『統一教会・寄附被害防止及び被害救済法』案の解説
(2022年12月3日)
12月10日閉会を間近にした終盤国会。その焦点となっているのが「救済新法(案)」の取り扱いである。12月1日閣議決定され、6日に衆議院本会議で法案の趣旨説明と質疑を行い、同日委員会審議入りすることまでは決まっている。政府・与党の思惑では、衆院で7日可決、参院では9日可決の予定だという。その円滑な審議進行のためには野党の修正案を大幅に飲まざるを得ない。しかしさて、いったい何が問題か。
この法案は消費者庁提出である。同庁のホームページに、閣議決定された下記の「法案の概要」が掲載されている。全18か条の法案の全体像が、一枚のペーパーに要領よくまとめられている。
https://www.caa.go.jp/law/bills/assets/consumer_system_cms101_221201_01.pdf
その要約を掲記し、若干の解説を試みたい。
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法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律案(概要)
(これが法案の正式名称。実態としては「統一教会による《不当な寄附勧誘の防止および被害者救済》に関する法律」案なのだが、特定の団体を狙い撃ちにする立法は避けねばならない。そのため、法案の名称にも条文にも、統一教会の関連用語は出て来ない。)
法案提出の理由 法人等による不当な寄附の勧誘を禁止するとともに、当該勧誘を行う法人等に対する行政上の措置等を定めることにより、消費者契約法とあいまって、法人等からの寄附の勧誘を受ける者の保護を図る。
(「法人等」は、当面、統一教会と読み替えてよい。実質的な立法目的は、「統一教会からの寄附の勧誘を受ける者の保護を図る」ことにある。そのために、この法は「不当な寄附の勧誘を禁止する」とともに、「不当な寄附勧誘を行った場合には、しかるべき行政上の処置をとる」とする。問題は、禁止や違反に対する対応の実効性の有無である。)
1.寄附の勧誘に関する規制等
■寄附の勧誘を行うに当たっての寄附者への配慮義務【第3条】
?自由な意思を抑圧し、適切な判断をすることが困難な状況に陥ることがないようにする
?寄附者やその配偶者・親族の生活の維持を困難にすることがないようにする
?勧誘する法人等を明らかにし、寄附される財産の使途を誤認させるおそれがないようにする
■寄附の勧誘に際し、不当勧誘行為で寄附者を困惑させることの禁止 【第4条】
?不退去、?退去妨害、?勧誘をすることを告げず退去困難な場所へ同行、?威迫する言動を交え相談の連絡を妨害、?恋愛感情等に乗じ関係の破綻を告知、?霊感等による知見を用いた告知
■借入れ等による資金調達の要求の禁止【第5条】
借入れ、又は居住用の建物等若しくは生活の維持に欠くことのできない事業用の資産で事業の継続に欠くことのできないものの処分により、寄附のための資金を調達することを要求してはならない
(寄附の勧誘に関する規制を定める、以上の《第3条?5条》が、この法律(案)の眼目であり問題点でもある。規制の態様は「配慮義務の設定」(3条)と、「禁止」(4・5条)である。禁止規定違反には、報告徴収・勧告・命令・公表という行政措置が可能となり、最終的には罰則の適用もある。しかし、配慮義務違反には行政措置も刑罰も予定されていない。それでよいのか、という問題が指摘されている)
2.禁止行為の違反に対する行政措置・罰則
■報告徴収 【第6条】
施行に特に必要な限度で、法人等に対し報告を求める
■勧告、命令・公表 【第7条】
不特定・多数の個人への違反行為が認められ、引き続きするおそれが著しい場合、必要な措置をとるよう勧告
⇒措置をとらなかったときは、命令・公表
■罰則 【第16条?18条】 ※両罰規定あり
虚偽報告等:50万円以下の罰金
命令違反:1年以下の拘禁刑・100万円以下の罰金
(以上の行政上の措置も罰則も、4条と5条の「禁止規定」違反にだけ科せられる。3条の「配慮義務」違反の効果としては、この法律には何の制裁も定められていない。民法の不法行為成立の要素にはなるだろうが、民事訴訟の提起を必要とする。はたして、それでよいのか。)
3.寄附の意思表示の取消
■不当な勧誘により困惑して寄附の意思表示をした場合の取消し【第8条】
(第4条の「不当な寄附勧誘行為で寄附者を困惑させることの禁止」に違反した場合の効果として、「困惑しての寄附の意思表示」は、取り消すことができる。民法の取消要件は、「錯誤」・「詐欺」又は「強迫」による意思表示に限られるから、「困惑」による意思表示の取り消し権は一歩前進ではある。が、多くの寄附は「困惑」してのものではなく、喜んでするものだろう。「そのような寄附を、後に取り戻せなければ、この立法の意味の大半が失われる」と被害者側が訴えてきたところ。この声に耳を傾けるべきであろう)
4.債権者代位権の行使に関する特例
■子や配偶者が婚姻費用・養育費等を保全するための特例 【第10条】
被保全債権が扶養義務等に係る定期金債権(婚姻費用、養育費等)である場合、本法・消費者契約法に基づく寄附(金銭の寄附のみ)の取消権、寄附した金銭の返還請求権について、履行期が到来していなくても債権者代位権を行使可能にする
(寄附者本人が、統一教会に寄附金の返還を要求しない場合に、家族が独立して幾分かの請求をできるようにする特例。その請求の範囲は、寄附者が負担する婚姻費用や養育費支払い義務の範囲内に留まる。)
5.関係機関による支援等
■不当な勧誘による寄附者等への支援【第11条】
取消権や債権者代位権の適切な行使により被害回復等を図ることができるようにするため、法テラスと関係機関・関係団体等の連携強化による利用しやすい相談体制の整備等、必要な支援に努める
《法律の運用に当たり法人等の活動に寄附が果たす役割の重要性に留意し、信教の自由等に十分配慮しなければならない》【第12条】 《施行後3年目処見直し》
1日に閣議決定された同法案だが、政府・与党は翌2日に修正の検討に入ったと報道されている。前代未聞のことではないだろうか。修正の検討対象となっているのは、「寄附を勧誘する際の配慮義務規定に何らかの実効性を持たせる方向で検討」し、「規定に従わない場合は何らかの行政処分を可能とする案などが浮上している」という。
内閣は弱いに限る。支持率は、低ければ低いほどよい。そして世論は強くなくてはならない。いま、強い世論が弱い内閣に、法案の修正を余儀なくさせているのだ。