都立高の教員と話し合う機会が多い。ときに、進路指導としての自衛隊への就職が話題となる。幹部教育機関としての防衛大学校への『進学』と、一般自衛官としての隊員募集にどう対応すべきか。
現場では、「自衛隊違憲論」や「軍への就職の倫理性」などが問題になる余地はほとんどなさそう。もちろん、自衛隊員の使命や国防の大切さなども論外。もっぱら関心の対象となり問題となるのは、職場の安全性とのこと。ブラック企業なみのイジメはないのか。事故死や自殺はどうなのか。その不安が払拭できない。
その防衛大学校。正規の教育機関ではない。自衛隊幹部候補生への就職と考えねばならないが、客観的統計からは、入学辞退・中退・任官拒否などの割合が極めて高い。入試志願者や合格者からも、望ましい『進学先』あるいは就職先と意識されてはいないのだ。
朝日新聞が報道した「上級生からの暴行を受けた元学生が、当時の上級生らと国に損害賠償を求めて福岡地裁に提訴した訴訟」。弁護団の情報公開請求によって興味深い資料が収集され、訴訟に提出されている。
それによると、「防衛大の入校者(学生舎に入った者)に対して、約1週間後の入学式までに辞退する者が数十名、その後中退する者も数十名、卒業時に任官辞退する者も少なくない。入校者に対する任官者の割合は70%程度である。これを、60期(2012年入学、16年卒業)でみると、次のようになる。
定員 480名
合格者 1460名(定員の3倍)
着校者 555名(合格者の38%・「入寮者」を意味する)
入学者 502名(入学前の辞退者53名)
中退者 79名
卒業者 419名(着校者に対する卒業者の割合74.9%)
任官者 370名(着校者に対する任官者の割合66.6%)」
辞めていく大きな理由が学生舎(寮)生活でのいじめやいやがらせにあるというのが、同訴訟弁護団の主張である。
中退者79名のなかには、学生舎を飛び出して行方不明になる者が少なくない。これを自衛隊では一般に「脱柵」と呼ぶそうだ。死亡が確認されたという記録もある。他にも、深刻な事件・事故が毎年起きている。刑法犯に当たる行為も相当数にのぼる。
6月22日付朝日の記事を引用しておこう。入隊すれば、「徹底したイジメ・体罰(虐待)が横行して」いるのだ。軍事・軍隊は不条理なくして成り立たない。訓練とは、上級のいかなる不条理な命令も受容する心性を作りあげること。防衛大学校の幹部教育においても、その観点から、上級による下級へのイジメ・虐待が必要にして不可欠なのだ。
https://www.asahi.com/articles/ASL6H5HS2L6HTIPE02Z.html
見出しは、『防衛大、過半数が下級生いびり 「粗相」数え、体毛に火』
防衛大学校(神奈川県横須賀市)の学生だった福岡県の男性(23)が在校時に上級生らから暴行された事件を受け、防衛大が実施したいじめや学生間指導に関するアンケートの内容が判明した。当時の4年生の過半数が「粗相ポイント制」と呼ばれる激しい下級生いびりをしたことがあると回答していた。
アンケートは2014年8月、当時の在校生約1800人を対象に聞き取りなどで実施したが、結果は公表されなかった。暴行を受けた元学生が当時の上級生らと国に損害賠償を求めて福岡地裁に提訴した訴訟で、弁護団が学年ごとに回答結果をまとめた文書を情報公開請求で入手した。弁護団はアンケートなどを基に、防衛大全体としていじめをする環境があったと主張する。
弁護団によると、「粗相ポイント制」は下級生が不手際をした際に加算される「ポイント」を清算するという趣旨で行われていた。体毛に火を付ける▽カップ麺をお湯なしで食べる▽風俗店に行って撮影――などを強いていたという。
回答結果をまとめた文書によると、粗相ポイント制を「やったことがある」と答えたのは、最上級生の4年生の57%。一方で「やられた」と回答したのは学年別に26?52%だった。行為への認識を聞く設問では「許されない」との回答は0?1%にとどまった。
体毛を燃やされたことがあると回答したのは学年別に2?13%、エアガンで撃つ行為の被害を受けたのは0・4?8%だった。ロッカーや机の中身を何度も荒らす行為は24?45%に上った。
行為を止めなかった理由について、3、4年生からは「いじめと感じていない」「昔から実施されていた」「上級生がやっていたため慣習で受け継いで実施」などの回答があった。
学生間の不適切な指導として「殴る」のを見たとする回答は21?57%、「怒号・罵声を浴びせる」を見たのは5?72%だった。「髪を切る」「退校願を書かせる」などの行為を見聞きしたとの回答もあった。
弁護団は「下級生の指導を求められる4年生が、犯罪に相当する行為や人権侵害の加害者になっている。学校全体の責任が極めて大きい」と主張している。
念のためだが、火をつけられた「体毛」とは、「すね毛」や「胸毛」のことではない。「除菌スプレーを陰毛にかけて燃やす」という常軌を逸した凄まじさ。幹部教育の防大においてこのありさまである。このような環境で育った幹部が、一般隊員を教育し指揮命令することになる。推して知るべし、一般隊員のイジメ、体罰、事故死や自殺率の高さを。さらには、訓練死というブラックボックスの闇の深さを。
これが、アベ9条改憲で憲法に明記を目論まれている自衛隊の実態にほかならない。
(2018年7月1日)
東京「君が代」裁判・4次訴訟原告の先生方を励ますために、ご参集いただいた皆様に感謝申しあげます。限られた時間ですので、お話しできることも限られたものになることをご容赦ください。
私たちの裁判での主張は、日の丸の否定でも、君が代の違法でもありません。その骨格は、
★「国旗・国歌」にどのような考えを持とうとも自由なはず
★「国を愛する」気持ちを押しつけることなどできるはずもありまん
★教育は自由がなくては成り立たない。失われた学校の自由を取り戻したい
というものなのです。
その根拠は、近代憲法の典型である日本国憲法がその根本としている「個人主義」と「自由主義」にあります。個人主義とは、個人の尊厳を憲法上の価値の根源とする考え方です。国家ではなく、社会でもなく、個性をもった一人ひとりの個人こそが最も大切だという考え方です。自由主義とは、その大切な個人の尊厳を傷つける存在としての国家の危険性を自覚して、国家権力が暴走することがないよう、厳格に制約しなければならないとする考え方です。
このような考え方を徹底してきたのが、アメリカの司法です。とりわけ、連邦最高裁の判例は厳格にこの考え方を貫いてきました。そのうち、国旗・国歌に関わるいくつかをご紹介します。
▼1940年 ゴビティス事件・連邦最高裁判決
エホバの証人の信者であるゴビティス家の子供たちは、公立学校の国旗宣誓敬礼の強制拒否して退学処分となり、これを違憲と争いましたが、連邦最高裁で敗れました。違憲とした裁判官はわずか1名。8名が合憲としました。多数派の意見は、個人の尊厳よりも国家のまとまりが大切だとしたのです。
▽1943年 バーネット事件・連邦最高裁判決
ゴビティス判決は、わずか3年で劇的に逆転します。それが、今に至るまでのリーディング・ケースとなっているバーネット判決です。事案はゴビティス事件と同じく、エホバの証人の信者の国旗宣誓敬礼拒否による退学処分の合違憲判断です。6対3で違憲の判断は今日まで維持された判例法となっています。
▽1969年 ティンカー事件・連邦最高裁判決
ヴェトナム戦争反対の黒い腕章をつけて登校した生徒に対する停学処分の合違憲判断が争われて生徒側が勝訴した事件です。
「生徒・教師が憲法上の権利を校門で捨てるとの主張はできない」「(腕章着用)は、静かで受動的な表現」「われわれの憲法は、われわれが混乱のリスクを引き受けなければならないと語っている」などという理由が述べられています。
また、一連の国旗焼却刑事事件の無罪判決があります。
▽1969年 ストリート事件(無罪)
▽1989年 ジョンソン事件(無罪)
▽1989年 アイクマン事件(無罪)
アメリカ国民には、星条旗を焼却する「表現の自由」の保障があります。
アメリカ合衆国は、さまざまな人種・民族の集合体ですから、強固なナショナリズムの統合作用なくして国民の一体感形成は困難だという事情がありねます。当然に、国旗や国歌についての国民の思い入れが強いのですが、それだけに、国家に対する抵抗思想の表現として、国旗(星条旗)を焼却する事件が絶えません。合衆国は1968年に国旗を「切断、毀棄、汚損、踏みにじる行為」を処罰対象とする国旗冒涜処罰法を制定しました。だからといって、国旗焼却事件がなくなるはずはなく、ベトナム反戦運動において国旗焼却が続発し、合衆国全土の2州を除く各州において国旗焼却を処罰する州法が制定されました。その法の適用において、いくつかの連邦最高裁判決が国論を二分する論争を引きおこしたのです。
著名な事件としてあげられるものは、ストリート事件(1969年)、ジョンソン事件(1989年)、そしてアイクマン事件(同年)。いずれも被告人の名をとった刑事事件であって、どれもが無罪になっています。なお、いずれも国旗焼却が起訴事実ですが、ストリート事件はニューヨーク州法違反、ジョンソン事件はテキサス州法違反、そしてアイクマン事件だけが連邦法(「国旗保護法」)違反です。
連邦法は、68年「国旗冒涜処罰」法では足りないとして、89年「国旗保護」法では、アメリカ国旗を「毀損し、汚損し、冒涜し、焼却し、床や地面におき、踏みつける」行為までを構成要件に取り入れました。しかし、アイクマンはこの立法を知りつつ、敢えて、国会議事堂前の階段で星条旗に火を付け、そして、無罪の判決を獲得したのです。
アイクマン事件判決の一節です。
「国旗冒涜が多くの者をひどく不愉快にさせるものであることを、われわれは知っている。しかし、政府は、社会が不愉快だとかまたは賛同できないとか思うだけで、ある考えの表現を禁止することはできない」「国旗冒涜を処罰することは、国旗を尊重させている自由、そして尊重に値するようにさせているまさにその自由それ自体を弱めることになる」
なんと含蓄に富む言葉ではありませんか。
その他の州レベルでの判決です。
▽1965年 バンクス事件 フロリダ地裁判決
「国旗への宣誓式での起立拒否は、合衆国憲法で保障された権利」
▽1977年 マサチューセッツ州最高裁
「公立学校の教師に毎朝、始業時に行われる国旗への宣誓の際、教師が子どもを指導するよう義務づけられた州法は、合衆国憲法にもとづく教師の権利を侵す。バーネット事件で認められた子どもの権利は、教師にも適用される。教師は、信仰と表現の自由に基づき、宣誓に対して沈黙する権利を有する。」
▽1977年 ニューヨーク連邦地裁
「国歌吹奏の中で、星条旗が掲揚されるとき、立とうが座っていようが、個人の自由である」
自由の到達点において、わが国が国際基準に比較していかに遅れているか。君が代不起立がいかにささやかな、自己防衛行為でしかないか、お分かりいたたけるのではないでしょうか。
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本日の「おしつけないで!6.30 リバティ・デモ」は、予定のとおり、にぎやかに楽しくおこなわれた。参加者数は、主催者発表で80名。但し、出発前集会参加数確認は75名。「デモだけに参加した者が5人はいたと思われる」とのことでの、総員80名。
(2018年6月30日)