澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

《「日の丸・君が代」ILO/ユネスコ勧告実施市民会議》発足集会

2月が逃げて、はや弥生3月。「3・1ビキニデー」であり、「3・1独立運動記念日」でもある。早春にふさわしいうららかな日曜日だが、世の話題はコロナウィルス一色。街に人通りは少なく沈滞した空気。これは不気味な光景である。

いくつもの商業イベントが中止になった。いくつもの市民集会も中止に追い込まれている。巷は徹底した自粛のムードで、このご時世に集会など開催することが怪しからんという声があるのだという。まるで、諒闇に歌舞音曲批判の再来である。

そのような時に、3月1日《「日の丸・君が代」ILO/ユネスコ勧告実施市民会議》発足集会は予定通り開催された。主催者が、「新型コロナウィルスの感染リスクに配慮し、当日の集会に関して細心の注意を払って実施いたします」と言ったとおりの配慮のもと、マスクや消毒薬・除菌テイッシュ、使い捨て手袋が用意され、マイクやドアノブ等の除菌も怠らなかった。

160人の参加者を得ただけでなく、内容の濃い元気の出る発足集会となった。この日発足した「市民会議」は、本日採択の声明のとおり、下記の運動を進める。

私たちは、日本政府に対し、ILO/ユネスコ勧告を遵守し、「国旗・国歌(日の丸・君が代)」の強制を直ちに中止することを強く求める。
今回のILO/ユネスコ勧告も指摘するように、国旗・国歌(日の丸・君が代)の強制は、民主主義社会とは相容れないものである。
日本政府にILO/ユネスコ勧告の遵守を求める私たちの運動は、「国旗・国歌(日の丸・君が代)」の強制に苦しむ教職員や「日の丸・君が代」に抵抗感を持つ者だけのものではない。多様性を尊重し、人間の尊厳と権利を大切にするすべての人々と手を携えていけるものと確信している。
力を結集して日本政府に勧告の実施を求めるため、本日、私たちは「日の丸・君が代」ILO/ユネスコ勧告実施市民会議を発足させた。
多くの皆様がこの市民会議に参加・協力してくださることを、心からお願いする。

**************************************************************************

閉会の挨拶(澤藤統一郎)

本日の市民会議発足集会は、悪条件を押して開催いたしました。にもかかわらず、こんなにも多数の方々にご参集いただいたことを、心強く思います。励まされます。

思えば、「日の丸・君が代」強制との闘いは長くなりました。国旗国歌法の制定が1995年8月のこと。そして東京都教育委員会の悪名高い「10・23通達」発出が、2003年10月です。その直後に「予防訴訟」弁護団が結成され、これが懲戒処分の取消訴訟を任務とする東京「君が代」弁護団となって、併せて16年余の法廷闘争が継続しています。

教員も弁護団もこの間全力で活動を続けてきました。しかし、私たちは獲得目標としてきた、最高裁での違憲判断をいまだに勝ち得ていません。無念の極みと言うほかはありません。

問題は、《人権主体としての個人》と《権力主体としての国家》との対立です。そのいずれが憲法上の根源的価値であるか。どちらが、憲法価値として優越するのか。憲法の根幹をなす重大問題、それがこの事件において明確に、そして根源的に問われています。

国家よりも個人、権力よりも人権こそが優越することが当然ではありませんか。にもかかわらず、個人が国家の象徴に対して敬意を表明することを強制されることが許されようはずがない。個人の思想・良心という基本的人権を蹂躙する権力の行使が許されるはずはない。にもかかわらず、最高裁は「日の丸・君が代」強制を違憲とは判断していません。

もちろん、いまだ道半ばで闘いはこれからも続くのですが、違憲判断についてはやや手詰まりの感を否めません。そこに、ILO・ユネスコの勧告が出されてきました。これは一筋の光明にほかなりません。

最高裁も、国家が国民に国旗国歌の強制ができるとまでは言いません。国民ではなく、教育公務員には、職務命令を出すことができる。その教員に対する職務命令の内容として、「生徒に国旗国歌尊重の指導をせよ」と命ずることもできる。これに附随して、教員に対して「国旗に向かって起立し国歌を斉唱せよ」と命じることも違憲ではない。実害のない戒告処分であれば有効、と言うのです。

これに関して、ILO・ユネスコ勧告は、「消極的で混乱をもたらさない不服従の行為に対する懲罰」は避けなければならない、としているのです。これが、国際的なスタンダードです。これが、世界の法常識なのです。私たちは、この勧告を活かして訴訟の手詰まり感を打開する努力をしたい。

もちろんそれだけではなく、政府に対して、自治体に対して、各地の教育委員会に対して、この勧告の完全実施を求めたい。そのためには、まずは、この勧告を日本の多くの人々に知っていただき、この勧告実施の世論をつくる必要があります。

「市民会議」は、その運動を担うために、本日発足しました。多くの人に訴え、メディアにも、行政にも、裁判所にも働きかける大きな運動の第一歩です。本日はその運動の出発にふさわしい充実した内容で、元気をいただきました。ありがとうございます。そして、今後とも、よろしくお願いします。
(2020年3月1日)

澤藤統一郎の憲法日記 © 2020. Theme Squared created by Rodrigo Ghedin.