「この学校敷地には鉛やヒ素が含まれ、たとえ浄化後でも公開されると事業経営に支障をきたすことになる。だから、当然秘密にしておかなくてはならない」 ー これって、裁判所が言うべきことだろうか?
5月30日、森友学園事件の情報公開請求不開示問題で、木村真・大阪府豊中市議が国に11万円の損害賠償を求めた訴訟の判決があった。大阪地裁・松永栄治裁判長は国に3万3000円の支払いを命じる判決を言い渡した。請求の一部とはいえ、国(近畿財務局)の情報公開請求に対する不開示(後に不開示処分を撤回している)の違法を認めた判決である。歴然たる国の敗訴、木村真市議の勝訴。とは言え、原告側の顔色は冴えない。スッキリしないのだ。
朝日は、一面トップにこの記事を掲載した。裁判所による不開示違法の判断にスポットを当てて紹介している。まずは、当然の姿勢。その判決評価の垂れ幕の写真が、微妙。一本が「勝訴」、そしてもう一本が「不当判決」。勝訴はしたものの、スッキリ勝ちきっていない。判決理由中に「不当」な判断を含む、積極消極評価両様の判決ということなのだ。
以下は、朝日が掲載する判決要旨の紹介。
学校法人森友学園(大阪市)の国有地取引をめぐる問題で、学園への国有地売却額を一時不開示とされ精神的苦痛を受けたとして、学校法人森友学園(大阪市)の国有地取引をめぐり、売却額の一時不開示を違法とした30日の大阪地裁判決の要旨は次の通り。
【売却額の一時不開示は違法か】
情報公開法は、法人や個人の情報のうち、公にすることで権利や競争上の地位、正当な利益を害するおそれがあるものを不開示情報と定める。「単に他人に知られたくない」というだけでは足りない。権利や地位を害するおそれが客観的に認められる必要がある。
財政法の趣旨は、国有財産の適切な管理を求めることだ。当時、国有財産を公共随契などで貸したり、売ったりした場合、原則として契約金額などを財務局のホームページで公表することになっていた。法人などが国有地を買い受ける際、売却額が公表されることが想定されていた。
そうすると、国有地の売却額は基本的に公表されるべき情報にあたり、公にされることで法人などが利益を害されるおそれがあっても、情報公開法の不開示情報には該当しない。
国は、開示すると
(1)値引きを必要とするいわく付きの土地だと推察されるおそれがある
(2)小学校を運営する森友学園の信用を低下させ、小学校経営における経営上の地位や事業運営上の利益を侵害する恐れがある――などと主張する。
だが、土地価格の開示によってなぜ森友学園の信用が害されるのか、国の主張は論理があいまいで、十分な根拠は見いだしがたい。
2013?16年度に公共随契の方法で国有地の売り払いがされた契約104件のうち、契約金額が非公表とされた事例は本件だけだった。近畿財務局が職務上の注意義務を尽くしていれば、売却額が不開示情報に該当しないことは容易に判断できた。漫然と不開示の判断をしたことは、国家賠償法上、違法だ。
【ごみなどにかかわる特約条項の一時不開示は違法か】
特約条項には、《森友学園が小学校敷地として取得した土地に、地下数十センチから3メートルまでの間に廃材やごみなどがあり、鉛やヒ素が含まれることが具体的に記されている》。開示されると、これらを了承して買ったことが具体的に明らかになる。
土壌汚染があった土地の小学校という印象を保護者に与え、有害物質で健康を害する懸念を生じさせるおそれがある。浄化後でも強い心理的嫌悪感を与える。小学校経営における競争上の地位や、事業運営上の利益を害するおそれがある。
不開示情報とした判断には合理的な根拠があり、違法とは認められない。
【損害額】
原告は、不開示処分を受けたことで、処分取り消しを求める訴えを起こさざるを得なかった。その後に国や報道機関を通じて不開示処分が公開され、新たに開示処分を受けたことを考慮しても、適正な開示決定を受けるという人格的な利益が違法に侵害された。事案の内容や性質、経緯などに照らせば、損害額は3万円、弁護士費用は3千円と認めるのが相当だ。
不開示の違法性については、《売却額の一時不開示》と、《ごみなどにかかわる特約条項についての一時不開示》の2点が争われた。判決は、前者については原告の主張のとおり違法と認定したが、後者については「不開示情報とした判断には合理的な根拠があり、違法とは認められない」というのだ。おかしいよ。どうしたって納得できるはずがない。
判決によれば、特約条項には、《小学校敷地として取得した土地に、地下数十センチから3メートルまでの間に廃材やごみなどがあり、鉛やヒ素が含まれることが具体的に記されている》のだという。そんなことを隠しておいていいのか。判決は、「鉛やヒ素が含まれることが具体的に記されている土地であることが公開されると、たとえ、浄化後であっても事業運営上の利益を害するおそれがある」。だから、公開しないことに合理的な理由があるというのだ。
判決の言うのはこういうこと。「せっかく臭い物に蓋をしたのだ。何があるのか分からぬよう、しっかりと蓋を閉めて秘密にしておくべきことには合理性がある」。いや、この比喩では足りない。「売買の対象は、毒性のある物質を含む危険な土地で、子どもたちの健康を損なうおそれがある。たとえ浄化後といえども、子どもの親などに知られては買い主の事業経営に支障をきたすことになる。だから、秘密にすべきものである。」
裁判所は「校舎の敷地に鉛やヒ素が含まれること(あるいは、含まれていたこと)は、親も世間も知らなくてもよい。知らせなくてもよい」と言っているのだ。これでよいはずがないではないか。
もちろん、スッキリしないのはそれだけの理由ではない。相澤冬樹記者(大阪日日新聞・元NHK)は、次のように報じている。
判決後、裁判所内の記者クラブで会見を行った木村さんは、納得できない思いを訴えた。
「判決は『相当量のごみがあった』と言ってるけど、違うでしょ。あの国有地には第1のごみと第2のごみがあるんです。こんなの森友問題の基本中の基本だから。あの国有地には元々ごみがあったけど、それは浅いところにあるごみで、前からわかっていて問題にならない(=第1のごみ)。ところが地中深くから新たなごみが出てきたということになって、それが値引きの根拠にされた(=第2のごみ)。でも、そんな深いところのごみはないんですよ。それはあらゆる証拠が示している。なのにこの裁判長はこの2つをいっしょくたにして『相当量のごみがあった』なんて言っている。全く納得できない。こんな判決あり得ません」
もう一つ、私は問題としたい。「弁護士費用3000円」とはいったい何だ。いつまでも、こんな浮き世離れの賠償額でよいのだろうか。少なくとも、国家賠償請求訴訟の場合、もう少し常識的な認容額であってしかるべきではないか。
朝日のトップを飾るだけの意義のある判決。原告の木村市議は、情報公開請求も、国家賠償訴訟(提訴時は、開示処分を求める請求)の提起も、私益のために行ったのではない。勝訴をしても認容額が3万3000円では、行政を糺そうというモチべーションに欠けることになりはしないか。弁護士なしでは事実上できない訴訟だが、その「弁護士費用は3千円と認めるのが相当」はあまりに、情けない。対等・平等のはずの国側には、指定代理人も弁護士もカネの心配なく、配置することができるのだ。
(2019年6月2日)