澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

民主主義の欠如⇔人命の軽視⇔平和に対する脅威

(2023年1月4日)
 暗いニュースばかりが続く。本日、読売に「北朝鮮、李容浩元外相を処刑か…在英国大使館勤務経験の外務省関係者らも」という記事。この人、北朝鮮の核問題を巡る6か国協議の首席代表だった。北朝鮮を代表する米国通の外交官として知られ、米トランプ前政権との非核化交渉にもあたった人物だという。それがなぜ粛正。

 「昨年夏から秋頃」だというこの人の処刑と前後して、いずれも英国大使館勤務経験の外務省関係者4〜5人も相次ぎ処刑されたとの情報もあるという。粛清理由か明らかではないだけに、野蛮な権力の不気味さや恐怖が募る。人の命を大切にしない国は本当に恐い。

 野蛮さではイラン政府も負けてはいない。「ヒジャブ」抗議デモ参加者や連帯の意思表明者を逮捕するだけではなく、次々と死刑を宣告し執行している。しかも、クレーンに吊しての公開絞首刑だ。いたましいことこの上ない。政権批判を抑え込むための徹底した弾圧だが、人々に政権への怨念を募らせることにならざるを得ない。この事態に、命を掛けて抵抗運動に立ち上がる人々の姿勢に胸が熱くなる。

 ロシアが占領するウクライナ東部ドネツク州マキイウカで1日未明に、ロシア軍臨時兵舎がウクライナにミサイル攻撃された件について、ロシア国防省は当初63人死亡と発表していたのを、4日朝、少なくとも89人が死亡と再発表し、複数のロシア兵が携帯電話を使用していたから、攻撃目標とされたとの見方を示した。ウクライナの戦果に、思わず快哉を叫びたくなる自分の気持ちが恐い。動員されたロシアに同情せざるを得ない。

 そのロシアについて、本日の毎日夕刊に、「今年の『10大リスク』ロシア首位 『世界で最も危険なならず者国家』 米調査会社報告書」という記事。

 国際政治のリスク分析を行う米調査会社「ユーラシア・グループ」は3日、今年の「10大リスク」をまとめた報告書を発表した。首位にウクライナ侵攻を続けるロシアを挙げ、「世界で最も危険なならず者国家になる」と指摘。核兵器による威嚇を強め、サイバー攻撃などを通じた「非対称戦争」に転じると予測している。

 報告書は、欧米の武器供与を受けたウクライナの防衛力を前に「(ロシアには)戦争に勝つための有力な軍事的な選択肢は残されていない」と指摘。欧米を不安定化させるため、ロシア系ハッカーによる政府や企業へのサイバー攻撃、インフラの破壊工作、偽情報の拡散を通じた選挙妨害などを強めると予測した。何よりも核兵器使用の恐怖は拭いようがない。やはり、プーチンのロシアは恐ろしいのだ。

 今年の『10大リスク』の2位は、中国共産党総書記として異例の3期目に入った習近平。昨年の「10大リスク」のトップは、中国の「ゼロコロナ」政策の失敗だったという。習近平、今年はプーチンに後塵を拝したことになった。それでもなお、権力集中を「極限」まで進める彼にはチェック機能が働かず、「重大な間違い」を犯すリスクが高いと指摘され。「現代の皇帝」が下す決定によって、公衆衛生や経済、外交の3分野でリスクがあると説明されている。

 北朝鮮・イラン・ロシア・中国だけでない、ミャンマーも、アフガニスタンも、…。民主主義のない国が、人命をないがしろにする。民主主義のない国が世界の平和の脅威となる。民主主義のない国、報道の自由のない国ほど恐ろしい。そこでは、抑制の効かない権力の横暴が暴走するのだから。 

年の瀬に、旧年を振り返る。

(2022年12月30日)
 2022年が間もなく暮れてゆく。この年を振り返って、世界を揺るがした最大の出来事は、疑いもなく「プーチン・ロシア」によるウクライナ侵略である。事前には、まさかそんなことが現実にはなるまいと楽観していただけに、衝撃は大きかった。

 2月24日の開戦以来、無数の人が無惨にも殺され傷付けられた。戦闘員も非戦闘員も、男も女も老人も子供も。多くの家が焼かれ、街が焼失し、家族が引き裂かれた。故郷を追われて逃げざるを得ない人が難民となって世界に散らばった。どこの国でも、殺人・傷害・放火・略奪の犯罪となる行為が、戦争の名で大規模に実行された。悲惨な歴史が繰り返されている。人類は、少しも賢くなっていないのだ。

 この戦争の勃発が、我が国の安全保障に関する世論や政策に与えた影響も衝撃だった。右派勢力は大声で叫んでいる。「9条が前提とする国際環境は崩壊した」「9条の理念では国を守ることができない」「国民自身が、自らの国を守る覚悟をもたねばならない」「軍備の充実なくして国家の安泰はない」「防衛費を倍増せよ」

 さらには、具体的にこうも言う。「今日のロシアは、明日の中国であり北朝鮮である」「中国・北朝鮮からの攻撃に備えよ」「防衛力の整備こそが、敵の攻撃の意図を思いとどまらせる」「古来言われているとおり、『平和を欲せば戦争の準備が必要』なのだ」。

 だから、「専守防衛論は、今や誤りである」「敵基地攻撃能力の保有こそが不可避の安全保障政策である」「敵基地とは、ミサイル発射基地のみを意味するものではない。戦略的指揮系統の中枢を含むものでなくては意味がない」「自衛力を最小限度の実力に限定してはならない」「敵の攻撃が確認された後にのみ反撃できるとするのでは遅く実効性に欠ける」「敵が攻撃に着手することが明確になれば、躊躇のない反撃ができなくてはならない」

 かくて、攻撃的な武器の取得を自制してきた防衛政策は大転換されようとしている。スタンドオフミサイルを備えようというのだ。1機2億とも3億とも言われるトマホークを500機も購入するという。

 この道は、いつか来た道だ。暴支膺懲、鬼畜米英…。いつも我が国のみが正しい。我が国の軍備は自衛のためのやむを得ないもので、邪悪な諸国が我が国を狙っている。自衛のための装備の充実、自衛のための攻撃能力、そして、自衛のための先制攻撃。

 こうして、相互が軍事優越を求めての悪循環に陥る。安全保障のジレンマこそが、悪魔のささやき、唆しである。こうなってはならないとするのが、9条の理念である。今、その実効性が試されてる時を迎えている。

 そして、今年の国内ニュース最大の衝撃は、7月8日の安部晋三銃撃事件である。第一報での背筋の寒い思いは、テロの時代の到来かという恐怖感だった。幸い、この銃撃は、政治的な主張貫徹のための殺人ではなかった。その後に続く報復的なテロは起きていない。宮台真司襲撃事件の未解決が気がかりではあるが。

 この事件の影響はまったく思いがけないものとなった。銃撃事件の被害者が悲劇の殉教者に仕立て上げられるのではと一瞬は考えた。保守政権は、当然にそのような思惑で動いた。改憲を悲願とした国家主義政治家安倍晋三をテロの殉教者とすれば、改憲に国民意識を動員できるだろう。おそらくはこのような思惑からの政治利用が安倍国葬強行の動機であったろう。

 しかし、この政治利用は成功しなかった。世論は銃撃犯の動機に同情し、安倍晋三は銃撃犯に象徴される多くの統一教会信者の悲劇への加害者と捉えられた。しかも、岸信介、安倍晋太郎、安倍晋三の3代にわたるカルトとの深い結びつきが国民の目に晒されることとなった。

 安倍晋三だけではなく、自民党そのものの加害責任を問う声が高まる中で歳を越すことになる。年明け、銃撃犯山上徹也が起訴されてその刑事訴訟が始まる。統一教会と安倍晋三との関係が、さらに深く暴かれることになるだろう。統一教会への解散命令請求も避けて通ることのできない事態に立ち至っている。そして、統一教会が起こしたスラップ訴訟には、私も関与している。

 気候変動問題に展望は開けない。コロナもおさまらない。日本の経済力は長期低落の中で危機的な状況だという。国民生活の低迷と格差の開きは厳しい。原発再稼働のみならず造設問題には腹が立つばかり。政治とカネの醜悪な関わりは、いっこうに改善されない。日本学術会議問題や大学の自治も心配でならない。国家主義の傾向進展も危うい。ヘイトや差別の問題も解消にはほど遠い…。

 問題山積の年の瀬である。嘆いてばかりはいられない。力を合わせて何とかしなければならない。微力な者どうしで。 

プーチンそっくりのヒロヒト。いや、ヒロヒトそっくりのプーチン。

(2022年12月8日)
 81年前の本日早朝、当時臣民とされていた日本国民はNHKの放送によって、日本が新たな大戦争に突入したことを知らされた。同時に、パールハーバー奇襲の戦果の報に喝采した。こうして、国民の大半が、侵略者・侵略軍の共犯者となった。実は、本年2月24日のロシア国民も同様ではなかったか。

 1941年12月8日付官報号外に、「米國及英國ニ對スル宣戰ノ詔書」、通称「開戰の詔勅」が掲載されている。何とも大仰で白々しい「美文」に見えるが、実は典型的な「駄文」である。句点も読点もなく難読字の羅列でもある原文の掲載は無意味なので、「訳文」を掲出しておきたい。

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 天の助けるところとして代々受け継がれてきた皇位の継承者である大日本帝国天皇は、忠実で武勇に優れた、我が家来である全国民に告げる。

 私・天皇は、米国と英国とに宣戦を布告する。陸海軍将兵は全力を奮って闘え。官僚はその職務に励め。その他の国民も各々その本分を尽くし、一億の心をひとつにして、国家の総力を挙げてこの戦争の目的達成のために努力せよ。

 そもそもアジアの安定を確保して、世界の平和に寄与する事は、代々の願いであって、私も常に心がけてきた。各国との交流を篤くし、万国の共栄の喜びをともにすることは、帝国の外交の要としているところである。ところが、今や不幸にして、米英両国と争いを開始せざるを得ない事態に至った。誠にやむをえないところであるが、けっして私の本意ではない。

 中華民国は、以前より我が帝国の真意を理解せず、みだりに闘争を起こし、アジアの平和を乱し、ついに帝国に武器をとらせるに至らしめ、以来4年余を経過している。幸いに国民政府は南京政府に変わった。帝国はこの新政府と誼を結び提携するようになったが、重慶に残存する政権は、米英の庇護を当てにし、兄弟である南京政府と、未だ相互にせめぎ合う姿勢を改めない。
 
 米英両国は残存する蒋介石政権を支援して、アジアの混乱を助長し、平和の美名にかくれて、東洋を征服する非道な野望をたくましくしている。しかも、味方する国々を誘い、帝国の周辺において軍備を増強して我が国に挑戦し、更に帝国の平和的通商にあらゆる妨害を与え、ついには意図的に経済断行をして、帝国の生存に重大なる脅威を加えている。

 私・天皇は政府に事態を平和のうちに解決させようと、長い間忍耐してきたが、米英は少しも互譲の精神がなく、むやみに事態の解決を遅らせようとし、その間にもますます経済上・軍事上の脅威を増大し続け、それによって我が国を屈服させようとしている。
 このような事態が続けば、アジアの安定に関する我が帝国の積年の努力はことごとく水の泡となり、帝国の存立もまさに危機に瀕している。ことここに至っては、帝国は今や自存と自衛のため、決然と立ち上がって一切の障害を破砕する以外にない。

 祖先神のご加護をいただいた天皇は、その家来たる国民の忠誠と武勇を信頼し、祖先の遺業を押し広め、速やかに禍根をとり除いてアジアに永遠の平和を確立し、それによって帝国の栄光を実現しようとするものである。
 裕 仁  印
  1941年12月8日

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 こんな言い回し。最近、どこかで聞いた憶えはないだろうか。そう、プーチンのウクライナ侵攻の日の演説。あれとそっくりなのだ。ただし、プーチンの演説は長い。そして、さすがに裕仁の「詔書」よりは格段の説得力がある。

 どちらも、まずは国民に呼びかける。そして自国の正義と、相手国の非道を延々と訴える。自国は、忍耐に忍耐を重ねてきた。しかし、もうその限界を越えざるを得ない。このままでは、自国の生存が危殆に瀕するからだ。すべての責任は敵側にある。このやむを得ない事情を理解して、国民よともに闘に立ち上がろう。

 この言い回し、裕仁とプーチンだけではない。いま大軍拡を進めようとしている、改憲勢力の想定レトリックであるのだ。権力者がこんな言い回しを始めたら、危機は深刻だと思わねばならない。

 長文のプーチン演説を抜粋してみる。訳文の出典はNHKである。

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 親愛なるロシア国民の皆さん、親愛なる友人の皆さん。

 この30年間、私たちが粘り強く忍耐強く、ヨーロッパにおける対等かつ不可分の安全保障の原則について、NATO主要諸国と合意を形成しようと試みてきたことは、広く知られている。私たちからの提案に対して、私たちが常に直面してきたのは、冷笑的な欺まんと嘘、もしくは圧力や恐喝の試みだった。

その間、NATOは、私たちのあらゆる抗議や懸念にもかかわらず、絶えず拡大している。それはロシアの国境のすぐ近くまで迫っている。
なぜ、このようなことが起きているのか。私たちの国益や至極当然な要求に対する、無配慮かつ軽蔑的な態度はどこから来ているのか。
答えは明白。すべては簡単で明瞭だ。

1980年代末、ソビエト連邦は弱体化し、その後、完全に崩壊した。当時、私たちはしばらく自信を喪失し、あっという間に世界のパワーバランスが崩れたのだ。
これにより、従来の条約や協定には、事実上、効力がないという事態になった。
 
ソビエト連邦の崩壊後、事実上の世界の再分割が始まり、これまで培われてきた国際法の規範が、第二次世界大戦の結果採択され、その結果を定着させてきたものが、みずからを冷戦の勝者であると宣言した者たちにとって邪魔になるようになってきた。

事態は違う方向へと展開し始めた。NATOが1インチも東に拡大しないと我が国に約束したこともそうだ。
繰り返すが、だまされたのだ。
正義と真実はどこにあるのだ?あるのはうそと偽善だけだ。

色々あったものの、2021年12月、私たちは、改めて、アメリカやその同盟諸国と、ヨーロッパの安全保障の原則とNATO不拡大について合意を成立させようと試みた。
すべては無駄だった。
世界覇権を求める者たちは、公然と、平然と、そしてここを強調したいのだが、何の根拠もなく、私たちロシアを敵国と呼ぶ。
確かに彼らは現在、金融、科学技術、軍事において大きな力を有している。

しかし、軍事分野に関しては、現代のロシアは、ソビエトが崩壊し、その国力の大半を失った後の今でも、世界で最大の核保有国の1つだ。
 そしてさらに、最新鋭兵器においても一定の優位性を有している。
この点で、我が国への直接攻撃は、どんな潜在的な侵略者に対しても、壊滅と悲惨な結果をもたらすであろうことに、疑いの余地はない。

NATOによるウクライナ領土の軍事開発は受け入れがたい
すでに今、NATOが東に拡大するにつれ、我が国にとって状況は年を追うごとにどんどん悪化し、危険になってきている。
しかも、ここ数日、NATOの指導部は、みずからの軍備のロシア国境への接近を加速させ促進する必要があると明言している。

問題なのは、私たちと隣接する土地に、言っておくが、それは私たちの歴史的領土だ、そこに、私たちに敵対的な「反ロシア」が作られようとしていることだ。
それは、完全に外からのコントロール下に置かれ、NATO諸国の軍によって強化され、最新の武器が次々と供給されている。
私たちの国益に対してだけでなく、我が国家の存在、主権そのものに対する現実の脅威だ。
それこそ、何度も言ってきた、レッドラインなのだ。彼らはそれを超えた。

さらに強調しておくべきことがある。
NATO主要諸国は、みずからの目的を達成するために、ウクライナの極右民族主義者やネオナチをあらゆる面で支援している。
当然、彼らはクリミアに潜り込むだろう。
それこそドンバスと同じように。
戦争を仕掛け、殺すために。

私たちの政治の根底にあるのは、自由、つまり、誰もが自分と自分の子どもたちの未来を自分で決めることのできる選択の自由だ。
そして、今のウクライナの領土に住むすべての人々、希望するすべての人々が、この権利、つまり、選択の権利を行使できるようにすることが重要であると私たちは考えている。

繰り返すが、そのほかに道はなかった。
目的はウクライナの“占領”ではなく、ロシアを守るため
現在起きていることは、ウクライナ国家やウクライナ人の利益を侵害したいという思いによるものではない。
それは、ウクライナを人質にとり、我が国と我が国民に対し利用しようとしている者たちから、ロシア自身を守るためなのだ。

起こりうる流血のすべての責任は、全面的に、完全に、ウクライナの領土を統治する政権の良心にかかっている。

親愛なるロシア国民の皆さん。
力は常に必要だ。どんな時も。
私たちは皆、真の力とは、私たちの側にある正義と真実にこそあるのだということを知っている。
まさに力および戦う意欲こそが独立と主権の基礎であり、その上にこそ私たちの未来、私たちの家、家族、祖国をしっかりと作り上げていくことができる。

親愛なる同胞の皆さん。
自国に献身的なロシア軍の兵士および士官は、プロフェッショナルに勇敢にみずからの義務を果たすだろうと確信している。
あらゆるレベルの政府、経済や金融システムや社会分野の安定に携わる専門家、企業のトップ、ロシア財界全体が、足並みをそろえ効果的に動くであろうことに疑いの念はない。
すべての議会政党、社会勢力が団結し愛国的な立場をとることを期待する。

歴史上常にそうであったように、ロシアの運命は、多民族からなる我が国民の信頼できる手に委ねられている。

あなたたちからの支持と、祖国愛がもたらす無敵の力を信じている。

八方ふさがりプーチンの「ボクは少しも悪くない。ぜ?ぶヒトのせい」

(2022年9月21日)
 ボクが、ウラディーミル。シンゾーの親友さ。お互い、ファーストネームで呼び合って、「一緒に駆けて駆けて駆け抜けよう」なんて臭いセリフを言い合う仲。似た者どうし、うんと気が合ったんだよ。驚いたなあ、そのシンゾーが死んじゃったんだ。

 だから、葬儀には駆けつけなければならないんだけど、招待もしてくれない。ボクが悪いんじゃない。日本が悪い、岸田のせいだ。

 葬儀と言えば、英国女王の国葬もそうだ。どうしてボクには招待状が来ないんだ。面白くない。イギリスが悪い。エリザベスのせいだ。

 日本にもイギリスにも、いや世界中に、ウクライナへの特別軍事作戦を始めたボクが、何かすごく悪いことをしているように言う人が多い。でも、悪いのはボクじゃない。みんなウクライナが悪い、ゼレンスキーのせいだ。だって、ウクライナはNATOに加盟しようとしていたんだよ。NATOの東方拡大なんて許せるはずがない。

 「実はウクライナはNATOには加盟しないことになった。だからウクライナ軍事侵攻の必要はない」という側近からの進言を、ことさらにボクが無視したなんて報道もある。でも、ボクに都合の悪い報道は全部デマだよ。悪いのはボクじゃない。メディアが悪い、でなければ側近のせいだ。

 「反転攻勢」って言葉は不愉快だ。耳に痛いんだよ。いま、ウクライナの戦況は最悪だけど、ボクが悪いんじゃない。アメリカの軍事支援のせいだ。バイデンが悪い。ウクライナがNATOに加盟していたら、どんなことになっていたかよく分かるだろう。ウクライナ侵攻の正当性が証明されたように思うんだけど、違うかな。

 もちろん、ハルキウでの敗北は痛い。特別軍事作戦の開始自体に対する疑問は国内からも噴き出している。だけど、これは参謀本部の責任さ。だって、作戦の進め方は総て参謀本部が決めているんだ。だから、ボクが悪いんじゃない。ボクのせいじゃない。

 こんな事態だから、サマルカンドまで足を運んで上海協力機構(SCO)首脳会議に出席した。習近平には軍事援助を期待したんだけれど、あいつニベもない態度。困ったときの友が真の友というだろう。あいつは真の友じゃないことがよく分かった。悪いのはボクじゃない。中国が悪い、習のせいだ。あ?あ、お世辞上手が取り柄だったシンゾーが懐かしい。

 サマルカンドでは、モディとも話しをしたが、あいつも実に不愉快だ。無神経に、このボクに「今は戦争のときではない」と、ウクライナとの早期停戦を要求する発言。いったいあれが、友好国首脳が公の場でいうことかね。ボクに恥をかかせようというのだろうか。しょうがないから、こう言っておいた。
 「私たちは全てをできるだけ早く終わらせたいと思っているが、ウクライナ側が交渉を拒否している」。そう、常に一方的に悪いのがウクライナ。戦争が長引いているのもウクライナのせい。ボクは、いつも、ちっとも悪くないんだ。

 頭の痛いのは、ロシア国内で公然と、ボクに向けた批判の動きが芽生えて、拡がり始めていること。サンクトペテルブルクとモスクワの区議会では今月中旬以降、ボクの辞任を求める請願運動が展開され始めた。賛同する区議が90人近いとも言うんだ。メディアでも、ボクを批判する論調が拡がりつつある。

 ボクのせいじゃないけど、このままだと戦況の好転は難しい。武器も兵員も不足なんだ。しょうがないから、予備役30万人を召集することにした。国内世論が反戦に傾くんじゃないかと心配だけど、背に腹は代えられない。こんなことになったのも、ぼくが悪いんじゃない。みんな参謀本部のせいだ。アメリカとゼレンスキーのせいだ。 

 とうとう、ロシア全土で抗議デモだ。38都市で1400人を超える市民を逮捕したが、これでおさまるはずはない。特にモスクワとサンクトペテルブルクではそれぞれ500人を超える市民を分散留置している。たいへんなことになった。みんなみんな、無能な部下のせいだ。

 このままでは、ジリ貧のスパイラル。奥の手を考えなければならない。最近は奥の手って言っても、みんな恐がらないし、恐れ入りもしなくなったけど。奥の手はたくさんあるぞ。まずは、ウクライナ4州の実効支配地域をロシアに編入する住民投票は前倒しでやる。政敵を消すための毒殺だつてあるぞ。全面戦争だってやるぞ、原発攻撃だって遠慮しない。そして、戦術核兵器の使用だって本気になればやるんだ。ハッタリじゃないぞ。敵国を撹乱して偽情報や裏資金を注ぎ込む「裏工作」もある。ボクKGBの出身なんだもの。得意技は使わなくちゃあ。

 どう? 恐いでしょう。えっ? たいして恐くない? もう戦争を始めちゃった以上、恐いなんて言ってられないって? それは困った。それって、いったいだれのせい? だれが悪いんだろう?

拝啓 ウラジーミル・プーチン大統領 殿

(2022年8月24日)

2022年8月24日

〒106?0041 東京都港区麻布台2丁目1?1
 駐日ロシア連邦大使館気付
 ウラジーミル・プーチン大統領 殿 

                  東京都文京区本郷          
                      澤 藤 統一郎       

 本年2月24日、貴国の地上軍が国境を越えてウクライナに侵攻を開始してから、本日で6か月になりました。両国間の戦争に終結の兆しは見えていません。今、世界が抱える最大の憂慮が未解決のままと言わざるを得ません。

 この半年の間に、ロシア・ウクライナ両国の人々のおびただしい血が流され、尊い命が失われました。人々の住む街が破壊され、故郷を追われた無数の人々が難民となって逃げまどうています。悲惨この上ない現状に、人々の心の中には、恐怖と絶望、憎悪と復讐の気持ちが渦巻いています。

 私は、思います。この事態の責任は貴国にあります。なかんずく、貴殿にあります。人を殺し、建物を壊し、街を焼き、略奪をし、子どもたちの未来を奪い、婦女を辱め、多くの人を故郷から追い立て、飢餓に陥れた、野蛮な行為の責任です。文明に対する罪なのです。
 それだけではなく、大量の核兵器を保有していることを誇示し、その使用を示唆して世界を脅していることについても、貴殿の責任はこの上なく大きいと指摘せざるを得ません。

 戦争とは、殺人と強盗と詐欺と業務妨害と建造物破壊の集積です。侵攻した貴国が戦況優勢であるとすれば、貴国の兵士がウクライナの人々に数々の犯罪を積み重ねていることにほかなりません。また、ウクライナが戦況を押し戻すとは、貴国の若者が大量に死ぬということを意味します。人の血が流れれば、その家族の涙が溢れます。戦争が長引けば、人々の不幸も積み重なります。どちらかの勝利で決着すれば、敗戦国の被害が甚大となります。

 私は思います。戦いを始めた貴殿には、この悲劇の連鎖をすみやかに終わらせる責任があります。そして、戦いを始めた貴殿であればこそ、戦いを終わらせることもできるのではありませんか。
 このまま戦争が膠着して長引けば、悲劇はさらに積み重なります。貴国への国際的な非難はさらに高まり、貴国の権威は地に落ちることにもなります。貴殿の罪と、貴殿に対する怨嗟はさらに深いものとなり、後世の歴史はあなたに「悪人」の烙印を押すことにもなりかねません。

 今、世界が望んでいることは、すみやかな停戦に向けての貴殿の決断です。停戦の実施に伴う具体的な手順は、国連の事務総長と安全保障理事会にお任せすればよいことと存じます。
 一刻も早く、ウクライナに侵攻した貴国の軍を撤収していただき、両国間の平和を回復されるよう、心から要請いたします。それが、両国民と貴殿自身を救う唯一の方法であると確信いたします。


プーチン大統領に抗議・要請のハガキを出そう
ウクライナヘの侵略はやめよ。直ちに侵略軍の撤退を。

たとえば、次の一言でも。
☆国連憲章に違反するウクライナヘの侵略に抗議します。
☆どんな理由があっても、軍事侵略は許されません。
☆人を殺さないでください。人を殺させないでください。
☆戦争に反対する人を逮捕しないでください。
 逮捕した人は釈放してください。
☆けっして核兵器を使わないでください。実戦にも脅しにも。
☆話し合いで解決する努力をしてください。
☆もうこれ以上、血を流さないでください。
☆直ちに、戦闘を停止してください。
☆直ちに、軍隊をロシアに返してください。
☆終戦処理を国連の安保理事会で話し合ってください。
☆このままでは、あなたがヒトラー。
☆絶対に核兵器を使ってはなりません。
☆あなたが始めた戦争です。あなたの責任で終わらせなさい。
☆侵略者ロシアはウクライナから撤退せよ
☆無法者プーチンよ恥を知れ

核戦争防止と核廃絶の方針に揺るぎのない、日本共産党へのご支援をお願いします。

(2022年6月24日)
 ロシアのウクライナ軍事侵攻開始以来、今日でちょうど4か月。2月24日のあの衝撃を思い出す。国境を越えたロシア軍の侵攻に驚いたただけでなく、プーチンの核威嚇に驚いた。軍事侵攻開始演説で彼は、「ロシアは世界で最も強力な核保有国の一つ」とわざわざ言ってのけたのだ。おそらくは、NATO加盟国に対する威嚇であり恫喝である。凶暴、これに過ぐるものはない。

 さらに、プーチンは、NATOに対抗するとして、ロシア軍の「核抑止力部隊」の「特別態勢移行」を国防相らに命じている。明らかな、核による脅しである。暴力団まがい脅迫。法が支配する文明社会では、明らかな犯罪行為。国連憲章違反でもある。

 このプーチンによる核威嚇には生理的な嫌悪感を禁じえない。世界中で、プーチン・ロシアを徹底して批判しなければならない。言葉の真の意味でのゴロツキの行為として。

 核に対する嫌悪と拒絶の感情は、戦後の日本国民が共有したものでものである。ところが今、一部にもせよ、国内に「核には核を」「非核三原則の見直しを」「核共有の検討を」などという議論が起こっていることが信じがたい。私にはとうてい受け入れがたい。

 私は、戦後民主主義の空気を胸いっぱいに吸って育った。私の周りに、とりたてて進歩的な人がいたわけではない。革命の理想など聞かされた経験はない。それでも私は時代の空気を吸い、時代によって育てられた。

 全ての人が例外なく平等であることは当然で疑問をもったことはない。そして、戦争は愚かなことで平和が尊いものであることも、すんなりと受け入れた。愚かで悲惨な戦争の象徴が原爆だった。

 私は、小学校1年生時は広島で過ごした。爆心地近くの幟町小学校に入学し、その後牛田小学校、三篠小学校と転校した。当時、原爆ドームは整備されておらず、瓦礫が散乱していた。立ち入りの制限もなく、そこを遊び場にしていた記憶がある。

 どの学校の先生だったか、担任の女性教師の顔にはケロイドがあった。広島がピカでやられたこと、ピカを許してはならないことが深く心に刻み込まれた。そして、小学校4年生の3月、当時清水に暮らしていて焼津港の第五福竜丸の被害を身近に知った。放射能の雨に恐怖をおぼえた。

 以来、何よりも核兵器の廃絶こそが人類が生き延びるための喫緊の最重要課題であると考えるようになった。幣原喜重郎の制憲国会での答弁の言い回しを借りれば、「人類が核兵器を廃絶しなければ、核兵器によって人類は滅亡に至る」のだ。

 この点、日本共産党は「人類の死活にかかわる核戦争の防止と核兵器の廃絶」を綱領にかかげ、その実現のために力を尽くしてきている。そして、現状の認識としては、「ロシアのプーチン大統領が核兵器使用の威嚇をくりかえしていることに世界が懸念を強めています。今日の核兵器使用の現実的危険を絶対に許さず、『核兵器のない世界』へと前進することが急務です」と述べている。国政選挙に際してはこの政党を投票先とせざるを得ない。

 折も折、ウィーンで開かれた核兵器禁止条約の第1回締約国会議は最終日の23日、核廃絶への決意を示す政治宣言と、批准国の方針を記した50項目に及ぶ「ウィーン行動計画」を採択して閉幕した。

 政治宣言は「核兵器の完全な廃絶を実現するという決意」を再確認のうえ、核禁条約を「その基礎となる一歩」と表現した。核兵器の人道的影響について「壊滅的で対処することができない」とし、核兵器を「生命に対する権利の尊重とは相いれない」と断じた。また、宣言では核保有国の「核の傘」の下にある国も「真剣な対応を取っていない」と批判。一方で、核保有国との対話もめざす内容になった。

 さらに、核抑止論について「地球規模の破滅的な結果をもたらすリスクを前提としたもの」として、「誤り」と明確に断じた。核保有国や「核の傘」にある同盟国について「真剣な対応を取っていないどころか、核兵器をより重視する過ちにある」と批判している。

 条約非締結国で、オブザーバー参加のドイツの発言が注目を集めた。「NATO加盟国としての立場と一致しない条約には参加できない。しかし、ロシアによる核威嚇に関し、核使用を禁止する規範の強化が必要だ。条約の賛否を越えて、肩を並べて協力することが出来る。核廃絶に向けて、心を開き、誠実に対話することが必要不可欠だ。そのためにドイツはここにいる」というもの。

 どうして、被爆国である日本が、ドイツと同じように、「核廃絶に向けて、心を開き、誠実に対話することが必要不可欠だ。そのために日本はここにいる」と言えないのだろうか。

 政府の核政策の矛盾を果敢に追求する、今後の国会論戦に期待したい。そのためには、日本共産党の国会内での勢力が小さいままでは、迫力に欠ける。核戦争防止と核廃絶を願う有権者の皆様には、核廃絶の方針に揺るぎのない日本共産党の候補者への投票をお願いしたい。

 7月10日投開票の参院選。比例代表では「日本共産党」という政党名を。あるいは「にひそうへい」「田村智子」などの候補者名を記載して投票してください。

ロシア対ウクライナ 戦争の終わらせ方は?

(2022年6月20日)
 「ロシアのウクライナに対する軍事侵攻が始まってから、もうすぐ4か月。この間、毎日のニュースに胸が痛むね」

 「そのとおりだ。戦死者の報道も建物が壊されているのも見るに忍びない」

 「早く戦争が終わるといいね」

 「それはそのとおりだが、戦争が終わりさえすればよいというものでもないんじゃない。終わり方や終わらせ方が問題だよね」

 「えっ? どういう意味?」

 「戦争を仕掛けたのはプーチンのロシアだ。明らかな侵略行為で、国連憲章違反だ。このロシアの責任をうやむやにしたままで、戦争が終わりさえすればよいということにはならないと思う。ロシアの責任を明確にして、現状を侵略行為のない状態にまで回復しなければ正義を貫くことができない。再発も防止できない」

 「そりゃあ、ウクライナが侵略者を打ち負かして、あなたが言うような戦争の終わり方ができればそれに越したことはない。でもね、なかなかそうはならない。いまの戦況では、戦争は長引きそうよね。戦争が長引けば、毎日毎時、多くの人の命が失われることになる」

 「既に多くのウクライナ人の血が流されている。その犠牲はいったい何だったのかということになる。この犠牲を無駄にしないめにも、安易な休戦の妥協は許されない」

 「それを言うなら、ロシア国内の論理も同じ。成果のないままの戦争終了は、ロシアの兵の流した血を無駄にすることになる、と言うに決まっている」

 「その、どっちもどっちと言う理屈が、我慢できない。侵略した側とされた側を同列に置いてどうするの」

 「問題への解答は、結局のところ戦況の現実が決めざるを得ない。今、戦況はロシアに優勢と報じられているし、少なくともこのままでは長引くことは避けられないでしょ」

 「いや、ウクライナが持ちこたえれば、アメリカやNATOの武器援助が間に合うことになる。ロシアに対する経済制裁も次第に利いてくる。そうすれば、ウクライナに勝機があるとボクは思う。侵略戦争にいやいや駆り出されたロシア軍と、自分の国土を守ろうというウクライナ軍とでは、士気がまるで違うはずだから」

 「仮にそうなるとしても、それまでには多くのロシア軍兵士が死ななければならない。多くは、不本意に戦場に引っ張られた若者たち。その悲惨な死には、やっぱり胸が痛む」

 「ボクは、侵略された側のウクライナの民間人や兵の死には胸が痛むけれど、侵略に加担したロシア兵士には同情したくない。彼らが、占領地で行った非道な行為は許せない」

 「あなたは過剰なナショナリズムに毒されているようね。国対国、国民対国民という対立図式だけが頭の中に際立っていて、その枠をはずれた、国家対国民の関係での見方はなく、個別の人間は視野にない。国際的な両国民の平和的連帯を追求する視点なんてまったくないのね」

 「現実に砲弾が飛び交っている戦争を語っているのに、なんというリアリティに欠けことを言うんだい。侵略国ロシアの責任は、一人プーチンにだけあるわけじゃない。プーチン独裁を許したロシア国民全体が責任を負わねばならない。戦前の天皇制国家の侵略の責任が、一人天皇にだけあるのではなく、天皇制を支えた国民全体の責任だったように」

 「その論法は、プーチンや天皇というトップの責任を免罪する常套手段ね。一人ひとりの国民の多くは戦争の被害者なのよ。ロシアの兵士の命だってかけがえのないものでしょう」

 「戦争のさなかでは、そんな甘いことを言ってはおられない。ロシア軍兵士の死を歓迎するとまでは言わないが、やむを得ないと割り切らざるを得ない」

 「あなたが、そんな冷酷な人間だとは知らなかった」

 「ボクも、あなたがそんな夢想家だとは思ってもいなかった」
 

「アゾフ海 みな同朋と思う世に など砲煙の立ちさわぐらん」

(2022年6月15日)
 今朝の毎日新聞朝刊2面「水説」(古賀攻・専門編集委員)を一読して驚いた。「『ロシアの日』を巡る話」という表題のコラム。鳩山由紀夫という人物に対する評価を変えざるをえない。

 6月12日は、「ロシアの日」であった。ロシアにとっての建国の日である。ロシアは侵略戦争のさなかに、「ロシアの日」を迎え、世界の各地で「ロシアの日」を祝う催しを行った。

 東京では、当日が日曜なので平日の9日(木)、麻布台のロシア大使館での開催となった。例年だと各国の外交官ら1000人以上でにぎわうレセプションだそうだが、今年は200人程度だったという。さもありなん。

 そこで「元日本国内閣総理大臣」の肩書で紹介された、主賓・鳩山由紀夫がこう挨拶したという。

 「大事なことは、物事の本質を見極める目を持たなければならないということでございます」「プーチン大統領はウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に入らないよう、東部への軍事活動をやめるよう協定を結ぼうとしましたが、アメリカは一顧だにせずに拒否し、たまりかねてついに戦争になってしまいました」

 鳩山由紀夫の目にだけは、物事の本質が見極められているそうだ。その本質とは、ロシア対ウクライナの戦争の原因は、もっぱらウクライナとアメリカに帰せられるべきもので、戦車を連ねて国境を越えて軍事侵略し、他国の国民に対する殺戮を重ねたロシアの側にはないごとくなのだ。「たまりかねてついに」「やむにやまれぬ」開戦だとされている。

 この鳩山コメントをどう評価すべきだろうか。まさか、「日本社会がロシア糾弾一色に染まっているときの、勇気ある少数意見の吐露」ではあるまい。ロシアに対する、みっともない阿諛追従と言わざるを得ない。侵略戦争を開始したという一点において、ロシアの有責は明白である。いささかも、これを免責してはならない。

 古賀は、鳩山の言を「日米開戦時の旧日本軍とそっくりだ」と評している。なるほど、対米(英蘭)開戦を事実上決めた1941年9月6日の「御前会議」での天皇(裕仁)が口にしたという「四方の海みな同朋と思う世に など波風の立ちさわぐらん」を思い出させる。この歌、祖父・睦仁の作。その引用である。

 波風の張本人が、「など波風の立ちさわぐらん」と言ってみせているのだ。まるで、オレが悪いんじゃないみたいに。オレは、「四方の海みな同朋」と思っているのに、オレの真意を汲もうとしない相手が悪い、というみっともない弁解である。鳩山は、プーチンも裕仁と同じ想いと察したのだろう。

 古賀の文章は厳しい。「どんな背景事情があるにせよ、ロシアの行為は絵に描いたような国連憲章違反だ。しかも『我々の報復攻撃は稲妻のように素早い』と露骨に核兵器で脅す国などロシアと北朝鮮以外にない」「過去のいきさつをことさら強調し、ロシアの過剰で独りよがりな国防観を『個性』であるかのように扱うことは、ロシアなりの大義をおびき寄せる。それは、何の落ち度もなく殺された人びとへの追い打ちにほかならない」という。まったくそのとおりだ。

 だが、古賀の筆はそこで終わらない。「戦争を終わらせるには、高度に政治的な『妥協』が必要になる」という。明言はないが、もしかしたら鳩山には、ロシアを持ち上げておいて、プーチン説得に動く思惑があるのではないか、と示唆しているようにも読めるのだ。

 もし、それに成功すれば、あらためて鳩山由紀夫という人物を評価し直そう。それなくしては、単なるプーチン迎合の「ゴマすり」としか言いようがない。

「本郷湯島九条の会」街頭宣伝ー本日は17名で参院選の意義を訴え

(2022年6月14日)
 途中で小雨がぱらつきましたが、きょうは国民救援会中央本部の方も参加していただき、総勢17名の賑やかな街宣になりました。このくらいの人数になると、道行く人の注目度も上がるような気がします。参院選間近で、弁士も、プラスターを持つ人も、署名板を持つ人も、それぞれ元気いっぱいの声が本郷三丁目の交差点に響き渡りました。
 マイクはロシアによるウクライナへの軍事侵略を糾弾し、火事場泥棒の如く軍事力強化を叫ぶ国内の翼賛勢力を弾劾しました。
 ウクライナ侵略に乗じて「敵基地攻撃」「軍事費2倍化」「憲法9条に自衛隊を書き込め」「核共有の議論を」という大合唱を痛烈に批判し、”軍事対軍事”の悪循環は結局日本を戦争に巻き込むことになる。あくまで9条を基軸に、政治・外交の力で平和を築こうと訴えました。
 さらに、これまでも「異次元の金融緩和」により異常円安をつくり出し、物価高騰を招いたアベノミクスの責任を追及しました。国民生活を守ることと戦争を阻止することが深く結びついた課題であることも訴えました。消費税を下げ、年金の切り下げを止め、高齢者医療負担2倍を止めさせ、戦争のための国債発行を止めることが岸田政権に戦争を止めさせることにもなります。
 間近に迫った参院選は日本の行方を決める選挙です。投票に行きましょう。ぜひ、行ってください。このことを強く訴えました。(以上、世話人・石井彰氏)

 [プラスター]★プーチンは人殺しをやめろ。女・子ども・老人を殺すな。★プーチンは核をつかうな、日本は核を持ち込むな。★破壊も人殺しもイヤ、憲法9条で平和を。★戦争できる国9条改悪ストップ。★軍事費増強NO、軍拡は戦争を招く。軍備で平和は生まれない。★まず分配、財源は法人税、株配当税。

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 近所の弁護士です。私が最後の弁士となります。もう少しお耳を貸してください。明日6月15日に通常国会は閉会します。そして、6月22日来週の水曜日に参議院議員選挙の公示となり、7月10日・日曜日の投開票となります。いつにもまして大切な選挙です。

 もしかしたら、その後の3年間、国政選挙はないかも知れません。この参院選に勝てば、政権にとって選挙による制約のない「黄金の3年間」が始まる、という声が聞こえて来ます。政権がなんでもできるという「黄金の3年間」にしてはなりません。

 今度の参院選は、おそらくはロシアのウクライナ侵攻中の選挙です。日本の平和主義、国民の憲法意識が試される選挙になります。そして、とんでもない物価高が押し寄せ、国民の暮らしが押し潰されそうになる状況下での国政選挙でもあります。争点になるテーマは大きくは二つ。一つは何よりも平和をどう作るべきかという課題であり、もう一つは国民生活防衛の課題です。そして、この二つのテーマは深く結びついています。

 ロシアによるウクライナ侵攻は、明らかなプーチン・ロシアの国連憲章違反の武力行使です。私たちは、全力を上げてロシアの違法を糾弾し、戦争を開始したロシアに対して、即時停戦・軍事侵攻の撤退を求める大きな声を上げ続けなければなりません。そして、侵略戦争の被害に苦しんでいるウクライナの人々への人道支援にも力を尽くしたいと思います。

 さらに、私たちの国の、平和主義・国際協調主義を謳う憲法と、その中核にある憲法9条の理念を再確認しなければなりません。今こそ、今だからこそ、日本の平和を願う立場から、しっかりと憲法9条擁護の姿勢を確認しなければなりません。

 憲法9条の理解は、これを擁護する人々の間で、必ずしも一義的なものになっていませんが、少なくとも「専守防衛」に徹するべきで、「攻撃的な武器は持たない」「軍事大国とはならない」ことは、長く保守の政権も含めての国民的な合意であったはずです。

 ところが、予てから軍事大国化を狙っていた右派勢力が、今を好機と大きな声で「軍事費増やせ」「防衛費を5年以内にGDP比2%以上にせよ」「年間10兆円に」「いや12兆円に」と言い出す始末。

 それだけではありません。「敵基地攻撃能力が必要だ」、「それでは足りない。敵の中枢を攻撃する能力がなければならない」「先制攻撃もためらってならない」「非核三原則も見直し」「核共有の議論を」と暴論が繰り返されています。そして、そのような軍事力の増強に邪魔となる「憲法を変えてしまえ」というのです。

 これまで歴史が教えてきたことは、「安全保障のジレンマ」ではありませんか。仮想敵国に対抗しての我が国の軍備増強は、必ず仮想敵国を刺激し軍備増強の口実を与えます。結局は、両国に際限のない軍拡競争の負のスパイラルをもたらすだけではありませんか。このような愚行を断ち切ろうというのが、戦争を違法化してきた国際法の流れであり、その到達点の9条であったことを再確認いたしましょう。
 平和を守り、その礎としての平和憲法を守ることが参院選の争点の一つとならねばなりません。

 もう一つが、今進行を始めている恐るべき物価高です。6月の統計が発表されれば、前例のないインフレが明らかとなることでしょう。物価が上がりますが、賃金は上がりません。物価は確実に上がりますが、年金のカットは既に決められています。医療費も値上がりします。

 いろんな要因が考えられますが、基本は政権与党の経済政策の失敗です。アベノミクスは、新自由主義的なイデオロギーに基づいて、大企業の活動を自由化し儲けを保障しました。庶民からむしりとった消費税を財源に法人税の大減税までして、優遇したのです。

 まずは大企業を太らせれば、その利益はやがて中小企業や労働者のところにまで、したたり落ちてくるという「トリクルダウン」理論がまことしやかにささやかれました。しかし、結果は惨憺たるものです。大企業の利益は内部留保としてため込まれ、労働者に滴る利益はありません。賃金はまったく上がりません。

 アベノミクスで潤ったのは大企業とその株主の金持ち連中ばかりで、結局庶民には生活苦をもたらしただけ。とりわけ、異次元の金融緩和策が、市場に金余りと円の価値切り下げをもたらしてインフレの原因となってしまいました。インフレは、年金生活者と低所得層に深刻な打撃を与えます。何とかしなければなりません。

 私たちの投票の選択肢は三つあります。一つは政権を構成している自公の与党勢力です。これへの投票は、軍拡と9条破壊そして生活苦の道です。二つ目が、立憲野党です。9条を守り、軍拡を回避して9条を守り、専守防衛からはみ出さない立場。そして、三つ目が、「与党」ではないが「野党」でも「ゆ党」でもない、「悪・党」というべき維新の勢力。そして、労働組合でありながら資本の手先になり下がっている連合と結託した政治家たち。連合の推薦を受けた政治家に投票せぬようお気をつけください。

 ぜひ皆様、大切な選挙にまいりましょう。そして、平和と憲法と暮らしを守るために、立憲野党に投票をしていただくようお願いをして、本郷湯島九条の会からの訴えを終了いたします。

「まさか神よ、あなたもロシア人なのですか!」

(2022年6月10日)
 金曜日には、「週刊金曜日」に目を通す。毎号の巻頭に「風速計」というコラムがあって、まずはここから読むことになる。編集委員7名が持ち回りで書いているが、崔善愛さんの文章からは、知らないこと、気が付かないことを教えられることが多い。

 崔さん執筆の同誌4月8日号同コラムの冒頭に次の一文があって、ギョッとさせられる。「引き裂かれる想い」と題されたもの。

「郊外は破壊され焼き尽くされた。ヤシュとヴィシルはおそらく塹壕で戦死しただろう。マルセルは捕虜になったのが見える。おお神よ、あなたはおいでになるのですか。おいでになるのならどうして復讐してくださらないのですか! それともさらなるロシア人の罪を望んでいるのですか! それとも、まさか神よ、あなたもロシア人なのですか!

 これは、ポーランドの作曲家フレデリックショパンが1831年ドイツ・シュツットガルトで書いた日記の一部だという。崔さんは、「『侵略への怒り』それはショパンのどんなに美しい旋律にも宿っている。なぜ歴史はこうも繰り返されるのか」と綴っている。

 200年後の今、プチャで、マリウポリで、そしてさらにセヴェロドネツクで、「まさか神よ、あなたもロシア人なのですか!」という怨嗟の声が聞こえる。しかし、崔さんは、ロシア糾弾一色の「正義の声」にも不安を隠さない。このコラムの最後は、こう結ばれている。

 「朝鮮半島が再び戦火に見舞われたとき、この国全体が『正義は我にあり』という熱狂に覆われるかもしれない」「ゼレンスキー大統領が日本へ向けて行った演説後、国会議員らが総立ちで拍手するのをテレビで見ながら、こわくなった。」

 表題の「引き裂かれる想い」とは、自分の中にある「侵略者ロシアを強く糾弾する想い」と、「『正義は我にあり』という熱狂を危険で警戒すべきものとする想い」との葛藤ということなのだろう。

 そして、同誌5月27日号の「風速計」が崔善愛さんの執筆である。「国家に左右されないもの」という表題。そのなかに、次の一文がある。

「2カ月前、劇団制作者らが集う会合の席でこんな意見が出された。
 『公演のために準備していた作品の中でロシア民話の部分を割愛することにした』
まるで戦時中の『敵性音楽』扱いだ」
「子供達は絵本の物語を聞くとき、それがどこの国の話なのかなど気にしない。絵本の中の世界に無心に引き込まれていくだけだ」「罪深いのは民話ではない。大人たちが覇権を争い、戦争を仕掛けたこと。そして忘れてならないのはロシアの人々の中にも、平和を愛し、戦争を憎み、戸惑い、嘆く人が少なからずいることだ。
 国家に左右されない民の歌、民の震える声に耳をすまそう」

 ここにも、ロシア糾弾一色という全体状況へのプロテストがある。私も、崔さんに倣って、国家の大声にかき消されそうになる「民の歌、民の震える声」に耳をすまそうと思う。

澤藤統一郎の憲法日記 © 2022. Theme Squared created by Rodrigo Ghedin.