澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

自由法曹団の皆様に、自著「DHCスラップ訴訟」のご紹介ー 「DHCスラップ訴訟」を許さない・第207弾

(2022年10月1日)

以下は、自由法曹団通信への寄稿である。自著の紹介記事。

 「紺屋の白袴」という。「医者の不養生」とも。他人のことならテキパキできても、いざ自分のこととなると調子が狂う。私の場合は、ある日突然、「弁護士が民事訴訟の被告になった」。勝手が違って、ウロウロするばかり。

 医者が患者になると、見慣れた病院の風景が変わり、見えないものが見えてくるという。私も、スラップ訴訟の被告とされ、さらにスラップを違法とする「反撃訴訟」の原告にもなって被告業・原告業を体験し、これまで見えなかったものが、少しは見えてきたものがある。

 その6年9か月の顛末を、読み物として上梓した。表題は、『DHCスラップ訴訟』。「スラップされた弁護士の反撃そして全面勝利」という長い副題がついている。版元は日本評論社。
 出版社は≪内容情報≫として、「批判封じと威圧のためにDHCから名誉毀損で訴えられた弁護士が表現の自由のために闘い、完全勝訴するまでの経緯を克明に語る」とキャッチコピーを書いている。
 この散文的な、長い副題とキャッチコピーのとおりなのだが、もう少し、ご説明して、この本をお読みいただきたいと思う。

 ご記憶だろうか。2014年の春に、DHCの吉田嘉明が、当時「みんなの党」の党首だった渡辺喜美に、選挙資金8億円の裏金を提供するという事実が発覚した。大金持ちと政治家の巨額な裏金での結びつき。

 私は3本のブログでこれを批判した。みっともない政治家渡辺喜美よりは、スポンサーである吉田嘉明の「カネで政治を動かそうという姿勢」に批判の重点を置いた。サプリメント販売の最大手であったDHCの経営者として、「消費者利益に反する規制緩和を求める」姿勢も強く批判した。

 そんなブログを書いたことも忘れた5月のある日、東京地裁から特別送達で訴状が届いた。原告は、DHC・吉田嘉明の両名。私の3本のブログ記事によって名誉を毀損されたとして、2000万円の損害賠償を請求するという。
 私は、黙っていてはならないと、この訴訟を典型的なスラップだと批判のブログを連載し始めたら、請求が拡張されて6000万円の訴訟となった。

 この「DHCスラップ訴訟」の応訴のために、親しい友人弁護士にお願いして弁護団を結成していただいた。このとき、あらためて身に沁みた。仲間と言える弁護士をもっていることのありがたさを。

 そして、このときに考えた。弁護士が被告にされたスラップなのだから、スラップに対する闘いの典型例を作らねばならない。けっして《スラップに成功体験をさせてはならない》と。そして今は、成功体験をさせてはならないでは足りない。《DHC・吉田嘉明には手痛い失敗体験をさせなければならない》と思うようになっている。

 訴訟面ではほぼその思いを達し得たと思う。私が被告とされた「DHCスラップ訴訟」では最高裁まで争って請求棄却判決が確定し、その後攻守ところを変えた「反撃訴訟」では、DHC・吉田嘉明のスラップを違法とする判決を獲得し、これも最高裁まで争って165万円の《慰謝料+弁護費用》を勝ち取った。

 しかし、まだ十分ではない。DHC・吉田嘉明に《徹底した失敗体験》をさせるとは、骨身に沁みて、「こんなスラップ訴訟をやるんじゃなかった」「もうこりごりだ。今後2度とスラップはするもんじゃない」と思わせなければならない。

 そのために、訴訟の経過と判決の到達点を多くの人に知ってもらいたいと思う。DHC・吉田嘉明とその代理人弁護士(二弁・今村憲)がどんなみっともない訴訟をしたのか、裁判所がどう判断したのか。

 この本を普及することが、「社会の公器」であるべき民事訴訟を、「強者の凶器」たるスラップに悪用させてはならない(弁護団長・光前幸一さんの言)ことにつながるのだと思う。

 幸い、市民からは「読み易い」、弁護士からは「実務に役立つ」、と反響を得ている。とりわけ、スラップを違法とする訴訟実務の到達点は分かり易く書けていると思う。
 是非、ご一読ください。よろしくお願いします。

https://nippyo.co.jp/shop/book/8842.html

澤藤統一郎の憲法日記 © 2022. Theme Squared created by Rodrigo Ghedin.