「1.世界はアメリカを非難する。2.日本はアメリカを説得せよ。3.政府は自衛隊の中東派遣を撤回せよ。」 ー これが共通のスローガンだ。
米国によるイラン軍司令官殺害に関する
社会権の会(防衛費より教育を受ける権利と生存権の保障に公的支出を求める専門家の会)声明
はじめに
アメリカのトランプ大統領は2020年1月3日、米軍がイラン革命防衛隊の司令官ソレイマニ氏をイラクのバグダッドで殺害したと発表した。トランプ大統領は同日の記者会見で、ソレイマニ司令官は「米国の外交官や軍人に対し、差し迫った邪悪な攻撃を企てていた」と批判し、「我々の行動は戦争を止めるためのものだった」として殺害を正当化している。イランが「イランに対する開戦に等しい」「国連憲章を含む国際法の基本原則を完全に侵害する国家テロだ」として反発し報復を宣言する(ラバンチ国連大使)一方、米国防総省は米軍部隊3,500人を中東地域に増派する方針を明らかにし、米イラン関係、米イラク関係を含め中東地域は緊迫した情勢となっている。
?意見の理由
ソレイマニ氏はイラン革命防衛隊コッズ部隊の司令官として、各国でイスラム教シーア派民兵組織(イスラム国[IS]に対抗してイラクの宗教指導者シスタニ師が呼びかけて結成された人民動員部隊[PMU]など)を支援してきた革命防衛隊最高幹部であり、敵対するアメリカに対しては、過去に、中東に展開する米軍をいつでも攻撃できるという趣旨の発言もしていた。しかし、いかに政治的・軍事的に目障りな存在であるとしても、超法的に人を殺害することが許されるはずはない。大統領という国家機関によって指示されたこの殺害行為は、明白な脱法行為であり、アメリカによる国際法違反行為(超法的処刑extra-judicial execution)である。
国連憲章51条は「武力攻撃が発生した場合」にのみ自衛権の行使を認めており、先制的・予防的な自衛権の行使は認められていない。在外自国民の保護など、国の領土保全に対する武力攻撃に至らない程度の侵害行為に対しても、自衛権を援用することは許されない。攻撃が急迫していると信ずるに足りる合理的な理由がある場合には先制攻撃も許されるという学説もあるが、差し迫ったものかどうかの判定は先制攻撃を行う国が行うこととなり、濫用されやすい考え方である。
先制的自衛論を含め、そもそも自衛権の行使が濫用されやすいものであることは、歴史が示している。アメリカの軍艦が攻撃を受けたとして、アメリカがベトナム戦争に本格的に参戦するきっかけとなった「トンキン湾事件」は、後に、アメリカが秘密工作によって自ら仕掛けた「やらせ」であったことがジャーナリストによって暴かれた(ペンタゴン・ペーパーズ)。また、2003年のイラク戦争は、イラクが大量破壊兵器を持っている「恐れ」を理由とし、ブッシュ大統領の先制攻撃論(ブッシュ・ドクトリン)によってアメリカとイギリスが一方的にイラクを攻撃したものだったが、大量破壊兵器は発見されなかった。にもかかわらず、軍事行動は「フセイン大統領の排除」、「イラクの民主化」と目的を変遷させて続けられた。
こじつけの理由であれ、いったん始まった軍事行動はエスカレートするのが常であり、その結果は悲劇的である。ベトナム戦争では200万人以上のベトナム人が犠牲になり、米軍の撒いた枯葉剤による障害や健康被害に苦しむ人が今もいる。イラク戦争は推定で数十万人ものイラクの民間人死者を出し、米軍の使った劣化ウラン弾などによる奇形児の誕生など被害は続いている。さらに、イラク戦争とそれに続くアメリカ・イギリス軍の駐留、その後発足したイラク新政権、これらにより激化した社会の混乱とイスラム教の宗派対立は、「イラクのアルカイダ」を源流とするISを生む結果になったと今では広く認識されている。
イラク戦争時、日本の小泉政権はアメリカに追随してイラク戦争を手放しで支持したが、イラク戦争を遂行した国や支持した国(オランダ、デンマークなど)と異なり、日本政府は今なお、イラク戦争を支持した政治判断の検証をしていない。それどころか政府は、憲法の専守防衛の原則に明らかに反する2015年の安保法制によって、地球上どこでもアメリカと共に集団的自衛権を行使して日本の自衛隊が軍事活動を行うことを可能にする法整備を行った。
今回の事件を受け、中東に駐留する米軍がイランから攻撃を受ける可能性がある。その場合日本は、集団的自衛権の行使として米軍と共に反撃することが求められる事態になりうる。折りしも日本政府は先月末の閣議決定で、1月中に中東地域に海上自衛隊を派遣する決定を行っている。これは、「日本関係船舶の安全確保に向けた情報収集を強化」するという名目で、防衛省設置法上の「調査・研究」を根拠として行われるものだが、自国船舶の防護を求めるトランプ政権の意向を受けた派遣であり、これによって得られた情報はアメリカと共有されることが当然考えられる。自衛隊が駐留することになった結果、場合によっては、アメリカの同盟国として自衛隊が攻撃を受けることがありうる。きわめて憂慮すべき事態である。
トランプ大統領は、環境保護や紛争の平和的解決のための国際協定から次々とアメリカを離脱させる一方、日本には高額の米国製兵器を売りつけ、日本や韓国、ドイツなど同盟国に駐留米軍経費負担の大幅増を求めるなど、国際社会の公益には関心がなくもっぱら米国の経済的利益のための「ディール」を推進する人物である。そして、日本政府はそのような指導者をもつアメリカと距離をおくどころか、その要求を唯々諾々と受入れ、米国製兵器のローン購入を含め、防衛費をかつてない規模に増加させ続けている。急速に少子高齢化が進む中、年金の引下げと生活不安(「老後2,000万円」問題)、保育所を設置し待機児童をなくす、若い人の人生の足かせになっている「奨学金」ローンの問題といった少子化対策、教育を受ける権利を実現するための学費値下げなどが本来、日本の抱える最重要課題であるにもかかわらずである。
今回の殺害は、次期大統領選挙も見据え「強いアメリカ」を演出する意図もあったとみられるが、アメリカも、そして日本も、イラク戦争がISを生み今に至っていることへの反省もなく、さらに中東地域を武力衝突の悪循環に陥れることは断じて許されない。
意見の趣旨
我々は日本政府に対し、第一に、ソレイマニ司令官殺害が戦争を止めるための正当な行為だったとするアメリカの説明を支持せず、超法的殺害として毅然と非難する態度を取るよう求める。第二に、自衛隊の中東派遣は直ちに中止すべきである。第三に、アメリカがさらなる軍隊派遣と攻撃によって武力衝突の危険を高めていることに日本として懸念を示し、問題の平和的な解決を促すことを強く要求するものである。
2020年1月5日
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2020年 1月 6日
報道関係のみなさま
世界平和アピール七人委員会
私たち世界平和アピール七人委員会は、本日、添付の通り、「米国によるイラン革命防衛体司令官殺害を非難し、すべての関係者が事態を悪化させないよう求める」を発表し、国連総長、国連総会議長、米国大使館、イラン大使館、安倍首相、茂木外相、河野防衛相に送りました。報道関係のみなさまには、私たちのアピールとその意図するところを、世界に広く伝えていただくよう、よろしくお願いします。
なお、私たちは、米国がイラン核合意を一方的に破棄し、中東の緊張が高まる情勢の中で、「調査・研究」を名目として自衛隊が中東に派遣されることについて、昨年12月12日付で「自衛隊の海外派遣を常態化してはいけない」を発表しています。これも併せて、お送りします。
「世界平和アピール七人委員会」は、1955年(昭和30年)11月、世界連邦建設同盟理事長で平凡社社長の下中弥三郎の提唱で、人道主義と平和主義に立つ不偏不党の有志の集まりとして結成され、国際間の紛争は絶対に武力で解決しないことを原則に、日本国憲法の擁護、核兵器禁止、世界平和などについて内外へのアピールを発表してきました。 今回のアピールは、平和アピー
ル七人委員会発足から、138番目のアピールです。
発足時のメンバーは、下中のほか、植村環(日本YWCA会長)、茅誠司(日本学術会議会長、のちに東京大学総長)、上代たの(日本婦人平和協会会長、のちに日本女子大学学長)、平塚らいてう(日本婦人団体連合会会長)、前田多門(日本ユネスコ協会理事長、元文相)、湯川秀樹(ノーベル賞受賞者、京都大学教授、京都大学基礎物理学研究所長)でした。
その後、委員は入れ替わり、現メンバーは、武者小路公秀(国際政治学者、元国連大学副学長)、大石芳野(写真家)、小沼通二(物理学者、慶應義塾大学名誉教授)、池内了(宇宙論・宇宙物理学者、総合研究大学院大学名誉教授)、池辺晋一郎(作曲家、東京音楽大学客員教授)、?村薫(作家)、島薗進(上智大学教授、宗教学)です。
連絡先:世界平和アピール七人委員会事務局長 小沼通二
URL: http://worldpeace7.jp
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2020年1月6日 WP138J
米国によるイラン革命防衛体司令官殺害を非難し、
すべての関係者がこの危機を悪化させないよう求める
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 ?村薫 島薗進
米国政府は、イラクでイラン革命防衛隊の司令官を1月3日にドローンで殺害したと発表した。これに対してイランは報復を予告している。イラク首相は主権侵害だとしている。
「米国」と「イラン」の立場を置き換えたとき、米国政府と米国民は自国軍の司令官の殺害という事態を受け入れられるだろうか。
私たち世界平和アピール七人委員会は、米国によるこの殺害を非難し、この危険な事態をさらに悪化させないよう関係するすべての国に求める。
国連安全保障理事会のメンバー諸国は 直ちに自国の立場を明示すべきであり、国連は速やかに総会を開いて対話による解決のためのあらゆる努力を行っていただきたい。
米国とイラン双方と友好関係にあると自任する日本政府は、直ちに米国に完全な自制を促すべきである。
日本政府は、米国が2019年6月に提案した有志連合には参加せず、海上自衛隊の護衛艦と哨戒機を、通行する船舶の護衛を含まない「調査・研究」のために中東に派遣すると、国会にも国民にも説明しないまま2019年12月27日に決定した。
しかし得られる情報を有志連合と共有するため、バーレーンにある米中央海軍司令部に連絡員を派遣することが明らかになり、事態が変われば派遣目的を変更するとされている。これでは米国に与するものとみなされてもしかたがない。我々が12月12日に発表したアピール『自衛隊の海外派遣を常態化してはいけない』の内容をあらためて強く求める。日本国憲法によって法的に制限された軍事組織である自衛隊を危険地域の周辺に派遣させるべきでない。日本は非軍事的手段による平和構築に積極的に取り組むべきである。
(2020年1月6日)