澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

東京が語る苦い真実

東京オリンピック招致委員会を代表して、IOC委員の皆様に心から訴えます。自腹を切ることなく、人の金を使って、遠くブェノスアイレスまでやってきました。とても手ぶらでは帰れません。ですから、泣いてのお願いです。

いまや、ブェノスアイレスの関心事は、フクシマの原発汚染水漏出事故と東京の安全性に集中しています。もちろん、東京の放射線量は今のところ心配しなければならない数値ではありません。そんなことは皆様ご存じのとおりです。問題は7年後の東京に放射線の心配がないかどうか。それは分かりません。全く分からないとしか申し上げようがありません。

おそらく皆様は、フクシマの原発事故には大きな関心をもって、事故以来今日までの経過を追ってこられたのだと思います。だから、ご存知のとおりです。事故を起こした電力会社も、日本の政府も言ってることにはまったく信用がおけません。情報は常に後出しです。隠しきれなくなるまで隠して、渋々とあとから小出しにします。しかも、過小評価に色づけされた情報としてです。昔、「大本営発表」というものがありました。あれと変わりがありません。

3・11直後の水素爆発とメルトダウンについても、また大量の放射性物質が大気に放出されたことについても国民が知らされたのは、ずっとあとになってからのことです。ですから、日本の国民の誰もが、政府や電力会社の発表を信用していません。今回の汚染水の漏出も、参議院議員選挙が終わるのを待って公表されました。しかも、最初は海への流出はないと言い、今は回収できない汚染水が毎日300?400トンの規模で地下や海に流出していることを認めています。それでも、「大したことはない」のだそうです。東電は2011年5月から今年7月までに20兆から40兆ベクレルのトリチウムが海に出たと試算しています。ご存じのとおり、トリチウム除去の技術が確立していないからです。でも、「20兆から40兆ベクレル」の線量は大海で拡散すれば「大したことはない」とされています。

おそらく、安倍晋三さんが日本の政府を代表して、「政府が安全のために予算措置をした以上はご安心を」というでしょう。しかし、政府が事故の「収束宣言」をしたのが2011年12月16日。当時から誰も「収束」を信じませんし、事態の推移は「収束」の間違いを明らかにしています。しかも、安倍さんはまったくの素人です。自信をもっている振りをすることにおいてはプロでしょうが、原子炉の構造も、安全のための土木作業の内容も、放射線の生体に及ぼす影響についても、海洋での食物連鎖における濃縮も、ほとんど何も知りません。それでも、笑顔をふりまき、安全対策の予算額を述べれば、招致レースを乗り切れるだろうと多寡を括っているのです。

とはいえ、彼の笑顔の裏に潜む焦慮は透けて見えるでしょうし、大金を注ぎこまなければならないということはそれだけ危険だということなのです。IOC総会が終わったタイミングを見はからって、またまた新たな事故の報告が後出しでなされる可能性も否定できません。仮に、不利な情報がことさらに伏せられて東京招致が決定されたとなったら…。いったいどうなるのでしょうか。

フクシマでは、昨日も震度4の地震がありました。再度の大地震がいつ来るか予測はできません。今後7年の間には相当に高い確率で大地震がフクシマや東京を襲うものと考えざるをえません。そのとき何が起こるのか。とりわけ、メルトダウンした核燃料の残骸や、崩壊した建屋の中に放置されている核燃料がどうなってしまうのか。予断を許さないところなのです。

また、政府の原子力規制委員会は、福島第1原子力発電所の汚染水は放射能濃度を薄めて海に放出する以外にないと言い出しています。おそらくは、そうして廃棄物を呑み込んだフクシマの海の放射線量は、しばらくのあいだは十分に低いものと考えられます。しかし、7年後はどうなっているか、これも分かりません。フクシマの海と繋がっている東京湾の放射線量がどうなるか。誰にも予測がつかないことなのです。そこがトライアスロンの舞台になります。

だから、敢えて申し上げます。政府の言っていることが信用できないことは明白です。安倍さんの言を信用しろというのが無理なことももっともです。2020年の東京が、放射線被害のリスクあることはハッキリと認めた上で、お願いします。東京を見捨てることなく、東京との絆を大切にしていただきたいと思うのです。

いま、日本も東京も、多くの困難な課題を抱えています。原発、消費税、改憲、格差貧困、財政危機、近隣諸国との軋轢‥。政府や都政への人民の不満もまことに大きいのです。これを何とか、かわしたい。東京オリンピック招致こそはその切り札なのです。はっきりいえば、愚民政策。これにご協力いただきたいのです。

オリンピックのもつ経済効果でマドリードの経済を支えることができるでしょう。オリンピックのもつ政治的効果でイスタンブールに平和や治安をもたらすことも可能でしょう。そして、オリンピックの熱気で、閉塞感に喘いでいる東京に、束の間の幻想を与えていただくようお願いします。

政府の嘘を嘘と見抜いて、東京が安全だなんて軽々に言えないことを承知のうえで、それでなお、十分な覚悟と自己犠牲の隣人愛の精神を発揮され、ぜひとも、2020年東京オリンピック誘致にご支援をお願いいたします。お互い、うるさい人民に対して、どう統治すべきか苦労を重ねている、上から目線の仲間の皆様ではありませんか。私の願いに、ご理解いただけないはずはありません。よろしくお願いします。
(2013年9月5日)

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Published in 木曜日, 9月 5th, 2013, at 23:59, and filed under 未分類.

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