ゆく秋や 哀れスルガは 身の終わり
師走である。何とも、季節の遷りが速い。
暦の上では、昨日までは秋。その秋の終わりに、スルガ銀行不祥事の処分が発表になった。同銀行は昨日(11月30日)、シェアハウス向けの不正融資問題で117人を処分し、同時に業務改善計画を金融庁に提出したと発表した。
ところで、言葉遊びである。誰が作ったやら、これほどうまくできている例を他に知らない。
あきのかがすおうとするがみのおわり
漢字で表記すると面白くもおかしくもないが、こうなる。
秋の蚊が、吸おうとするが、身の終わり。
元気のよい夏の蚊ではない。ヨタヨタと元気のない秋の蚊である。血を吸おうと人の肌にとりついたが、たちまち事は露見。逃げ遅れて叩かれ、哀れ身の終わりとなった。それだけの句。
いくつの国名を読み込んでいるか。
「安芸の加賀、周防と駿河、美濃尾張」で6か国、は正解ではない。
ひらがなの「の」と「と」を、能登と読んで7か国が正解なのだ。17文字すべてが、国名の読み込みに使われている。たいへんな才能というべきか、恐ろしく暇な御仁の手すさびか。
この17文字の中に「するが(駿河)」が入ってるのが、実に示唆的でもあり、予言的でもある。
今話題のスルガ銀行。2004年の商号変更前は、駿河銀行だった。静岡県沼津市に本店を置く地方銀行の雄の一つ。元は堅実な経営姿勢で知られ、バブルで傷を負わなかったことが賞讃された。よりによってその「駿河」が、消費者の血を吸おうとして、この秋身の終わり同様の体である。
メディアは、厳しく同行のコンプライアンス軽視の姿勢を批判している。いつもながらの企業の不祥事発覚のたびに、行政規制の重要さを再確認させられる。この行政規制とコンプライアンスが重要なのだ。
思い出す。バブルが終わって吹き出した日本企業の醜状。私は、当時日弁連の消費者委員長としてこれに向き合った。それまで消費者問題とは、豊田商事であり、茨城カントリークラブであり、武富士であり、あるいは霊感商法であり、原野商法等々であった。言わば、経済社会の片隅、あるいは日陰に生じるものであった。
ところが、蓋を開けてみれば、似たようなことを銀行も生保もやっていた。証券会社などはもっとひどかった。その典型が変額保険であり、過剰融資問題であった。シェアハウス向け融資と基本構造を同じくする。以来、消費者問題とは企業社会そのものと向きあうべきものと意識されるようになった。
資本主義社会とは個別資本の利潤追求の行動を是認する制度である。しかし、この野蛮な資本の衝動を放置していたのでは、人を限りなく搾取し収奪することになる。法や行政による規制が絶対に必要なのだ。
バブル経済崩壊のあと、経済社会を立て直すためにとして、規制緩和論が台頭した。新自由主義という「理論」の衣をまとって。だが、消費者問題に携わる現場からは、悲鳴にも似た規制緩和論への反発が生じた。企業は常に規制緩和を求め、消費者はこれに抵抗を続けざるを得ない。
たとえば、DHCの吉田嘉明である。吉田嘉明は政治家・渡辺喜美に8億円の裏金を提供した。その動機として彼が最も力んで主張しているのは、「日本国をより良くしようと脱官僚を掲げる政治家(註?渡辺喜美)を応援するために、大金(註?8億円)を貸し付けた」というのである。
今さら言うまでもないが、吉田嘉明は化粧品とサプリメントを製造販売する会社の経営者として厚労省の規制に服する。ところが、新潮手記の冒頭には、「厚労省の規制チェックは他の省庁と比べても特別煩わしく、何やかやと縛りをかけてきます」「霞ヶ関、官僚機構の打破こそが今の日本に求められる改革」「それを託せる人こそが、私の求める政治家」と露骨に書き連ねているのだ。
並みの文章読解能力を持つ人がこの手記の記載を読めば、吉田嘉明のいう「国をより良くする」とは「脱官僚」と同義であり、「日本をダメにしている監督官庁の規制をなくすることを意味している」と理解することになる。彼が「国をより良くしようと脱官僚を掲げる政治家を応援するために、8億円もの大金を政治家に渡した」のは、「他の省庁と比べても特別煩わしい厚労省の規制チェックを緩和する」期待を込めてのことなのだ。彼の手記は、そのような読者の理解を誘導する文章の筋立てとなっているのだ。
秋の蚊を叩きながら、つくづくと思う。
「企業の利益よりも、消費者の利益が大切ではないか」「コンプライアンスは大切だ」「もっと果敢に行政規制の制度を活用すべきだ」。
また、こんな見え透いた企業人の言葉に欺されてはいけない。
「規制緩和こそが経済再生の切り札だ」 「企業の自由な行動を保障しなければ日本企業の競争力が失われる」。
ゴーンの逮捕が、企業人の倫理観の欠如を改めて国民に印象づけた。規制あってなお、その遵守がなされていない。
(2018年12月1日)
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