澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「浜の一揆」訴訟控訴審の始まりに当たって ー 仙台高裁101号法廷で

控訴人ら漁民側の訴訟代理人となっている弁護士の澤藤大河です。

漁民が「浜の一揆」訴訟とネーミングした、本件サケ刺網漁不許可取消・許可義務付け請求控訴事件控訴審の審理開始に当たり、貴裁判所に控訴人らの主張をご理解いただきたく、控訴人らを代表して瀧澤英喜さんと、代理人の私から、口頭で意見を申しあげます。

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 大船渡市三陸町越喜来の瀧澤英喜です。
 私たち、この訴訟の原告は、岩手県沿岸全域の小型漁船漁業者です。東日本大震災の津波で、たくさんの漁師仲間を亡くしました。そして、原告団の漁師たちも、船や漁具・住まいなど、それぞれに大きな被害を受けました。私自身、住まいは津波をまぬがれたものの、船3艘と倉庫・養殖施設・資材がすべて被害をうけました。
 津波を機に、漁業をやめざるをえなかった漁師もたくさんいます。ですが、私たちは「復興のかなめは、沿岸の漁業だ」と考えています。船をつくり、漁具を入手して、漁を再開しています。
 私は今、ホタテ養殖を通年、そして季節ごとのカゴ漁をやっています。サケ刺網漁が認められれば刺網漁も再開したいと考えて、準備をしています。
 私たちの仲間も、同じようにカゴ漁や刺網などをやっています。春先はイサダ、5月はシラス、夏場はタコ、1月はタラ刺網など、季節ごとにかわる魚種をくみあわせて、一年間の生計をたてています。
 毎年、苦労するのが9月から11月です。獲れる魚が激減します。唯一、頼りになるのがサケです。サケのように値段がしっかりしていて、魚体が大きいものをとることができれば、漁業者の意欲にもつながります。
 ところが、岩手県では刺網でサケをとることが許可されていません。とってしまうと「6カ月以下の懲役、もしくは10万円以下の罰金」に処せられます。「漁業許可の取り消し」、「漁船・漁具の没収」といった制裁もあります。ですから、網にサケがかかれば、海に捨てなければなりません。しかも捨てれば不法投棄ということになります。
 網を入れればサケが入る時期ですので、実質的に、他の魚種をねらった刺網漁も秋はやれないというわけです。秋から冬にかけての収入が断たれてしまっています。
隣の宮城県ではサケ刺網漁が認められており、小型漁船漁業者が堂々と刺網でサケをとっており、私たちはずっと悔しい思いをしてきました。
 「サケ刺網漁を認めてほしい」という私たちの声に、県はまったく耳を貸そうとしません。サケ刺網漁を認めれば、「獲りつくされて資源がなくなる」「孵化放流と一体にすすめてきた定置網でとるはずのサケがなくなる」と言うのです。そして、その根拠としているのが「定置網に比べて、刺網漁は攻撃的な漁法だ」という誤解です。
 サケ資源をめぐって、むしろ問題が大きいのは定置網漁です。定置網は、海底から海面までを水深70mから100mぐらいにわたって覆います。長さは1?ぐらいに及ぶものもあります。これを、春と秋の入れ直しはありますが、基本的に数か月の間、ずっと設置しています。
 いっぽうで、刺網漁は海底に高さ5m、長さは上限でも1800mの網を立てるというものです。これを早朝に数時間入れたら引き上げるというものです。
 このように、刺網漁はまったく攻撃的な漁法ではありません。定置網のほうがはるかに大規模に長期間、海域を遮断して資源を多くとる漁法です。その結果、「本来は獲ってはならない魚種が定置網にかかっている」という話は、浜では常識となっています。定置網にかかってしまうのは、例えばサケの稚魚や、いま話題のマグロから、クジラまで、挙げればきりがありません。「それを海に捨てている」という話が、あちこちの浜できかれます。資源保護をはかるうえでは、むしろ定置網のありかたを改めることのほうが必要です。
 また、サケを狙って刺網を入れる場合、沖合の水深が深い200m前後のところに設置することになります。遡上をひかえて陸に近づいてきたサケを狙う定置網とは、獲る魚の群れも、獲る時期も異なります。定置網の漁獲を大きく損なうものではありません。
 
 刺網でサケをとりたいというのは、岩手の漁師にとって長年の悲願です。以前は、県による規制はありながらも、実態として刺網にサケがかかっても見逃されてきました。ところが徐々に規制が強まり、これに抗議して1990年11月に漁師たちがサケをいっせいに大船渡漁港にあげ、県庁に陳情するという行動を起こしました。2011年2月、震災の直前にも、「岩手県沿岸漁船漁業組合かご漁業部会」で県へ要請しました。このほかにも、何度も県に対してサケ刺網漁の許可を求めています。しかし、いずれも県からまともな回答はありませんでした。
 そもそも県の漁業政策は、現場の漁師の声をきいてつくるものになっていません。たとえば、数年前にもイカ釣り船漁業をめぐって、岩手・宮城境界の見直しがありました。漁船漁業者にとっても、漁具を壊されかねない大きな問題です。ところが、現場の漁師に対しても、漁師の集まりである「岩手県沿岸漁船漁業組合かご漁業部会」に対しても、なんのことわりもなく県は話を進めてしまいました。ことごとく、この調子なのです。
 一審の証人尋問で、県側の証人が、サケ刺網許可をめぐる論議を「水産課3人でやった」と証言しました。大事なことをそんな一部で論議しているのかと、おどろくと同時に、「やっぱり」という感じです。
 県の海区漁業調整委員会も、漁師の意見を反映してきませんでした。この間に原告団の一員である藏?平さんと菅野修一さんが入って積極的に発言していますが、それまでは漁協の代表がほとんど論議もなく議題をこなしていくというのが実態でした。
 そしてその漁協は、漁船漁業にたずさわっていない一部の幹部の意向で、多くのことを決めています。現場の漁師の声を代表する漁協になっていません。理事会や総代会で声をあげても、論議されません。漁協直営の定置網など、一部の利益を優先するものになってしまっています。そのうえ、漁船漁業にとっても定置網にとっても問題が大きい、トロール船や巻き網船による乱獲など、大きな問題に対しては声をあげられない組織になってしまっています。 
 このように、漁師の意見が反映されない県政、漁協によって、「サケ刺網漁をしたい」という私たちの要求は排除されているのです。

 東日本大震災のあと、海の様子はすっかり変わってしまいました。資源が減り、魚がとれなくなってしまっています。赤字ギリギリの漁師がほとんどです。「船は来たが魚をとれない」というのが実態です。
 サケ刺網漁をやれれば、一定の収入ができ、別の魚種・漁法にも手を付ける可能性が開けます。しかし、これがなければこのまま経営は先細りです。次世代につなぐことができません。震災前後に、決意をして浜に帰って来た若者もいます。この世代が希望をもって漁業をやれるようにする責任が私たちにはあります。
 漁船漁業がなければ浜の未来はありません。漁船漁業は、「船にのる青壮年」そして「それを岡でサポートする経験豊かな高齢者」や、「選別・加工などで活躍する女性」など、幅広い雇用を生んでいます。そして浜の環境に常に目を配っているのが漁船漁業者です。
 いま、県の漁業政策は定置網と養殖に偏っています。しかし貝毒などのリスクがある養殖だけではなく、通年で魚種・漁法をかえながら多様な資源を生かす小型漁船漁業はやはり必要です。
 岩手の漁業にいま求められているのは三陸の海の幸をアピールし、浜に活気を取り戻すことです。そのためには、量をとる定置網だけではなく、特色のある魚種,高い品質の魚をとる小型漁船漁業を育成することが欠かせません。とりわけ、サケ資源が減っていることは明らかです。だからこそ、遡上を控えたサケを定置網でとるだけではなく、よい品質のサケをとる刺網漁も活かすことが大事なのです。そうやって、高品質な岩手のサケを消費者に届けることを本気になって考えなければなりません。
 
 私たちが漁師として生きていくために、豊かな浜を次世代につないでいくために、サケ刺網漁の許可を私たちは切に求めています。裁判官の皆様の最善のご判断を心からお願いしまして、私の意見陳述といたします。

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訴訟代理人の澤藤大河です。

本件訴訟の、最大の争点は「漁業調整」のあり方です。ですから、まず何よりも「漁業調整の現状」の極端なまでの不平等・不合理を正確にご認識いただきたいのです。
本件で問われている「漁業調整」とは、三陸沿岸におけるサケの採捕について、「大規模定置網漁業者」と「控訴人ら零細な小型船漁民」との間の利害調整を行政処分庁である岩手県知事がどう判断すべきかの問題です。
被控訴人岩手県は、本件許可をすれば、「両者に摩擦が生じる」。だから、「漁業調整」のために、本件固定式刺し網によるサケ漁は許可できない、と言います。
しかし、大きな摩擦が既に生じているのです。そして、その現状は沿岸漁民に耐えきれないものとまでになって、訴訟提起となったのです。だから、本件を「浜の一揆」訴訟と形容するにふさわしいのです。
現状、岩手県では刺網でのサケ漁は厳しく禁止されています。違反には、「6月以下の懲役、もしくは10万円以下の罰金」が科せられます。「漁業許可の取り消し」「漁船・漁具の没収」といった制裁もあります。いったい、こうまでして、大規模定置網漁者を保護し、零細漁民の要求に背を向ける必要があるのでしょうか。
瀧澤さんの意見陳述にもあったとおり、3・11の被災以来、漁民の生活は苦しい。廃業者が続出し、後継者が育たないというこの現状が、到底「漁業調整」ができている状態ではあり得ません。
しかも、漁民の要求は、「刺し網漁の邪魔になるから、定置網はやめろ」などと乱暴なものではありません。本件許可をしても、定置網漁の継続は可能なのです。許可された区域での漁獲の独占になんの支障も生じません。
定置網漁と刺し網漁、大規模業者と零細漁民、その共存を図るべきこと、適正な利益配分を実現すべきが常識的な水産行政のありかたではありませんか。
ところが被控訴人は、「定置網漁の邪魔になるから、刺し網漁で一匹のサケを獲ることもまかりならん」というのです。こんな不平等・不公正が納得を得られるはずはありせん。法が予定する「漁業調整」とは到底言えない。従って、不許可処分は違法で取り消されなければならないのです。

問題は、この明らかに不平等・不公正な漁業調整の現状を合理化する何らかの理由があり得るか、と問題設定がなされることになります。結論から申しあげれば、それはあり得ない、と言わざるを得ません。

まず、控訴人らの請求は、憲法上の基本権として保障されている「営業の自由」を根拠とするものです。軽々に制約されてよいはずはありません。原判決には誤解があるようですが、三陸沿岸を回遊するサケは無主の動産です。井田齊証言が明らかにしているとおり、サケは大いなる北太平洋の恵みが育てたものであって、誰のものでもありません。養殖による漁獲物とは決定的に異なるものとして、そもそも誰が採捕するののも採るのも自由。これが大原則であり、議論の出発点です。
この基本権を制約しうるものとして、法が定めたのが、漁業法における「漁業調整の必要」と、水産資源保護法における「水産資源の保護培養の必要」の2点にほかなりません。
「漁業調整」の本来の指導理念は、漁業法第1条に、「この法律は…漁業の民主化を図ることを目的とする」という、漁業法が特別に明記した「漁業の民主化」でなくてはなりません。経済的強者である定置網漁業者にサケ資源捕獲の独占を許し、零細漁民にこれを禁止することは、明らかに「民主化」に逆行することではありませんか。
また、控訴人ら漁民と調整を要する関係にある87ケ統の大規模定置網業者のうち、過半は漁協が経営する自営定置です。水産業協同組合法第4条は、「組合(漁協)は、その行う事業によつてその組合員又は会員のために直接の奉仕をすることを目的とする」と定めます。これが漁協本来の役割です。定置網漁の自営はその本来の役割ではありません。漁民のために直接奉仕するどころか、漁協の自営定置を優先して、漁民のサケ漁禁止の理由とする、これは法の理念に真っ向から反することではありませんか。
では、水産資源の保護培養の必要を理由に不許可とできるか。これは、実はできないことは決着済みです。原審における専門家証人井田齊の証言とその意見書(甲12)を虚心にお読みいただけば、自ずから明らかです。孵化事業で求められる卵を採取するためには、河川親魚をどれだけ確保できるかが問題なのであって、誰がどのように成鮏を採捕するかは、サケ資源の保護培養の観点からは実は問題となりません。本件訴訟との関係で述べるならば、申請を許可することがサケ資源の保護培養に支障をきたすかどうかだけですが、支障をきたすことはありません。
残る問題は、孵化事業の主体に成鮭を採捕させることの合理性をもって本件申請を不許可とすることができるか、につきます。原判決は、結論先にありきの思い込みから、これを肯定しました。しかし、あきらかに誤っています。

判決要旨に、原審裁判所のこの点についての考え方が要約されています。
「県沖合で採捕されるサケはほぼすべて、手間と費用を要する人工ふ化事業に起因する資源であり、これを同事業と無関係の固定式刺し網漁業者が採捕することは、著しく不公平である」というのです。これは、率直に申しあげて一驚に値する判断というほかはありません。明らかに、幾重にも間違っています。
まず、原判決は養殖事業と人工増殖事業の区別を理解していません。甲12に目を通していないからです。人工増殖である孵化放流事業では、放流された以後は、太平洋の自然の恵みで育ちます。養殖ならば、自分を育てた魚を自分で捕るのは当然ですが、増殖はそうではないのです。育成全過程を人間の管理下で「養殖」とは異なり、「増殖」では人間の関与は限定的なものに過ぎません。
また、孵化放流事業とサケの採捕とはそれぞれ独立した別事業なのです。「手間と費用を要する人工ふ化事業者だけに採捕の権利がある」との理屈は立てようがありません。そもそも、現在定置網漁業の許可を得ている事業者全てが人工孵化事業に関与している訳ではありません。「人工ふ化事業」だけを行って、サケの採捕を行わない事業者もいれば、「人工ふ化事業」とは無関係の定置網漁業者もいます。
「人工ふ化事業者と無関係の者が採捕することは、著しく不公平である」もあり得ません。「人工ふ化事業者」の事業は、毎年稚魚を孵化放流することで完結します。親魚の確保から採卵し、これを孵化して稚魚を成育し、河川に放流するサイクルで事業として成立するよう経済設計ができればよいだけのことです。控訴人らは人工孵化事業にただ乗りしようとしているのではなく、水揚げに応じた分担をすることは当然だと考えています。

是非とも、貴裁判所には、虚心に丁寧に、控訴人らの主張と立証に耳を傾けていただくよう、お願いいたします。

(2018年7月24日)

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Published in 火曜日, 7月 24th, 2018, at 21:47, and filed under 浜の一揆.

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