真夏の真昼時、暑いさなかの平和を守ろうという熱いアピールです。
ご近所の皆様、ここ本郷三丁目交差点をご通行中の皆さま。こちらは平和憲法を守ろうという一点で連帯した行動を続けています「本郷・湯島九条の会」です。私は近所に住む者で、憲法の理念を大切にし、人権を擁護する立場で、弁護士として仕事をしています。
真夏の真昼時、暑いさなかですが、平和を守ろう、憲法9条を大切にしようという熱い訴えに、少しの時間耳をお貸しください。
73年前の今日、1945年8月14日午前10時に千代田区内某所で「特別御前会議」なる戦争指導者全員が参集した会議が開かれ、その席でポツダム宣言受諾を決定しました。そしてこの日、天皇(裕仁)の名で連合国(米・英・中・ソ)にその旨を通告し、法的には日中戦争・太平洋戦争が日本の無条件降伏で終了しました。調印式が9月2日横浜沖のミズーリ号上で行われたのは、ご存じのとおりです。既に、ムソリーニは虐殺され、ヒトラーは自殺して、イタリア・ドイツは敗北していましたから、最後の枢軸国日本の敗戦は、第2次大戦の終了でもありました。
そして、翌8月15日正午、天皇が読み上げた「大東亜戦争終結に関する詔書」の録音がNHKのラジオで放送されて、国民に敗戦を知らせました。国力を傾け尽くし、310万人の自国民死者と、2000万人にも及ぶ近隣諸国の犠牲者を出した末に、ようやくにして悲惨な侵略戦争は終わりました。
8月15日正午の天皇の放送は、1億国民からさまざまな思いで受けとられ、さまざまな記録が残されています。名古屋の武田徳三郎さんと志津さん夫妻の場合はこうでした。
夫妻の息子二人は、学徒動員で軍需工場に働いていましたが、名古屋の大空襲で、二人とも亡くなりました。夫妻は、必死になって、夜昼となく遺体を探しますが、ついに肉のカケラも服の端切れさえ見つからなかった。80キロあった徳三郎さんの体重は50キロまで減ったということです。「死のう」「いや、ワシらが死ねば、弔いをする者がなくなる」と思う日々が続いて、8月15日を迎えます―。
天皇陛下の玉音放送があった。「一億玉砕」とばかり信じていた。…だが、四球のラジオから流れる玉音は、ザァザァという雑音の中で無条件降伏を伝えた。…「そんなバカな! 手をあげてやめられる戦争なら、なぜもっと早くやめてくれなんだ。陛下さま、ワシの息子らは、これで犬死になってしもうたがや―」徳三郎さんは泣き崩れた。(毎日新聞社編『名古屋大空襲』)
これを引用した近代史研究者の色川大吉は、1975年にこう書いています。
私はこの部分を天皇(註・裕仁)に読んでもらいたいと思う。「手をあげてやめられる戦争なら、なぜもっと早くやめてくれなんだ!」 この悲痛な叫びは、ポツダム宣言の受諾をめぐって天皇制の存続を条件にグズグズ日を延ばしていたあいだにも、50万人以上の民衆を殺し、徳三郎さん夫妻のような、もはや永久に救われない運命を負った庶民を無数に生み出してしまったのである。
無数の悲劇を重ねて、長い長い戦争が終わりました。再び、この戦争の惨禍を繰り返してはならない。多くの人々の切実な思いが、平和憲法に結実しました。とりわけその9条が、再びの戦争を起こさないという国民の決意であり、近隣諸国への誓約でもあります。
大日本帝国憲法は戦争を当然の政策と考え、軍隊の組織編成や、国民を戦争に動員する手続を定めています。戦争を抑制しようという憲法ではなく、主権者である天皇の名による戦争を煽った憲法と言ってもよいと思います。きっぱりとこの好戦憲法は捨て去られ、平和憲法が採択されました。
日本国憲法は、戦争を放棄し戦力を保持しないことを憲法に明確に書き込みました。それだけではなく、この憲法には一切戦争や軍隊に関わる規定がありません。9条だけでなく、全条文が徹頭徹尾平和憲法なのです。戦争という政策の選択肢を持たない憲法。権力者が、武力の行使や戦争に訴えることのないよう歯止めを掛けている憲法。それこそが平和憲法なのです。
ところが、歴代の保守政権は、この憲法が嫌いなのです。とりわけ、安倍政権は憲法に従わなければならない立場にありながら、日本国憲法が大嫌い。中でも9条を変えたくて仕方がないのです。
彼が言う「戦後レジームからの脱却」「日本を、取り戻す」とは、日本国憲法の総体を敵視するという宣言にほかなりません。「戦後」とは、1945年敗戦以前の「戦前」を否定して確認された普遍的な理念です。人権尊重であり、国民主権であり、議会制民主主義であり、なによりも平和を意味します。戦後民主主義、戦後平和、戦後教育、戦後憲法等々。戦前を否定しての価値判断にほかなりません。安倍首相は、これを再否定して「戦前にあったはずの美しい日本」を取り戻そうというのです。
戦後73年、日本国憲法施行以来71年、国民は日本国憲法を護り抜いてきました。それは平和を守り抜くことでもありました。そうすることで、この憲法を自らの血肉としてきました。平和は、憲法の条文を護るだけでは実現できません。国民の意識や運動と一体になってはじめて、憲法の理念が現実のものとして生きてきます。平和憲法をその改悪のたくらみから護り抜き、これを活用することによって恒久の平和を大切にしたいと思います。
そのため、安倍9条改憲を阻止して、「戦後レジームからの脱却」などというふざけたスローガンを克服して行こうではありませんか。夏、8月、暑いさなかですが、そのような思いを新たにすべきとき。憲法9条と平和を大切にしようという訴えに、耳をお貸しいただき、ありがとうございました。
(2018年8月14日)