トランプ・安倍・小池の「国難」便乗支持率アップの行方
3月14日に、トランプが「国家非常事態宣言」を発出してからちょうど1か月。新型コロナ感染症の猛威はいまだおさまらない。これに取り組むニューヨーク州知事クオモの名声が高まって、国民の目がそちらに集まるのと反比例して、トランプの存在感が稀薄化し、支持が低迷していると伝えられている。
通例、「国難」は為政者の統治のための最強のアイテムである。とりわけ、国民からの信頼薄く、無能な為政者にとっては神風に等しい。
「国難」・「非常時」・「緊急事態」の勃発によって国民が共有する恐怖は、強く国民の一体感の醸成や統合に作用し、時の政権の求心力を強化する。「この難局を乗り切ることが喫緊の最優先課題」「そのためには、この為政者を中心に一致団結するしか選択肢はない」「その大事なときに、為政者を批判している暇はない」と吹聴されるのだ。為政者にとっての願ってもないチャンス。
だから、「国難」の克服を国民に訴えて支持を回復しようとすることが、評判の悪い政権の常套手段となる。思い出そう、前回総選挙が、安倍晋三によって「国難突破総選挙」と銘打たれていたことを。2017年9月の臨時国会冒頭で、安倍は北朝鮮からのミサイル飛翔の脅威を「国難」として、その「突破」のための解散・総選挙に踏み切った。そして、その思惑は一定の成功をおさめたのだ。その後今日に至るまで、「国難」の真否の検証はなされていない。
戦時の為政者には国民からの支持が集まるのが歴史の常識。無能を囁かれていた子ブッシュの支持率が、9・11事件直後には80%を超える高値を示している。政権運営には国難活用が有効なのだ。
今、パンデミックの危機下に、これを国難として利用しようとしている3名、トランプ・安倍晋三・小池百合子について、その国難活用事情を見ておきたい。
新型コロナ感染症は中国だけの問題で対岸の火事と軽視していたトランプだったが、3月なかばに一転して方針を変えた。コロナ対策を大統領選挙の材料にしようとの思惑からである。積極策を打ち出して、連日のブリーフィング(説明会)でTVに出まくることにして一時は成功したかに見えた。世論調査支持率は急上昇し、49%と就任以来最高の数字をたたき出したことが話題となった。
しかし、4月に入ってからは調子が変わった。いずれの世論調査も支持率は以前並みに低下し、今や不支持の世論が支持を上回っている。また、11月大統領選で、共和党トランプと民主党バイデンのどちらに投票するかという問に、主要な各世論調査のすべての結果が、バイデン有利を示しているという。
結局トランプは、ブッシュのようにこの「国難」を活かせていないのだ。その原因は、どうやらトランプ自身の無能にあるとみられているようなのだ。
斎藤彰(ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)氏らが伝えるところでは、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は9日、「トランプの無駄なブリーフィングTrump’s Wasted Briefings」と題する異例の社説を掲載したという。
「今国民が大統領の口から聞きたがっていることは、身近かにいる人たちの生命をいかに救い、失職者たちをどう救済するかといった具体策だ。彼は連日自分でブリーフィングをすることで、バイデン候補に勝利できると思い込んでいるが、それは間違いだ。11月大統領選挙の唯一課題、それはすなわち、大統領としてこの危機をいかにうまく収拾し、経済を再生できるかということにほかならない」
要するに、トランプには、国民が求める具体策を語る能力がないと言うことなのだ。
また、ニューヨーク・タイムズ紙など有力紙の間でも、大統領によるブリーフィングでは虚言、事実の曲解、前言撤回などが多すぎることを理由に、「ジャーナリストがいつまでも政治利用され続けていいのか」といった自省の声も上がり始めたという。トランプと安倍、どこまでもよく似ているのだ。
つまりは、為政者の国難利用も、決していつも思惑の通りには行くものではない。国難打開の成果が期待できないまま、国民に無能をさらけ出せば、却って強い反感を招くことにもなるのだ。
いま、安倍と小池は、トランプと同じ運命をたどっているようではないか。何よりも、「東京オリパラ」優先を至上命題として、コロナの蔓延を隠蔽していた疑惑が濃厚なのだ。情報を隠し早期に感染を防ぐ手立てを怠った責任は極めて重い。
「オリパラ」の1年延期を発表したのは3月24日。手のひらを返したように、その翌日には小池百合子が緊急記者会見を開き、唐突に「東京はオーバーシュートの重大局面にある」と危機を説き始めた。不自然で、当然裏があると考えざるを得ない。
3月26日には、厚生労働省が「新型コロナウイルスが蔓延しているおそれが高い」とする報告書をまとめ、その記述のとおり以後PCR検査結果での感染確認者が急増している。この検査結果が感染蔓延の推移を正確に反映した信頼できるものか、あるいは意識的に操作されたものか、厳密な検証を待たねばよく分からない。検査対象数が極端に絞り込まれていたのだから操作は可能であろう。しかも、オリンピック延期決定を境にこの急変である。疑惑は濃厚と指摘されて当然であろう。
にもかかわらず、安倍も小池も開き直って、国難を背負った「戦時のリーダー」を演じている。とりわけ、小池のはしゃぎぶりは目に余る。露骨に、「オリンピックで目立つことができなくなったのだから、コロナ対策で目立たなくっちゃ」という、みっともないトランプ亜流である。
コロナ禍の被害が長引いて国民・都民の不満が高じ、さらにコロナの蔓延に責任を免れないとなれば、トランプ同様「国難」便乗支持率アップも急速にしぼんでゆくことにならざるを得ない。
安倍や小池の、「オリンピック開催のためのコロナ感染隠し疑惑」を暴こう。そして、「コロナ対策便乗支持率アップ」のたくらみを許してはならない。
(2020年4月13日)