澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「安倍9条改憲」の危険を語る。

今、安倍改憲のたくらみが進行しています。日本国憲法が危ない。とりわけ9条が危ない。そのことによる平和が危ない。そう思わざるを得ません。

これまでも、憲法の危機は何度もありました。戦後、政権を担い続けてきた保守政党が、憲法を敵視し続けてきましたから、潜在的には常に憲法は危機にあったことになります。ときおり、その潜在的危機が顕在化し、その都度改憲反対の運動が危うく、改憲を阻止してきました。

とりわけ自民党は、立党以来「自主憲法の制定」を党是としてきた政党ですから、自民党が議会内の多数派である限り、保守の側が「憲法を改正せよ」と言い、革新派が「憲法を守れ」と言う、奇妙な構図が続くことになります。

ご存じのとおり、憲法96条は「改正手続」を定めています。憲法自身が、国民の意思で憲法改正をすることを想定しています。ですが、憲法が想定する「改正」とは、本来が憲法がコアの価値とするもの、人権や民主主義や平和などを、より確かに、より深く、より実効的に保障する方向での、本当の意味での改正を意味していたはずです。たとえば、民主主義や平等に反することが明らかな天皇制を廃止することや、現行憲法の形式的な平等を実質的な平等に高めること、などが予想される典型と言ってよいでしょう。

しかし残念ながら、革新派に真の意味の憲法改正を発議する力量がないため、保守派が憲法「改悪」を発議し、革新派が改憲を許さず、憲法を守り抜いてきた、という「奇妙な構図」が作られてきたのです。

しかし、このことは大きな意味のあることだったと思います。改憲の危機が訪れるたびに、国民は改憲を阻止する運動を展開することで、日本国憲法を自らの血肉としてきました。

日本国憲法は、形式的には大日本帝国憲法の改正手続を経て成立しています。ですから、国民主権の憲法の制定(文言上は「改正」)を天皇が裁可して交付せしめる、という奇妙キテレツなこととなっています。ですから、このとき日本国民は、日本国憲法制定について主権者として、国民投票をしていません。しかし、その後70年余年、権力に抗して、保守派が嫌う日本国憲法を幾たびの危機から守り抜くことで、自らの憲法として獲得してきたものと胸を張ってよいと思います。

もっとも、今回の「安倍改憲」は、前例のない具体的スケジュールをもっての改憲案と言えます。それだけに、深刻なのです。

深刻だという理由の第1は、手続的な法制が整備されていることです。改憲手続き法(国民投票法)とともに、国会法の関係規定の改正が済んでいます。手続的に、泥縄ではなく、しっかりと舞台は整えられていることが重要です。

しかも、両院とも「改憲派」(自・公・維+α)の議席が、3分の2を超えています。数え方によっては、改憲派の議席は80%にもなると報じられています。国民意識と乖離した恐るべき事態といわざるを得ません。かつて、国会の中に厳然としてあった、3分の1の護憲の壁がないのです。

そして、今、保守派というよりは右翼陣営の頭目が、改憲の実現に血道を上げています。右翼陣営は、「アベのいるうち」「3分の2の議席あるうち」こそが、千載一遇のチャンスだと改憲世論の喚起に躍起になっています。

このことは、アベがいなくなれば、改憲派が3分の2の議席を失えば、右翼のいう「千載一遇の改憲チャンス」は潰えることになります。彼らも、危機感を持っているということです。

この、安倍改憲の経過をまとめておきましょう。
昨年(2017年)5月3日、安倍晋三は右翼改憲集会へのビデオ・メッセージを送り、また同日の読売新聞紙上で、「アベ9条改憲」の提案を行いました。「9条1項2項はそのまま残して、自衛隊を憲法に明記する」という、今問題の改憲案です。

この提案の種本は、伊藤哲夫(日本会議)「明日への選択」論文です。この案は、一面「力関係」を見据えた現実的提案ではありますが、けっしてそれだけではありません。護憲派の運動の分断という狙いを明確にしています。

つまり、戦争法反対運動が盛りあがったのは、「自衛隊違憲論」派と「自衛隊合憲論を前提とする専守防衛派」の共闘があったからだ。この両派に楔を打ち込むことが肝要で、この案なら、両派を分断することができる、というのです。

自衛隊を合憲化するだけの9条改憲案だから、「専守防衛」派は大きな反対はしないだろう。とすれば、「自衛隊違憲論」者を孤立させることができる、という思惑なのです。

自民党憲法改正推進本部は、この案を中心に議論を重ね、同年12月20日に、次のようにとりまとめました。
改憲4項目 テーマは、「9条」・「緊急事態」・「参院選の合区」・「教育充実」
9条改正案は下記の両論併記
※現行憲法9条1、2項を変えず、
自衛隊を明記する条文を新設する安倍晋三首相(党総裁)の提案
※9条2項を削除して「国防軍」を盛り込む?2012年の改憲草案

9条改正案については、2018年3月14日。改憲本部が、7案を提示しました。
そして、当初の見込みとしては、3月25日の自民党大会において、党内一本化した条文案を作りあげようと予定していました。3月25日党大会を改憲運動の出発点とし、その後は改憲諸政党(公・維・希)と案文を摺り合わせて、『改正原案』を作成し、今国会中に改正原案を衆議院に発議し、今秋、あるいは遅くも年内には憲法改正案を発議して、国民投票を実現したい。これが彼らのスケジュールでした。

憲法改正発議までの手続の概要を確認しておきましょう。
用語が混乱しやすいのですが、まずは衆院に『改正原案』発議が行われることになります。本会議を経て、衆院の憲法審査会で実質的な審議をすることになります。そして、過半数で可決されて本会議に戻り、今度は3分の2以上の特別多数決で可決となり、参院に送付となります。衆院と同じ手続で可決になると、成立した『改正案』が国民投票に発議されることになります。

発議後、60?180日の国民投票運動期間を経て、国民投票となります。
この国民投票運動は原則自由。新聞広告もテレビコマーシャルも自由です。カネに飽かせた、「自由な」運動が氾濫することになるでしょう。国民投票は、有効投票の過半数で可決となります。投票率の有効要件はありません。

いま、決定的に重要なのは、改正原案を作らせない運動です。2019年の政治日程は、元号制定・天皇退位・次天皇即位の礼・大嘗祭・参院選・消費税値上げと目白押しです。

19年の4月までがヤマ場で、19年7月参院選で、護憲野党共闘が勝利すれば、このヤマ場を乗り切れることになります。

「憲法に自衛隊を明記する」という安倍9条改憲案は、
?2項を削除し「通常の軍隊」を保持
?9条1項と2項を維持し「自衛隊」を明記、
?9条1項と2項を維持し「(自衛隊ではなく)自衛権」を明記、
の3案が検討されてきました。
3月14日自民党憲法改正推進本部役員会の7案とは以下のようなものです。
▽2項削除案
(1)総理を最高指揮官とする国防軍を保持(9条の2)
(2)陸海空自衛隊を保持(9条2項)
▽2項維持案(自衛隊を明記)
(3)必要最小限度の実力組織として、自衛隊を保持(9条の2)
(4)前条の範囲内で、行政各部の一として自衛隊を保持(9条の2)
(5)前条の規定は、自衛隊を保持することを妨げない(9条の2)
▽2項維持案(自衛権を明記)
(6)前2項の規定は、自衛権の発動を妨げない(9条3項)
(7)前2項の規定は、国の自衛権の行使を妨げず、そのための実力組織を保持できる  (9条3項)

ずいぶん対立しているようですが、結局は安倍提案の「2項維持案(自衛隊を明記)」の(3)案が最有力と報じられています。

なお、自衛隊(あるいは自衛権)の明記は、現行の9条1項2項のあとに、「9条3項」として書き加えるか、あるいは9条と10条の間に「9条の2」を新設して、ここに書く案の両者があります。「9条の2」新設案は、「従前の9条はそのまま」という印象を強く出すねらいがあると思われます。

問題は、安倍9条改憲は、「9条2項を残す」案なのだから、自衛隊を明記したところで現在と実質的に変わらないのではないか。「戦力不保持を定めた9条2項」が憲法に残れば、後々この残った9条2項を有効なものとして使えるのではないか、軍拡の歯止めになるのではないか、とごまかされるおそれです。それは間違いと、考えざるをえません。

まずは、「後法は前法を破る」という法解釈の原則があります。明らかに矛盾する法が、あるいは条項が存在する場合、後法が有効になります。後法に反する限りで、前法は無効とならざるを得ません。

「自衛隊は戦力に該当して違憲』という前法は、「自衛隊は憲法上の存在」という後法によって、無力化されるおそれが高いのです。

もともと自衛隊は合憲と考えていた専守防衛派にとっても、「戦争法によって変質し、集団的自衛権行使可能な自衛隊の追認」となるおそれがあります。「憲法では専守防衛の原則が貫かれているはず」が通用しなくなるおそれが高いのです。

いま、自民党や右翼勢力にとっても、事態は芳しくありません。3月22日に、改憲本部会合で「本部長一任」を取り付けましたが、3月25日自民党党大会では、誤算に終わった模様です。朝日の報道では、「改憲発議 年内厳しく 支持急落、日程窮屈に」「党改憲推進本部が急いでまとめた「改憲4項目」の条文案が大会で披露されることはなかった」というものとなっています。

9条改憲を除く、その他の改憲テーマは次のようなものです。
1.いつでも武力攻撃時に適用可能な緊急事態条項
2.選挙制度の基本原則を破壊する「合区解消」改憲案
3.教育の充実につながらない26条改憲案

改憲をめぐってせめぎ合いが続いています。私たちがすべきこと、できることは、こんな改憲案にこだわっていたのでは、自民党は民意から離れて選挙で大敗するだろう。という世論を作りあげること。それには、改憲反対の3000万署名を積み上げなくてはなりません。

是非とも、今回の憲法の危機を乗り越えて、この憲法をさらに国民のものとしたいものと念じています。
(2018年4月7日)

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Published in 土曜日, 4月 7th, 2018, at 23:18, and filed under 安倍政権, 明文改憲.

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