。このあと、戦争法施行(3月29日)直後の4月1日閣議は、「憲法9条は一切の核兵器の保有および使用を禁止しているわけではない」とする答弁書を決定した。「自衛のための必要最小限度の実力を保持することは禁止されていない」「核兵器であっても、仮にそのような限度にとどまるものがあるとすれば、必ずしも憲法の禁止するところではない」というもの。

「これは、従前からの憲法解釈の確認に過ぎない」「非核三原則により、政策上の方針として一切の核兵器を保有しないという原則を堅持している」というのが、政府の説明だが、憲法と「国是」とは天と地ほどの開きだ。憲法は、政権の意思を超えた主権者から政権に対する命令だが、非核三原則は政権が選択した政策に過ぎない。いつ変えられるか、甚だ心もとない。

しかも、政府の説明では、従前と同じだというのだが、専守防衛に徹すると言っていた時代と、戦争法が施行になった今とでは、「憲法上、あらゆる種類の核兵器の使用がおよそ禁止されているというふうには考えていない」の意味は大きく異なっている。

朝日の記事によれば、「韓国のネットニュースは『日本政府は、現在は非核三原則を維持しているが、今後、状況の変化によっては核の保有や使用もできるという意味に受け取ることができ、論議を呼ぶことが予想される』(ニュース1)と報じた。」という。

今年1月中旬の韓国世論調査(韓国ギャラップ)では、過半数の54%が「韓国の核武装論」に賛成と回答し反対の38%を上回った。さらには、韓国・中央日報が2月15日付朝刊で発表した世論調査によれば、核武装論に賛成する意見は実に、67・7%で、反対の30・5%を大きく上回ったという。

当然に北朝鮮の核実験やミサイルの開発に刺激されてのことだと思うと、どうもそれだけではないようだ。日本の事実上の核武装を警戒してのことでもあるという。

これも朝日の報道。
「3月27日、東京・御茶ノ水でアジア各地の反核団体が集まる集会が開かれ、韓国からはソウルを拠点にする市民団体『エネルギー正義行動』の李憲錫(イ・ホンソク)代表(41)が参加。李氏は、韓国の原発・核問題の現状を報告する中で、韓国内で論議を呼ぶ「核主権(核武装)論」にも触れた。」
同氏の説明では、「韓国で「核武装」の主張が後を絶たない背景には、北朝鮮の核開発はもちろん、いつでも核兵器を造れる能力を維持しようとしているようにみえる日本の原発・核政策がある」という。

「韓国から見れば、韓国を取り囲むすべての国々が『核兵器』を事実上もっているような状態です。ロシア、中国はもちろん、北朝鮮は核開発を進め、日本も核兵器の原料となるプルトニウムを大量に持っている

「安倍政権の親原発政策が加速度を増しています。日本の核武装に対する憂慮の声が膨らんでいます」。韓国のニュース専門放送局YTNは昨年2月、日本の原発再稼働への動きを報じるニュースで、こう伝えた。安倍政権の発足後、「日本の核武装」のニュースが韓国のメディアに登場している。集団的自衛権の行使容認など「軍事強化」を進める安倍政権は将来的に「核武装」も見すえているのでは、と報じられているのだ

日本は、原発の使用済み核燃料の再処理でできた計47・8トン(2014年末時点)の核分裂性物質プルトニウムを国内外に保有している。プルトニウムは約8キロあれば原爆ができるとされ、日本の保有量は計算上、『核兵器約6千発分に匹敵する』(米核専門家)とも警戒されている。核兵器を持たない国で、核兵器の材料になり得るプルトニウムをつくれる再処理と、ウラン濃縮の双方に取り組んでいるのは日本だけだ。六ケ所村の再処理施設が稼働すれば、プルトニウムはさらに増えるおそれがある。」これが日本を、潜在的核保有国とみる国際社会の根拠なのだ。安倍政権の憲法破壊、原発再稼働と核燃料サイクルの推進が、このような見方を実証するものとなっている。

日本が核廃絶の本気度を世界に示すためには、戦争法を廃止すること、憲法解釈において核兵器は保持できないと確認すること、原発再稼働・核燃料サイクルの推進を断念することが必要なのだ。すべてアベ政権には実行困難なこと。結局は、アベ政権を退陣させることこそ、核廃絶への大道ということなのだ。
(2016年4月11日)

政治家甘利明の対UR口利きを、秘書限りの立件で幕引きしてはならない。

東京地検特捜部は、一昨日(4月8日)甘利明前経済再生担当相の金銭授受問題で、あっせん利得処罰法違反の疑いで、千葉県印西市にある都市再生機構(UR)の千葉業務部と、甘利側に現金を提供した千葉県白井市の建設会社「薩摩興業」、同社の元総務担当だった一色武の自宅を家宅捜索した。捜索は、8日の午後から9日の明け方まで続けられた。なお、今回の捜索対象に甘利氏の事務所や自宅は含まれていないという。

特捜は、これまで既に甘利の元公設第1秘書(清島健一)からも任意で事情を聴いていると報道されていたが、いよいよ強制捜査に踏み切ったのだ。週刊文集のスクープ報道以来、大きな話題となったこの事件。特捜も動かざるを得なくなったということだが、果たしてどこまでの本気度なのかは必ずしも明らかではない。

報道では、被疑罪名はあっせん利得処罰法違反と特定されているが、誰を被疑者としての強制捜査なのか、明らかにされていない。被疑者として可能性のあるのは、甘利明、公設秘書清島健一、政策秘書鈴木陵允、一色武であるが、事件の本命がアベ政権の中枢にあってこれを支えていた「有力政治家・甘利明」であることは明白である。既に切られたトカゲの尻尾の処罰で一件落着着としてはならない。

URとの補償交渉に難航していた薩摩興業(千葉県白井市)が、交渉を有利に運びたいととして有力政治家甘利明(事務所所在地は神奈川県相模原市)に目を付け、これに口利きを依頼して、その見返りとして報酬を支払った。これが事件の大筋であり骨格でもある。有力政治家甘利明の存在あればこその、これを頼っての口利きの依頼である。その口利きは交渉相手において無視し得ず、一定の効果を期待しうるのだ。

要するに、本件ではカネで有力政治家が動いて行政に準ずる団体に口利きをした。その結果として利得するものがあり、その利得の一部が対価として政治家に支払われた。被害者は税金を負担する国民であり、損なわれたものは政治や行政の廉潔性に対する国民の信頼である。政権に近い有力政治家は、かくして汚いカネをくわえ込んで太り、さらに影響力を拡大する。

そのようなカネと政治家との汚い関係が明るみに出たのだ。徹底して、事態を解明し膿を摘出しなければならない。類似の事件はどこにもありそうなことながら、ことの性質上闇に葬られて表には出て来ない。この事件は稀有なこととして、政治家にカネを渡した当事者が自分も罪に服することを覚悟して、事件を明るみに出し証拠をぶちまけたのだ。

もう一つ、稀有なことがあった。普通は秘書レベルで済まされている金銭の授受に、本件では政治家本人が直接関与していたことだ。現金50万円が2度にわたって、一色から直接甘利に手渡されている。しかも、そのうちの1回は大臣室でのこと。これで、甘利を立件できなければ、せっかくの「あっせん利得処罰法」がザル法であることを証明することになる。検察の権威にも関わることにもなりかねない。

政治とカネ、カネと政治家の汚い関係の一角に光が当たって、闇の世界から浮かびあがったこの事件を、けっしてうやむやにしてはならない。秘書や情報提供者だけを立件して幕引きということがあってはならない。

薩摩興業から甘利事務所に動いたカネは、一色の言として1200万円とされている。甘利の秘書が口をきいて、URから薩摩興業に渡ったカネは、2億2000万円と報道されている。UR側は、当初1600万円を適正額としていたが、甘利事務所が介入してからは、1億8000万円に跳ね上がり、さらに2億円となり、最終的には2億2000万なのだ。このままでは、「1200万円程度は安いもの」「政治家は利用のしがいがある」との「教訓」を残したままとなるではないか。

この事件では、2件の告発がある。1件は、社会文化法律センターのものだが、私には告発状を読むことができない。もう1件は、「落選運動を支援する会」によるもの。「甘利明前経済産業大臣(神奈川13区)を次期衆議院選挙における落選対象議員第1号として告発しました」という趣旨での告発である。長文のものだが下記のURLで読むことができる。私も代理人の一人で起案にも関与している。

  http://rakusen-sien.com/topics/5281.html

この種の告発は、報道された事実を整理して法的に再構成するものではあるが、それなりの迫力をもつものとなっている。さらに、告発をしておくことは、万が一被告発人甘利に対する立件が見送られた場合に検察審査会への審査申立ができることに大きな意味がある。

あっせん利得処罰法の内容を確認しておきたい。「あっせん」とは、政治家あるいはその秘書の「行政への口利き行為」をいう。同法第1条は政治家(国会議員)が、あっせん(口利き)行為に関して財産上の利益を収受することを犯罪としている。第2条では政治家秘書についての規定。

同法第1条(公職者あっせん利得)1項の構成要件は以下のとおりである。
(犯罪主体) 衆議院議員、参議院議員又は地方公共団体の議会の議員若しくは長(以下「公職にある者」という。)が、
(犯罪行為) 国若しくは地方公共団体が締結する売買、貸借、請負その他の契約又は特定の者に対する行政庁の処分に関し、
   請託を受けて、
   その権限に基づく影響力を行使して
   公務員にその職務上の行為をさせるように、又はさせないようにあっせんをすること又はしたことにつき、
  その報酬として財産上の利益を収受したときは、
(刑罰)三年以下の懲役に処する。

また、同条2項は、第1項の「国又は地方公共団体」だけでなく、「国又は地方公共団体が資本金の二分の一以上を出資している法人」に対象を拡大して、「前項と同様とする。」と定めている。本件の場合のURはこれに当たるわけだ。
 
各要件の該当性吟味は、告発状をお読みいただきたい。外形的には構成要件該当性は十分に立証可能である。もちろん、共謀の態様や具体的な故意の有無内容など、捜査を遂げなければ詰め切れないことは多々残る。しかし、それでも、甘利についての立件見送りはあり得ないというべきだろう。

国会では、甘利が交渉をリードしたTPP承認案に関する審議が衆院の特別委員会で始まったばかり。当然に国会審議にも影響するだろうし、4月24日投開票の衆院北海道5区補選への影響もあるだろう。しかし、そんなことで検察が捜査を躊躇することは許されない。公訴時効を徒過することなく、厳正な捜査と立件をされるよう、しっかりと見守りたい。
(2016年4月10日)

本日は「東京新聞」の宣伝。

私は、東京新聞とも中日新聞社とも、なんの縁故もない。が、この新聞の読者が増えて欲しいと思う。そのリベラルな論調が、社会に浸透して欲しいと思う。その思いから、本日の紙面を紹介して宣伝に努めたい。

まずは、毎号一面の左肩に定位置を占めている「平和の俳句」。戦後70年企画として始まったヒット連載。

今日の一句は、
  昼下り妻に勝てない指相撲 (村松武徳(73)静岡県袋井市)

いとうせいこうが、「病によって半身マヒの作者。動かない方の手でなく、きっと動く手のことだろう。それでも指相撲に負けてしまい、笑いの出る平穏。」と解説している。このコーナーは、闘いとるべき厳しい平和よりは、のどかな平和のたたずまいが好もしい。

一面の記事では、「舛添都知事、海外出張費計2億円超 就任後2年で8回 共産都議団批判」の見出しが目を引く。
「舛添要一東京都知事が二〇一四年二月の就任後に行った八回の海外出張の経費が、合計で二億一千三百万円に上ることが分かった。共産党都議団が七日、一回当たりの費用は平均二千六百万円余で、石原慎太郎元知事の平均額を一千万円上回っていることを明らかにし、随行職員が多いためだと指摘。「『大名視察』との批判もある。都民の税金で賄われており、必要性を精査して経費節減の徹底を」と改善を求めた。」という都民への注意喚起の内容。

あの傲慢石原慎太郎を上回る金額というのだから、舛添要一恐るべしである。共産党都議団の資料を記事にすることに躊躇しない東京新聞の姿勢を買いたい。

「TPP 首相『丁寧に説明』と矛盾 衆院特別委 民進『隠蔽』と反発」という解説記事も充実している。「七日の衆院環太平洋連携協定(TPP)特別委員会で、TPP担当の石原伸晃経済再生担当相は交渉経過について、約二十回も『コメントを差し控える』などと繰り返した。安倍晋三首相はTPPについて『影響や対策を国民に丁寧に説明していく』と理解を求めたが、民進党は『隠蔽内閣だ』と反発、情報開示に関する追及を強める構え」という内容。論点の解説が分かり易い。

「茨城の元首長ら『安保法廃止を』 参院選へ市民連合」という記事もある。錚々たる呼びかけ人が、参院選だけでなく、次期衆院選での野党統一候補擁立を働きかける動きを報じている。

実は、最も感心したのは、第5面。社説と投書の欄である。
社説は2本。「年金運用損失 なぜ公表を遅らせる」と、「TPP本格審議 透明度を上げ、丁寧に」。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016040802000133.html
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016040802000132.html

どちらも、落ちついた論調で説得力に富む。そして、どちらも鋭い政権批判となっている。とりわけ、「年金運用損失」の社説を読むと、安倍内閣の姑息な姿勢にあらためて憤らずにはおられない。

投書欄は、「発言」の表題。いつも、政府批判の論調というわけではないが、本日の投書は優れている。

「表現自由侵す広告は拒否を」 例の「右派論客らが名を連ねる「視聴者の会」の意見広告について述べたもの。「言論の自由圧殺に肩入れすれば、いつかメディア全体を縛ることになる」という警告。

「伊勢神宮での歓迎行事憂慮」 伊勢志摩サミットでの歓迎行事を伊勢神宮で行うとすれば、明らかな政教分離違反。もってのほかではないか、という盲点の指摘。

そして、「衆参同日選挙の混乱懸念」 同日選の複雑さとそれ故の混乱を懸念して、「そこまでして同日選を行う大義名分があるか」を問うている。 

さらに、「容疑者の卒業取消疑問」の意見。「在学中のデモ参加などでの逮捕歴でも卒業取消ともなりかねない」という指摘に、なるほどと思う。

名物「こちら特報部」今日の記事の一つは、「警官に首を絞められた」《ヘイトスピーチ過剰警備》河野国家公安委員長が謝罪」である。「与党法案、実効性ゼロ」「警察への人権教育を」という小見出しも付いている。

歴史修正主義者・安倍晋三がヘイトスピーチと深く結びついていることは誰もが知ってはいるが、なかなか決定的な証拠は出てこない。今日の記事は、「ヘイトスピーチ問題をめぐっては、レイシストらのデモや街宣を護衛する一方、カウンター側を徹底して規制する警察の対応が非難を浴び続けてきた」という認識を基調に、警備の警察官がカウンター側の女性の首を絞めている写真を掲載して、問題提起したもの。これはインパクトが大きい。今後の追加報道を期待させる。

最後に、コラム「筆洗」も紹介しておきたい。
「世界で一番貧しい大統領」と呼ばれた南米ウルグアイの元大統領ホセ・ムヒカについて。次の個所がこの新聞らしい。
「自由。この人が語るこの言葉には特別な重みがある。彼は反政府勢力の幹部として捕らえられ、十数年間も獄中で過ごした。地面に穴を掘った独房に入れられ、一年余も体を洗えなかったこともあるという。それは狂気と闘う日々だったという。ムヒカさんは口に石を含み、叫び出す衝動を抑えた。穴に入り込んでくるカエルやネズミとパンくずを分け合い、彼らを友とすることで孤独を癒やした。そんな極限の生活を体験したからこそ、地球の資源を食い尽くすような大量生産・大量消費の虚構が見えたのだろう。」

タックスヘイブンで蓄財している政治指導者に読ませたい。海外出張に都民の税金を惜しげもなく2億円も使い込む都知事にも。

全体に紙面が伸びやかで萎縮を感じさせない雰囲気がよい。そして、分かり易く面白い。東京新聞が、この姿勢を続けて多くの読者を得ることができるよう願っている。
(2016年4月8日)

アベ政権迎合の立場からの放送メディア・バッシングに警戒を

例のアベ政治御用集団・「放送法遵守を求める視聴者の会」の蠢動がやまない。
4月1日付で、「TBS社による重大かつ明白な放送法4条違反と思料される件に関する声明」を発表し、記者会見をしている。あろうことか、TBSを標的にスポンサーへの圧力をかけることを広言するに至っている。

アベチルドレンが百田尚樹を招いての会合で、「マスコミをこらしめるには広告料収入をなくせばいい。文化人が経団連に働き掛けてほしい」「悪影響を与えている番組を発表し、そのスポンサーを列挙すればいい」などと気勢を上げて、世論からの厳しい指弾を受けたのは、昨年(2015年)の6月。議員に代わって、今度は右派「言論人」たちが、気に食わないメディアのバッシングに一役買って出たということなのだ。一見在野の如くだが、明らかにアベ人脈の面々。

この声明の一部を抜粋する。カッコ内は私(澤藤)の感想。
「勿論、放送法第4条に定められた『政治的公平性』や『多角的論点の提示』は曖昧な概念であり、このような概念を根拠に政府による罰則を適用するのは極めて危険である。(そのとおり) が、今回のTBSによる安保法制報道は、議論の余地も政府による恣意の介在も許さない、局を挙げての重大かつ明確な放送法違反とみなし得よう。(そんな決め付けが危険ではないの?) 残念ながら、現行の標準的なガイドラインに従えば、TBS社は電波停止に相当する違法行為をなしたと断定せざるを得ないのではあるまいか。(「あるまいか」は「断定」とは矛盾するね) ただし、誤解ないように強調したいが、当会は、政府が放送内容に介入することには断固反対する。(本当? いったいどっちなの?) もしも電波停止のような強大な権限が、時の政権によって恣意的に用いられたならば、民主主義の重大な危機に直結する。いかなる政権も、どんな悪質な事例であれ、放送事業の内容への直接介入に安直に道を開いてはならない。(あなたたちが、その道を開こうと先導しているではないか)」
どうも何を言っているのか、よく分からない。

声明は、TBSが放送法違反を犯したと決めつけたうえで、TBS本社と、「倫理向上委員会を名乗る任意団体BPO」と、「TBSの報道番組のスポンサー企業各位」と、国会のそれぞれに「要望」を申し入れている。

この声明のBPOに対するむき出しの敵意が際立っており、「放送法遵守を求める視聴者の会」の性格をよく表している。

TBSを名指しの攻撃に、さすがにTBSも反論した。昨日(4月6日)付の「弊社スポンサーへの圧力を公言した団体の声明について」とするコメント。短いものなので全文を引用する。

「株式会社TBSテレビ
 弊社は、少数派を含めた多様な意見を紹介し、権力に行き過ぎがないかをチェックするという報道機関の使命を認識し、自律的に公平・公正な番組作りを行っております。放送法に違反しているとはまったく考えておりません。
 今般、「放送法遵守を求める視聴者の会」が見解の相違を理由に弊社番組のスポンサーに圧力をかけるなどと公言していることは、表現の自由、ひいては民主主義に対する重大な挑戦であり、看過できない行為であると言わざるを得ません。
 弊社は、今後も放送法を尊重し、国民の知る権利に応えるとともに、愛される番組作りに、一層努力を傾けて参ります。」

公平・中立を求めるという名目での政権迎合のメディア攻撃。アベ政権が改憲を公言することができるのは、このような政権迎合の輩の蠢動の後押しがあってのことなのだ。

「視聴者の会」の声明自身がいうとおり、『政治的公平性』や『多角的論点の提示』は極めて曖昧な概念であり、どのようにも論じることができる危険を内包している。

このことに関連して、『法と民主主義』の最新号(2・3月合併号)が、「アベ政権と言論表現の自由」を特集している。
http://www.jdla.jp/houmin/

主な記事は、以下のようなもの。
◆安倍政権によるメディア介入と言論・表現の自由の法理………右崎正博
◆情報統制に向かう日本 進む放送介入………田島泰彦
◆安倍政権の圧力とNHK政治報道の偏向………戸崎賢二
◆安倍政権のメディア政策──その戦略と手法………石坂悦男

放送界での最大の問題メデイアは、TBSではなく明らかにNHKである。
「安倍政権の圧力とNHK政治報道の偏向(戸崎賢二)」は、「NHK『ニュースウオッチ9』が報道しなかった事項」を一覧表にまとめている。テレ朝の「報道ステーション」、TBSの「NEWS23」との比較においてである。

テレ朝とTBSの両者が報道して、NHKが報道しなかった事件(あるいは言葉使い)の主なものは次のとおり。
5月20日【党首討論】ポツダム宣言について「詳らかに読んでいない」との安倍総理の答弁
5月28日【衆院特別委】安倍総理「早く質問しろよ」などのヤジ(NHKは翌日報道)
6月1日【衆院特別委】日本に対して攻撃の意思のない国に対しても攻撃する可能性を排除しないとする中谷防衛大臣の答弁
6月1 日 衆院特別委】「イスラム国」に対し有志連合などが行動する場合後方支援は法律的に可能との中谷大臣の答弁
6月中旬 憲法学者へのアンケートほか、「違憲」とする憲法学者が多数であることの報道
7 月1 日 自民党「勉強会」の発言について「威圧」「圧力」という表現使う
7月15日【衆院特別委】採決に「強行」という表現使う
7月29日【参院特別委】戦闘中の米軍ヘリへの給油を図解した海上自衛隊の内部文書について共産党小池副委員長が追及
8月5 日【参院特別委】「後方支援で核ミサイルも法文上運搬可能」という中谷大臣の答弁
8月19 日【参院特別委】安保法案成立を前提とした防衛省文書で中谷大臣の矛盾する答弁を共産党小池副委員長が追及。
8月下旬 ノルウェーの平和学者、ヨハン・ガルトゥング博士が来日、安倍首相の「積極的平和主義」は本来の意味とは違うと批判
9月2日【参院特別委】自衛隊統合幕僚長が訪米した際の会議録について共産党仁比議員が追及
9月17日【参院特別委】採決で「強行採決」という表現を使う

情報源はもっぱらNHKという視聴者がいたとすれば、恐るべく偏頗な情報に操作されていることになる。なるほど、アベ政権と籾井NHK、持ちつ持たれつの関係がよく見えてくる。

このことは、3月31日の参院総務委員会質疑でも話題とされている。民進党の江崎孝議員が、この「法と民主主義」を取り上げて籾井会長らを追及している。上記の一覧表をパネルにして、NHKの報道姿勢の偏向ぶりを問題としたのだ。

「NHK」対「テレ朝・TBS」の対立の構図。けっしてそれぞれの側の応援団が相互に批判し合って、水掛け論になっているのではない。中立や公平という用語は、すべてを相対化してしまう危険を内包している。視聴者が真に関心をもつべきは、時の権力に不都合な事実が萎縮することなく放送されているか否か、という一点である。

真実を曇らせる力をもつものは権力である。その権力に遠慮も迎合もすることのない姿勢があってこそジャーナリズムと呼ぶにふさわしい。権力は、自らの正当性を訴えるのに十分な情報発信力をもっている。放送において、臆するところのない権力批判に圧倒的なスペースが割かれて当然なのだ。その基準からは、明らかにNHKがおかしい。TBSはそれよりはマシで、当たり前というだけのこと。

「視聴者の会」はアベ政権の外にあって、アベ改憲政権のお先棒担ぎ。この蠢動に動じてはならないが、軽視してもならないとおもう。
(2016年4月7日)

差し迫った参院選に向けて、「野党は共闘!!」という市民の声。

今、政治のすべてが7月参院選挙をにらんで動いている。総選挙との同日選になる可能性も高いとされ、7月政治決戦の重大性は高まるばかり。仮に同日選となり、両院とも改憲勢力が3分の2の議席を占めることになれば、一気に明文改憲の気運が高まることにもなりかねない。

明文改憲は、取り返しのつかない政治的後退と考えざるをえない。日本国憲法の「改正」とは、立憲主義・平和主義・人権保障・民主主義が大きく損なわれることにほかならない。「小異を捨てて大同につく」とした場合、「改憲阻止」以上の大同はない。いまや、安倍政権とその追随勢力が明文改憲を強行しようという事態である。すべての政治勢力は改憲派と護憲派に二分される。それ以外はないのだ。

7月政治決戦において改憲に必要な議席を獲得すべく、与党勢力は不人気の政策を選挙後に先送りして失政隠しに余念なく、ひたすらにバラマキを狙っている。一方、院内では守勢に立つ野党は、小異を捨てた選挙協力によって、改憲にストップをかけようとしている。いまや、日本の命運が野党の選挙協力の成否にかかっていると言って過言でない。

一昨日(4月3日)の毎日新聞トップ記事が、参院選の野党共闘進展の模様を伝えている。見出しは、「野党一本化、15選挙区…32の1人区 本紙調査」というもの。これが、全国の最新情勢と見てよいだろう。

「夏の参院選に向け、全国で32の「1人区」(改選数1)のうち15選挙区で民進党と共産党を中心にした野党の候補者一本化が確実になったことが分かった。両党による協議が進んでいる選挙区も10あり、「統一候補」はさらに増える可能性が高い。参院選では1人区の勝敗が選挙戦全体の結果を左右する傾向が強く、2013年の前回参院選で『自民党一強』を選んだ民意が変わるかどうかが注目される。」

毎日は、32の「1人区」を野党の選挙協力成否に関して3分している。

合意成立 15区
青森・宮城・山形・栃木・新潟・福井・山梨・長野・「鳥取島根」・山口・「徳島高知」・長崎・熊本・宮崎・沖縄

協議中 10区
岩手・秋田・福島・富山・三重・滋賀・和歌山・岡山・佐賀・大分

難航 7区
群馬・石川・岐阜・奈良・香川・愛媛・鹿児島

これはまずまずの朗報ではないか。昨年(2015年)の戦争法反対運動の中での市民のコール「野党は共闘」が、このような形で実を結びつつあるのだ。

毎日は次のようにもいう。
「13年参院選の1人区(当時は31選挙区)で29勝2敗と圧勝した自民党は、野党の動きに警戒を強めている。」

「単純には比較できないが、13年参院選の結果を基に試算すると、15選挙区のうち宮城、山形、栃木、新潟、山梨、長野の6選挙区で野党の合計得票数が自民党を上回る。」

なお、逆転は「協議中」の三重を入れれば7選挙区となる。他の選挙区も、共闘の相乗作用で勝機が出てこよう。参院一人区は小選挙区制なのだから、野党の選挙協力なき限り、与党圧勝となるのだ。明文改憲が日程に上る情勢では、野党は選挙協力をするしかなく、反自民で野党の選挙協力ができれば、小選挙区効果で底上げの議席に胡座をかいている与党に大きな打撃を与えうることになる。

アベノミクスの失敗による地方の疲弊。TPPのウソ。原発再稼働の強行。平和や民主主義の危機…。安倍政権に魅力的な政策はないでないか。共闘の成果は、大きく情勢を変えるものとなるだろう。

選挙協力しても野党に失うものはないように見えるところだが、合意成立難航の理由については、このように説明されている。
「逆に協議が難航しているのは7選挙区。民進党や連合の県組織に共産党へのアレルギーが強いのが主な原因だ。奈良では民進、共産両党が協力を探っているものの、おおさか維新の会が候補者を擁立するため、野党票が分散する。一方、愛媛では今後、民進党の元衆院議員擁立で野党がまとまる余地がある。」

市民が共闘を願っているこのときに、野党各党の改憲阻止本気度が問われている。共産党アレルギーが共闘の障害とは情けない。おそらくは、市民からの手痛い批判を免れないだろう。全国的に、野党の選挙共闘が進展すれば、「難航7区」の情勢も変化せざるを得ない。

本日(4月5日)になって、「難航7区」のうちの愛媛選挙区での野党統一候補擁立が報道されている。また、「協議中10区」のうちの富山でも、「今月中旬にも野党統一候補擁立へ」の報道がなされている。地元テレビが報じるその共闘協議のあり方が、たいへんに興味深い。

候補者調整の主役は、「アベ政治を許さない!戦争法反対!野党共闘を求める オールとやま市民会議」である。「オールとやま」が、民・共・社・生の4党に呼びかけて、協議を重ね、本日(4月5日)時点で、民・共ともに独自候補擁立を断念し、4党が「オールとやま」推薦の「政党色のない清新な統一候補」擁立に原則合意したというのだ。富山から目が離せない。毎日が報じた「最新情勢」も急速に動きつつあるのだ。

野党共闘の動きに与党は戦々恐々というところ。「ばらばらだったものがまとまった時に野党票が大きく上向く可能性はあり、脅威だ」というのが、ホンネのところ。タテマエとしては、「何のために野党共闘を作り上げるかの大義名分も不鮮明だ。国民の信頼は向かない」という野合論が語られている。

野党内の政策の違いは当然だ。当選した統一候補が、議会の審議において、民・共どちらの立場に立つか、難しい局面におかれることも当然にあるだろう。それでも、その程度のことを小異として共闘しているのは、もっと大きな大義があるからなのだ。その大義とは、「アベ政治を許さない!戦争法反対!」そして「憲法改悪阻止」である。

解釈改憲による戦争法に反対。その廃止法成立を求める立場においての共闘が必要であり、明文改憲阻止がその次の問題点。その理念で議員としての活動があれば、あとは各議員の判断に任せればよいことではないか。敏感に世論に耳を傾け、自分の判断で発言し行動する議員が増えることは大歓迎だ。

私はひそかに思っている。こうなるのではないか。
各地での選挙協力協議の推進⇒各地での選挙準備活動の活発化⇒各地相互の波及効果⇒全国での選挙協力合意促進⇒議会内での野党活動原則の確認⇒議会外での市民運動の活発化⇒各野党の党勢拡大⇒参院選勝利⇒総選挙への波及⇒改憲阻止⇒安倍退陣⇒日本の民主主義と立憲主義の前進
これこそ「好循環」ではないか。
(2016年4月5日)

「誰一人、置いてきぼりにしない」北海道5区の池田まき候補に注目

北海道5区の衆議院補欠選挙の日程が間近だ。4月12日告示24日投開票。この選挙の意味が大きい。参院選の前哨戦でもあり、野党共闘成功の試金石でもある。この選挙結果が衆参同時選挙の有無を決めることになるかも知れない。今後の情勢を大きく変えうる選挙として注目せざるを得ない。

北海道5区とは、札幌市厚別区、江別市、千歳市、恵庭市、北広島市、石狩市、当別町、新篠津村の地域。有権者455,720人。

補欠選挙は、町村信孝前衆院議長の死去に伴うもの。自民党は亡町村信孝の次女の夫を立てての「弔い合戦」。これに対抗して「安全保障関連法廃止を目指す野党統一候補」となっているのが、無所属新人池田まき(43歳)。どのメディアも、「池田まき急追」「大接戦」の報。当然のことながら知名度はイマイチだが、清新さでは断然リード。

下記URLが、池田まき公式WEBサイト。政治家らしくなく、候補者らしくない、同候補の好感度は抜群と言ってよい。
  http://ikemaki.jp/

 「ずっと平和を。もっと安心を。北海道5区から日本を変えよう」
これが、同候補のメイン・スローガン。
そして、同候補の最大の強みは、福祉の現場で働いてきたこと。多くの人の生活苦や不幸と直接に接してきたことである。

同サイトでは、こんな挨拶文を読むことができる。
 「飢餓、貧困、格差、紛争、難民、テロ。
  立憲主義、民主主義の危機。
  世界の、そして日本の大きな課題です。

  強い者による強い者たちのための政治が、
  こうした問題を深刻化させています。
  権力の暴走を止めなければなりません。
  声なき声をもよく聞き、政治に反映させなくてはいけません。
  『誰一人、置いてきぼりにしない』
  『誰もが安心して暮らせる社会をつくる』

  私、池田まきはそれをモットーに、福祉の現場で、
  既成概念にとらわれず、行動を起こしてきました。
  さらに、環境、経済、政治など広い分野で
  社会的な危機の解決に取り組んでいくために。
  ここ北海道から、より良い日本をつくりたい。
  池田まきは、皆さんと共に、
  平和、いのち、暮らしを守る戦いに挑みます。」

『誰一人、置いてきぼりにしない』は、手垢の付いた政治家には言えないセリフ。「安保関連法案に反対するママの会」の名言、「だれのこどもも、ころさせない」を連想させる。野党共闘候補としてまことにふさわしいものではないか。

北海道新聞が同候補の人となりを詳報している。
「池田氏 虐待、夫蒸発…壮絶な半生あえて語る」という見出し。およそ、二世候補などとはまったく違う生い立ち。政治家になるべく育ったのではない。恵まれない家庭に生まれ、社会に翻弄された「普通の生活者」が政治の世界に跳び込もうというのだ。

「子供時代は平和な家庭でなかった。今でいうDV(ドメスティックバイオレンス)。社会は助けてくれず、いつも空を見ていた。」
「幼いころから、父親によるDVは日常茶飯事。母親、妹とともに、暴力を受け続けた。中学時代には父親から避難するため、4人家族がバラバラになった。18歳で結婚した。2人の子どもに恵まれ、やっとつかんだ幸せも、わずか2年で夫が借金で蒸発。シングルマザーとして生活保護を受けながら介護ヘルパーなどの資格を取得し、東京都板橋区職員に採用された。」
「安全保障関連法廃止を目指す野党統一候補として脚光を浴びるが、政治家を志した原点は福祉だ。生きづらさをばねにはい上がり、当事者目線で福祉の仕事をしてきた自負がある。」
こんな候補者なら、応援したくなるではないか。

2014年12月の前回(第47回総選挙)北海道第5区の選挙結果は、以下のとおりだった。なお、投票率は58.43%。

当 町村信孝 70 自民(公明推薦) 前 131,394票 50.9%
  勝部賢志 55 民主党       新 94,975票 36.8%
  鈴木龍次 54 日本共産党    新 31,523票 12.2%

単純な票数合計なら、「自・公」対「民・共」は自公若干有利ながらもほぼ互角。但し、今回の自民公認(公明推薦)候補は、町村後継の強み。「弔い合戦」の有利もある。これに対して、反安倍統一候補は、選挙協力の相乗効果を生かせるかどうかがカギ。

相乗効果ならぬ「相殺効果」が生じることもある。民共各支持者の意見が余りに違い、各党の公認候補なら投票するが、共闘候補では投票の意欲が湧かないという場合だ。あるいは、共闘を至上目的として候補者を選任した結果、結局魅力ある共闘の候補者を得られなかった場合など。そんな場合は、共闘候補の得票数は、民・共それぞれ単独立候補の場合の想定得票数に及ばぬことになる。

しかし、今回の場合その心配はなさそうだ。何よりも、共闘の大義がある。非立憲安倍政治の暴走を許すなという広範な市民層に後押しされての共闘である。大きな相乗効果が期待できるのではないか。

前回選挙で、日本共産党候補に投票した3万人余の多くは、死票になることを覚悟で同党への支援アピールの投票であったろう。反自民候補当選の可能性が低いことから、投票の意欲を失った有権者もすくなくなかったのではないか。これらの有権者が今度は、共闘候補に投票するだろう。何しろ、民共の統一候補ならば、現実に当選の可能性が出て来る。この可能性は選挙活動のモチベーションを上げることになるだろう。

私はひそかに思っている。
 北海道5区選挙共闘成功⇒緒戦の勝利⇒参院選野党選挙共闘の進展⇒参院選での野党共闘勢力の勝利⇒衆院小選挙区での選挙共闘の進展⇒総選挙での野党共闘の勝利⇒自民改憲断念⇒安倍退陣

これを、「好循環」という。アベノミクスへの期待が蜃気楼として消えつつある今、このような好循環はけっして夢でも幻でもないと思うのだが。
(2016年4月4日)

目取真俊を支えているオール沖縄の反基地運動

米軍による目取真俊の「身柄拘束」と引き続く海保による逮捕。辺野古基地建設反対運動への弾圧として憤っていたが、比較的早期の釈放となったことにまずは胸をなで下ろしている。

海保は、逮捕後すみやかに送検したようだ。送検を受けた検察の持ち時間は24時間。この間に、裁判所に勾留を請求するか釈放しなければならない。結局検察官の判断によって、勾留請求なく身柄の釈放に至った。

もっとも、不起訴処分となったわけではない。刑特法2条を被疑罪名とする嫌疑については処分保留のままで、法的には捜査が継続することになる。早期不起訴を求める世論形成が必要な事態なのだ。

4月2日の東京新聞が、一面と社会面に取り上げ、「芥川賞作家を海保逮捕」「米軍拘束」「辺野古制限区域 海上抗議で初」「『刑事事件化は異常』」という見出しで記事を掲載した。目取真の写真だけでなく、「仲間を返せ、と抗議の声を上げる」現場の写真も付けてのことである。この扱いが事件の大きさを正当に反映したものだろう。毎日も、社会面で記事にし、浅田次郎と又吉栄喜の目取真に寄り添ったコメントを掲載した。

ところが、朝日の扱いがあまりに小さいことに驚き、赤旗には掲載がなかったことに焦慮を憶えた。その上で、ネットで検索した限りで不当逮捕への抗議行動の規模が予想ほどのものでなかったのかと早とちりをしてしまった。今日(4月3日)の赤旗で、共産党の赤嶺政賢も抗議行動に駆けつけたことを知った。社民党の照屋寛徳も、そして沖縄平和運動センターの大城悟事務局長も海保(11管)現場での抗議行動に参加して、「オール沖縄、オール日本の取り組みで基地建設を止めていこう」と訴えていたことを確認して安心した。

私の早とちりは、目取真が「危険な匂い」のする作家であることからきている。もしかしたら、オール沖縄の運動体の一部に、この危険な匂いを敬遠する思いがありはしないかという危惧があった。

けっして熟した表現ではないが、「不敬文学」というジャンルの提唱がある。不敬とは、かつて日本の刑法に存在していた「不敬罪」の、あの不敬である。大日本帝国は支配階級の調法な統治のツールとして天皇制を拵え上げた。人民支配の道具としての天皇制は、一面精神的な支配として「一億の汝臣民」をマインドコントロールするものであったが、これにとどまらない。マインドコントロールの利かない者を暴力で押さえ込んだ。その野蛮な暴力の法的根拠の最たるものが不敬罪である。

敗戦後制度としての不敬罪はなくなった。しかし、「不敬」は死語になることなく、いまだに隠微に生き続けている。天皇や皇族への批判の言論は不敬としてタブーとなっているのだ。世渡り上手はタブーと上手に付き合うことになる。売れっ子作家がタブーに触れることはない。天皇や皇族を語るときには、世の良識にしたがって、当たり障りのないことを述べて済ますのだ。そのことがタブーを再生産することになる。

しかし、作家とは本来危険な存在である。必要あれば、タブーに切り込むことを敢えて厭わない非妥協性をもたねばホンモノではない。「不敬文学」とはそのようなホンモノに対する敬意を込めた造語にほかならない。

沖縄の歴史を紐解くときに、天皇や天皇制との対峙なくして語ることはできない。もちろん日本全国においても同様というべきではあるが、沖縄は間違いなく格別である。沖縄の民衆の意識の深層を掘り起こすときには、天皇タブーに触れることが避けられない。このとき、タブーを意識して心ならずも妥協するか、敢然とタブーに切り込むか、表現者としてのホンモノ度が問われる。

目取真は間違いなく、非妥協派の一人である。昨日(4月2日)の毎日が解説記事の中で代表作の一つとして挙げた「平和通りと名付けられた街を歩いて」がその典型とされている。皇太子(現天皇)夫妻の2度目の沖縄訪問を舞台として、この二人に沖縄戦の記憶を深層に宿している沖縄の民衆を対峙させ、皇室の聖性や虚飾を剥ぎ取ろうとするタブーへの挑戦は、目取真の真骨頂と言えよう。

もちろん、ブログを見れば分かるとおり、目取真の運動に関する発信は極めて真っ当であって物議を醸す要素はまったくない。しかし、「オール沖縄」とは当然に保守層をも含んでいる。革新層にも、統一のために保守層への配慮を過度に重視する傾向もあるのではないか。目取真の位置を私ははかりかねていた。もしかしたら、いざという局面では、「オール沖縄」の目取真に対する視線は冷たくなるのではないか。

私の危惧は杞憂に過ぎなかった。「オール沖縄」は目取真の強靱な精神をしっかりと抱え、支えている。この広さと深さこそが、強さの根源であろう。あらためてオール沖縄の団結のあり方に敬意を表したい。
(2016年4月3日)

4月1日の日米首脳密談

【ワシントン発USO】訪米中の安倍晋三首相は本日(4月1日)、ワシントンでオバマ米大統領と会談した。会談は2度行われ、2度目の会談は秘密会談として行われた。

 秘密会談では、冒頭オバマ氏が安倍氏に対して、沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の移設を巡る訴訟で、日本政府と沖縄県が和解して移設工事が中断していることを重大な問題として指摘し、「移設計画が大幅に遅れることが必至ではないか。このことは日米間の信頼関係に重大な影響を及ぼすことになる」と叱責した。

 これに対して、安倍首相は「普天間基地の名護市辺野古への移設は沖縄県民の強硬な反対世論によって、これを強行することは到底不可能な事態に立ち至っている。辺野古基地新設工事は、現在中断しているにとどまらない、実は断念せざるをえない」ことを説明し、アメリカ側の理解を求めた。

 オバマ氏は大いに驚き、「辺野古への移設が不可能であれば、世界一危険な飛行場と言われる普天間は、いつまでも現状維持となることを沖縄県民は覚悟しなければならない」と述べたが、ここで安倍氏のさらに驚くべき発言が続いた。

 「普天間を現状のまま放置する選択肢はあり得ません。もし、そんなことを私の口から言えば、沖縄県民の反米・反政府感情が沸騰するというだけではなく、安倍内閣が崩壊を免れません。県内移設は断念というだけでなく、普天間基地の維持も諦めざるを得ないのです。是非とも、このことをご了解ください。」「軍事専門家も、今や必ずしも沖縄に海兵隊基地を維持する必要はないと言っていることもあり、この際に辺野古移設を断念するだけでなく、普天間基地の全面撤去もやむを得ないと判断した次第です。」

 さらに、安倍氏はこうも続けた。「今、辺野古移設を強行した場合には、安倍政権が7月の国政選挙で勝てないというだけでなく、反米的な政権に取って代わられる危険さえあります。日本には『急がば回れ』ということわざがあります。あるいは、『損して得取れ』『小の虫を殺して大の虫を活かせ』などとも言います。小の虫に過ぎない沖縄の海兵隊基地維持はすっぱりと諦めて、親米安倍政権の存続という『大の虫』を生かしていただくよう伏してお願い申しあげます。」

 オバマ氏は、苦虫を噛み潰したような表情でしばらく沈黙したあとに、このように発言した。「私は、レームダック状態にありながらも、キューバと国交を回復することで、多少は後世に名の残る仕事をした。辺野古移設の断念と、移転先なしの普天間基地撤去によって懸案の抜本解決ができるのであれば真剣に考えてみよう」

さらに、もう一つの議題である環太平洋パートナーシップ協定(TPP)についてオバマ氏は、「公開の会談では、『これが最優先の議会(承認)案件だ』としたが、実は議会の承認は無理な情勢だ。また、次の大統領に誰が就任するにせよ。今の大統領選での論戦をみていれば、新大統領がTPP推進の立場に立つとは到底考えられない。」と述べて、一転して悲観的な状勢認識を吐露した。

これに対して、安倍氏も「実は、TPPは我が国でもすこぶる評判が悪い。我が国でも、TPPの承認を強行すれば、政権がもたないと心配せざるを得ないのです。」「加えて、TPP担当大臣が、あっせん利得処罰法違反を指摘されて立件されかねない立場にあり、後任大臣が無能で知られた人物となったのです。」「そんなわけで、TPPも強行すれば安倍政権の命取りとなりかねないのです。」と応じ、両首脳は、表面上はともかく真意のところではTPP承認の推進を見送る方向で一致した。

さらに、安倍首相から、オバマ氏に対して、2点の要請があった。
ひとつは、5月に開かれる主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)において、伊勢神宮を公式行事の場として使用することは日本国憲法の政教分離原則に抵触することになるので、伊勢神宮との公的な接触は厳に避けていただきたいとの要請があり、オバマ氏はこれを了解した。

また、公開の会談においてオバマ氏が「自分が大統領として日本を訪問するこの最後の機会に、日米関係をさらに良くする努力をしたい」と述べたことに関連して、安倍氏はこう提案した。

「そのようなご努力の一環として、是非とも、広島の原爆資料館だけでなく、東京夢の島の第五福竜丸展示館を訪問の上、日本人の核なき世界への強い願いをご理解いただきたい」。この唐突な提案に対してオバマ氏は、極めて意外なことを聞かされたとの様子をみせながらも、大いに喜んで「せっかくのお申し出を実現する方向で検討させていただきたい」と応じた。

会談はこの間1時間近くに及び、前半は不穏な雰囲気であつたが、最後は両者笑みをかわして面談を終えた。

なお、最後に、オバマ氏からこの秘密会談の内容については議事録を作成しないこと、秘密は厳格に守るべきことの確認を求め、安倍氏はこれに応じた。したがって、以上の内容が公表されることはない。
(2016年4月1日)

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